「魔術を馬鹿にしている者どもへ」
プロローグです。第二章、始まります!
「ふっふっふ……、ついにこの時が来たようね……!」
カーテンで遮光され、暗黒に包まれた部屋に、少女の声が反響した。彼女は来る災厄(どんちゃん騒ぎ的なやつ)を前にして、興奮を隠しきれないようすであった。
その少女に同調する少女がいた。彼女は、首謀者である友人のやっていることはあまり理解できないものの、なんかこう大きなことをやるみたいなそんな熱き志に触れて、よく分からないなりにも精一杯彼女を応援し、それっぽい空気を醸し出した。
「にゃふふ、そうですねえ……。ついにこの時が来ましたねえ……。なんか……この、えっと、とにかく『時』が来ましたね……」
必死によからぬことを企んでいる感じの空気を漂わせようとしているが、見ての通り空回っている。しかし首謀者の少女は、それでも満足げに鼻を鳴らした。
「ええ、そうよ。今こそ我が同好会は、パパの遺した最強魔術、『霧の女王』を召喚し、魔術の有用性を実証するのよ……!」
少女は野望を宣言すると、高らかに哄笑した。
「さあ、見るがいい! 跪くがいい! 魔術を馬鹿にしている者どもへ、今こそ鉄槌を下すのだ!」
「おー! ……で、テッツイってなに?」
友人の少女は首を傾げた。あまり頭がよろしくないらしい。その少女の無知さに突っ込む少年がいた。
「マ、マオ、き、君は『鉄槌』という言葉すら、り、理解できないのか」
マオと呼ばれた少女は「えー」とあからさまに不満げな声を上げる。マオにツッコんだ少年は得意げな顔をしながらも声は上ずっていた。もっとも、室内は闇に包まれているので、誰もその少年のドヤ顔に気づかなかったが。
「鉄槌というのは、す、すなわち、然るべき制裁、無知な、や、輩に対する断罪だよ」
「ぶー、なにそれ、ぜんぜん意味わかんない。タケシっていっつもそうだよね。言葉難しい」
「た、タケシって言うな! ぼ、僕のことは、ダ、暗黒の刀剣遣いと呼べ!」
「たくあんそうめん?」
「ダークネス・ソードナイト! なんだよたくあんそうめんって! 合ってそうに見えて『く』『そ』しか合ってないじゃないか!」
「タケシうるさい!」
「ご、……ごめんなさい……」
タケシと呼ばれた少年は、首謀者である少女に怒られ、へこへこと謝った。先ほどまでの威勢はどうしたのだろうか。頼りないこと、このうえない。
「とにかく! 私たちの野望を成し遂げる日が、ついに間近に迫ってきたの!」
首謀者である少女は壁をバンと叩いた。よほどこの「時」を待っていたようだ。少女の気魄のおかげで、他のメンバーにもその重大さがひしひしと伝わった。少女はことさら声を上げて言う。
「いいね、何度も言うけど、失敗は許されないよ! なにがなんでも成功させて、連中にいっぱい食わせてやるんだ!」
「えー、なにそれ、私も食べたい!」
マオの言葉に首謀者はずっこける。
「そういう話じゃなくてさ、マオ! ようは目にものを見せてやるってこと!」
「なるほどね! 私てっきり料理でも振る舞うのかと思った!」
「て、天然乙……!」
ギャーギャーと少年少女は盛り上がっていた。いまいち一体感に欠ける会議であるが、しかしこのチームには、しっかりとした連帯感があるのも、また事実であった。今のこの様子からはそれが微塵も感じられないのが非常に残念だが……。
「……とにかくだ、みんなやる気はあるようだし、あとは適当にまとめてくれ」
タケシの隣に居た大柄な男が首謀者である少女に頼んだ。彼はゴンゾウ・サメジマ。この暗さで姿は見えないが、相撲取りのような巨大な体躯と強靭な肉体を持つ、重量級のインファイターだ。特技は投げ技らしい。
少女は「仕方ないわねえ」とイマイチまとまらないメンバーに嘆息した。
「いい、アンタたち? とにかく大事な日なんだから、気合い入れていくわよ」
少女が拳をギュッと握り、闘志を燃え上がらせると、メンバーたちもやっと目標を共有し始めた。
「私たちの同好会の力を見せつけるんだね!」
「ふ、ふん、面倒だけど、仕方ない、や、やってやるよ……」
「さあ、号令を」
「この作戦はアンタたちに掛かってるんだからね、ヘマしたら承知しないわよ!」
首謀者の少女は手を高く挙げ、そして宣誓した。
「我ら、魔術同好会、『マジョリカ』は、来るべき大会に於いて、魔術のいかに優れたるかを学校生徒に見せつける!! 覚悟はいいか!!」
『オー!!』
メンバーは一斉に手を挙げた。
「私はメアリー・ギブソン! 誇り高き魔術師の末裔! 今この時を以て、その栄光の復活を宣言する!」
『オー!!』
「行くぞお前ら! 戦争だ!!」
『オオオオオオオオオオオオオオ!!』
最終的には、メアリーと名乗った首謀者の少女も一緒になり、高く、高く声を上げた。
これより、魔術同好会、「マジョリカ」は、どえらい騒動を起こすことになる。
――そう、学校全体を震撼させることになる、一大事件を。
「……ところで、部屋を暗くする意味ってあったの?」
「……さあ?」
マオの問いに、ゴンゾウは首を傾げた。
 




