十
「……今度はうまくいったようだな」
ニギは女の前に跪いていた。台座に乗せられた灰色の珠。女はそわそわと落ち着かない様子でニギの報告を待っていた。ニギは何も言わずに腰に下げたバッグから、それと同じ灰色の珠を取りだした。アドナの屋敷奥深くに鎮座されていたものだ。
女は震える腕で受け取って、二つ、隣同士に置いた。
しばらくは何も起こらなかった。ぴんと張り詰めたような、澄んだ冷たい空気が辺りを包んでいるだけだった。
しかしものの一分もしないうちに変化が現れる。
ぴきぴきと卵の殻でも破っているような音が微かに聞こえだして、続いてカーンカーンと遠くで鉄琴をでたらめに叩くような調子外れの音がしたかと思うと……やがては耳鳴りのような、キンキンと耳を劈くような音と、ごぉんごぉんと腹を響かせるような音が合わさって不協和音を力強く打ち鳴らした。珠それ自体も、目映いばかりに七色の強い光を発した。
「おおぉお……おおおおおおおおっ!」
女は全身を震わせながら紅潮し恍惚した表情でその光景を眺めていた。
「本物だ……本物だッ! 本物の《秘宝》だッ! でかした……よくやった、よくやったぞ、ニギ! はは……はははははははは! ああ……何と美しい輝きだろうか……。この輝きこそ《秘宝》が《秘宝》たり得る唯一の証明! よくぞ我が許へ届けてくれた、ニギ。ふ、ふひ、ははぁああ……。すぐに……すぐに褒美を取らせよう。何が好い? お前は何が欲しい?」
女の問いにニギは応えられなかった。
彼は褒美など要らなかった。彼は褒美を受け取りたくなかった。受け取ってしまったら……奴隷でいられない。労いの言葉も止して欲しかった。
彼は、強制されてここに居たかった。彼は、強制されて人を殺めていたかった。誰かを殺す生活を、自分以外の誰かに強いられていたかった。
あくまでも、その殺意が己の意思とは無関係のものであると、どこかの誰かに言い訳でもするように。
〝汝、奴僕たり得ず〟――。
ずきんと心臓を槍で突き刺された心地がする。できることならこの場から早々に立ち去りたかった。
ニギは跪いたまま、女の言葉を遠くのことのように聞いていた。
「何も言えないか。疲れたのだろう、もう、いいぞ。褒美のことはじっくりと考えるがいい。部屋へ戻って休め。はは……はははははは!」
女は都合良く解釈してニギを解放した。ニギは己の意思でその場を去った。




