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「最初に誘ったのは誰かしらん?」

「もしもし、リクト? ナターシャだよ」


 ナターシャは、リクトと通信を繋いだ。ナターシャはメニュー画面から設定を操作し、会話の内容がジョンたちにも聞こえるように設定した。

 ジョンたちの耳にリクトの声が届く。


『ナターシャか。お疲れ。現状は?』

「おーい、リクトちゃーん、聞こえてるー?」

『ん? ……ナターシャ、雑音が混じっているぞ。もう少し静かな場所で通信を頼みたい』

「リクトのうんこたれー」

『退学にするぞ貴様』

「やっぱり聞こえてるじゃないか(憤怒)」

「コントやってる場合か」


 ジョンとリクトの下らない会話にエリーゼが苛立ちの声を上げた。仕方ないといえば仕方ない。

 ナターシャは、いつものことだとばかりにスルーし、リクトに現状を告げた。


「いま、アンリミテッド・サークルの人たちと一緒に居る」ナターシャは周囲を見回す。「……ここは……どこだろう。私の現在地は分かるよね。特に何か目印になる物も無いし、それ以外は取り立てて報告することもないかな」

「あるでしょ」エリーゼが口を挟んだ。「いまさっきまで戦っていた龍のこと」

「……あ、そうだった」


 ナターシャは素で忘れていたらしく、ポンと手を打った。こんなにも鋭い目つきをしているようで、意外と抜けているようだ。


『龍、か……』


 通信越しに、リクトの息をつく音が聞こえた。ナターシャは問う。


「何か知っているの、リクト?」

『ああ』リクトは頷いたようだった。『タクミや、他の監視員からも連絡が入った。なにやら氷で造られた龍が何匹も蔓延っていると。大会に参加している選手を見境なく襲っているらしい』


「出所はどこか聞いているか?」ジョンがリクトに問うた。「俺たちのところに襲ってきただけでも6匹なんて大群だった。それが色んなところで目撃情報が上がるってんだから、既にフィールド内に大量にいることは想像に難くない。

 ――んだが、どっかから群れをなして来てるんだったら、この大会が始まる前にニュースとして流れるはずだろ。しかし大会が開催されてもなお、そんなアナウンスも流れてこない。

 ……全身が氷でできていることといい、このフィールド上か、もしくはその近辺で生成されてる可能性が高い」

『いい着眼点だな、ジョン』

「なにお前その上から目線のコメント」


『貴様の推測はおそらく当たっている。

 ……一つ、興味深い情報を教えてやろう。そちらは今、真冬のアポリアかと思うくらいの豪雪に見舞われているそうだな』

「そうね、お蔭で10メートル先も見えない」

 エリーゼが答えた。

「魔法の閃光や龍の光る目なんかは多少捕捉できるけど、地形なんかはまったく判別できないわ。戦いにくいったらありゃしない」

「ホントだぜ。こんなんじゃ大会にならない。今の選手たちは、雪の中でわずかに見える光や、魔力の流れなんかを感じ取って戦っている状態だろうな。現に俺たちがそうだ」

『なるほどな。やはり苦戦しているのか。……だが、貴様らの居る地点は、まだ雪が薄い方らしいぞ』


「もっと濃い部分があるのか?」

『複数の監視員からの情報をまとめると、どうやら、このフィールドの中心部分がもっとも雪が濃く、そこから遠くなるにしたがって、雪が薄くなっているらしい』

「……つまり、フィールドの中心が震源地になっている、ということか?」

『それも仮定としてはだいぶ期待がもてるだろう』

「えっと、それってつまり、フィールドの中心部分から、こう……スプリンクラーみたいに、雪がドバーって出てる……という感じでしょうか?」

『……そうだな。その可能性は高い』


 モニカの言葉に返事をするリクトの声音は、いつもより低い気がする、とジョンは思った。

 二人の間に何かあったのだろうか。


「龍が生成されているのも、その中心かもね」


 エリーゼは、事件の全貌が次第に明らかになっていく感覚に、思わず笑みを零した。このまま自分たちの手で、解決に導きたいという競争心も芽生え始めた。


「……エリーゼ、言っとくが俺たちの目的は、あくまでこの大会に優勝することだからな。今のままじゃ試合になんねえから、原因を探っているだけで」

「わ、分かってるわよ!」

「キレんなって」


 少し注意をしただけなのにすぐ噛みつくエリーゼに、ジョンはいつものことながら顔をしかめた。

 エリーゼはため息を吐いて言った。


「もう、ジョンったら……。私を見くびらないでほしいわ。こんな事件の解決に躍起になるほど、私は子供じゃないわよ。こういうのは、しかるべき人間、しかるべき監視員に任せておけばいいのよ。野蛮なのはむしろ貴方の方じゃない」

「いつも最初に襲ってくるのはお前だけどな」

「最初に誘ったのは誰かしらん?」


 ジョンとエリーゼの言い合いに、リクトはこれ見よがしにため息を吐いた。


『下らん痴情は部室で行っていただこうか』

「だからなんであんたらいつもそう勘違いすんのよ! ちょっと男と仲いいからって!」

「「「「「え、仲良いの?」」」」」


 全員が一様に同じ反応をした。

 エリーゼはつい口走ってしまった言葉にハッとし、真っ赤になって慌てふためく。


「ねえ待って! 待ってみんな何その白い目は!」

「イヤー、兄貴も隅に置けないッスねー」

「おいこらレオン! お前がこのサークルに入ったのつい最近だろ!」

「はわわ、エリーゼさん、その、お、おめでたです!」

「せめておめでとうって言って! もっといたたまれないから!」

「……そうなんだ、エリーゼ、ジョンとデキてたんだ」

「デキてたってなにがー!? なにがデキてたんですかー!?」

『いいからお前もうこういう誤解させないためにもさっさと彼氏作れよ』

「余計なお世話だってっつってっちゃっちゃあーーー!!」

「大丈夫、エリーゼ! お前ならデキる! 俺、信じてるから!」

「一番言われたくないやつに励まされた!!」

『こんな痴女は放っといて話を進めるぞ』

「お前が火種だろうがッ!!」


 エリーゼは奇声を発しながら髪をぐしゃぐしゃと掻き毟っていた。ああ、大事なキューティクルが。


『それと、もう一つ大事な情報があるのだが』

「なによ、もったいぶって。最初に話しなさいよ」

『貴様こそ先を急ぎすぎだ。順を追って話さなければ正しく理解できないのが道理だろう』


 リクトはフウと息を吐いた。通信越しには分からないが、どうやら肩を揉んでいたようだ。

 彼にとってアンリミテッド・サークルの面々との会話はそれだけ疲れるもなのだろうか。

 リクトはメニューウィンドウに表示される情報を整理しながら言う。


『ナターシャには前もってデータを送っていたのだが……。……ときに、ジョン、このフィールド内に6つ存在する、通過地点(チェックポイント)となるゲートと、最終目的地であるゴールゲートが、本来の場所から移動していることは知っているか?』


「ああ、あれやっぱ動いてたのか」どうやら、ジョンの地図はちゃんと機能していたようだ。「地図も方位計も狂っている様子はないのに、なぜだかゲートの場所と現在地が噛み合わなかったんだ。てっきり生徒会が偽の情報を流したのかと思った」

『貴様は私をなんだと思っているのだ。……まあいい、今回は事が事だ。その暴言も大目に見てやろう』


 リクトはウィンドウを操作し、地図を並べながら言った。


『ナターシャの方に地図は届いているな? それを見れば分かると思うが……。

 ……この大会の運営をするに当たって、会場の至る所に、不正やトラブルが無いか見守る監視員が立っていて――ナターシャもその一人なんだが――彼らの中にもゲートを目撃したという人物が居てな、その情報をまとめてみると、面白い事実が浮かび上がってきたのだ』

「これか」ジョンはナターシャの地図を見て感想を漏らした。「……確かにこれは、面白いことになってるな」

『ああ、誰かが人為的に動かしたとしか考えられないだろう?』


 リクトの言葉に、ジョンは頷く。

 ゲートの移動場所がマークされたナターシャの地図を見たジョンは、すぐさま答えた。


「ゲートが、円形に並んでいる」


『……その通りだ、ジョン・アークライト』


 リクトは頷いたようだった。それから補足する。


『その地図に書いてある通り、ゲートはそれぞれ、そのゲートから行ける地点の最短距離を辿りながら、円周上に再配置されている。

 貴様らの現在地から最も近い1番ゲートは、ナターシャから送信される位置座標から見て、南東に200メートルほど戻った場所にある。本来のゲートからはだいぶ離れているな。おそらく、全てのゲートを同じくらい移動させようとしたからだろう。

 そこから反時計周りに、第二ゲート、第五ゲート、ゴールゲート、第六ゲート、第三ゲートが配置されている』


「そうなの。確かに不自然ね……。それで、第四ゲートは?」

『……分からない。先ほど、中心に行くにしたがって吹雪が強くなっていくといったが、第四ゲート付近はあまりにも激しく、くわえて龍の攻撃も激しいため、近づけないというのが現状だ』

「いよいよもって、中心地点が怪しいわね……! 必ずなにかある」


 ナターシャも頷き、近況を補足した。


「だから、他の監視員も、頑張って進んでいるみたい。でも、次々倒れちゃって……」

「魔導人形を破壊されて、学校の方に戻ってくる、と……。手が付けられないわけね……」


 エリーゼは、聞けば聞くほど、あからさまに危機的な状況に気持ちが昂るのを感じたが、ジョンが横にいる手前、つとめて冷静を装った。

 終いにリクトが言う。


『……と、これで現況報告は以上だ』

「これからどうするんだ、リック?」

『ひとまずはナターシャに頼んで、この情報を他の参加者にも伝えていく予定だ。私も、もう少し状況をまとめたらフィールド内に出る』

「大会中は同じメンバーとしか通信を繋げないからね。外部との通信を遮断しないと、公平な試合にならない……とかなんとかで。まったく、厄介ね」

「一応、この場で魔導人形の消滅機能を使って、私たちと通信できるようにバングルの設定を変えてもらうこともできるけど、……事態は急を要するから、今は原因を探ってくれるかな。それで、もし、緊急で報告しなければいけない何かが分かったら、そのときは学校に戻って、すぐに生徒会に報告して」

「ああ、分かった」


 ジョンは頷いた。自身のこの場での役目を終えたことを悟ったナターシャは、立ち上がり、別の参加団体を捜索しようとしたが、それをジョンは呼び止めた。


「あ、ナターシャ、ちょっと待ってくれ。役に立つかは分かんねーが、現在のゲートの位置を書き写させてくれ」


「ん」とナターシャは頷き、再び地図を表示させた。ジョンはその情報を、自身の地図に大雑把に書き込んでいく。


「ここが現在地で、この第一ゲートがここに移動して、これがここに来て……。……やっぱりどう見ても、円周上に等間隔に並べたとしか思えない配置だよなあ」

「どういう意図があって、こんな風に配置したんスかね?」レオンもなにかが引っかかっているようだった。「どう見ても人為的な配置ッス。何か裏があるとしか……」

「全くだよな、いったいなんでこん――」


 ……と、不意に、ジョンの言葉が止まった。見ると、指も止まっている。


「どうしたの?」ナターシャがジョンの顔を覗く。「なにか、分かったの?」


 ナターシャが問うが、ジョンは唇を震わせたまま、硬直した。明らかに何かに気付いたとしか思えない。

 ややあってから、ジョンはその地図を指でなぞりつつ、その中心点にトンと人差し指を置いて、それから答えた。


「……ナターシャ、質問するけど、いいか」

「う、うん……」


 ジョンが目を見開いた鬼気迫る表情だったため、ナターシャも息を呑んで、身を構えた。


「ナターシャさ、その、六芒星って知ってる?」

「ろくぼう……せい……?」


 学業優秀なナターシャは、その単語の意味がすぐに理解できた。1年生でやる内容だ。


 魔術学の時間で。


「あれでしょう、幾何学図形で、三角形を反転して重ね合わせた図形。とりわけ宗教的な背景はなくて、今は魔法陣なんかに使わ……れ……。

 あっ……」

「……そうだよな、やっぱりそう思うよな、これ」


 ジョンは、自分の考えていたことが正しいことを確信した。ジョンは言う。


「これ……超巨大な魔法陣じゃねえか?」


「!……」


 ナターシャはすぐさま、リクトに通信を入れる。リクトは予めスタンバイしていたかのようにすぐに出た。


『どうした、ナターシャ。あのボンクラ共とは別の団体に会ったか?』

「ナターシャ、リックにはこのこと内緒にしようぜ」

『む。まだその場に留まっているのか……。なにか異変が起きたのか?』

「異変どころじゃないよ……。大変だよ……!」

『ど、どういうことだ……?』


 ナターシャの態度が急変したことに、リクトは多少の狼狽をしつつも、とりあえずは黙ってナターシャの話を聞くことにした。

 このゲートの配置が六芒星による魔法陣であるかもしれないという可能性に気付くと、すぐさまその意図まで察してしまった。


『なるほどな……。たしかに、それぞれのゲートには膨大な魔力が内臓されている……。それを吸収し、更なる魔法へと発展させるために、その魔力が使用されているのかもしれない』

「侵入者除けの魔導具を運用させるためのものよね? でも、それが吸収されるだなんて、どんな魔術かしら」


「とにもかくにも、これはもう、中心点である第四ゲートに、なんとしても行ってみるしかねえぜ。お前ら、今すぐこの中心に行くぞ!」

「リクト! 早く先生やプロの魔法使いに、周辺のゲートの魔術を破壊するように言って! そうすれば、第四ゲートの魔力も弱まるはず!」

『分かった! ナターシャ、そちらも首尾よく頼む!』

「うん!」


 ナターシャは立ち上がり、すぐに別の方角へと去って行ってしまった。おそらく、他の傘下団体にも協力を呼びかけるためであろう。

 ジョンも、一刻も早く行動しなければならない。

 ジョンは、エリーゼ、レオンが立ち上がったのを確認したが、しかし、モニカだけが、その場にへたり込んでしまっていた。


「どうした、モニカ?」


 ジョンはモニカに声を掛けるが、彼女からの返事はなかった。ジョンは首を傾げ、モニカに近寄り、彼女の肩を揺すった。


「大丈夫か、具合でも悪いのか?」


 ジョンが見るモニカの顔は、ひどく青ざめ、恐怖に怯えていた。ジョンはただ事ではない事態を察し、モニカの話に耳を傾けた。

 モニカの口から、か細い声が漏れる。

 ジョンの予想だにしなかった言葉を。


「……アレス……テッド……!」


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