「そんなヤバい案なの?」
「里帰り?」
エリーゼは驚いてジョンに聞き返した。ジョンは「おう」と頷いた。
現在、ジョンとエリーゼは、共に部室に設えられたソファに座っていた。
数日間とはいえ、長らく座っていなかったソファに腰を下ろしたジョンは、「ふう~」とため息を吐いた。
それからエリーゼの質問に答える。
「まあ、所用でな。武器の整備とか、色々な準備で」
「だったら一言伝えてくれればいいのに……」
エリーゼは頬を膨らませた。
ジョンが不在の間、エリーゼはどれだけ不安な気持ちを抱えていたことか。
「悪かったって」
ジョンはエリーゼの頭をポンと叩いた。
一般の生徒が見れば肝を冷やすような光景だが、エリーゼはまるで嫌な顔ひとつしなかった。
「お前なら、待ってくれるって信じてたからさ」
「……信じるのと、不安にさせるのは別問題でしょう」
そう言いつつも、エリーゼの表情は嬉しげだ。
エリーゼは照れたように頬を染めたが、その後にジョンの口から平然と飛び出た言葉に、一気に顔を青くした。
「生きて帰れるか微妙なところもあったしよ」
「……えっ?」
エリーゼの口が半開きになる。
――まさか、魔導人形を使用して戦争に臨むこのご時世に、そんな言葉が飛び出すとは思わなかった。
「どういうこと?」
エリーゼが問うと、ジョンは苦笑交じりに頬を掻いた。
「師匠に会いに行ってたんだよ」
「……貴方に、『爆炎』を授けた人?」
「よく覚えてんなあ」
エリーゼの記憶力にジョンは驚いた。
ジョンがそのことを話したのは、覚えている限りでは、ジョンとエリーゼが初めて衝突した、あの時だけだ。
ジョンが、彼の発動できる数少ない魔法の一つ、爆炎を使用したときに、ポロリと口にしたその言葉を――別段、隠すつもりも無いのだが――エリーゼが覚えていたのは意外だった。
エリーゼの予想に、ジョンは頷いた。
「ご名答だよ。俺に『炎』の属性を与えてくれた恩人だよ。
与えた……っつーより、埋め込まれた、の方が近いけど」
「ふーん」エリーゼはしばし納得しかけた後。「……その割には、貴方、魔法をあまり使えないようだけれど」
「授けてくれた(強いとは言ってない)」
「えー、そこは不正行為並みの魔力があるべきでしょー」
「お生憎様、物語はそんな上手くいかねえんだよ」
「つまんなわねえ」
エリーゼは拍子抜けたように息を吐いた。能力を「授かった」というものだから、てっきり桁違いの魔力を手に入れたように感じてしまったが、実際はそこまで強いものでもなかったらしい。なによりジョン自身がそれを証明してしまっている。
――というか、その能力を授からなかったら、本格的にジョンは魔法が使えなかったのではないか。
そんな邪推すらエリーゼの胸中に湧いてきた。実際のところは藪の中である。
続けてエリーゼは、ジョンに問う。
「……で、生きて帰れるかどうか分からなかったってのは?」
「まあ、その恩師ってのが、かなり感情が激しい人でさあ。俺が何の成果も学業も挙げずにのこのこと帰ってきたら骨まで燃やしつくすぞって感じの人だったんだよ」
「もうすでに何回も燃やされない?」
「否定はしない」
ジョンは長旅の疲れからか、体中を弛緩させていた。
今まで毎日といっていいほど顔を合わせていた両者からすれば、この数日疎遠になっただけでも懐かしさを感じてしまう。
「あと……何日だっけ?」不意にジョンは問う。「この部室から、強制退去させられるの」
「詳しくは覚えてないけど、もう三日も残されてなかったはずよ」
「そっか……」
ジョンはそれから、しばらく口を閉ざした。
ややあって、まるで風流でも感じているかのように、ポツリと呟いた。
「……ホントに、静かになっちまったなあ……」
そのことが気にかかっていたエリーゼは、ジョンに意見を求める。
「……で、これからどうするの? 何か策があるんでしょ? まさかホームシックになったから帰った、なんて言わないわよね?」
「策か……」
うーん、とジョンは腕を組んだ。その様子に、エリーゼは途端に不安な気持ちに襲われる。思わずジョンの腕を掴んで言う。
「……ホントに、八方塞がりなの?」
「いや、あるにはあるんだが……」
ジョンはそう言うと、おもむろに立ち上がり、部屋の中を見て歩いた。
今までの喧騒が嘘のように静まり返った室内は、妙な整然さを持っていた。
その点に違和感を抱いたジョンは、エリーゼに問う。
「……もう、誰も来てないのか?」
「そうなのよ。マジョリカの連中はともかく、モニカやレオンも来ないなんて、おかしいと思わない?」
「確かにそれは疑問だな……」
ジョンはそう漏らして、また黙り込む。
痺れを切らしたエリーゼは、立ち上がりジョンに言った。
「ジョン、何か策があるなら言って頂戴。どんなスマートでない作戦も聞いてあげるから」
そう、エリーゼは、真剣な表情でジョンに伝えた。
それを見たジョンは――
「……ププッ」
……と、急に吹き出し、そして笑った。
「な、なによ⁉」
エリーゼは目を白黒させた。
「いやァ、悪ィ悪ィ」ジョンは涙を拭って答える。「その高慢な態度とかスマートって決め台詞とか、やっぱりエリーゼはエリーゼだなって、そう思ってさ」
「……褒めてるの?」
「安心したんだよ」
ジョンはエリーゼの頭を撫でた。
彼女の絹のような髪の感触を味わったのち、僅かに表情を険しくして語る。
「あるんだよ、エリーゼ。生徒会に勝つための策が」
「ならさっさと言いなさいよ。貴方、回りくどいのは苦手と言っているくせに。じれったいことこの上ないわ」
「まあ待てよ」ジョンはエリーゼの勢いを制す。「そんなすぐに実行できるようなモノだったら、すぐに言ってるさ」
「今さら説明されなくったって、難しいことは百も承知よ。何が足りないの?」
「何もかもが足りなさすぎる」
――ジョンが唐突に放ったその言葉が、エリーゼの胸に刺さる。
エリーゼは唇を噛みしめた。ジョンに対してではない、この現状に対してだ。
――ジョンの言うとおりだ。今の無限の同好会には、現状を打破できる材料がまるで揃っていない。
ジョンは人差し指を挙げて、エリーゼに説明する。
「まず、『手段』について。学校の規則に則る『正攻法』を使うのが一番安全で手堅いが、現在、この無限の同好会には、『正攻法』で解散宣告を撤回する方法は無い」
「そうね……」エリーゼは唇を指でつまんだ。「なにせ、既に解散の契約は履行されてしまっているものね。ここから解散を取り下げるのは不可能に近い……」
「……でも」
ジョンはエリーゼの目を見る。
「……無くしたくないだろ? 無限の同好会を」
「勿論よ」エリーゼは即座に頷いた。「このまま、あの銀髪野郎に負けるなんて絶対に許せないわ」
「だから、この状況を打破するためのもう一つの手段を模索しなければならないんだが……」
そこでジョンは、不意に口を閉じ、不敵な笑みをエリーゼに向けた。
「エリーゼ、質問なんだが」
「……いいわ、やってやりましょう」
エリーゼはうんざりしたような表情だったが、ジョンの打開策に関する話の続きを聞きたいという欲望には勝てなかった。可愛いですね。
「最も根本的なところなんだが、『同好会の解散』は『何があって初めて成立』する?」
「……?」
エリーゼは、ジョンの言葉の真意が分からず首を傾げたが、逡巡の後、はたと気づいた。
「……えっと、もしかして……、『解散届』?」
「その通り」
ジョンは指をパチンと鳴らした。「なるほどね」とエリーゼはしたり顔になった。
……そして。
「……ちょっと待って」
ジョンの問題に正解した高揚感が不意に消え失せ、エリーゼは、たちまちに顔を青くした。
「打開策」の真相に、気づいてしまった。
ジョンが何を目指そうとしているのか、聡明なエリーゼは、ジョンが先ほどまで気にしていた事柄と、たったそれだけの問題で勘付き、……頬に汗を滴らせた。
『警告だけのつもりだったのに』
……いつか、ナターシャが言っていた言葉が蘇る。
途端に、エリーゼの心臓が激しく鼓動した。
――まさか、彼女はここまで見抜いていたのか?
――ジョンがこのような行動に出ることを、見透かしていたのか?
……あのとき、ナターシャは言っていた。
ジョンが自分に勝った、そのご褒美だと、そう言って。
『……このままだと、ジョンは退学することになるよ』
――あのときは、真意が掴めなかった、その言葉。
ナターシャの「未来予知」とすら言えるほどの先見性に背筋が凍ると共に、ジョンがこれからやろうとしていることに、肌が粟立った。
「……ジョン」
エリーゼは、不安げに彼の姿を見る。
彼は、……ジョンは、いつだって、自分のやることに前向きで、一切妥協せず、ひたすらに、愚直に戦ってきた。
その彼が出した、無限の同好会解散を撤回させるための奇策。
確かに、この作戦が成功すれば、規則上は解散を回避できるかもしれない。
――でも、こんなのって。
――こんなの、むちゃくちゃすぎる。
あまりにもむちゃくちゃで、ジョンの夢すらも踏みにじってしまい兼ねないほどの策。
その策を、果たしてエリーゼは認めてよいのか、エリーゼは戸惑った。
エリーゼは、ジョンが諦めない限り、ずっと付いていくと言った。
だが、――果たして、一人の友人として、この策を肯定してよいのだろうか。
「ねえ、ジョン」
エリーゼは心許なげに彼を見る。
――自分の言葉が、どれだけ響くか分からないけれど。
――それでも、その作戦だけは止めてほしい。
エリーゼにとって、既に、ジョンは掛け替えのない、大切な存在へとなっていたから。
大切だからこそ、無限の同好会を諦めてでも、彼を守りたいと、そう思った。
言おう、そう決意した。
その作戦を実行するのは止めよう。そう伝えようと思った。
後で誰に笑われようが蔑まれようが関係ない。ジョンは大義をなす男だ。
――私がずっと、ジョンの傍に居ればいい。
――彼に寄り添ってあげればいい。
「ジョン、その作戦――」
――と、エリーゼが、ジョンに告げようとした、その瞬間。
「逃げんなコラアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
「ゴンゾウさん、捕まえて!」
「もういやだアアアアアアアアアアアアアアア!!」
どんがらがっしゃーん、と部屋に突っ込んできた人物が、なんと6名。
その全てを、エリーゼは知っていた。
無限の同好会の会員と、マジョリカの会員だった。
タケシが先頭に立ち、部屋に飛び込んできたかと思ったら、駆け足でソファの後ろへと潜り込んでしまった。
「こらー、逃がさないぞー!」
「観念しろ、タケシ!」
まるで逃げ腰……というか実際逃げてたタケシを、マオとゴンゾウの二人が挟み撃ちで捕まえた。
「た、助けてくれええええええ!」
タケシは体をジタバタと動かし必死の抵抗をするが、ゴンゾウに両腕を抑えられ、ついに成す術なく撃沈した。
「なーにやってんだお前ら」
ジョンが呆れ気味に両者に問う。
マオは口を膨らませて言った。
「ねえねえ聞いてよー! 無限の同好会がこんなピンチだってのに、タケシってば逃げようとするんだよー!」
「んー、まあ……」
マオは加勢を求めるようにジョンに訴えるが、対するジョンの態度は消極的だった。マオは怪訝な顔で尋ねる。
「どうしたの? 元気ないね、ジョン。君らしくない」
「まあー、その……」
「だ、だって、な、何しでかすかわかんないじゃないかッ!」
タケシが涙目になって喚いた。マオは「いーからもー!」とタケシの頭を抑えるが、ジョンはマオの肩を叩き制した。
「まあまあ、マオ。そんくらいにしといてやれ」
「えー?」露骨に眉を寄せるマオ。「ほっといたら逃げるよ?」
マオは不満げにジョンを睨むが、ジョンはなんと……。
「いいさ、別に」
……と、あろうことかタケシの方に味方した。
「……え?」
と、マオは目をぱちくりさせた。マオの拘束が弱まった瞬間、タケシは咄嗟に脱走を試みるが、ゴンゾウがそれを押さえつけた。
ジョンの言葉に納得のいかないマオは、立ち上がり、ジョンを糾弾する。
「なにそれ、意味わかんない!」
マオは珍しく本気の怒りを見せていた。さきほどやっと追いついたメアリーも、ジョンに訊ねる。
「……ジョン、あんたいったい何を言ってるの? 頭でも打った?」
「ちげえよ」ジョンは首を振る。「冷やしたんだよ」
「……冷静になって、燃え尽きちゃったってわけ?」
「いや、むしろ炎はさらに燃えてる」
「じゃあ、なんで!」メアリーはジョンの両肩を掴む。「……なんで、そんな弱気なの?」
メアリーの悲しげな瞳にも、ジョンは冷静だった。
決してその表情を崩さず、機を伺っているようであった。
「ジョンさん……、いったい……?」
モニカは、まるで信じられないといった調子でジョンを見下ろしていた。
ジョンの様子が変だ、ということを、誰もが感じていた。
同好会内の空気が不穏になりつつあるのを、ジョンは感じた。
……本当はもう少し、皆が落ち着いてから話そうと思ったのだが、そんな悠長なことは言ってられなさそうだった。
観念したジョンは、唐突にではあるが、事情を説明する。
「……あのさ、この無限の同好会を生徒会の魔の手から奪還する――そう、解散を無かったことにする策を練ってきたんだよ」
「じゃあ、さっさとやればいいじゃない!」
メアリーは苛立たしげにジョンに訴えるが、メアリーの唾をひとしきり受けたのち、更に告げる。
「ああ、やるつもりさ」
……だが、とジョンは言う。
「……だいぶ、強引な方法なんだ。……社会の規範なんざクソくらえって感じの、文字通り『ゴリ押し』の方法」
――そう、ジョンの懸案事項はそこだった。
策自体はあるにはあるし、残された時間の関係上、すぐにでも実行したい気持ちは山々である。
……だが、ただでさえ人員が少ないうえに、その案は到底学校の規則からは逸脱したものであるため、安易に会員に「やろう」と言うこともできなかった。
――エリーゼが、ナターシャから聞いた、ある一つの危惧。
――ジョンはその可能性を、既に悟っていた。
「ゴリ押し……?」メアリーがジョンに訊ねる。「そんなヤバい案なの?」
「ほら見ろ!」タケシがジョンを糾弾する。「コイツ、やっぱりロクでもないこと考えてる!」
「そんなこと、あるはずないです!」
モニカがピシャリとタケシを叱った。タケシは「ヒッ」と短い悲鳴を上げた。
モニカはジョンを信じ切っているようで、真剣な表情を揺らさなかったが、その信頼が、かえってジョンの良心を痛めつけていた。
――仕方ない。
「……みんな、心して聞いてくれ。俺が講じている策を」
ジョンがそう言うと、皆は神妙な面持ちになり、息を潜めた。
ジョンは一つ息を吐き、それから、策の内容を語る。
――その策の内容は、あまりにも無謀なものだった。
「できる限りの人員を集め、生徒会室に押し入り、解散届を奪還する」
――その、ジョンの言葉を聞いた瞬間、同好会の会員の身体が固まった。
――いったい、何を言っているんだ? そんな驚愕の表情で満ち溢れていた。
会員たちの動揺を悟った瞬間、ジョンは僅かに後悔を感じた。
――やはり、言わなければよかったか。
ジョンは、解散届に自身の名前を書く際、こう言った。
『一度しか書かねえからな』
その言葉に対し、リクトは『ああ』と了承していた。
この合意があるだけで、「解散届が無くなれば、無限の同好会解散の約束は消える」ことになる。
……が。
負けた際のリスクが、あまりにも大きすぎる。
取り返しのつかない事態になってしまうかもしれない。
ジョンの同志だって、そのことには気づいているだろう。……だが、言ったが最後、彼らは無理にでも参加してしまう気がした。
その気持ちは有り難かったが、……しかし、こんな危険な作戦に、自分を信頼してくれた同志たちを巻き込むのは、気が引けた。
――下手をすれば、この学校を退学する羽目になってしまう。
その危惧が、ジョンの両肩に圧し掛かっていた。会員たちに申し訳ない、その気持ちでいっぱいだった。
……だが。
同志たちの反応は、ジョンの予想を超えていた。
「なんだ、そんなことなの?」
メアリーは、キョトンとした表情で、ジョンに言う。
「……えっ?」
……と、ジョンは、その反応に逆に驚いてしまった。
そんな馬鹿な、とジョンは周囲を見回したが、しかし、エリーゼを除いて、その作戦内容に異議を唱える者は居なかった。
――むしろ、逆だった。
まず口をへの字に曲げたのは、猫耳少女、マオだった。
「えー、ジョン、なんかヤバい作戦って言った割にはフツーだね?」
「いや、フツーじゃないだろ全然。学校の規則破ってんぞ」
続いて、メアリー筆頭に口々に拍子抜けの意を述べ始める。
「ハン! アレステッドの脱獄に協力したってのに今さらナニ言ってんだか!」
「いや、あの、そりゃあアレは止むに止まれなかったし……!」
「なーに言ってんスか兄貴! 止むに止まれぬのは今でも同じじゃないッスか!」
「レ、レオン……!」
「な、なんだよ、ジョン! や、ヤバい作戦って、お、おおお脅かすなよ……!」
「え、いや、十分ヤバくね?」
「何を言っているんだ、ジョン。お前がヤバいというくらいだから、てっきり生徒会長を暗殺したり、学校を爆破したりとか、そのレベルの悪行を考えていたぞ」
「俺ふだんどんな目で見られてんの⁉」
「どっちにしろ!」
モニカがジョンの目の前でパンと地を叩いた。自らの顔面をジョンと肉薄させ、嬉々として告げる。
「そんな程度の作戦で怯むほど、私たちはジョンさんに半端な想いを抱いてないです!」
「!……」
――あれ。どうしょう。
――目頭が、熱くなってきて――。
「私たちは、ジョンさんに全てを預けてるんですよ!」
モニカがジョンの両肩を掴み、全くもってキラキラと輝く瞳で見つめる。
「私たちは、ジョンさんに、――会長に、どこまでも従います!」
その言葉は、楽しげに踊っている。
「やってやりましょう! ジョンさん!」
「モニカ……!」
ジョンは、モニカの情熱に打たれ、ほのかに涙を流した。
その様子を見ていたエリーゼも、瞼に涙を浮かべていた。
「……泣いてるの、ジョン?」
「男泣きだ、バーロー!」
「エリーゼだって泣いてるじゃーん!」
顔を赤くするエリーゼを抱きしめるマオ。
ジョンは涙を拭い、「しかし……」ともう一つの危惧を口にする。
「……お前らの気持ちは本当に嬉しいが……、しかし、もう一つだけ問題がある」
「問題?」
メアリーはジョンに問うた。ジョンは部室を見渡してから答える。
「……この作戦を実行するには、相当数の『人員』が必要なんだ。……ここに居るのは、全員合わせてもわずか8名。
……これじゃあ、生徒会全員を相手どるだけの戦力は期待できねえ」
「生徒会には他にも『親衛隊』が居るからね……!」
エリーゼが冷静に情報を記憶から引き出す。
生徒会の戦力は、なにも役員のみに留まるものではない。
生徒会役員を護衛し、有事の際には戦闘員として駆けつける選りすぐりの戦士が、およそ150名前後も存在するのだ。
ただでさえ生徒会役員は脅威であるのに、そんな多勢と相手するだけの戦力は、今の無限の同好会には無い。
どれだけ会員が血気盛んであろうと、この絶望的な実力差はまず埋まらない。
それをどう打開していくか、最大の課題だった。
ジョンはいったいどうしたものかと腕を組んだが、対するメアリーとモニカは平然としていた。
「……なんだ、そんなこと?」
「……は?」
メアリーの頓狂な返答に、ジョンは怪訝な顔をする。
「そんなことって……、大問題だぞ、これ。どんだけ俺らが強かろうと、さすがに150名以上の戦闘員を同時に相手どることはできない。
戦争は数だからな」
「ふーん、つまり……」
メアリーはわざとらしく天井に目を向け思案する。
モニカもメアリーに倣い、それからジョンに問う。
「……言い換えれば、『数』さえあれば生徒会に太刀打ちできる……ということですよね?」
「まあ、そうだが……」
モニカの言葉にジョンは頷いた。それが居ないから問題なのだが……。
「そう、そういうこと……」
「だったら……」
メアリーとモニカは、苦笑交じりに互いを見遣った。
そして。告げる。
「……もう、解決したようなものだね、ジョン」
――そう、ジョンの後方から声が聞こえた。
「!……」
ジョンは慌てて後ろを振り向いた。
その先には。
「……お待たせ、ジョン」
アレックス・エッジワースを筆頭とする、100名近い集団が、ジョンの元に集っていた。
次回から更新頻度上げたい……です……_(:3」∠)_
 




