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「要らねえ口を挟むんじゃねえ!」

お久しぶりです。第一章が読みにくかったので加筆修正してたら遅くなりました。ご意見・ご感想お待ちしております。

「アンリミテッド・サークルを、解散する」


 ――突如として告げられた、解散宣告。


 その場にいた同好会員の中で、その言葉の意味をすぐに理解できた者はいなかった。

 それはあまりに唐突で、突飛ともいえるほど、無茶苦茶なものだったから。



 生徒会役員が、無限の同好会アンリミテッド・サークルのバーベキュー会場に来ていることを聞きつけたジョンとエリーゼは、すぐさま会場に戻った。

 そしてその後まもなく、生徒会長であるリクトに、そう告げられたのだった。

 同好会の会員たちが真っ先に覚えたのは、怒りの感情ではなく、「なぜ?」という疑問だった。


 だって、そうだろう。

 解散されるに当る理由が、どこにも見つからなかったのだから。


 会員たちは、不満の声を上げるよりも、むしろ動揺していた。

 いったい自分たちの行為の何が不味かったのか。

 焦りで周囲をキョロキョロと見回すが、誰も心当たりがないようだった。

 バーベキューを行っていた河原は、奇妙な静寂に包まれていた。

 お互いがお互いの顔を見遣るまま、話が進まない、といった状況だった。


 ――その静寂を打ち破る少女が、ひとり。


「あらあらリクトちゃん、何かご不満でも御座いまして?」


 リクトにそう物申したのは、エリーゼだった。

 元々、リクトの居丈高さが気に入らない彼女は、むしろ好都合とばかりに、リクトを煽る。


「いやはや、流石は天下の生徒会長。有無を言わさぬ解散宣告、恐れいったわ。そうまでして自慢の権力を振りかざしたいのね」

「……貴様の妄言に関しては後で追及しよう」


 リクトはエリーゼの相手をする気は無いようだった。

 エリーゼの皮肉が的外れだったのもあるだろうが、恐らく一番の理由は、単にウザかったからだろう。エリーゼの態度が。

 エリーゼはムスッとするが、そこをフォローしようとする人間は誰も居なかった。

 ジョンはエリーゼを押しのけ、代表者として前に出る。


「なにがあったんだよ、リック」


 ジョンは険しい目つきでリクトを睨む。その表情は真剣そのものだ。

 対するリクトは、普段の冷徹な態度を崩さない。


「貴様らの蛮行にはほとほとウンザリさせられる」


 リクトは肩を竦めた。それから告げる。


「生徒会の申請が受理され、晴れて貴様の同好会は解散する運びとなったのだが、……理由は大きくわけて二つある」

「二つぅ?」


 ジョンは露骨に顔を曇らせた。

 その理由が単なる当てつけであったら承知しないぞ、という気構えだ。


「まずひとつ。……スズカ」

「はい」


 スズカと呼ばれた少女は一礼し、ジョンの前へと歩み出た。


「お初にお目にかかります。スズカ・ハツシロです」


 やや緊張気味にジョンに告げた。

 ジョンはその少女を、入学式の時点で一度目にしていたが、正式に面と向かうのはこれが初めてだ。

 この少女にはいろいろと世話になった記憶がある。

 初めて会うのがこんな場面でなければ、もう少し感謝の言葉を述べていたところだ。

 ジョンは頭を掻きながら言う。


「……アムスティアの一件では世話になったな」


 その言葉に、スズカは複雑そうな表情を浮かべた。

 果たして、これから解散させる同好会の代表者の礼を受けてもよいのだろうか、と。

 どう反応していいか分からなくなったスズカは。


「……私は、自分の責務を果たしただけです」


 それだけ言って、両手に携えていた何枚綴りかのプリントを見て、ジョンに説明する。


無限の同好会アンリミテッド・サークルを解散せざるを得ない、二つの大きな理由のうちの一つですが……。

 ……ジョンさん、ときに質問なんですが」


 なんだ? とジョンはわずかに首を捻った。

 スズカは、こういった追責は慣れていないようで、発言も途切れ途切れだった。


「ジョンさんの、その……無限の同好会アンリミテッド・サークルって、急激に人が増えたじゃないですか」

「そうだな」ジョンは頷く。「動機はあるぜ?」


 ジョンは先手を打つが、スズカの表情は硬いままで、……むしろ、その点が問題のようだった。


「その動機が、本当に、本音であるのだと、……その確証はありますか?」

「……どういうことだ?」


 スズカの追及に、ジョンの心臓が俄かに脈打つ。


 ――まさか、そこを突いてくるのか。

 ――時間をかけて解決しようと思っていたのに。


「端的に言います」


 スズカはジョンの両目を見据えた。

 ナターシャにも言われた問題点。彼らは更に、――そう、相手を陥れるための論理展開を構築していた。


「あなたのサークルは、不良な生徒の溜まり場となりつつある」


「……」


 その、スズカの言葉に。

 ジョンは、即座の反論を躊躇ためらった。

 一概に反論できるものではなかったから。


「私の言っていることが分かりますか」

「……理解はできる」


 ジョンはそう、言葉を濁す。

 いかにも彼らしくないやり方だった。


「……だが」


 ジョンは必死に頭を回転させ、外堀を埋めるように慎重に反論する。


「ナターシャにも言ったことだが、それはあくまで危惧でしかない。それでサークルを解散させるなんて、アイツはガラが悪そうだから何か犯罪を起こす前に逮捕しようって言っているのと同じだぜ?」


 ジョンの反論にスズカは残念そうな顔をした。


「……分かって頂けていないようですね」

「分かってるよ」


 ……そう。ジョンは分かっていた。

 この状況が、あまり好ましいものではない、ということくらい。


 ――ただ、詳細を語ることが憚られた、というだけで。


 ジョンは、伏し目がちに語る。


「俺のサークルに入会してきた奴らのほとんどが、リクトに部活か同好会を潰された奴らだってことくらい、分かってる」


 ……そう、ジョンが告げた瞬間。

 バーベキュー会場に居た者たちの間に、緊張が走った。

 まるで、それは言わない約束だろ、とでも言いたげな雰囲気。


「けどさ」


 と、ジョンは区切る。

 彼はあくまで持論を崩さない方針だった。


「……いや、だからこそ、言いたいんだ。さっき『理解はできる』って言っただろ? その通りなんだよ。登山大会以後に入会してきた奴らが、居場所を無くし、この同好会サークルに流れ着いた連中だってことくらい、分かってるんだよ」

「……それなら」スズカは悲しげに問う。「なぜ、あなたは……」

「だから! 俺は!」


 ジョンは一喝するように叫ぶ。

 激しい情熱と気勢をもって。


「そんな奴らを変えようと思って、受け入れたんだ!」


 ジョンは自身の胸を親指で指す。


「ああ、そうさ、生徒会おまえらの言うとおりだよ。今日この同好会サークルに入会してきた奴らのどれだけが、世界を変えるという気持ちを持ってるかなんて分からねえ。ひょっとしたらゼロかもしれねえ。

 だからなんだってんだ!

 そいつらの志を引っ張ってこそ、無限の同好会アンリミテッド・サークルの会長だろ! 魂を震えさせ、命を燃やすのが、非力な俺の役目だろ!」


 ジョンはさらに、生徒会を指さして言う。


「それのどこに、学校の意に反する意向がある⁉ 俺は最初からこの同好会は、『世界を変える』という方向性を掲げてきた! そこから逸脱したことなんて全然やってねえよ! そして生徒会おまえらはそれを認めた! だったらもう、要らねえ口を挟むんじゃねえ!」


 そして、極めつけに。


「この同好会が暴動を起こす? 起こしたらなんなんだよ! 『危ないので止めてください』とでも言う気かァ⁉ 小心者め!

 こんな同好会の暴動すら鎮められないような輩が、生徒会なんて偉そうなクチ聞いてんじゃねえよッ!」

「いい加減にしてください!」


 スズカがピシャリと遮った。ジョンの反論が我慢ならなかったようで、柄にもなく大声で発言を制した。

 スズカの凄味をきかせた叫声。

 河原にいた者たちはビクッと竦みあがったが、それを至近距離から受けているジョンは冷静だった。

 むしろ、楽しそうですらあった。


「いい顔してんじゃねえか、スズカ」


 そう、挑発ともとれる言動をとるジョン。

 スズカの表情は憤激に満ちていた。

 彼女は自身の激昂を抑えるように歯を食いしばっていたが、それも限界が近づいているようだ。


「……ジョンさん、あなたは……!」


 スズカはジョンを非難しようと言葉を探ったが。


「もういいだろう、スズカ」


 その肩を叩き、制する男がいた。生徒会長のリクトだった。


「……リクトさん」


 スズカは横目で、背後に立つリクトの顔を一瞥した。

 それからスズカは、「……失礼しました」と一礼し、その場から下がった。

 ジョンとリクトが再び対面する。リクトは相変わらずの冷徹な瞳で、ジョンを蔑視していた。

 その双眸にあからさまに顔をしかめるジョン。

 ジョンはのっけから軽口で先制する。


「テメェはいつも辛気臭いツラしてやんがなァ、リック? 彼女スズカを見習えよ」

「どうやら性根の腐った人間は、実直な学生の真剣な気持ちを不気味に感じてしまうらしいな? そこまで捻くれた人生を送っていたのか。可愛そうに」

「お前は皮肉しか言えないのか」

「貴様こそ悪口しか言えんようだな」

「ダメだこれ、話が進まない……」


 エリーゼが額を抑えた。

 このまま放置すると、延々と罵り合いを続けそうだ。


「リクト、ひょっとしてはしゃいでる?」


 ナターシャが妙に辛辣な毒を吐いた

 。おそらくリクトと正攻法で相手ができる唯一の少女だろう。

 カナエは……、ほら、裏ワザみたいなもんだし。


「……で」ジョンはリクトに問う。「この同好会が解散しなければならない、もう一つの理由って、なんだ?」

「他でもない。貴様らにも心当たりがあるはずだが?」

「心当たりねぇ……」


 ジョンは考える。正直なところ、ナターシャに指摘された部分以外で、この同好会が抱えている不良なんて、そうそう思いつかなかった。

 せいぜい問題児が多数いるところだろう。エリーゼとかメアリーとか。


「あ、分かった」メアリーが指を鳴らした。「ジョンが会長ってとこが問題なんでしょ?」

「え、なにそれ、俺そんな問題児?」

「つまり私が会長になればそれで万事解決でしょ?」

「ぜんぜん論理が繋がってないんですがそれは」

「分かっているじゃないか」

「マジでそこなの⁉」


 思いもかけぬリクトの是認に本気でビックリしたジョンだった。

 やった、これで解決ですね!


「……だが、残念だな、メアリー。それでは根本的な解決にはならんのだ」

「そもそも根本的に間違ってるしね」

「えーまじー? せっかく会長の座をブン獲れると思ったのにー」

「おい、いま本音が出たぞ」


 ジョンは渋い表情でメアリーを睨んだ。

 コイツ、隙あらば主導権を握ろうとする……!


「ジョン、貴様は本当に心当たりがないのか? なによりの当事者なのだが」


 リクトにそう問われるも、ジョンは頭を掻くだけだった。

 仕方ない、とリクトは嘆息し、それから告げた。


「覚えていないというのなら仕方ない。私の方から言ってやる」


 リクトは鋭い視線でジョンを射抜いた。

 それから、言う。


 ――言い逃れのできないほどの、決定的な理由を。


「貴様は、アレステッドを脱獄させたな」


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