二十四
ニギはルベロスから降りてコノハへ駆け寄った。
「衰弱しているにおいは感じ取っていたが、まさかこれほどまでとは……」
ルベロスは沈痛な表情で血だらけのコノハから顔を背ける。ニギはコノハを抱き抱える。全身に刃を突き立てられて、顔は蒼く、隈は濃く、今にも消え去ってしまいそうだ。
「お前……どうして……」
「どうしても何もない! 喋るな馬鹿コノハ!」
「駄目だ……逃げろ……こいつらは普通じゃない……」
辺りに散らばったバラバラの四肢と胴は、かたかたと震えて、元の姿へと戻ろうとしている。
成る程、普通じゃなさそうだ。
しかし、逃げると言う選択肢は彼の中にはない。逃げ切ったところで、助けは間に合いそうにない。このままじゃコノハは死ぬ。
そう。それならば、死ぬ前に……為し遂げる!
「フヨウ……聞きたいことがある。コノハは何のためにここへ来た?」ニギは聞いた。
「おい、そんなことを言っている場合じゃ」というルベロスを遮って、
「ここで秘宝が祀られているとの情報を得た。その情報が本当かを確かめること、並びに《秘宝》が存在するならばそれを譲ってもらえるように頼み込むこと。それがコノハさんに与えられた使命」と、フヨウは何かを察したように答えた。
「そうか」ニギは頷いて立ち上がった。「ぼくが不在でも、フヨウ、君とルベロスとで、コノハを守れる?」
「やる。守って見せる」フヨウはいつも通りの眠たげな瞳で、力強く頷いた。
「……そっか。信じる」
「お前、まさか……」コノハも何かを察した。
「宣言する。今からすることは、あくまでぼくの独断専行だ。コノハもフヨウもルベロスも、関知しない」
ニギはひとりと一匹と虫の息に背を向けた。
「駄目だ……そんなこと言ったら、あそこに居られなくなる……そしたら……」
「黙ってろ! 半人前の癖に偉そうなことばっかり並べやがって!」
ニギは背を向けたまま叫んだ。その肩は震えていた。
「ニギ……」返す言葉がない。
「……コノハ、あんたは言ったはずだ。わたしが生きているうちは人殺しは許さない、と。ぼくに人殺しをさせたくなかったら、生きろ」
辺りの肉片が大方、元のとおりに戻りつつある。フヨウはそれを眺め考えた。
「……ニギ。ちょっと待って。ぼくと、それからルクの能力のこと、少し話したい」
「……お願い」
一刻を争う事態だが、フヨウもそれは分かっている筈で、だからこそそれが必要なことだとニギは理解した。
「うん。こいつらとやり合うために、きっと必要なこと」
フヨウは、ほんの一瞬だけコノハとこの正体不明の不気味なものたちの戦闘を見ることができた。確実とは言えないまでも、己らの能力と比較し仮説を立てた。




