十六
サクラはるんるん気分で足取り軽やかに廊下を歩いていた。
「随分とご機嫌じゃないか」
緑色の肌と、金色の髪と瞳をした、《四高翁》がひとりであるルクが、サクラの影からにゅっと姿を現した。
「あんた、急に出てくんのやめてくれない? いい加減鬱陶しいんだけど」
ルクは蛇の半身でにゅるにゅると床を這いながらサクラの頭に手を置いた。サクラは鬱陶しそうにそれを払った。ルクはその態度ににっこり笑って、
「そうそう、お前はその反応が良いんだ。《四高翁》などと聞くと、みんな竦み上がっていけない」
「何の用? わたし、今はあんたみたいなの相手にしたくないのだけど」
「余韻に浸っていたい、か? 仲がよくってご苦労だ。しかしそうも言っていられなくなるのだぞ」
「どういうこと? 勿体ぶらずにさっさといいなさい。時間が惜しい。乙女は忙しいのよ」
サクラはあくまで素っ気ない態度でいた。
「コノハのことだ。あいつを、本格的にここから追い出そうと動いているやつがいるらしい。切っ掛けはニギだ」
「また、アァラのやつがこそこそ動いているって言うのかしら」
「いいや。違うと断言も出来ないが、あいつに動きはない。逆に静かすぎるほどだ。まるで敢えて動いていないように。……しかしコノハを疎ましく思っているものは、何も《四高翁》に限らない」
「ふーん。ま、そんな企み、別にわたしには関係ないわ」
「コノハの庇護に預かる者の台詞ではないな」
「どうってこと無いわ。他のやつ適当に見繕えば良いのよ。別に、あんたに尻尾振ったって構わないわよ? それなりの待遇を保証してくれるのであれば、だけど」
「……ここに居られる保証もあるまい。お前達を疎ましく思っているものだって、たくさん居るというのに。恐くはないのか、前のような生活に身をやつすことになるかも知れないというのに」
「関係ないわ」
サクラは、あくまで表情を変えない。そしてその顔には何の感情も表れてはいないよう。
「前のように、客を取って生きて行くことになったとしても、それが最善であるのならば、受け容れるわ。わたしたちは、どこへ行ったって変わらない。わたしたちは、わたしたちふたりが一番幸せになれる最善の解を求めるだけ。それだけ。わたしたちは、わたしたちの幸せのためにならば、なんだってする。コノハが居ようが出て行くことになろうが、関係ない。確かに、コノハのことは好きだから出て行かれたらそれなりに残念だし、今の生活だって結構気に入っているのだけれど」
「まったく、相変わらずだな。心配して損した」
ルクは苦笑してサクラに背を向けた。
「何、心配してくれたの? ニギに真っ先にちょっかい出して来た癖に?」
サクラは首を傾がせた。
「当然だ。あんな不安定要素放っておけるか。力ある者としての義務だ。お前とも縁がある。……もっとも、逆効果だったようだが。……それに、アイツだが、将来わたし好みに育ちそう、というのもあったが」
ルクは振り返り不敵に笑った。
「アンタ好み……? 筋肉ダルマ大勢侍らせてるアンタ好み? あちゃー。コノハに言ったらどうなるかしらね」
「やめておいてくれ。因縁つけられて喧嘩売られるのはわたしだ。……ま、警告はした。後はどうとでもしろ」
「言われなくたって、そうしてきたしそうするわ。でも、一応礼は言っておく」
「ふん。本当に、かわいげのないやつだ」
ルクの体は突如として吹き上がった炎に包まれたかと思うと、途端に、その炎と共に消えてしまった。




