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「私も入ってるんですか?」

「ああ。そもそも俺、ブルーハーロンなんて図鑑でしか見たことなかったし、具体的にどんな動きをするのか分からない。実際に相手にしなきゃそもそも対処法も見つからないしな」


 飄々とジョンは言うが、エリーゼは空いた口が塞がらなかった。「作戦なんかない」とジョンは言ったが、本当に何も考えていなかったとは。モニカも目を丸くしている。

 エリーゼは呆れを通り越して驚愕していた。


「ジョン……、あ、貴方って人は……!」

「し、失敗したら、どうするつもりだったんですか?」


 恐る恐る、モニカが問うが、ジョンはサラッととんでもないことを言った。


「失敗したら、またやるだけだ。それ以外にあるか?」

「へ……?」


 モニカは、ジョンの言ったことがよく理解できないようだった。エリーゼもジョンの返答をどう解釈したものかと戸惑った。


「……どういうこと、ジョン? またやるって?」

「あれ、エリーゼ、お前もそのつもりじゃなかったのか?」


 ジョンは逆に驚いたようすでエリーゼに問う。ジョンはエリーゼに、リクトの言葉を訊きかえした。


「じゃあさ、エリーゼ、質問するけど、リクトは俺たちになんて条件を出した?」

「え? えっと……、アムスティアに生息するブルーハーロンの火を持ってこいって、そう言ったわ」


「チャンスは一度だけって、言ってたか?」


「……」


 エリーゼは、ジョンの言葉の意味を咀嚼する。

 ……リクトは、チャンスは一度きりだと、そう言っていたか?

 そもそも、何が「チャンス」なのだろうか?

 ブルーハーロンが火を吹く回数? 魔導人形が使用できる回数? それとも……。


『……あ』


 そのとき、モニカとエリーゼが同時に気づいたようだった。瞬間、エリーゼは、あまりに予想外の結論に、おもわず嫌な笑いが口の端に滲みそうになった。


「……まさか、ジョン」

「ああ、その通りだ」


 ジョンが、答えを言う。エリーゼとモニカが辿り着いた、その答えを。


「リクトは、『やられたらそれで終わり』とは一言も言ってない」


 そう、つまり、どういうことかというと。


「ブルーハーロンの火が手に入れられるまで、挑戦し続ける」


 それが、答えだった。案の定、エリーゼとモニカの予想が的中してしまった。

 まさに、困ったときは気合いでごり押しする、ジョンらしいやり方だった。

 答えが分かった途端、エリーゼは気が抜けたようで、力なく笑った。


「……はあ、ジョン。貴方ホント最高だわ……」

「照れるぜ」

「皮肉で言ってんのよ」

「分かってる」


 モニカはジョンの覚悟に感動していたようで、うるうると両目に涙を浮かべていた。


「ジョンさん、凄いです……! そんな情熱の持ち主だったなんて……!」

「ホントよね。それが貴方なのよね」


 呆れ気味に手を叩くエリーゼ。

 エリーゼは、かつてザックが言っていた言葉を思い出した。

 あの日。エリーゼがジョンの同好会に参加する切っ掛けとなったあの日に、言われた言葉。


『なかなか面白い奴だ、アイツは。目的のためにはどんな泥臭い方法でもとろうとする』


 ……そう、ザックは言っていた。なるほどその通りだと思ったし、それゆえ、エリーゼは負けたのだ。

 かつて、ジョンは言っていた。その条件を呑むときに。


『引きどきくらい、理解しているつもりだ。そして今は、進むときだ』


 ……そう、ジョンは、初めから、負けることなんて考えていなかった。

 ブルーハーロンにいくら踏まれても、焼かれても、身を切り裂かれても、諦めずに挑戦し続ければいいのだ。

 諦めなければ、負けないのだから。


 ――もっとも、結局のところは、一発で成功してしまったのだが。


 モニカを空賊から救うという、その何倍も難しくて、失敗の許されない事態を切り抜けて。

 ジョンは両手を後頭部に回す。


「リックの真意はどうだか分かんねーけどな。本当に俺を潰そうとしていたのかもしれないし。ま、だからなんだって話でもあるけれど」

「それでも……、凄い度胸だと思います。普通の人にはできません。そんな条件出されたら、もっと別の、校長に訴えるとか、じゃなきゃ悪い噂を流したり、面倒くさがって投げ出したり……。

 真正面からぶつかろうなんて思わないと思います」

「俺、バカだからさ」

「確かに馬鹿ね」

「馬鹿正直ですね」


 モニカはある程度言葉をオブラートに包んでくれたが、エリーゼはド直球ストレートだった。マイナス方面に間正直なエリーゼである。


「……それで」モニカはジョンに問う。「この同好会サークルは、何を目指してるんでしたっけ?」


 ジョンは、よくぞ聞いてくれた、と手を叩いた。


「詳しいことはおいおい語ろうと思うけど、超簡単に言っちゃうと、世界を変える」

「……ぜんぜん簡単そうに思えませんけど」

「なんにせよ、まずは会員が必要だよな。ほら、今のところ、俺とエリーゼ、そしてモニカの三人しか入ってないだろ?」


「え、私も入ってるんですか?」


『えっ?』


 ジョンとエリーゼが同時に声を上げた。え、ちょっと待って、と急に狼狽うろたえはじめる。


「え、モ、モニカさん、何を仰っているのですか……?」


 なぜか敬語になるジョン。それだけ先ほどの言葉が衝撃的だったのだろう。ここまで来て、まさかこの同好会に入りたくない、と言うとは思わなかったからだ。


 ……そういえば、確かに、先ほどこの部屋に来る前の段階で、色々な同好会に興味を抱いていた。

 それを思うと、モニカも他に入りたい団体があるのだという説を否定することができない。


 ……しかし、モニカの返答は、ジョンたちの予想とはむしろ真逆にあった。


「私も、この同好会に入ることができるんですか? こんな、何もない、頼りない人間なのに?」


 ……ポカン、とジョンとエリーゼは、モニカの言葉を聞いていた。そして、自分たちの危惧がまるで見当違いであったことに気づき、仲良く吹き出してしまった。

 いきなり目の前の二人が笑い出して、モニカは戸惑った。


「な、なんですか? 私、おかしなこと言いましたか?」

「まったくよ、本当に……」

「モニカ、やっぱりお前、最高だぜ……!」

「えっと……?」


 戸惑うモニカの背中をジョンはバンと叩いた。


「当ったり前じゃねえか! なに水くせえこと言ってやがる! お前の能力、むしろ欲しいくらいだぜ!」

「ほ、ほんとですか!?」


 モニカは顔を綻ばせてジョンに詰め寄る。ジョンは「もちろん!」と頷いた。エリーゼもモニカに言う。


「そもそもね、この同好会、入会資格なんて面倒なものは存在しないの。必要なのは、この世界を変えたいという意思、それだけ」

「エリーゼさんは、あるんですか? この世界を変えたいという意思が」

「ええ、あるわよ。……ま、そのことについては、おいおい話すわ」

「ようし!」


 ジョンが両手を叩き、エリーゼとモニカの注意を向けた。


「そいでさ、これからの予定なんだけど、さっきも言った通り、この同好会に所属しているメンバーは現状三人だけなんだ。数が多けりゃいいってもんじゃねえが、さすがに少なすぎる」


 そこで! とジョンは懐から一枚の紙を取り出した。


「俺たちアンリミテッド・サークルは、これに参加することに決めた!」

「これ?」


 エリーゼが紙面を眺める。デカデカとした文字が、白い藁半紙からエリーゼの目に飛び込んできた。


「第13回、第四魔法学校クロフォード、部活・同好会対抗、登山対決……」


 長々としたタイトルであるが、趣旨は簡単である。


「この大会に参加して、上位に入賞する。もちろん、目指すは1位だ!」

「そして、入賞するとどうなるの? 何か貰えるの?」

「大したモンは貰えねーが、上位3チームに入賞すると、部活、及び同好会の紹介をする権利が手に入れられるんだ。俺たちのサークルを知らしめるまたとない機会だろ?

 それに、この大会で入賞したってだけでも、このサークルの活動実績として他に見せつけることができるしな」

「なるほど、ようは宣伝ってわけね?」

「その通り!」


 ジョンは拳を握り熱く語る。


「晴れて同好会を創設したわけだが、まだまだ弱小サークルだろう? おまけに知名度も無い。っつーことは人も入ってこない。

 だから! 俺たちがこの大会に参加し入賞することで、少しでも新しい会員を増やそうって寸法だ!」


「単純明快ね、貴方らしいわ。うまく行くかは別として」

「やってみなきゃ分かんねーだろ?」


「確かにね。同好会の規模を大きくするいい方法だと思うわ。貴方にしてはだいぶスマートなやり方じゃない。

 ジョン、貴方のことだから、どうせビラ配りでもやるつもりだと思ってた」

「まあそれも考えたんだけど」

「……面倒になったの?」


「いや、一応やる予定ではあるよ。ただ、タイミングよくこんな大会が開かれるってんだ、利用しない手は無いだろ?」

「『頼る』のは浅ましいけど、『使わない』のはもっと愚かな行為だものね。いいと思うわ」


 話を聞いていたモニカが、ジョンに訊く。


「登山対決って、具体的にどうするんですか?」

 ジョンは「うーん」と首を捻った。


「俺も見たことがあるわけじゃないから分かんねーけど、魔導装甲を使うってことは、多分、障害物競争を派手にしたヤツみたいな感じになるんじゃないかな」

「おまけに武器の使用も必須みたいね。これはそうとう血なまぐさくなるわよ」

「嬉しそうに言うなよ」


 ジョンがエリーゼの趣味にしかめっ面をした。

 魔導人形がある以上、どんな悲惨で凄惨な目に遭っても死ぬことはない。が、ビジュアル的に色々と嫌な感じになる。


 魔導具を使った現代の戦闘において、人が死ぬことはまず無いが、血が噴き出たり、四肢がバラバラに弾けたりすることは割と日常茶飯事である。

 魔法使いを目指す者は、訓練により、そういった状況に対する耐性、免疫はできている。


 ……とはいえ、やはりできる限り、そういった事態を見たり、やられたりすることは避けたいものである。

 意気揚々と語るジョンであったが、モニカは不安げにジョンに告げた。


「……でも私、自分の魔導装甲、持ってないですよ?」

「ああ、そこは平気。学校側が特例としてお前にピッタリのモノを見繕ってやるってさ」

「そうなんですか! ……なんだか申し訳ないですね、私ばっかり」


「大丈夫よ、学校卒業したら十倍返ししてもらうから」

「さすがにやりすぎじゃないか?」

「分かりました、頑張ります!」

「お前も冗談だって気づけよ!?」


 ジョンは呆れた気味に、性悪なエリーゼと純粋すぎるモニカにツッコんだ。


「なんにせよ、この大会の結果次第で、俺たちのサークルの名が学校中に轟く結果になるかもしれない! いや、必ずそういう結果にしてみせる! お前ら、気張って行くぞ!」


『おー!!』


 サークルに居た三人の同志は、共に片手を挙げ、互いを鼓舞した。新生アンリミテッド・サークルの船出は上々のようだった。


「……あれ、でも、ジョンさん」


 ふとそこで、ジョンの出したプリントを呼んでいたモニカは、あることに気づいたようだった。


「なんだ?」


 ジョンは訊きかえした。モニカは「あれれ……?」といった調子で告げる。


「……この大会、4人居ないと参加できないみたいですけど」


 ――場の空気が、凍った。


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