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「ただいま」

ちょっと日本語がおかしいところがあるので後で加筆修正すると思います。すみません……。

「……まったく、お前はなんてことをしてくれたのだ……」


 ジョンのクラスの担任である長身の男、ザック・ディクソンは、呆れてものも言えない、といった調子で、ため息を吐いた。


 あれから。

 ジョン率いる無限の同好会アンリミテッド・サークルは、なんとか解散を免れる運びとなった。

 ジョンがその結果を知ったときには、喜びよりも安堵が溢れた。そりゃそうだ。ダメで元々……と言ったら聞こえが悪いが、正直、勝ち目のない戦いであったからだ。

 単純にジョンの作戦が功を奏したのもあるが、それ以上に、ナターシャとアシュリーがこちら側に来てくれたのが大きい。特にナターシャの存在は別格で、ここだけの話、彼女が味方に付かなかったら、この作戦は失敗していたと言っても過言ではない。


 とはいえ、ジョン以外に生徒会室に奇襲をかけられる人間はいないし、エリーゼ以外にリクトの魔術を破れる人物にも心当たりが無い。生徒会の面々を抑えることを考えると、どうしても、あの作戦を取らざるを得なかった。ゆえに、俺は悪くねえ、とジョンは一人言い訳をしていた。エリーゼほどスマートさを求めてはいないが、今回は作戦に不安定な事項がありすぎた。

 エリーゼと戦ったときにあれほど後悔したというのに。

 自身の無反省さにジョンは苦笑した。


 閑話休題。

 エリーゼが無限の同好会アンリミテッド・サークルの解散届を燃やし、晴れて作戦は成功となったわけだが、現実問題として、それだけで解散の話が無くなったかといえば、そうでもない。

 というかむしろ、その後が大変だった。


「……まったく、せめてそういうことは事前に言ってくれ」

「言ったら止めるだろ?」

「当たり前だ」


 ジョンとザックは、互いに相手を睨んだ。双方ともに、主張は譲らない方針である。男ってバカだよね。


「あれから俺がどれだけの便宜を図ったか分かるか? 寝ないで対策を考えて校長に掛け合ったんだからな」

「交渉に必要な材料はあっただろ。元々、リクトが理不尽に解散だーっつってったんだから」


 ……それに。


「それに、向こうだって魔導人形を使って来たんだ。その時点で、リクトの側にだって『正当防衛』では言い逃れられない部分が出てくる。ようは俺たちの奇襲を知ったうえで受けたんだから。本当に、俺たちの行動が問題視されるなら、学校側に掛け合って俺たちを止めるはずなんだ。それをしなかったってことは、あっちだって迎撃の意志があったってことだろ? 理由はなんにせよ、立派な校則違反じゃないか。魔導人形を使わない道も選べたのに、あえて戦闘を受けたんだから。

 ……そういう論法でおあいこにできそうなもんだがな」

「校舎を破壊したのは? どう説明する?」

「誰がドリルタンクで床をぶち抜くなんて考えるよ?」

「確かにな。お前以外には思い当たらない」

「疑われてんなァ……」


 腕を組んでうなだれるジョンに、はっはっは、とザックは笑う。


 ――俺は、世界を変える。


 ……その、彼の幼稚とも言える大言が、にわかに現実味を帯びてきた。

 ザックはフッと笑い、目を伏せる。


「まあ、今回のことに関しては、ここでおしまいだ。これ以上の追及はやめよう」

「マジで?」ジョンは驚く。「いいんだぜ、もっと言っても? 大変だったんだろ?」


 ジョンはおちゃらけたように、暗に自虐する。自身がザックに多大なる迷惑をかけたことはよく分かっていたし、深く反省していたからだ。

 正直、もっと怒ってくれても、叱ってくれてもいいくらいだった。

 その方が、かえって、ジョンの心が軽くなる。


 ――その言葉を聞いた、教師ザックは。


「そうか? じゃあ最後に一言」


 ザックは大人の余裕を醸しつつ、口角を上げ、ジョンに告げた。


「よくやった」


「……ッ」


 ――その、不意な一言に。


 ジョンは、不覚にも、目頭を熱くしてしまった。

 本当に、不覚にも。

 ザックという一人の大人に、褒められ、労われた。

 ザックの言葉は、彼の偽らざる本音だった。


 散々、憎まれ口を応酬していたザックだったが、なんだかんだで、ジョンの行動自体は評価していた。

 無限の同好会アンリミテッド・サークルという弱小団体が、外部から(アシュリー)の力を借りたとはいえ、それでも圧倒的に実力の差がある生徒会を切り抜け、見事、解散届を燃やしたのだ。

正直、王道のスポ根漫画を読んでいるようで胸が熱くなったし、なによりジョンの情熱に感動していた。

そういった諸々の思いが、「よくやった」という言葉に集約されていた。

 たった、一言。多くは語らない、簡潔な言葉。


 ……しかし。


「……ああ」


 そういってジョンは、ザックに背を向け、目を拭う。

 まだまだ未熟な少年の、張りつめた心をほぐすには、十分すぎた。



 部室に入ると、そこでは祝賀会が催されていた。

 部室には色とりどりの紙のリースが巡らされ、三脚の長机にはさまざまな料理が盛りつけられた皿が乗っかっていた。いわゆるビュッフェというやつである。


「あ、ジョンさん!」


 ジョンの到来に気付いたモニカは、フルーツとスイーツが盛られた紙皿を片手に、とてとてと小走りで近づいた。ジョンは「よう」と片手を上げる。


「おうおうおう、なんだ? 楽しいことやってるじゃないか」

「そうなんですよ~」モニカは喜色満面に笑う。「無事、無限の同好会アンリミテッド・サークルが生還した、そのお祝いをしてるところなんです」

「マジかよ、なに俺をほっといて楽しいことしてんだよ」

「とんでもない!」


 モニカは大仰に首を振る。部屋を見ると、祝賀会に参加していた全員が、ジョンを見ていた。彼らを代表して、モニカは告げる。


「みんな、ジョンさんを待ってたんですよ!」

「……」


 モニカの言ったことは本当だった。

 見れば、誰の皿にも、個人の好みの料理が盛りつけられていたが、手を付けられた形跡は無かった。


「……ジョン」


 ジョンの元に、ゆっくりと歩み寄る少女が一人。黒いドレスに身を包んだエリーゼが、上目遣いに彼を見上げていた。


「……その、これ」


 エリーゼは、両手で大事に持っていたあるモノを、ジョンに手渡した。

 エリーゼの持つ紙皿には、様々な肉料理が、綺麗に盛り付けられていた。

 少女の気配りに目を丸くしながらも、ジョンは「サンキュ」と短く告げ、エリーゼの持つ紙皿を受け取る。

 ジョンの、無骨で、皮膚の厚い両手が、エリーゼの、白く、細い指に触れる。

 それが、エリーゼにとって、なによりも嬉しいかった。


「ジョーン、お帰りー!」


 ふと、ジョンを呼ぶ声が聞こえた。どうやらアシュリーが、フォークを振ってジョンを迎えたようだ。一応金持ちの娘としてその作法はどうなのだろうか。

 しかし、アシュリーの行儀も気にならないほどに、ジョンは感激していた。

 ジョンとエリーゼ、そしてザック。三人から始まった無限の同好会アンリミテッド・サークルが、非正規メンバーも含めれば、ゆうに百人を超える大集団へと成長したのだ。これで喜ばないはずがない。

 ジョンの元にいたエリーゼが、優しい笑みを彼に向ける。


「おかえりなさい、ジョン」


 ジョンは、左手の指で涙を拭い、顔をくしゃくしゃにし、震える声で返す。


「ただいま」



 無限の同好会アンリミテッド・サークルとの戦争に負けたリクトは、あれからというもの、どこか様子がおかしかった。

 副会長であるカナエでも、その心情の真意は分からない。ただ単にジョンへの敵愾心(てきがいしん)を燃やしているのなら、……ジョンへの恨みを増幅させているなら分かるが、リクトの表情からは、そういった気持ちは見えなかったからだ。

 怒りというより。恨みというより。

 なんだかぼんやりと、悩んでいるようで。


「リクト?」

「……なんだ?」


 リクトは反応する。その言葉に、以前のような刺々しさというか、張り詰めた調子は感じられなかった。


 ――おかしい。いつものリクトじゃない。


 微妙に失礼ながらもカナエは考える。普段なら、もっと刺々しいはずなのに、と。

 カナエは、なんというかペースを崩されたような気分だったが、怯まずに尋ねる。


「なんつーか……丸くなった?」

「かもしれんな」

「……」


 ――ダメだコイツ、早くなんとかしないと……。


 カナエの背筋に戦慄が走る。ダメだこれ、こんなのリクトじゃない。いやまあ、確かにいつもピリピリしているリクトよりはこっちののほほんとしているリクトの方がいいけど……。なんかこう……、釈然としない。

 リクトになんて疑問を投げかけようか、カナエが頭を悩ませていると、不意に、生徒会の扉が開いた。

 生徒会書記、ナターシャが、ドアの隙間から顔を覗かせる。


 ――ナターシャ来た! これで勝つる!


 カナエは心の中でガッツポーズを決めたが、よくよく考えてみれば、ナターシャが来てもあまり事態が好転するようには思えなかった。ナターシャはリクトと対等に会話できる数少ない逸材だが、だからといって、彼の機嫌まで直せるとは思えない。

 カナエは八方塞がりと化した現状を嘆いた。なんというかこの人は何と戦っているんだろうって感じですね。

 カナエが質問に窮しているところに、ナターシャは口を開く。


「……無限の同好会アンリミテッド・サークル、復活したね」

「そうだな」リクトは緩慢な仕草でナターシャを見る。「すまないな」

「……」


 ……ナターシャとカナエが、共に目を見張る。

 いま……、もしかしてリクトのやつ……謝った?


(待って待って待って!)カナエの思考が狂乱する。(ま、ちょ、今の重大事じゃね⁉ あのリクトが素で謝ったよ⁉ しかもなんか特に屈辱的な感じじゃなくて、フツーに! やっば、なにこれ私ってば夢でも見てるのかな……⁉ だって今の凄いレアイベントじゃん! さらっと流しちゃいけない描写じゃん! なんかこう……行を一行開けて


「すまないな」


 ↑みたいに描写するところじゃん! え⁉ え⁉ なにこれヤバッ‼)


 あわわ……とカナエは口を押える。対するナターシャはパッと見それほど動揺していないように思えたが……。


「……り、りきゅ、りくと……?」


(噛んだーーーーーーーーーーーー⁉)


 カナエはまたしても驚愕した。あのナターシャが噛んでしまうほど取り乱すなんて、生きてるうちに拝めるとは思わなかった。いやまあカナエもナターシャもそこまで歳は離れてないけど。

 リクトはフウ、とアンニュイな感じで息を吐く。


「……思えば、馬鹿なことをしたものだな。それこそ、ジョンと同じくらい」

「……え、えと……」


 あれ、なんかこれポエムを呟く感じ? とカナエは狼狽する。

 だが、どうやらそうではなさそうで。

 ナターシャはリクトに問う。


「リクト、……校長にかけあったんだよね。無限の同好会アンリミテッド・サークルを存続させてくれ、……って」

「ま、まじで?」


 初めて聞くわりと衝撃の真実に、カナエは驚く。さっきから驚愕の連続だ。

 その話の真相を、リクトは多く語らなかった。たぶん、彼なりに思うところがあるのだろう。ジョンのアホさと、リクトの大人げなさと、……そして、ナターシャの意外な行動に。

 とにかく、考えることが多すぎる。

 問題は解決しても、個人の疑問は多くが放置されている。

 いずれは真相が分かるだろう、……そう、カナエもナターシャも予感していたが。

 今は、なんとなく訪れた、不思議な平穏を楽しむとしよう。そう決めた。

 最後に。リクトは、生徒会室に居た、ナターシャとカナエに問う。


「……その、なんだ」


珍しく、リクトは言葉を詰まらせる。


「……これからも、私についてきてくれるか?」


 その、珍妙な質問に。

 カナエは、苦笑し。

 ……そして、ナターシャは。


「……もちろんだよ」


 ……と。


 リクトが、彼女に夢を語った、あの日のように、微笑んだ。


……と、いうわけで、第三章、完結です! わーい!

もともとこの小説のメインコンセプトが、「力の無い人々が結託して強大な力に打ち勝つ」というものであったので、それを一番表現しているこの章には格別の思い入れがあり、話の内容的にも一番書きたかったものなので、ここまで書き上げることができて、達成感でいっぱいです!

一時は自身の一身上の都合により、更新ペースが檄落ちしましたが、なんとかなってよかったです! これが趣味じゃなくてお金が貰えるものであればもっと更新が早くなるんですけどね~(チラッチラッ)。

ちなみに次回予告ですが、そもそもこの作品は、コ〇ンド―を始めとしたハリ〇ッド映画的な、激しい戦闘シーンとコミカルな会話劇を主とした明るい作品にしようと思っているのですが、今回はわりと重いエピソードばかりだったので、次回は底抜けに馬鹿馬鹿しいスラップ・スティック・コメディで行こうと思います!

とりあえず話の内容を一言で説明すると……。


ギャグ×ドンパチ×群像劇


な感じになると思います! わー適当!

それでは、ここまで読んで下さった方、どうもありがとうございました!


感想やコメントを頂けると大変励みになりますのでよろしくお願いします!

宣伝してくれるとさらに喜びます!

どうも、ありがとうございました‼

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