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「こんな、簡単なことだったんだ」

 リクトは、スノウティアの僻地にある、罪人の中でも特に罪の重い犯罪者を収監する刑務所、「ブラックウィング」へと赴いていた。目的はアレステッドである。

 アレステッド・ブロウ。つい1週間ほど前まで、このオキト区を一つ跨いだ隣にある地域、「フロントブリッジ」を拠点として、強奪・殺戮などの言うに堪えない悪事を繰り返していた空賊の一味の団長である。

 現在、クロフォードで生徒として学業に励んでいるモニカ・エイデシュテットも、このアレステッドという男に両親を殺されている。

 その事実を認識する度に、歯がゆい思いが全身を駆け巡る。


 ……もっと、自分に力があれば、あるいは。

 彼女を救えたかもしれないのに。


 今さら後悔しても仕方がない。それは事実として、厳然とリクトの前に立ちはだかる。悔いても悔いきれないが、その場に立ち止ることも、リクトは許さなかった。

 罪人の忌々しい臭気が混沌と立ち込める廊下を歩く。人けを察した罪人たちが、釈放を求め、あるいは格子を叩いたり、あるいはすすり泣いたりと、様々なアプローチを行ったが、それがリクトだと気付くやいなや、途端に牢の奥へと萎縮してしまった。


 ――まったく、腐れ外道どもめが。

 ――牢から抜けたくば、まずは私を倒す度胸を鍛えろ。


 ……結局は、自己の正当性を主張するでもなく、罪に対して償いの意識を感じているわけでもなく、ただ、媚び諂い、自由の身となりたい、ただそれだけなのだ。

 そのような下賤な輩に、リクトは手を差し伸べることも、温かい言葉をかけることもなかった。

 むしろ、唾を吐きたい衝動にすら駆られた。

 無論、そのような下品な行為はリクトのプライドが許さなかったが。


「せいぜい泣きわめいていろ。その格子を打ち破れ。私が八つ裂きにしてやろう」


 ダン! とリクトは床を足で強く叩いた。軽い威嚇のつもりだったが、罪人たちには効果覿面(てきめん)のようだった。ひい、という悲鳴が相次いで鉄の廊下を反響した。

 フン、と侮蔑の思いを込めて、鼻を鳴らす。リクトは冷徹な瞳で牢獄を一瞥した。

 そして、いくらか歩いたところで、リクトは足を止めた。リクトの進行方向の左手。アレステッド・ブロウが禁錮されている牢獄があった。

 リクトは2枚の鉄格子越しに、アレステッドに呼びかけた。


「気分はどうだ、アレステッド?」


 アレステッドは、リクトの存在に気づき、うっすらと笑っている。


「最高の気分だ。こんな日はピクニックにでも出かけたいね」

「そうか。ならば針の山へと招待しよう」


 ケッ、とアレステッドは唾を吐いた。当然、リクトには届かない。

 リクトは苛立ちを募らせつつも、それを抑え、アレステッドに問うた。


霧の女王(ホワイトアウト)という魔術を、知っているか?」


 アレステッドは、一瞬、鋭い眼でリクトを睨んだが、それも束の間のできごとだった。


「ああ、知ってるとも。俺が発明した魔術だ。それがどうした?」

「……マジョリカが、その魔術を使用した。なんでも、メアリーはお前の元娘みたいじゃないか。驚いたぞ」

「まったくだな。アイツが霧の女王(ホワイトアウト)を発動したのか?」

「その通りだ」リクトは頷く。「お前が先導したのか?」

「冗談は止せ。俺はこの通り、鎖に繋がれた身だ。どうしてメアリーに助力できる?」

「そう……なのだが……」


 リクトは、顎に指を当てた。視線を下方に下げる。……と、ふと、リクトは、気になるものを見つけた。


 ――そして、それが、後に大事件を引き起こすきっかけとなるのであった。


「……なんだ、これは……。


 ――この鍵、外れた形跡があるな」


「……」


 アレステッドは、リクトを睨んだ。以前から秀才だと聞いていたが、まさかそんな些細な点まで観察しているとは。まったく、恐ろしい子供だ、とアレステッドは嘆息した。

 ――俺の娘とは大違いだ、と、微かに笑った。

 一方、リクトは、この鍵の微細な変化の原因を、必死で頭の中で模索した。


 ……リクトの疑問が、一気に膨れ上がった。








 前略。

 マジョリカは解散になりました。



「……と、ゆーわけで」

「いや、なにが『と、ゆーわけで』なの?」

「私たち4人は、この同好会へ入会することに決めましたー! いえー!」

「いえー! じゃねえよ!!」



 説明しよう!

 霧の女王(ホワイトアウト)騒動がひと段落した後、その事件の張本人である魔術同好会、「マジョリカ」は、大会を中止に追い込んだ責任をひたすら追及されたのだ!

 そりゃあもうとんでもない大目玉を食らったのだ!

 どれくらい叱られたかというと、タケシは涙目になり、マオはひたすら肩をがくがくと震わせ、ゴンゾウは言葉を失い、頼みの綱のメアリーも平謝りするばかりで、なす術を喪失した!

 結果、マジョリカはしめやかに強制解散! 路頭に迷うマジョリカメンバー! そこでメアリーが思いついた、マジョリカの明暗を分ける素晴らしき名案!


「アンリミテッド・サークルに入ればいいんじゃね?」


 この一言により、見事マジョリカメンバーは活動の場を獲得! ジョンたちは会員という名の戦力を所有! ギブアンドテイクの大団円! やったねメアリーちゃん! また魔術の研究が再開できるよ!

 ちなみにマジョリカメンバーはおまけで一週間の謹慎処分になりました。仕方ないね。そりゃね、大会ぶっ潰しちゃったもんね。

 だが、マジョリカメンバーの野望が潰えることは無かった! 目指すは魔術の地位の復興! 栄えある魔術の未来を勃興! 並みいる敵ども軒並み圧倒! 魔術を習いに来る者殺到! これで万事解決DA☆


「というわけで今後ともよろしくお願いします」


 メアリーは丁寧に頭を下げた。


「あーはい、もういいです分かりました、好きにしてください」


 半ばヤケクソ気味に入会を許可するジョン。メアリーの霧の女王(ホワイトアウト)を停止させる際に、うっかり『今度はもっとデカい魔術を作ろうZE☆』と言ってしまった手前、「いや、ウチの同好会サークルに入らないでください」とは言えないジョンだった。「なんかあんたら色々面倒なんで。そういうのエリーゼで間に合ってるんで」なんてなおさら言えるわけがない。


「ねえ、ジョン、貴方いま失礼なこと考えなかった?」

「失礼の定義が曖昧だ。そんな質問受け付けん」

「小癪な真似を……!」

「エリーゼも割とあんな感じな気がするッスけどね」

「とにかく!」


 ジョンは両手をパンと叩いた。


「世界を変える気概がある奴なら大歓迎だ。お前らにその気はあるか?」

「もちろんに決まってるじゃない」威勢よくメアリーは頷いた。「この魔術が認められないクソッタレな世界を変えて、魔術が、魔法、魔導と同じくらい尊重される世界に変える。そのために私は闘うわ」

「いよっし、決まりだな」


 ジョンはメアリーの手を取り、握手した。メアリーも強くその温かい手を握り返す。


「アンリミテッド・サークルへようこそ。これからもよろしくな」

「こちらこそ、頼りにしてるわよ、会長さん」


 そう言って、メアリーはジョンにウインクをした。彼女は、色目を使っているのかと思うくらいウインクが上手だった。


「さあて、新入会員が一気に四人も集まったことだし、いっちょ皆で出かけるか!」

「どこへ?」


 エリーゼが問う。ジョンは窓の外を指さした。


「登山大会が中止になっちまったからな、ここらで皆で、ハイキングに行こうと思ってな。気持ちいいだろうぜ?」

「でも、もう夕方よ? 明日にするの?」

「いや」


 とジョンは首を振り、それから点を指さし、こう言った。


「星を見に行こう」



「アレガ・デネブ・アルタイル・ベガ……」

「……ねえ、なんでしれっと星座をねつ造するの?」


タケシが、空に浮かぶ星々を指さしてメアリーに説明するが、明らかに星座でないものが含まれていた。

 その横では、マオとモニカ、それにゴンゾウが、バーベキューの準備をしていた。


「わー、なにこれー! でっかい肉ー!」

「本当におっきいですねえ……」

「このままでは食えないな、スライスしなければ……」

「うえー、なにこの肉、明らかに量だけ考えました的な感じの……」

「いいんですよ、バーベキューなんですから。……というかマオさん、なぜ焼く前に食べるのですか? 食中毒にかかりますよ?」

「うえー! もうダメだー!」

「いいからお前は焼くのに専念しなさい。大丈夫、丁重に弔ってやるから」

「死ぬ前提だー!?」


 三人はギャーギャーと騒いでいた。メアリーはせっかくのロマンチックな雰囲気を台無しにされたことから、多少の不機嫌さを覚えたが、腹の虫が鳴ったため、ひとまずは休戦することに決めた。


「おーい。ジュース買ってきたぞー!」

「サンキューレオンくーん! オレンジジュースあるー?」

「ありがとね、レオン。買い物頼まれてくれて……。……ところで、コーラ多くない?」


 メアリーの問いにレオンが答える。


「兄貴がコーラ好きなんだよ。何本飲んでもいいように」

「なんでアイツ太らないのかしら……。結構バクバク飲み食いしてるのに……」

「そうですよね……。なんで太らないんでしょうね……。羨ましい」

「ちょっと、モニカ、『羨ましい』の迫真さが凄いわよ?」

「あーなにこれ、マタタビじゃーん! 私の好み分かってるぅー!」

「いえ、あの、その、えっと、ほら、あはは……。最近甘いもの控えてるんですけどね……。なかなか体重が減らなくて……」

「その割にはお腹膨らんでる感じもないけどね……。……ねえ、ちょっと待って、もしかしてそれ、胸に脂肪がいってるってオチじゃ……?」

「そういやモニカの胸、微妙に大きくなってる気がするな」

「メアリーさん、レオンさん、恨みますよ……?」

「恨みたいのはむしろこっちなんだけど、モニカ」


 メアリーが顔を暗くしてモニカに凄んだ。

 その隣では、タケシに抱き付くマオの姿があった。タケシは顔を赤くしてその拘束に振り回されていた。


「ま、ままっままままマオ!? な、ななななにやって……!?」

「えー、なーにタケシー、赤くなっちゃってー!」

「おおおおお前も赤くなってんだろ!? いったい、なななななにやって……、お、おま、おま、ひょっとしてマタタビ呑んだな!? あれほどダメだって言ったのに!!」

「えー、タケシのけちんぼー、いーじゃんさー!」

「うわああああああ! だだだだめ! だめだめだめ! そ、そそそそれ以上体を押し付けるな! かかかか顔を近づけるな! ぼぼぼ僕の、え、えええええエクスカリバーが……、あ、ああああ! あああああ! ユニバアアアアアアアアアアアアアアアアアアス!!」


 タケシがなんか果てた。なにがどうなったかはお察し下さい。


「あれ、そういえばジョンとエリーゼは?」


 メアリーが、周囲を見渡して、二人の不在に気付く。この山に登るまでは一緒にいたので、まさかはぐれたというわけではあるまい。


「そういえば居ねえな。どこ行ったんだろ?」


 レオンも首を傾げた。果たして、二人はどこに消えたのだろうか。



「あー……終わったなあ……」


 ジョンが星を見ながら呟く。いちいちの星座の名前は分からない。


「そうね……、中止という一番モヤモヤとする形だったけど」


 エリーゼも、星を見ながら呟く。エリーゼは星座の名前が分かったが、敢えて口にすることもなかった。

 ジョンとエリーゼは、バーベキューの喧騒から少し離れた木の下で、二人、共に同じ木に背中を預けていた。ジョンとエリーゼの肩が互いに密着する距離で、二人は事件の顛末を振り返っていた。

 ジョンは、あくまで空を見上げたまま、エリーゼに言った。


「……ありがとな、エリーゼ」

「なにが?」


 エリーゼは首を傾げる。エリーゼの耳の当たりがジョンの肩に接した。


「ほら、お前、俺がマオ相手に苦戦してたとき、助けに来てくれて、しかも先に行ってくれって、そう言ってくれたじゃん。正直、凄い助かった。そのお礼を言いたくてさ」

「……」


 エリーゼは、頬をほんのり赤く染めながらも、あくまでいつもと同じ態度を崩さず答えた。


「あれは私が勝手にやったことよ。褒められても困るわ。マオに話すことがあったから代わった。ただ、それだけよ」

「そうかい」


 ジョンは、それ以上、何も言わず、名も分からぬ星を眺める行為に耽った。沈黙を耐えかねたのか、あるいは純粋な疑問か、エリーゼはジョンに問うた。


「なぜ、今さらそんなことを?」


 ジョンは「んー」と唸ったあと、照れくさそうに答えた。


「お前ってさ、主役とか張りたいタイプだろ? そんなお前がさ、あんな風に足止め役を買って出たことが、すっげー意外で、驚いて、……ありがたかったんだ。別に、その行為に対して、俺が何をするわけでもないけどさ、やっぱり、感謝の気持ちは伝えねーと、……労ってやんねーと、俺としても、なんかモヤモヤするんだ。だから、さ、エリーゼ、その……。

 ありがとう」


 ……そこまで言ってジョンは、「なに恥ずかしいことさせやがる」とばかりに頬を掻いた。

 その様子にエリーゼは、ジョンの肩に首を預けながらも、クスッと笑った。


「なにがおかしいんだよ」

「いえ、貴方がそんなことを言う人には思えなかったから」

「悪いか」

「とっても素敵よ」

「……」


 突然エリーゼに、率直に褒められたジョン。なんだか体中がムズムズした。

 普段、エリーゼが人を褒めるときといったら、9割9分9厘が皮肉を言うときだ。素直に褒められるのは気恥ずかしく、慣れそうにもなかった。

 エリーゼの1厘の気持ちだ。

 百分率にして0.1%の称賛。

 滅多になくて、しかも突然、それはやってくる。

 だから、ジョンはそのときくらいは、自分の赤面してしまう気恥ずかしさも、仕方ないと諦めた。


「……でも」


 エリーゼは目を伏せて言う。


「……ちょっと、疲れちゃった」


 ……そう、言うやいなや、エリーゼは、ジョンの肩から顔を離し、そして。


 ――ジョンの膝に、その身を寝かせた。


 形としては、ジョンがエリーゼに膝枕をしている格好だ。

 さすがのジョンも、エリーゼのその大胆な行動に面喰ってしまった。

 エリーゼは小悪魔的な笑みを浮かべる。ジョンの狼狽ぶりをそこはかとなく楽しんでいた。ジョンはバツが悪くなった。自分の膝元で寝るエリーゼの姿を眺める。

 エリーゼの、白いブラウスと黒いカーディガン、それに真紅のリボン。白いフリルの付いたモノクロのスカート。黒いストッキングに、そこからわずかに見える太もも。エリーゼの真珠のような肌、桜色の唇、絹のような黒髪。

 そして、そんな可憐な容姿の中に内包される、悪意と悪徳と悪逆の権化。

 まったく、とんだ問題児だとジョンは思った。

 黙ってれば美しいのに、とジョンは思ったが、同時に、そんなものはエリーゼではないとも思った。

 黒髪と同じくらい真っ暗な胸の内も、全部を含めてエリーゼなのだ。

 やっぱり、彼女らしいと、ジョンは思った。

 エリーゼは、ジョンの態度に不満を持つ。


「なに、貴方ホモなの? こんな美少女が体を無防備に預けているのに性的興奮を感じないわけ?」

「わりいな、俺は貧乳には興味ねえんだ」

「それどころか、女にすら興味がないんじゃないの?」

「んなわけねえだろ」


 ジョンはエリーゼのホモ認定を笑い飛ばした。同性愛を否定するつもりは無いが、ジョンはその気が無いという立場を明確にする。


「……まあ、なんだ。でも、さ、これだけは思うよ。


 やっぱりお前は可愛いってさ。


 可愛げはないけど」

「……」


 エリーゼは、爆弾のように急に炸裂したその賛辞に、顔を真っ赤にした。


「……馬鹿」


 それだけ言って、エリーゼは目を伏せてしまった。


「……もう少し、このままで、いい?」


 エリーゼが控えめに尋ねる。「ああ」とジョンは頷いた。

 風の囁きが、ジョンたちの間を駆け抜けた。4月が終わり、季節は5月を迎えようとしている。

 まったく、入学1か月で大変な目に遭ったものだ。来月はいったいどんな事件が起こるのやら。

 ……もっとも。

 それを巻き起こしているのは、ジョン自身であったが。


「……!」


 ジョンは、ふと、空がパッと輝くのを感じた。

 ドン、という衝撃を以て弾ける炎の花。キラキラと舞い落ちる一瞬の輝き。

 花火が、次々とジョンたちの目の前で上がっていた。

 しかもそれらは、単なる花火ではなく、明らかに魔法で構築したような七色の火花が、大量に煌めいていた。

 メアリーの魔術だ、と、ジョンはすぐさま検討をつけた。



「わあ! すごいすごーい!」


 遠方から打ち上げられる数々の魔法の花火に、バーベキューに来ていた面々は、一様に興奮した。


「あ、あれ見てください! 魔法使いを模した花火が……、また花火を打ち上げて……!?」

「へえ、やるじゃん、メアリー。魔術ってこんなこともできるのか。てっきり人を困らせるだけかと思った」

「なに言ってんのよ、レオン。これが魔術の凄さなのよ。複雑な魔術式さえ乗り越えれば、だれだってこんなことができちゃうんだから!」

「すげえなあ、魔術! 俺も時間があったら勉強してみてえなあ」


 レオンは、魔術の凄さに、素直に感嘆していた。

 他の面々、マジョリカのメンバーでさえも、メアリーの魔術に瞳を輝かせた。

 ゴンゾウも感心して語る。


「花火から更に花火を打ち上げるなど、実際の花火ではできないからな。あの花火なんて見事だな、まるで踊り子が舞っているようじゃないか」

「さ、さささ、さすが、メアリーの魔術は、すすす凄いね!」

「わっほー! にゃふふー! たーまやー! かーぎやー!」

「本当に、綺麗で、素敵です……! メアリーさん、本当に煌びやかで、荘厳で……言葉にできません!」

「……」


 メアリーは、皆が感嘆して花火に夢中になる姿を、茫然と眺めていた。

 そこに、メアリーの必死に追い求めた光景が、あったから。

 メアリーの間近で、願い続けた情景が、広がっていたから。

 気づけば、メアリーは。


 頬に、一筋の涙を流した。


 一度、落涙に気づいてからは、どうしようもなかった。メアリーの両目から、とめどなく涙が落ちてくる。メアリーは、それを拭うことすらしなかった。


「そっか……、そうだったんだ……」


 メアリーは、鼻水をすすり、感極まって、涙に濡れる顔のまま、本音を呟いた。


「――こんな、簡単なことだったんだ」






……と、いうわけで、第二章・完! です!

実を言うと、第32話にあたる「魔術を馬鹿にしている者どもへ」を書いた時点では、見切り発車に近い状態でした。メアリーが霧の女王(ホワイトアウト)を発動するところまでいいとして、そこからどう解決へと導いていけばいいのかと悩んでおりました。途中のアイデアでは、霧の女王(ホワイトアウト)に対抗してエリーゼが闇黒をも呑みこむ漆黒(ブラックアウト)を発動し、怪獣映画のように二つの魔術が衝突するみたいな展開も考えたのですが、紆余曲折あって現在の形に落ち着きました。本当に計画性無いですね!

メアリーが霧の女王(ホワイトアウト)の魔方陣を次々と破り捨てるというラストシーンを思いついてからは、執筆が順調に進んだのですが、そこにたどり着くまでの過程をもっとドラマチックにできないかと更なる道を模索していた私にインスピレーションを与えてくれたのが、某動画サイトに投稿されていたとある動画でした。そこで見た、あるシーンがきっかけで、一気に霧の女王(ホワイトアウト)の仕掛けや、そこからラストへと繋ぐ為の展開が頭に湧き上がってきたのでした。本当に節操無しですね!

と、いうわけで、今回でWhiteout編は完結です。次回、第三章は、自分がこの作品で伝えたかったテーマが明確に示される話となります。まだ具体的な構成は決まっておりませんが、ざっくばらんに言うと、


学校戦争!


みたいな感じになると思います。おっかないですね!

ここまで読んで下さった方々、どうもありがとうございました!

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