「お前の鎖をぶった切れ」
「オラオラオラオラオラァ!」
アシュリーが威勢よく吠えながら、散弾銃を連射する。終焉戦争以前の西部劇でよく用いられた、ウィンチェスターという散弾銃を模した魔導具片手に、廊下を突っ走る。
「ヤバい、来るぞアイツ!」
「迎え撃てえ!」
「遅いっつーに!」
ドン! という爆発音が、生徒会の戦闘員の居る方角から聞こえた。かと思うと、彼らから火花が飛び散り、遅れて赤い硝煙が弾け飛んだ。アシュリーの弾が着弾したのだ。
「なんだ、あの銃はァ⁉」
「特別カスタムか⁉」
「魔法だけが魔法使いと思うなよォ!」
ドン、ドン、と立て続けに銃を発射させるアシュリー。生徒会側に2度の爆発が起こり、動揺が走る。
「ちょッ……、なんだ、アイツ、ぽっと出の癖に!」
「アイツを止めろォ! 2階へ上げるな!」
「俺らを忘れちゃ困る!」
生徒会側がアシュリー対策へと走る中、レオンとゴンゾウが駆けた。
モニカも束の間の球形の後、再び魔法の盾を展開する。彼女は防御の姿勢を取りながら、アシュリーと名乗る少女の戦いっぷりに感嘆していた。
「すごい……、すごいです、アシュリーさん……!」
ジョンの会話の中で、たびたび出てきた少女。リクトととの因縁を知る過程で幼少期の写真を目にすることはあったが、現実の彼女を見て、驚くと同時に、どこか、ジョンと同じものを感じた。
――これが、ダイナのお国柄なのだろうか。
「魔力が込められた散弾銃の威力は格別ですね……。ジョンさんの旧友……」
「いやぁ、それほどでもないよー」
「いえいえ、そんなことありません。あれだけの威力があれば、この戦況をひっくり返すこと……も……」
「そんな褒められても何もで――」
「……なんでもう戻ってきてるんですか?」
モニカが目を丸くして、隣にあぐらをかいている少女に問うた。先ほどまで前線で生徒会を圧倒していた少女は、いつの間にか、モニカの隣で銃をカチャカチャと弄っていた。
少女は悪びれもせず笑う。
「いやあ、あんね、散弾銃ってあんまりタマ仕込めないのよー。分かる? 女だし? なーんつって!」
ゲラゲラとアシュリーは笑う。モニカは彼女の会話のノリに付いていけず、口をポカンと開けていた。
「それに、一度に召還できる銃にも限りがあるしねえ」
カシャリ、と散弾銃をリロードし、薬莢を装填する。
「瞬間火力は凄いけどねー、こんな混戦状況で長期戦なんてムリムリ」
「は、はあ……」
「だから……、ね!」
よっ、と立ち上がったアシュリーは、校舎東側、先ほどまで生徒会と戦っていた方角とは別方向を向いてモニカに笑いかける。
「こっから十分が正念場ってとこカナー」
「じゅ、十分ですか?」
アシュリーの提示する、彼女の戦闘可能時間の短さに、モニカは慌てた。
「そ、そんな、短くないですか?」
「まあ後は無限の同好会がなんとかするでしょー。ジョンが黙ってるわけないし」
「あ、そうだ、ジョンさん……!」
この作戦の首謀者を思い出したモニカは、すぐさま通信を開始する。程なくして、連絡が繋がった。
「もしもし、ジョンさん!」
『どうした、モニカ⁉ 突破されたか⁉』
「い、いえ、押し返しました!」
『マジで⁉』ジョンは驚く。『何が起こった⁉』
「そ、その……想定外の事態が起こりまして……!」
『な、なんだ、相手が事故ったとか?』
息巻くジョンに、モニカは傍らに佇む少女を一瞥したのち、告げる。
「アシュリーさんが、助っ人に来ました!」
『マジで⁉』
幼馴染みの唐突な参戦に、ジョンは耳を疑う。
先ほど「ドリルはお好き?」と訊かれたジョンであったが、まさか本当に彼女が来るとは思っていなかったので、今さらド肝を抜かれた。
『うっそだろお前!』
「本当です、ここに――」
「もしもーし」
アシュリーは、モニカに顔を寄せ、使用者以外には見えない魔導ウィンドウが、おそらくこの辺りにあるんだろうなーと予想しつつ、ジョンに向かって告げる。
「ジョン……あんたほんとタマ付いてんの? なによこの状況は?」
アシュリーの行動の意を察したモニカは、急いでジョンの会話がアシュリーにも聞こえるように、設定を変更した。
魔法のスピーカーにより、アシュリーの耳にもジョンの声が届いた。
『な……、アシュリー、ホントに来ちゃったの⁉ っつーかどうやって入ってきた⁉』
「ふっふーん、まぁさか私のパパが重機メーカーの社長だってこと忘れてないわよねえ?」
会話の主導権を握っているせいか、アシュリーは得意げだ。
「あんたパパにドリルやクレーンを格安で提供してんの、忘れんじゃないわよ
なーにが炎の壁よ。あんた実家で私に愚痴ってたけどね、そんなの地下から掘り抜ければいいのよ!」
『にしたって……、こんな学校まで持ってきたのかよ⁉』
「は! なにキモの小さいことぶっこいてんの!」
アシュリーは女番長のような気迫で告げる。
「まったく……、世界を変えると宣った男が聞いて呆れるわ。だーからあんたは詰めが甘いっつってんの!」
『ぐっ……』
どうやら図星を突かれた様子で、ジョンは反論もできずに押し黙った。
モニカが面白くなさそうな表情をするのも気にせず、アシュリーは嗜虐的な笑みを浮かべた。
「いーい、ジョン? これ貸しだから」
『分かったよ、菓子で返すよ』
「そうこなくっちゃ!」
アシュリーは散弾銃をいったん返還し、今度は突撃銃を召還した。軽い動作チェックをした後、モニカにウィンクをする。
「じゃ、あとそこよろしく!」
「え、えっと……」
「オラアアアアアアアアア!」
言葉が出ないモニカを尻目に、アシュリーは威勢よく飛び出して行った。
「やろうぶっころっしゃああああああああ!」
アシュリーは周囲の驚愕なんておかまいなしとばかりに、物騒な掛け声と共に2階へと上がって行った。
『……モニカ』
「……」
『……モニカ!』
「ひゃ、ひゃいっ!」
いきなりのジョンの呼び声にモニカは驚き、舌を噛む。ジョンは通信で状況を尋ねる。
『アシュリーは⁉ もう行っちまったか⁉』
「は、はい、なんか奇声を上げながら走って行っちゃいました……」
『えええ……』
ジョンはドン引きしていた。
☆
「アシュリーが……来た?」
未だ状況が飲み込めない、といった様子でジョンに質問するエリーゼ。ジョンは「ああ」と頭を掻いていた。
「しかも当のアシュリーとは連絡が取れないと来た」
「ど、どうするの……?」
「しゃあねえなあ」
ジョンはまるで厄介者が乱入してきたとばかりの不機嫌さで、アレックスと通信を繋ぐ。
「アレックス、聞こえるか?」
『なに、ジョン⁉』通信越しに、魔法の飛ぶ音や爆発音が聞こえる。『悪いけど状況なら変わってないよ! むしろ後退してる!』
「報告の必要はねえ。だが聞いてくれ!」
『なに⁉』
「そっちに頭のイカれた金髪が来るけど味方だから安心しろ!」
『な……、なに言って……!』
『………………ぅぅぅぅぅううううううらああああああああアアアアアア‼』
『⁉』
☆
突如として、突撃銃を構え前線に突入してきた少女に、戦場はどよめく。
「君だれ⁉」
「訊いてる場合ィ⁉」
アレックスは少女に素性を問うたが、少女はまったく答える素振りを見せず、銃を敵めがけて構えた。
その直後、生徒会副会長・カナエが、無限の同好会の敵陣に乗り込み、ステッキを斧のように振りかざしていた。
――見えていたのか⁉
アレックスとカナエが、同時にアシュリーの反応の良さに驚いた。
少女が小銃の引き金を引く。何発もの銃弾がカナエを襲う。
「あばばばばば!」
カナエは咄嗟に魔法の盾を展開し、銃弾を防いだ。カナエの盾はモニカのものと比べ、小さく貧相だった。だが銃弾を防ぐには十分な大きさを持っており、なんとか銃弾を浴びずに物陰へ逃げ込むことができた。
一般的な魔法と比べ、銃弾は、一発の威力こそ小さいものの、体にめり込むし、なにより連続で命中したときのダメージは侮れない。
カナエが身を隠している間に、アシュリーは手早く自己紹介をこなす。
「私はアシュリー! アシュリー・J・エンフィールド! 以下略!」
「あ、アシュリー⁉ それって……!」
「あらやだ、知ってんの⁉ やーん、私ってば有名じ――ってェ!」
アシュリーはおどけた態度から一転、歯をギラリと光らせる。瞬間、ガン! という衝撃がアシュリーの目の前で起こった。
生徒会庶務のタクミが、マフラーを靡かせながら突っ込んできたのだ。
「あら、イケメンだこと」
「ありがとなァ、嬢ちゃん!」
タクミは地面に突き刺さった自分の槍を掴む。
「お嬢ちゃんみてえなベッピンさんはこんなとこ来ちゃあいけねえよ。さっさと帰んなァ!」
「嘗めんなァ!」
アシュリーの膝がタクミを襲う。タクミは槍を引っ張り身を後退させた。そこへアシュリーの突撃銃がその砲塔を光らせた。
「ぶっかますぞォ!」
「心強い!」
アレックスもアシュリーに呼応して、前進を開始する。
第三校舎の三階は、大混戦となった。
☆
『アレックスを中心とした三階の軍が前進したよ、ジョン。今が攻めどきかも』
通信から、三階で戦う部隊長の一人、レイカ・ミヤビの声がそう告げた。今か今かと機を待っていたジョンは、やっと、自身の出番が来たことに、身震いを禁じえなかった。
「行くの?」
エリーゼがジョンに問う。
「ああ」
そう、ジョンは頷く。
「リクトと決着を付けてくる」
☆
「なんだ、何が起こっている⁉」
生徒会室で戦況を整理していたリクトが、三階で戦闘を繰り広げているスズカに問うた。
『分かりません!』
スズカの声から、尋常でない緊迫感が伝わる。
『なんか! 前の部隊の人たちが苦戦してて……、なにこれ、なんか、金髪の人が強いとかなんとか!』
「まったく要領を得ていないのだが!」
リクトは怒号のようにスズカに問い質すが、スズカも冷静さを欠いているようで、どれだけ訊いても、断片的な情報しか浮かび上がってこない。
『本当に! 本当に分からないんです! なんなんですか、あの人!』
「金髪……か……」
リクトは顎を摘まみ、脳内で全校生徒の名簿を展開した。
もちろん、いくらリクトとはいえ、国立第四魔法学校の全生徒の顔と名前を記憶しているわけではない。
しかし、この学校戦争の進行を多少なりとも左右できる人物となれば、学校ではそれなりに有名な人物であるはずだ。
リクトの脳裏に、何人か、金髪で、かつ戦闘力の高い生徒の顔が浮かび上がったが、どうも釈然としない。何かを見落としているような気がする。
――いや。
――見落としているというよりかはむしろ……『存在そのものがイレギュラー』な人間が介入しているのではないか?
リクトは頭を捻るが、3階の生徒が苦戦するほどの生徒というものがどうにもイメージできない。
――いや、正確には、一人だけ、このような状況すらも覆しえないほどの人間を知っているのだが。
しかし、とリクトは頭を振る。リクトの脳内に一瞬だけ姿を見せた『少女』は、この学校には居るべくはずもないからだ。それに、彼女がそれだけの戦闘力を秘めているかも分からない。
なにせ、最後に会ったのが、およそ10年近くも前のことなのだから。
そんな昔に会った人間の戦闘力など、比較し得ないのは当然であろう。
なにせ、他でもないジョンが、あれだけの大言壮語をしておきながら、非力な自分を認めているのだから。
それでいて彼は、仲間の力を借りるという、いわば他力本願を武器に、生徒会に下剋上を挑んでいる。
あのとき交わした言葉すらも、忘れて。
まるで、……まるで!
まるで、ここまで実力を付けてきた自分が馬鹿みたいじゃないか。
リクトは、その思いを起こすたびに、唇を噛み、体を震わせた。
自らの心に沸き立つ、ジョンに対する憤怒の情。
やりきれない激憤。
ジョンの顔を想起するたびに、リクトの怒りはますます膨れ上がった。
――世界を変えると言ったところで、どうせ、旧友を忘れるような薄情者であることに変わりはない。
「そんなの……私は認めない」
そんな男に――世界を変える資格など、あるはずが無い。
結局は、井の中の蛙の戯れ言にしか過ぎない。
だからこそ、彼がそのような妄言を吐くたびに、リクトの怒りは燃え盛るようだった。
――だからこそ、リクトにはナターシャが必要だった。
国立第四魔法学校のトップに君臨するリクトであるが、ジョンという、かつての憧れを埋め合わせるためにも、ナターシャという側近が、リクトには必要不可欠であった。
かつて、10年近くも昔、難民として北方より逃げてきたところを、間一髪のところで生き延びた少女。
そして、リクト共に過ごし、学ぶにつれ、ナターシャはその才能を開花させていった。
と、同時に、孤高の存在と化したリクトに寄り添う存在にもなっていた。
瞋恚に震えるリクトは、無意識のうちに、ナターシャを探す。
――が、ナターシャの姿を捉えることはできない。
気分が優れないと言って、部屋の奥へと隠れてしまった。
ハア、とリクトは小さなため息を一つ吐く。
「まあいい」
リクトはそう呟き、再び地図を眺め、戦況を確認し始めた。
無限の同好会にどのような戦力が加入したか知らないが、生徒会直属の戦闘員には到底敵わないであろうことは明白だった。人数も、個々の戦闘力も違い過ぎる。
リクトは、無限の同好会を侮っていた。
――だからこそ。
☆
『ナターシャ、聞こえるか?』
「……」
頭を抱えていたナターシャは、不意に来た、ジョンからの着信に、耳を傾ける。
薄暗い室内で縮こまっていたナターシャの前に、小さな太陽が出現したような、……そんな気がした。
『返事無し、か。
……んーまあ、繋がってんならいいか』
コホン、とジョンは咳ばらいをする。
『ナターシャ、一つ訊きてえことがあんだけどさ、いいか?』
「……」
『……お前さ、その……。俺らの作戦、全部リクトに喋ったろ』
「……」
『校舎の西側を捨てることも、2階のマオを陽動に使うことも、……っつーかそもそも、今日この日、この時間に生徒会室に攻め入るってことも』
「……」
――言動から滲み出る、ジョンの怒り。
ナターシャは、通信を切ってしまいたい衝動に駆られたが、彼女の心に胚胎していた罪悪感が、それを押しとどめた。
『……まあでも、別にそれを怒ろうってわけじゃねーんだ。ぶっちゃけ、お前が俺らを裏切ることくらい、想定していたし。……いや、むしろ、裏切ること前提で作戦考えてたし、実際今の作戦は8割くらい予想通りなんだ』
「……」
『だが、……あー、くそ、あっちぃ。まあいいや。生徒会ってのはやっぱ伊達じゃねえっつうか、めちゃクソ強いんだわ、これが。普通に戦ったら歯が立たねえよ。
……無限の同好会の奴らには言いにくいが、正直負けそうなんだ』
「……」
『そこでなんだけどさ、別に取引しようってわけじゃねえんだけど。……その、覚えてっか、ナターシャ? 俺とお前が第三闘技場で戦ったときのこと』
「……」
『あのときさ、俺……言ったよな? お前の本心はどうなんだよって。本当に、その答えは変わらないままか?』
「……」
『無限の同好会の解散が、本当に、この学校の平和に繋がると、……本気で思っているのか?』
「……」
『リクトに従って……、本当に、後悔は無いのか?』
「……」
『……返事無しか、……ったく』
「……」
『まあいいや。別に強制しようってわけじゃねえし、お前を動かせるだけの器が俺にあるかも分かんねーし』
「……」
『だからさ、……これだけ言うぞ』
「……」
『俺は、今から、学校の外周を渡って、リクトと戦う』
「……!」
――ナターシャの動揺が、声に出さずとも、伝わる。
ジョンはフッと笑い、更に告げた。
『驚いたか? へへっ、まあ無理もねえな。伊達に無限の灼熱って呼ばれてねえよ。……まあ、そう呼んでるのはエリーゼだけだけどよ』
「……どうして?」
『お、やっと喋る気になったか。まったくお前ってば――』
「どうして! そこまでして! ……私に、何をさせようっていうの?」
『……』
「……もう、分かんないよ。なにがなんだか」
『……』
「……私はリクトに従ってきた。それが正しいことだとずっと思ってたし、素晴らしいことだとも思っていた。
……でも、ここに来て、私はどうすればいいのか、分からなくなって……」
『……』
「……なんだよ、なんなんだよ……。どうすればいいんだよ……。私はどこに向かえばいいんだよ……!」
『……』
――通信越しに、ナターシャの嗚咽が聞こえた。
ジョンはしばらく黙っていたが、やがて、静かに、ナターシャに告げた。
『……そんなの、決まってんだろ』
「……」
『どっちが正しいかなんて、誰にも分かんねえよ』
「……じゃあ……」
『……だからさ。
信じるんだよ、正しいって』
「……」
『自分が正しいと思ったことを、正直にやってみろよ』
「……」
『……お前の本心はどこにあるんだよ?』
「……」
『俺の本心はいつだってここにある』
「……」
『ナターシャ、何も難しいことはないさ』
「……」
『お前の、その手に持つ斧をさ』
「……」
『力いっぱい、握りしめて』
「……私は……」
『そして、振りかざせ』
「……私は……!」
『さあ!』
☆
「お前の鎖を! ぶった切れええええええええええええええッ‼」
「⁉」
――不意に、野太い声が聞こえた。
リクトは、反射的に後ろを振り向き、剣を振る。
ガキン!
――男の大剣と、リクトの聖剣が、刃を交える。
赤き火花を散らし、紅蓮に照らされるその男の姿に、リクトは唖然とする。
――まさか、彼が、そんな。
「よう、リック……!」
男は、不敵な笑みを浮かべ、銀髪の少年の名を呼ぶ。
「……ああ、貴様か……!」
呼ばれた少年も、口角を上げ、体中に殺気を漲らせる。
膨れ上がった憎悪は、リクトの顔に恍惚の笑みを象る。
「ジョン・アークライト……!」
赤毛の少年は、窓際へと後退し、自身の身長ほどもある大剣を、再び構えた。
少年、ジョンの背後の窓ガラスは、開いていた。どうやらあそこから侵入してきたらしい――が、その更に後方には、今なお煌々と燃える死の炎が湧き上がっている。
――いったい、どんなカラクリで、生徒会室に入って来たというのか。
……いや。
「それすらも、些末な問題か……」
リクトは白刃をジョンの目の前まで突きつけた。ジョンは未だ、自らの豪胆さを誇示するかのように、歯を見せ余裕を醸していた。
「泣く子も黙る無限の灼熱こと、ジョン・アークライト、ここに見参!」
ジョンは腰を屈め、疾駆の姿勢を取る。
「俺は、世界を変える!」
――かつての、リクトとの約束を、果たすために。
 




