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神の子  作者: 柘榴石
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1 二つの国

中世っぽいイメージで書いていますが、時代背景や服飾、王侯貴族のことなど全て適当です。深く考えずにお読みください。

一話目はほぼ説明なので、面倒な方は二話目にお進み下さい。話は分かると思います。

 大陸に争いを繰り返す二つの国がある。


 南に武神を祖とするサフィラス王国。

 神より授かりしは類稀なる強靭な肢体と霊験(あらた)かな無敗の剣。


 北に知叡の神を祖とするルベウス王国。

 神より授かりしは類稀なる聡慧な知恵と不老長寿の妙薬。



 対極に位置する神を祖とする所以からか両国の諍いは長きに渡り続いていた。

 その間に両国の疲弊が色濃くなると休戦の証として王族同士の政略結婚が幾度か交わされたが、いずれもみな一時しのぎに過ぎず、互いの国力が回復すればまた闘争を起こすの繰り返しだった。


 そしてこの年、またも休戦の為、両国の王族の婚姻が約束された。


 婚姻の当該者は

 サフィラスの王子   レクス  歳は十九

 ルベウスの王の姪  ロジエ  歳は十六


 二人の婚姻は政略以外のなにものでもなかった。

 けれど

 二人は、毅い意思を宿した美しい瞳を持つ互いの運命と出逢うことになる。




 レクスは月の光の元で咲く儚い花のような少女の姿に息を呑んだ。

 絹糸のように艶のある銀の長い髪に長い睫。

 水を含んだ薔薇色の唇。

 薄紅に染まった頬。

 人形のような愛らしい容貌に。

 透き通った白い肌。

 何よりも聡明そうな意志の強い光を放つ銀の双眸に。 

 心臓が一つ大きく跳ねた。


 ロジエは何処までも澄み切った蒼穹の如き蒼色の瞳に心を掴まれた。

 サフィラスの王族を象徴する蒼い髪と蒼い双眸。

 端整で精悍な顔立ちにすらりとした長躯。

 威ある佇まいや姿勢、洗練された動作。

 何よりも自分を見つめる瞳の煌々とした蒼色は彼の心の強さを物語るようで。

 瞬間、意識の全てを捕らわれた。




 南の大国サフィラス

 比較的温暖な気候に恵まれたこの国は、武神を信仰する武力を誇る国である。

 国王はその祖を武神の孫とされ神聖で侵せない統治権の総攬者(そうらんしゃ)として君臨していた。

 神の血脈を大事とするこの国は基本的に正妃の子にのみ王位継承権がある。

 更に祖とされる神孫とは別に『蒼皇(そうおう)』と敬われる一人の王がいた。

 今より五百年ほど前に王の座に着いてたレイル王。彼は両国の和平に務め、事実彼の治世において争いは一時休戦から終戦となり、死後も百年のあいだ平和な関係が続いていた。

 初代国王とレイル王は澄み渡った蒼穹を彷彿とさせる蒼き髪と蒼き瞳をしていたといい、サフィラスはこの『青色』を神聖な色とし国の色とした。

 サフィラス現王グラントには二人の王子、一人の王女そして宰相を務める精霊師が居る。

 第一王子の名前はプロド。彼の母は側室でプロドが三つの時に病で亡くなっている。彼は産みの母に似た黒髪と黒瞳の持ち主で母の身分が低かった為、第一王子といえども王位継承権が低い。現在二六歳の彼は居を西の城塞に移していた。

 第二王子の名はレクス、第一王女はリアンという。彼らはグラント王が正妃として迎えた貴族の令嬢との子として産まれた。二人の母もプロドの母同様リアンを出産した際に若くして亡くなっている。

 レクスは正妃の子として、そして蒼皇レイルの時より、より強く王族の象徴となった蒼い髪と蒼い瞳を受け継いだことで、絶対的な世継ぎとしての地位を確立した。

 妹王女リアンは正妃譲りの金髪と緑瞳の持ち主で、王族の色こそ受け継がなかったが生来の天真爛漫さで皆に愛され、いずれ降嫁する身ではあるが父と兄を助けるべく自分に出来る事に懸命に励んでいた。

 そして宰相であり精霊師ゼノ。

 精霊師というのはこの世界に於いて自然の力、土、水、風、火の精霊を召喚し己の力として使える者をいう。精霊師は利き手の甲に得手とする力の徴を持ち、サフィラスにおいては数十年に一人という確率で生まれてくる稀少な存在だった。力の大きさは人により大差があるがその存在は貴重であり国は彼らと契約を結び保護という束縛をする。

 漆黒のような髪と瞳のゼノはグラント王の前王の時代から国に仕える最古参の精霊師で、人と違う力があるだけでも恐れられる存在ではあるが常に言葉少で口許に笑みを浮かべ、感情を見せない彼はその様相と人と交わろうとしない姿勢から人々に恐れられていた。この精霊師は現在、王の宰相としての立場を離れ、第一王子の執務補佐官として王国の西の城塞に身を置いていた。

 グラント王は予てより病がちで、王を知るものはみな、そう遠くなく新王の戴冠式が行われるだろうと頷き合っていた……そして次期国王は正しく始祖と蒼皇の血と色を継ぐ第二王子のレクスだとも。


 たった一人の男を除いては。


 サフィラスの第二王子にして王位継承権一位のレクス。

 尊き先祖を彷彿とさせる蒼い髪と瞳を持ち、精悍で端正な顔立ち、均整のとれた長躯をもつ彼は黙っていても女性の目をかなり惹く。

 根が真面目だからか愛想を振り撒く事が苦手で、その威厳からも近より難い印象を与えてしまうが、正義感が強く民を思いやることを心掛けているため民衆にも人気が高かった。

 彼は王位継承者として幼い頃から溢れんばかりに齎される見合い話に辟易していた。彼とて王位を継ぐ者として国益となる女性を娶ることに異はない。それこそが王族の務めであると理解している。だからこそ、実直な彼にとっては結婚とは国を守る為にする仕事であり、いつか損得尽くめで娶ることになる女性の為にも恋愛には興味を向けられず。更に言うならば、彼の父には自らの母である妃の他に一人の側室がおり、それに伴う様々な軋轢を経験してきた為色恋事を楽しむという気にはなれずにいた。

 結婚に関しては自分を統治者としての駒としか見ていなかったのだ。

 夜会などでは王子としての礼儀は尽くすが、どのような美姫をみても心を動かすこともない彼は“絶食系”とまで揶揄されることがあった。

 そこに降って湧いた隣国の王族の姫との休戦協定による婚姻。頃合いだろう、と頷いた。

 双国、戦火が王都やその近隣には及ぶことはまだないが、辺境や国境はだいぶ荒んでいる。一時休戦の為にも、そして国王の体調が芳しくない今、世継ぎのレクスの婚約、婚姻は早急に求められるものあり、それが国の平和や安定に繋がるのなら好都合だったからだ。

 隣国の王の姪、噂でしか聞いたことが無いが“妖精のように美しい”という。

 レクスは人の容姿の美醜など気にしたこともないし、婚姻相手に望むのは“王子妃”“王妃”としての姿勢だけだ。王の姪というからにはそのくらいの教育は受けているだろう。


 その程度……に思っていた。

 実際に彼女の姿を見るまでは。




 北の大国ルベウス

 鉱石や宝石などの資源に恵まれたこの国は、知叡の神をその祖とする、叡知と魔力を誇る国である。

 サフィラスでは稀少な精霊師も多くいて、その頂点に立つのが王族であった。

 一般の精霊師が四精霊の一つの力が突出しているのに対し、王族は全ての力を同じように振るうことができ、神裔の証拠として左胸、心臓の上に五芒星の徴を持って生まれてくる。

 現ルベウス王家は王も王妃も健在で、一人の王子がいる。

 現王は獅子のような印象を与える勇敢そうな王で、王妃は銀の髪の美しい賢女である。

 第一王子の名はシエル。銀髪に紫色の瞳を持つ彼の容貌は母によく似、男でありながらも美しいと形容されるものだ。子供の頃から聡明さが際立っていた彼は、己でもそれを良く分かっていた。他に子供のいないルベウスの王家で自分の立場を良く理解し、勉学とそして国内外の有事に対するべく武術の修練にも余念なく励み、何事もそつなくこなした。彼の王位継承権は名実ともに確かなものだった。

 そして、この王家には一人の養女とも言える娘がいた。

 王妃の姪のロジエである。

 彼女は両親を亡くし七つの時に王家に引き取られた。王妃や王子と同じ美しい銀髪に、ルベウスでも珍しい銀の瞳をしている。容貌は王妃の家系譲りかやはり良く整ったものだった。

 王と王妃、そして王子もこの娘を我が子、妹同然に扱い可愛がった。自然、家臣たちもそれに倣うようになるが彼女が王家に養女として迎えられることは無く、彼女は家臣として仕える為に勉強をしていた。


 けれども城仕えの者達は囁き合った。

 正式に養女としないのはいずれ銀の(つがい)が国を治める為だろうと。


 ルベウスの王姪ロジエ。

 銀の髪と銀の瞳を持つ彼女の容姿は人形のように柔和に整っている。元来色素が薄いのであろうその肌は白く透き通るようで、儚げな美しさから‘妖精姫”と呼ばれていた。

 いつも朗らかな笑顔を絶やさない様な彼女を慕う者は多かったが、王や王子までもが掌中の珠ごとく大切にしていた為表だって彼女に求愛する者はなく、彼女はその事実を知らなかった。

 姪と言えど王妃の妹の子なので王とは血縁ではない。

 彼女は事情あり王家に引き取られ実の子のように養育してくれた王、王妃、そして従兄に心酔していた。彼らに貢献したいと勉学だけでなく武芸にまで励んだ。

 いずれ王家の益となる者へ嫁ぐのだと思っていた。そして隣国との休戦条件としての政略婚に名が上がった時には二つ返事で快諾した。己の身が王家と国の役に立つのならば願ってもないことだったからだ。そして隣国に王家の者として嫁ぐために正式にルベウス王家の養女、王女となった。

 隣国の世継ぎの王子、噂では武勇に優れた美丈夫だが無愛想だということだ。

 願わくは彼が話を聞いてくれるような相手であるように。求めるのは愛ではなく情である。祖国と、そして嫁ぐこととなる隣国の平和の為に。

 それ以外の事には己の感情を捨てればいい。


 そう思っていた。

 彼に出逢う前は。

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