「そんなゴリ押しで!?」
ジョンは魔導人形を使って第二演習場に降り立つった。すぐ向こうにはレオンが立っている。
第二演習場は、依然ジョンとエリーゼが一戦交えた第一演習場とは違い、フィールド内に岩山が聳え立っていた。
ジョンとエリーゼは共に近接戦闘を得意とするため、何の障害物も無い平坦な第一演習場を選んだが、それだと隠れる場所が無いため、遠距離戦を相手にするには、ジョンにもレオンにも不都合が生じる。
隠れる場所がない以上、ジョンは速攻でレオンを討たねばならないし、レオンもレオンで、斬られる前に撃つという、戦略性の無い味気ない勝負となってしまう。そのための演習場であった。
モニカとエリーゼは、共に演習場の外周、アリーナのようになっている観客席に居た。そして、その隣にはザックが監督役として席に腰を下ろしていた。
ハラハラとした面持ちで、モニカは戦闘場を見ている。その横姿をエリーゼはじっと眺めていた。モニカはその視線に気づいた。
「……なんですか、エリーゼさん」
「……いや、その、ね、カプセルポッドに入るために着るスーツ、あるじゃない。あれ、水着みたいに体のラインが浮き出るようにできてるように出来てるじゃない。それで、その……あれ、格差社会が……」
「……?」
モニカはエリーゼが何を意図しているのか分からず、首を傾げた。
「……よく分からないですけど、今はジョンさんを応援するべきではないですか?」
「……そう、よね、ええ、そうよね」
エリーゼはモニカの意見にぐうの音も出ないといった調子であった。仕方ないね。そっとしといてあげてください。
「……に、しても」
エリーゼはレオンの持つ銃を見た。長身の銃だった。おそらくスナイパーライフルであろう。射撃の名手であるレオンらしい装備だった。
彼は他にも、腰に一丁の拳銃を据えていた。スナイパーライフルは、相手に近づかれてしまうと途端に無力になってしまう。そのときの為の装備であろう。用意周到だこと、とエリーゼは思った。
対するジョンは、いつも通りの赤い防具に身を包んだ近接スタイルだった。相手に合わせて装備を変えるなんてこと、無粋だと言わんばかりである。
ある意味では何に対してもド直球なジョンらしかったが、さすがに今回の試合でそれが有利に働くかは分からなかった。
相手の射撃の命中率にもよるが、レオンはジョンにとって、かなり苦手な戦闘スタイルのはずだ。相手に近づかなければまともに攻撃を喰らわせられないのだが、レオンが果たしてそれを許すだろうか。
まあ、裏を返せば、一回でもレオンに肉迫できれば、それで勝負を決めることもできるというわけだが。
レオンは銃に弾を装填した。コッキング音がガシャリと響く。
「いつでもいいぜ」
レオンは言う。
「俺の魔導装甲、『ザラ』の餌食になりな」
ジョンも張り合うように言い返す。
「おめーこそ、俺の魔導装甲、『ロアノーク』でぶった斬ってやるぜ!」
互いが互いを挑発しあう。ある意味では、魔法使いの戦闘の儀式のようなものだった。もちろん破ったからといって特になじられるわけでもない。
両者共に戦闘準備が完了したのを確認し、監督役兼審判であるザックが、競技場内にその声を響かせた。
「これより、魔法使い同士による試合を行う! ルールは単純! やられた方が負けだ!」
岩肌にザックの声が反響する。メガホンと同じような効果を持つ魔法を使っているため、その声はジョンとレオン両方の耳に届いた。ザックは片手を挙げ、開始の合図をする。
「オン・ユア・マーク!」
ザックがそう言うと同時に、ジョンは腰を屈めた。
対するレオンは、ジョンの動きを一瞬でも見逃さないように、全身に緊張を張り巡らせた。
レオンはスコープを覗いて、その中からジョンの姿を見据えていた。勝負が始まると同時に撃ち抜こうという魂胆だろうか。どちらにせよ、試合を長引かせる気はなさそうだ。
「ゲット!」
ジョンは剣を持つ手に力を込めた。
「セット!」
両足に力を込め、身体を前傾させる。
「ゴー!」
と、ザックが言った瞬間、ジョンの居た場所の地面がバンと破裂した。どうやらレオンが開始の号令と同時に引き金を引いたらしい。
さすがは魔力が込められている弾を撃っただけあって、威力は凄まじかった。
ジョンはその一発で再起不能になったのだろうか、果たして。
先ほどまでジョンが居た地点は、煙がもうもうと上がっていた。レオンは目を凝らし、その先を見た。どうやらジョンはその場には居ないようだ。
――こちらへ向かってくるのか。
レオンは咄嗟にそう判断し、周囲を警戒した。
邂逅の時はほどなくしてやってきた。
――上!
レオンは、ジョンがあそこから跳躍して、岩山を蹴りつつ、この場に跳んでくることを悟った。
レオンが開幕早々に先手を打ったのに対し、ジョンもジョンで、開幕からスピード勝負で、レオンが初弾を外し次弾で狙うまでのわずかな隙に一気に接近するつもりであった。最初に一発撃つことはすでに読まれていたようだ。
確かに厳しい展開ではある。
だが、逆境ではない。
レオンは下手にジョンに反撃せず、ここは逃げることに専念しようと考えた。
ジョンが大振りの大剣を握りレオンの元へ飛び込んでくる。その着地点を予測し、跳躍。レオンはかなりの距離をとる。その、レオンが先ほどまで居た岩場に、ジョンが突撃した。
ドン、という振動と共に、土煙が舞い上がった。
一瞬、ジョンの姿が隠れるが、目を凝らし、すぐにその姿を見つける。ジョンを視界に収めたまま、即座にライフルを構えた。
ジョンは岩山の間にレオンの姿を補足する。レオンがライフルを構えてこちらに向けているのが分かった。
レオンのライフルの命中精度がどれほどのものか分からないが、少なくともこの場に留まっていたらすぐに体を撃ち抜かれてしまうだろう。見てから避けるなんてできるはずもない。
ジョンは、ここから更に攻めたてるか、それとも岩山に隠れて様子を窺うかの二択を迫られた。逡巡し、とりあえずは隠れることを選んだジョンは、すぐさま近くの岩場に逃げこんだ。
岩肌を背に隠れた瞬間、ジョンのすぐ横を銃弾が通り抜け、ジョンから見て前方の岩山に当り、パンという音とともに煙が上がった。危なかった。もう少し反応が遅れていたら、ジョンの身体に風穴が空いているところだった。
ジョンはレオンに向かって声を上げた。
「銃ばかり使ってて楽しいか、レオン! 男なら拳で語れ!」
「剣を持っているヤツがよく言う!」
レオンの反論が聞こえて来た。挑発に見せかけた、レオンの位置把握だ。
岩山に反響して正確な位置は掴めないが、それでもおおよその位置と距離は分かった。少なくとも、いますぐに身体を撃たれることはないだろう。
背後の岩山は巨大で、頑丈だ。ここを銃弾が突き抜けるとは考えにくい。
とはいえ、レオンがそこを回りこんで来たら、当たり前ながら撃たれてしまう。早めに対策を練らなければ。だがしかし、不用意に動いてもレオンの良い的になってしまう。
チクショウ、レオンの正確な位置が分かればいいのだが。
ジョンは考える。ジリ貧というわけではないが、相手は「こちらに近づく必要が無い」ため、戦いが長引けば長引くほど、――「相手の位置が掴めなくなる」ほど、ジョンにとって不利な状況となってくる。
近接型のジョンとしては、まだレオンの位置が、正確ではないとはいえおおよそ把握できる位置にある今が勝負だ。
やるしかないか。
やろう、勝負を決めよう。
やってやる。絶対に勝ってやる。
ジョンはそう決意を固め、右手を前に突きだした。右手の平を上に向け、魔力を込める。
エリーゼとの戦いでは見せなかったこの技を使うときが来たか。
「紅焔」
ジョンはボソリとその魔法の名を呟いた。
魔力の扱いに慣れていないジョンは、この技を出すのに時間が必要だった。修練すればもう少し早いペースで出せるのだろうが、エリーゼやアレステッドのような近接型の敵には使えなかった。大きな隙を見せてしまうことになるからだ。
だが。
遠距離攻撃を得意とするレオンなら。
そう不用意に攻撃してこない相手だと分かっているのなら、話は別だ。
この魔法が、使える。
まだ実験段階であり、威力は未知数であるが、賭けてみる価値はありそうだ。
ジョンの右手に、炎の球が浮かんだ。と、同時に、ジョンは岩山から徐々に距離を置いていく。
「……?」
そこでエリーゼは、ジョンの異変に気付いたようだ。ジョンの右手に浮かんだ得体の知れない魔法と、ジョンが安全であるはずの岩山から距離を置くその意味。エリーゼには理解できなかった。
「どうしたんですか? なにか気づいたんですか?」
「……ジョン、なに考えてるのかしら。それにあれ、見たことない魔法」
「そういえばそうですね。見た目的には遠距離魔法のようですが」
「ジョンに限って、そんなこと……」
「……でも、ジョンさん、遠距離攻撃は苦手なんでしょう? その対策をしていないってことはないんじゃないですか?」
「私のときは見せなかったのに……!」
エリーゼの独占欲が変なところで発動した。
しかし、今はそんなことを考えている場合ではないと思い直し、ジョンの魔法がどのような術なのかを観察した。
「岩山から離れたってことは、ひょっとして、あの山が邪魔になるってことかしら。そしてその上から投げられるとしたら――、そう、投擲魔法の可能性が……」
「ようはグレネードみたいなものですね。それなら確かに分かりますが……」
「問題は、ジョンがあの火の球を打ち出せるような技術があるかどうかってことよね……。簡単そうに見えて意外と難しいのよ、移動魔法を応用した射出魔法」
「投げるんじゃないですか?」
モニカはあっけらかんと言った。
「こう……野球のボールみたいに」
「そんなことあるわけ――」
エリーゼは呆れ顔でモニカの意見を否定しようとしたが、ジョンはその更に上の行動をとった。
上、というか斜め上の発想を。
ジョンは、岩山から距離を置き、かつ魔法で生成した煌々と燃える火の球をある程度大きくしたあと、その火の球を上空へと投げた。
「上に投げるの!?」
エリーゼが驚く。モニカもジョンの意図するところが分からず言葉が出なかった。てっきりあの火の球を投げてレオンを牽制するものだと思っていたから。
ジョンは、一度上空へ上がった火の球を眺めながら、「よしっ」と小声で呟いた。
――さあ、正念場だ。
――気張って行こう。
ジョンは、レオンに自分の位置がバレてしまうことを気にせず叫ぶ。
「男は根性だ! 何があっても振り向かねえ! 己の意志を貫きとおすんだ!」
「……!」
レオンは、ジョンの声が遠くの方から聞こえてきたのを感じた。正確な位置はジョンと同様分からないが、恐らく岩山の陰に身を隠しているのだろう。
先ほどの叫び声の意図は何だろう?
その前の自分を挑発するような言葉は、恐らく自分の位置を割り出すためのものだろうが、この発言の意図は――?
とはいえ、ジョンが何を考えているにしろ、自分はライフルで狙い撃つだけだ。レオンはその思いで、敢えて先ほどジョンの攻撃から逃げた場所から動かずにライフルを構えていた。
――それが、ある意味では仇になったのかもしれない。
ジョンは、一度中空へ放った火の球を。
右手に携えた大剣で。
打った。
まるで、野球のように。
『!?』
観客席でジョンの行動を逐一観察していたエリーゼ、モニカ、ザックの三人は、同時に驚愕の意を示した。
まさか、そうくるとは。
エリーゼがジョンの行動の意図に気づき、唇を噛んだ。
「……なるほどね、どう飛ばすのかと思ったら、まさか野球のバッターよろしく打つとはね……!」
「あれ、あの火の球さわれるんですか……!?」
カキン、……というような音は鳴らなかったが、それでもジャストミートだとハッキリ分かるような手ごたえがあった。ジョンの火の球が岩山を飛び越え、レオンの方へと飛んでいく。
レオンは、その火の球に気づかずにいたが、ふと向こうからで熱を帯びた小さな物体が飛来してくるのを感じ、驚いて上を見た。
――火の球だ。
レオンは咄嗟にそう思った。
どうする? 撃ち落すか?
それは可能だ。だが、あの魔法がどういう効果を持っているか分からない。下手に対処するよりも、まずは退避して様子を見るのが得策だろう。
レオンはそう判断し、火の球を大きく避けるようにその場から跳び、離脱する。
レオンの居た場所からやや遠い地点で、ジョンの打った火の玉が、着地の衝撃で爆発した。
爆発はそれなりに高範囲に及び、威力も大きそうだった。どうやらレオンの判断は正しかったようだ。そのまま地面に居たり、撃ち落していたならば、あの爆発に巻き込まれていたかもしれない。
レオンは僅かに安堵を感じた。どうやらジョンの奇襲は無駄に終わったようだ。
――そう、感じたのも束の間。
ふとレオンは、そういえばジョンはどこに居るのか気になった。前方、岩山からやや身を乗り出した位置を見るが、その姿は見えない。現在は宙を跳んでいる状態のため、方向転換をすることも出来ない。
――それが、命取りだった。
「レオン!!」
――ジョンの、声が、聞こえた。
上の方からだった。
――ここからが、ジョンの攻撃の神髄だった。
レオンが上を見やると、ジョンはレオンの上で、大剣を携え、レオン目掛けて跳んでいるところだった。
恐らくジョンは、火の球をレオンに向けて打った、その瞬間からこうして走りだしていたのだろう。レオンがそれを避けるところまで含め、全てが計算づくだったのだ。
レオンが避けなかったら避けなかったで、あの爆発に巻き込まれてそれなりのダメージを負うだろうし、レオンの居た場所とは見当違いの場所に落ちても、注意を引くことはできるだろう。そしたら、一度退避して再び作戦を練ることができる。
レオンがどのような反応を返してきても対応できるように、岩山の陰に隠れたわずかな時間で、あらゆるパターンとその対処法を考えていた。
そしてレオンは、ジョンにとってもっとも嬉しい選択肢を選び取ってくれた。
ジョンの挑発とその思惑が功を奏した瞬間だった。
「俺を撃ち抜いてみろォ!」
ジョンが更に挑発する。ジョンの言葉はすなわち、そこで戦略的撤退をせずに、自身の銃の力で対処してみろ、ということだ。
面白い!
レオンはジョンの姿を両目に据える。
やってやろうじゃないか! 俺の射撃術を見せてやる!
レオンは銃を取り出すが、それは先ほどまで使用していたライフル銃ではなかった。やや命中精度と一発の威力は落ちるが、連射可能な銃器を選んだ。
いわゆる自動小銃というやつだ。
ーー大丈夫! 空中での方向転換が出来ないヤツに当てることなど、造作もない。
レオンも宙を跳んでいる状態のため、身動きが取れないという点ではジョンと同条件なのだが、いや、だからこそ、ジョンの仕掛けて来た勝負に乗ったし、負けるわけにはいかなかった。
「当ててやんよお!」
レオンはそう叫び、自動小銃を連射した。銃口から次々と射出される弾が、真っ直ぐにジョンの元へ飛んでいく。
ジョンは、その集中砲火になす術がなくなったのか。
――いや、そんなことはなかった。
「!――」
レオンは、目を見張った。
そんな、そんな……!
「そんなゴリ押しで!?」
レオンは思わず叫んだ。ジョンがどんな方法を取ってきたかというと、単純だ。
ジョンの大剣で、頭と右手を隠した。それだけだ。
魔法使いが戦闘で使用する魔導人形は、使用者が絶命したときに自動的に消滅する機能を有している。だから。逆にいえば。
使用者が命を落とさない限り、その場に残り続けることができるのだ。
たとえ、右足、左足、左腕を失くしても。
右腕があれば、剣は振れる!
ジョンの狙いはそれだった。
「うおおおおおおおおらあああアアアアアアア!!」
「来るなあああああああああああああアアアア!!」
「俺の! 気合いを! 舐めんなよお!!」
ジョンの考えていたことはいたってシンプルである。
顔を撃ち抜かれたら即死である。
右手を撃ち抜かれたら剣が振れない。
だから、その二つの部分を優先的に「巨大な剣の内側」に「射線を防ぐ」ように「隠した」。それだけだ。
エリーゼにいわせれば力押しつスマートでない作戦だが。ジョンがあれほどレオンに対して勝気であった、その理由がこの戦法だった。
――馬鹿げている。
――正気ではない。
レオンの頭にそんな言葉が浮かぶ。だが同時に、それを乗り切る術も無かった。
レオンは、身動きが取れないまま、ただひたすらに、もの凄い命中精度で、ジョンの身体を次々と撃ち抜いて行った。
ジョンの左肩を撃った。血が迸るが、ジョンは止まらない。
ジョンの右膝を撃った。肉が抉れるが、ジョンは止まらない。
ジョンのわき腹を撃った。風穴が空くが、ジョンは止まらない。
ジョンの中指を撃った。指がはじけ飛ぶが、ジョンは止まらない。
ただ、必死の形相で、レオンに突撃していた。
死ななければ、勝機がある。レオンが自身を撃ち抜く前に、自身がレオンを斬ってしまえば、それで勝負は決する。そのあとに再起不能になったって関係ない。
まさに、魔導人形を使用しているからこそとれる戦法であった。
「バカなああああアアアア!!」
レオンが叫ぶ。来るな、来るんじゃない。レオンは胸中でそう叫ぶが、その思いもむなしく、ジョンはレオンにどんどん接近していた。
どうすりゃいいんだよ、こんなの。
撃っても撃っても、決して引かず、振り向かず、自分の元へ跳んでくる。
分けが分からない。意味が分からない。
銃身が焼けるまで撃ち尽くそうとも、このジョンという男を止めることはできなさそうだった。
ジョンには確かに感情がある。故に痛みを感じるし、恐怖も感じる。
しかし、それらを全て、気合いで乗り越える。
それが、筋肉と同じ、いやそれ以上の、ジョンの武器であった。
ジョンは、岩場を蹴り、再び跳躍する。右脚は膝を撃ち抜かれて使い物にならなかったので、左脚で踏ん張って、レオンに接近する。もう、銃撃は届かない。
ジョンは大剣を振りかざし、そして叫ぶ。
「エリーゼの怒りと! モニカの恨みと! そして! 俺の! ど根性!」
ジョンは大剣をあらん限りの力をもって振る。
「喰らいやがれええええええええエエエエ!!」
斬! とレオンの身体を斬り裂く。
断! とレオンの身体をぶっ叩く。
砕! とレオンの身体を打ち砕く。
それが、決定打となった。
レオンの魔導人形が崩壊し、青白い光の柱となって消滅した。
ジョンの勝利が、決まったのだ。
「ぐっ」
ジョンは勝利を確信したが、しかし自身の身体は文字通りぼろきれのようで、素直に喜べる体制ではなかった。
両足はまともに動かず、受け身を取る余裕すら無く、ジョンの身体はベチンと地面に叩きつけられた。
途端、ジョンの身体全体に激痛が走るが、ジョンは気合いでその痛みを押し殺した。
審判役であるザックは、その光景をまじまじと眺めていた。あまりにも無謀な作戦に、おもわず苦笑してしまった。それから、場内に向かって叫ぶ。
「勝者! ジョン・アークライト!」
ザックがそう宣言するのと、満身創痍のジョンの魔導人形が消滅するのは、ほぼ同時だった。
魔導人形が消滅する際に放つ光が、祝砲のようにエリーゼとモニカを迎えた。
 




