非殺人者
飛鳥あかりは、扉を閉め外へ出た。外には、銃を持った男が複数いて、彼女は一人でなんとかすると私やルークに言い残し、部屋を後にした。
なぜ彼女は、こんな危険なことを一人でなんとかしようとするのか、私にはよく分からない。
「とりあえず、いつ奴らが入ってきてもいいように荷物をまとめて銃を持ちなさい。」
私はルークに言うと、彼は小さく頷いた。
「なあ、フラン」
一通り逃げる準備を終えると、ルークが私に訊ねてきた。
「なに?」
応答する。
「なんで、あかりは一人でなんとかしようとするんだろうな」
「知らないわよ」
「まだあかりと仲直りできてないのか」
「ええ。憎いわ」
殺し屋と警察。私は正式な警察ではなかったが、それでも市民を守るための我々警察にとって殺し屋は、とても憎い。憎いっというのは、個人的な理由もあるが、いづれ話すときがくるだろう。
「そうか。だけど、彼女は俺たちために、命をかけてまで戦ってくれてる」
「私にとって殺し屋は醜い存在なのよ・・・。本当は、今すぐにでも消したい。けど、彼女には借りを作りっぱなしなのよ」
「醜い存在から、借りを作るなんてな」
ルークは、私の方を向いて嘲笑する。
「時間がないわ。早く出ないとね」
私は、部屋の扉を開けようとドアノブに手を触れようとした瞬間、勢いよく扉が勝手に開いた。
「やっぱりいたか・・・」
扉をあけた犯人は外にいる仲間の一人の男だった。げっそりと痩せていて、見た目は危険そうには見えない。銃を私達に向けていることを除いては。
「・・・っ!」
咄嗟に扉から離れて、開いた扉にコルト・カバメントを突きつけた。我ながら良い判断だと思った。
「チッ」
男は、舌打ちをすると引き金に指をかけた。
「・・・」
私も、引き金に指をかけているが、手の震えが止まらない。冷汗をかく。そして、心がかき混ぜられるような感覚に陥る。
つまり、私に人は殺せないのだ。
単に、人に銃を向けることはできる。ただ、殺すとなると別の話だ。
「銃を下ろしなさい」
私は、そのことを悟られない様に、落ち着いて男に声をかけた。
「女の餓鬼が銃を持つなんて、酷い世界になったもんだな」
「五月蝿いわね」
男の煽りに若干腹立たせながら、私は言葉を吐き捨てるよう応答した。
「なんだ?撃ってこないのか?俺は一人。お前らは二人いるんだぜ?殺せないのかな?」
男は、我々の身体が、小さい単なる子供だと思い込み、余裕の表情を見せ煽る。
今からでも苦しい思いをさせてやりたい気分だが、引き金を引く以外に選択肢なんてない。ルークも動揺していて、その場に立ちつくしている。まあ、顔立ちから、彼は人を殺せるような人柄じゃないことは察してはいたけれど・・・。
ルークと私が人を殺せない以上、なにも出来ない。私達が、人質になれば、きっと飛鳥あかりは殺されるだろう。彼女には借りがあるし、殺すのなら自分の手で、彼女を殺したい。大嫌いな殺し屋は、自分の手で復讐したい。なにか、手はないか?
「ふふふ。あなた、面白いわね」
私は男を嘲笑いながら、距離を縮めていく。
「な、なんだ?離れろ!撃つぞ!」
男は、さっきまでの余裕の表情から一変、私が笑いながら近づいたことに動揺を隠せない。やはり、彼は私達を撃ち殺す勇気がないのか?
「あなたには私を撃てるのかしら?」
手を伸ばせば男の銃口を掴むことのできる距離まで近づいた。男の突きつける銃は、小刻みに震えている。
「ふ、ふざけるな!今すぐその脳みそをぶち抜いてやる!」
男は強気で言うが、私は緊張で、高鳴る鼓動を抑えながら、冷静に男に言った。
「よくそんなこと言えるわね。そんなセーフティの掛かった銃で私を撃てるとでも?」
私はもう一度、嘲笑う。
「お、俺は軍の経験があるんだ。そんなミスなどするわけ無い!」
男は怒り混じりにそう吐き捨てる。やはりこの嘘はわかりやすかったか?
「・・・」
しかし、男が吐き捨てた言葉の後、男の目線は微かに、セーフティの方を向いていた。
瞬間、私は男との間合いを詰める。その間に、自分の銃をしまった。
「・・・!?」
男の持つ銃の銃身を右手で下から持ち上げる。
男は焦って引き金を引いた。銃声とともに、右手に物凄い反動を感じたが、男は無理な体勢で不慣れな銃を発砲したために、銃を手放した。
これは絶好のチャンスだった。
左手で、ナイフを男の首に突きつけた。
「チェックメイトよ」
私は右手に奪った銃をルークの方に投げたが、決して男から目は離さない。
「殺すのか?」
男は、両手を挙げながら訊ねた。
「・・・」
私は何も言わなかった。私は今から男を殺すのか?そう考えるだけで、手が震える。心臓が、より速く鼓動する。
「私は・・・」
ナイフを男に突きつけたまま、呟く。
「私は、あなたを殺せな・・・」
「うっ・・・」
私が言い切る前に、男は小さく声を漏らすと、目が見開き瞬間脱力したかのように倒れた。
「えっ・・・?」
私は驚きの声を漏らし、何が起こったのか整理がつかない。
「大丈夫ですか!?」
倒れた男の奥から、聞こえた声と現れたのは、あの殺し屋の飛鳥あかりだった。
「ああっ・・・」
私はやっと状況がわかった。男の後頭部には、飛鳥あかりのボウガンの矢が刺さっている。つまり、即死だ。男は目の前で小さな断末魔を漏らし、死んだのだ。男の周りの床は、男の大量の血液で浸った。
「うう・・・」
私は、この光景に、吐き気を催し吐いてしまう。感染者なら大丈夫なのたが、人間の死に様はどうしても慣れないし、慣れたくもなかった。
でも、殺し屋は別。殺し屋だけはこの手で復讐する。私はそう誓ったんだ。
「大丈夫ですか?」
飛鳥あかりは、私の背中を揺すりながら心配する。多分男の発砲した銃声で、心配になりきたのか。
「他は?」
私は口を腕で拭いながら、訊ねた。
「まだいます。確実に。早く逃げましょう」
飛鳥あかりは、そう言って部屋の扉を閉めた。
「逃げるってどこに?外にはまだいるんでしょ?」
焦っているのか、少し強い口調で訊いた。
「強行突破しかないかもしれませんね。私が囮になりますよ」
彼女は、冷静に答えた。この状況で平常でいられるなんて、本当に人間関か疑いそうだ。
「あかりなら大丈夫だ。行くぞ」
「ルークまで・・・?」
と、私はつぶやく。
「いや、俺はあかりを信頼してる。それに強いし、何よりほかに方法手な時間がない」
「・・・・・・」
何も反論できない。
「決まりですね」
飛鳥あかりが、そう呟いた数秒後、追い討ちを掛けるかのように災難が降り注いだ。
突然、飛鳥あかりのうしろにある扉、部屋の扉が開く。
「・・・っ!?」
血しぶきがが視界に映る。
一瞬ではあったが、すぐに誰の血なのか、わかった。
飛鳥あかりは、扉を開けた男の手により、左肩を撃たれてしまった。
しかし、そのまま、右腕で男を射殺してから部屋の隅で倒れた。
外には敵がいる。
「大丈夫か!?」
ルークが、飛鳥あかりの様子を見る
「一体どうすればいいの?」」
私は思わず声に出した。
飛鳥あかりがいない今は、私が外にいる敵を殺さないといけない・・・。
私は大きくため息をついた