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宵の文目  作者: けら をばな
第二話 「よかったら、わたしと居てくれないか?」
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アァラ「(にっこりと笑い)やあやあ、ニギ君だったね。《イゾの会》へようこそ。初めまして。《()(こう)(おう)》の一人、アァラと申します。とはいえ、名前なんてどうでもいいけどね。必要なら自然と憶えるだろうし、要らなければ忘れてしまう」

コノハ「いちいち説明が回りくどいんだ、お前は」

アァラ「はははは、そうは言っても、これがぼくの性分である以上は簡単に変えられないさ」

コノハ「(椅子に腰掛けて後ろに立つニギに)ニギ、笑顔だからって心許すな? ここに居る中じゃアイツが一番厄介だ」

アァラ「ははは、酷い言われようだ」

コノハ「事実だ。お前と関わってロクなこと無いんだよ。貸した金も返さないし」

アァラ「ああ、アレね。君が必要になったとき返してあげるよ。〝ここしかない!〟って時期に」

コノハ「あんまりナメた真似してると、終いには殺してでも返して貰うからな、覚悟しておけ」

アァラ「ははは、こわいこわい」

 会話の最中、ニギは黙ったままアァラを睨みつけている。アァラはにやにやとニギを眺めている。金髪緑肌の妖魔ルクが、トントンと指で円卓を叩く。《()(こう)(おう)》とコノハ以外の視線がそちらへ移る。五人はそれぞれ五人に注意を分散している。

ルク「(自信たっぷりの表情で)そんな世間話に時間を割いている暇はないぞ。この度の会談は我らが《イゾの会》の未来を担う、重要な会であるぞ。他でもない、そのニギについてだ。その者をいかにすべきか、早々に決めねばなるまい」

コノハ「なーにが『決めねばならない』だ。偉そうに。自分達は好き勝手に部下を増やしてるくせに、白々しい」

ルク「我らが部下を増やそうが、我らが勝手である。だがその者は最強と名高い〝紫鬼〟であるぞ。そこらの三下とは訳が違う。我ら幹部格の力を有する。捨て置けぬ」

コノハ「まだ子供だ」

ニギ「(ぶすっとした表情で)もう子供じゃない」

コノハ「そういうところが子供だ」

ルク「(笑って)確かに、その通りだ」

 ニギ、不機嫌に眉をひそめながらそっぽを向く。

コノハ・独白「そういう反応がいちいち可愛いんだよなー」

ルク「(コノハへ向かって)何かおかしなことを考えている顔だな」

コノハ「失礼な」

ルク「いや、いつも通りか」

コノハ「失礼な!」

ダン「(前触れもなく)楽しげな会話を遮って申し訳ないが、オレとしちゃ、そいつをここに置くこと自体反対だ、と言っておく」

 ニギの心臓がチクリと痛む。ぐっと胸元を押さえる。

コノハ「(調子を変えずに)理由を言え。ただ反対されたって分からん」

ダン「単純だ。和が乱れる」

コノハ「んー、〝和〟だと? そんなものがわたしたちの間にあったというのか? 初耳なのだが」

ダン「茶化すな。各々強大な力を持つ我々同士が、こうして殺し合いも奪い合いもせず平和的に物事を話し合いで解決しようとしている、それこそが〝和〟だ。目的を同じくする、それだけでは為し得ぬことだ。絶妙な均衡と、我々自身の不断の努力のたまものであるぞ」

コノハ「じゃあ、もっと努力するまでだ。やってみなきゃ分からないだろ。つべこべ言わずにがんばれよ」

ダン「相変わらず貴様は和を乱す、平気で無茶を言う」

コノハ「糞食らえ、だ。日常的な腹の探り合いの何が〝和〟だ」

ダン「努力とは、日常的な腹の探り合いも含めてのこと。この〝和〟を保つために、どれだけのものらの、どれだけの苦労があるというのか。お前は常々から弱いものの立場に立ったことが言えぬから困る」

コノハ「当然だ。わたしは強い」

ダン「そう、だからこそそうやって平気で無理を言う。我々の努力を無碍にする振る舞いを平気でする」

コノハ「お前だって同じ〝紫鬼〟のくせに、ひとにばかり好き勝手言いやがって」

ダン「お前と違って努力をしている。お前ももうちょっと頑張ってみたらどうだ?」

コノハ「平気で無理を言うな」

ダン「ああ、言うと思ったよ」

コノハ「(少し間を置いて)ニギの力が恐いか? 子供一人に、天下に名を馳せる《イゾの会》の天辺四人が」

ダン「子供だから、か。お前は何か勘違いしているな。子供だから平気だろう、ではない、子供であることがむしろ問題なのだ。そいつが未熟で、それでいて力を持った子供だからこそ、危険なのだ。子供は子供だから無害なのではない、あくまで力が無いから無害なのだ。子供であろうが力がある以上、子供として扱ってはならぬのだ」

コノハ「わかんねーよバーカ。回りくどい言い方だなオイ。アァラのがうつったか」

ダン「んだとこの糞アマァ……」

コノハ「(ニギを親指で指し示して、)コイツの力なんて別にたいしたことない。わたしに比べればまだまだだ」

 ニギはイラッとしたが本当のことのため何も言えない。口を尖らせて髪をいじった。

コノハ「コイツの力が恐いというのなら、わたしがしっかりと管理すればいいのだろう。何を深刻ぶっているのか」

ダン「はっきり言わせてもらうが、オレは貴様も信頼できない」

コノハ「お前がわたしのことをどう思おうと勝手だ。しかし判断にそういった私情を挟んで良い立場ではなかろう」

ダン「私情を挟んでいるのはどっちだ」

コノハ「わたしはそういった立場のものではない」

 コノハとダンが火花を散らす。ルミネが右手を挙げる。それに気付いたのはルクとアァラのみだった。

ルミネ「あのー、ちょっといいですかー?」

 ルミネは間延びした声で訴える。眼鏡を掛けて頬にはそばかすがあった。垂れ目をにこっと細める。

ルミネ「わたしに提案があるんですけどー」

コノハ「却下」

ルミネ「えー? ひどいですー。ちゃんと平等に扱って下さいよー」

ダン「言え。許可する」

ルミネ「あー、流石ダンさんですー。素敵ですー。ぱふぱふー。あー、そんな目しないで下さいー。すぐに言いますからー」

 ルミネがニギを見てにこっと笑った。ニギの背筋が凍る。肌が粟立つ。彼は本能からその笑みを拒絶した。

ルミネ「(両手を広げて嬉しそうに)わたしはですねー、ニギ君をー、五つに分けちゃえばいいかなって思うんですよー。ヒト族ってー、だいたい手が二つと足が二つじゃないですかー。ニギ君も同じですねー。だからですねー、ニギ君も手足と胴体とに分けちゃってですねー、それぞれ分け合えばいいんじゃないかなーって。きゃー、人数ぴったりー。ダンさんはー、ニギ君が無力化すればいいんでしょ? わたしはー、いつもいつも〝お人形さん〟の〝部品〟が、もっともーっといっぱいいーっぱい欲しいなーって、思って生きているんですー。もしもー〝紫鬼〟の〝部品〟が手に入れられれば、それはそれは素敵なことだなって思うんですー。足でも手でも……できれば利き手がいいんですけどー、この際贅沢は言いませんよー? コノハさんには胴体を差し上げますからー。頭が付いてるんですからー、だいぶお得ですよー?」

 ルミネの瞳が大きく見開かれニギを捉える。ルミネの背後の、(ヒトにしか見えない)人形どもの瞳も、ぎょろりと見開かれてニギへと注がれた。ニギは戦慄して、焦り、スーツをまさぐるも、いつものナイフが取り上げられていることに気づき、歯噛みして睨み返し、精一杯威嚇する。寒いのに、額から汗が噴き出す。

コノハ「それがお前の最期の言葉となるわけだが、よろしいか?」

 コノハからどす黒い殺気が迸る。コノハは刀の柄に手を置く。その瞬間、ルクは金の髪を逆立てる。ルミネはニヤニヤと笑い続けている。アァラは表情を変えない。ダンからも、コノハ同様の、怒りに満ちあふれた殺気が迸った。そしてそれはルミネではなくコノハへ向けられていた。

ダン「コノハ、貴様この場で刀を抜くことの意味を、存じているな?」

コノハ「お前らこそ分かっているのか。《秘宝》奪取個数第三位のわたしが居なくなるというのは、お前達にとってどれだけの損失となるのか……。それが今、わたしが刀を抜くか抜かないかにかかっている。せいぜい、わたしに刀を抜かせない努力をするのだな」

ダン「増長するなよ、小娘」

 場が静まりかえり、殺気立つ。ルミネは呼吸を荒くし頬を紅に染めて、嬉しそうに笑っている。見かねたアァラが仕方ないという風に、億劫げに溜息をついた後、手を挙げた。

アァラ「まあまあコノハ、喧嘩腰はいけないよ。ルミネさんも、あんまり乱暴なこと言わないで下さい。コノハがガチギレじゃないですか」

ルミネ「えー? あれー? アァラさん、わたし、何か悪いこと言っちゃいましたかー?」

アァラ「(苦笑して)まー、手足斬り落としてー、とか、あんまり言って良いことじゃありませんね」

ルミネ「そうでしたかー? 良い案だと思ったんですけどねー。どうやら悪いことしちゃったみたいですねー。コノハさん、すみませーん」

 ルミネは笑って頭を下げた。コノハはルミネを強く睨みつけた後、刀の柄から手を離した。

コノハ「今度ふざけた真似したら、叩き斬る」

ルミネ「流石コノハさん、いつも通りですー」

アァラ「あーあー、まあいいから。……一旦意見を整理すると、ダンの主張である〝追放〟ってのと、コノハの主張である〝コノハの所有とする〟、の二案が出されたわけだけど、ルクさんは他に何かある?」

ルク「特にない。わたしとしては立場を明確にして、責任の所在を判然(ハッキリ)としてくれればよい」

アァラ「そうですか。それでは、これ以上の話し合いも無意味に感じますから、その二つで、決まり通り、《()(こう)(おう)》にて多数決を採って決定してしまいましょう。先ずは〝追放〟を支持するならば手を挙げて下さい」

 ダンが軽く手を挙げた。アァラと目を合わせると、手を下ろした。

アァラ「それでは、〝コノハの所有とする〟を支持するならば、手を挙げて下さい」

 ルミネが元気に手を挙げると、後ろの人形も一斉に手を挙げた。アァラもにっこり笑って手を挙げた。ダンは表情変えずに頷いた。

ダン「二対一か。ま、いい。それが決まりだ。そいつは〝コノハの所有とする〟で決まりだ。ただしコノハ、そいつを貴様の所有とした以上、そいつの全行動の全責任は、コノハ、貴様にあるということをしっかり頭に入れておくのだな」

コノハ「はいはい」

 コノハ、席を立ち背を向ける。

コノハ「(背を向けたまま思い出したように)あ、そうだ。ひと言言っておく。決まった以上、ニギに手を出したら躊躇なく刀を抜く。命とわたしが惜しければ一応憶えておけ」

 歩き出す。サクラはコノハに続く。俯いたまま動き出さないニギの手を引いて、フヨウも続いた。ニギは連れられるままにした。


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