十九
その闘いは、油断から始まったと言っても過言ではない。
「あ、おーい、フ……」
フヨウを呼ぼうとしてやめたのは、そのすぐ隣にニギの姿があったからだ。少しずつ、彼は変わってきたように思う。少なくともここへやって来た当時よりは、刺々しさがなくなってきた。それはひとえにフヨウの尽力にあるものだと彼女は信じている。だから極力邪魔をしたくなかった。
「まあ、何とかなるだろう」
思い直してコノハは背を向けた。彼女は今度の仕事にはフヨウらの力が必要だと考えていた。そう、その判断は決して間違っていなかったからこそ、彼女は今、
「ひとりで来るんじゃなかったよ」
とひとり後悔していた。
山奥の集落、という言葉が豪華に思えてしまうような、深い深い、ただの原始林の中に、そいつらは居た。
本来、こんな風に派手な殺し合いを演じるつもりは無かったのだが、あちらさんの虫の居所が悪かったのか、何かを間違ったのか、若しくはどうあがいてもこうなったのか、分からないが、とにかく彼女は、茂みに身を隠し大木に凭れ、引き抜いた刀を油断なく構えていた。
目は閉じていた。視覚は、却って邪魔だ。凭れた大木から伝わってくる振動、鬱蒼とした濃い緑色のにおいから、自分を狙う、作為的な気配を探る。
ふと、草に結んだ露の着物に染み入る気配を感じた。
「まったく、あなたは外行きのお召し物に限って、盛大に汚すのですから困ったものです」
頭に懐かしい声が聞こえた。しゃんとして背筋を伸ばし、隙の無い瞳で、わたしに対して敬語を使っていた。
こんな風に汚したら、きっとひどく怒られたろうな。
おばあさまはいつも、わたしに他人行儀に接していた。多分、ずっとひとりで生きてきたからわたしとの距離の取り方が分からなかったのだと思う。それでもわたしに対する愛情は十分なくらいに伝わってきたから、幸せだった。
戦闘中、笑みがこぼれる。彼女の衣服には切り傷刺し傷が刻まれて、彼女の鮮血で赤黒い模様が走っていた。ここまでされていたら、怒る怒らないなどではないだろうけど。




