二十三
肩で息をするコノハ。飲まず食わず休みなしで戦い続けて、疲れは限界に達していた。足腰はとうに自由に動かせなくなっている。対して、相手は息の乱れる気配が一向に感じられない。
やばい。やばい。やばい。
まるで幽霊でも相手にしているかのようだ。
幽霊……?
コノハは自分の想像に苦笑する。幽霊がいるとしたら、恨まれて襲われたところで何の疑問もない。わたしは今までにそれだけのことをしてきた。
さて、森の出口も分からない。これ以上逃げ続けるのは……無理というものだ。
……これが、わたしの最期か。
案外呆気ないな。
劇的な終幕を夢見ていたわけでもないが、しかしこんな風にあっさりと、ある種オマヌケに終わらさせられるとは。
……本当にすまない。死んでいったものたちに祈りを捧げる。殺していったものたちに祈りを捧げる。
不意に、脳内に描き出されたのは、紫髪のかわいらしい男の子。
ニギ……。
本当に、本当にすまない。わたしは結局、お前に何もしてやれなかった。わたしなりに精一杯やってみたが……やっぱり、わたしはお前の道標となれなかった。お前の光となれなかった。
考えてみれば当然だ。わたしは、サクラの言うとおりコドモなのだ。コドモがどうしてコドモを導けるだろうか。自分を棚に上げるのも限界がある。
ニギ……。
しかしここに連れてきたのは結果的に間違いじゃなかったと思っている。フヨウと出会えたことは、きっとお前の生涯の宝となるだろう。
ああ……。
何だ、よく考えてみれば、もう、わたしがこの世に居る理由なんて無いじゃないか。
わたしは、ニギをフヨウの許へと送り届けることができた。きっと、それがわたしの役割だったのだろう。
笑みがこぼれる。まるですべてを諦めたような、満足げな笑みだった。
ははは……。
よし、もう、大丈夫だ。
やつらの気配がこちらへと伸びてくる。幾重にも枝分かれする。ふん、馬鹿のひとつ覚えみたいに。もっとも、効果的だから尚更タチが悪い。まるで専用のシフトを敷かれたスラッガーが、相手のお希通りに打ち取られているかのようだ。
ああ、そうかい。しかし残念ながらわたしだって、黙って殺されるわけにはいかないんだ。そういう風には育てられてなくってね。最後の最後まで抵抗はさせてもらう。
気配が枝分かれする。ひとつ、ふたつ、よっつ、やっつ、十六、三十二、六十四……百二十八?
冗談にも程があるのだが。今まで三十二が最大だったはずだぞ。力を温存していたって言うのか! それが、これが最後だと言わんばかりに、ここで決めに来た。
窮地。コノハは笑う。
襲いかかる敵を、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る。
一体、また一体と、動かなくなる。しかし百二十八が百二十七になり百二十六になり百二十五なったところで、敵の攻撃がそこまで変わるわけではない。
ぐさり――。
コノハの腿に刃が突き刺さる。それでも、斬る、斬る、斬る。 ぐさり。ぐさり。ぐさり。
腹、腕、胸……。
からだの至るところに刃が突き刺さる。
終わりだな。
最後の一体。それがコノハの首を掻き斬ろうとしたときだった。
「コノハ!」
突如ウツツに引き戻されたような心地だった。力を振り絞ったコノハに、見事、最後の一体はバラバラにされた。




