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「生きて帰るって、そう決めたんだから!」

「なんだいったい! 何事だ!?」


 アレステッドが驚愕し、操舵室の外を見る。

 瞬間、アレステッドは瞠目する。


 ――そこには、船があった。


 空賊の所持する船と、同等の大きさをもつ巨大な船だ。どうやら、この船に突っ込んできたようだ。

 先ほどの衝撃はあれが原因か、と合点がいったのと同時に、なぜこんなところにこのような船が、とアレステッドは混乱した。


「まさか……、援軍か!?」


 アレステッドにとって、それはまるで予想外の事態だった。


 ――モニカの救援に来た部隊かもしれない。だとしたら厄介だ。……しかし、モニカにあの部隊を呼べるだけの人脈があるのだろうか?


 なんにせよ、ここまで攻め込まれておいて、撤退なんてできるはずがない。

 戦況を見ても、己の誇りとしても。


 ――となれば、応戦するのみだ。


「いいだろう、受けてたとう!」


 アレステッドは部下に檄を飛ばす。自らも立ち上がり、剣を構える。


「お頭ァ! どうするつもりですか!」

「決まっているだろう!」


 アレステッドは右手に携えた剣を船に向け、声を上げた。


「決戦だ!」


 アレステッドの気魄に、部下が総立ちになった。



 国立第四魔法学校(クロフォード)の司令室の中も、奇襲に成功した高揚感で、一時騒然となっていた。学校の三年生を中心とした部隊の面々も浮足立って騒いでいたが、対する生徒会メンバーは冷静だった。


「やはりあの龍にはエリーゼが乗っていたか」

「そうみたいですね、空賊の船に潰されそうになっていたのでもしやと思っていたんですけど、間一髪でした」

「全くだ。エリーゼ、そちらの具合はどうだ?」


 リクトはエリーゼと連絡を取り合っていた。エリーゼは未だ宙を飛び、リクトたちの船に向かって上がっているところだった。

 船の破砕による雑音の混じった通信が、リクトに届く。


『いま上がってるところ! そっちは何をしているの?』

「総員立ち上がり、盗賊共とやりあうつもりだ」

『総力戦、ってわけね。面白い!』


 エリーゼの気勢の籠った声がリクトの耳に響いた。


「モニカはいま、どうなっている?」リクトは少女の容態を気遣った。「だいぶ疲弊しているのではないか?」

『仕方ないわよね、何度も死にかけたんだもの。でも、望みは捨ててない。生きて帰るって、そう決めたんだから!』

「……そうか」


 ――生きて帰る。その言葉がどれほどの重みを持つか。リクトは唇を噛んだ。


「……帰れるといいな」

『当たり前じゃない、なに言ってるのよ、腰抜け!』


 エリーゼがリクトの不安を笑い飛ばした。援軍が来た途端、一転攻勢、怖いものはないとでも言いたげな態度だ。

 リクトはエリーゼの勢いに押されるように、「そうだな」と頷きかえした。


「リクト!」生徒会役員、タクミが彼を呼ぶ。「プロの魔法使いはもう向こうに出てるみたいだ! 生徒側の指示はリクトに委任するって!」

「受けてたとう!」


 リクトはすぐさま、全体の部隊編成を伝え、その班の中でも細かな役割を分担するように指示を出した。それらを受け取った生徒会予備軍の代表が、また個別に担当部署へ指示を出していく。指示を受け取るやいなや、すぐさま行動に移し布陣を整えていくそのさまは、さすが生徒会役員、といったところだろうか。

 リクトの横で進行を見守っていたナターシャが、リクトに訊ねる。


「リクトは出るの?」

「当たり前だ。ここの防衛指揮はスズカに任せる」


 リクトの声に、スズカは熱誠をもって振り向く。


「私、頑張りますから! 遠慮なく出ちゃってください!」

「頼んだよ、スズカ! 私も頑張る! それはそうと、ユイとカズマは!?」


 カナエが、残りの生徒会役員の状態をリクトに尋ねた。リクトは首を振る。


「まだこちらに辿り着いていないらしい。おそらく間に合わない」

「あちゃー、マジかあ。しゃあない、ウチらでやるだけのことやるっきゃないね!」

「やるだけやる? 笑わせるな。やるからには必ず勝つぞ」

「お、いいねえ、そういうのお姉ちゃん大好きだよ!」


 パシン、とカナエとリクトは手を叩きあった。カナエはバングルを操作し、自らの魔導装甲を呼び出だす。


「行くよ名取! 格の違いを見せつけてやる! 恋する乙女だって、やるときゃやるんだから!」


 カナエは光と共に、局部とか都合よく隠してくれそうな感じの煙に包まれた。霧が晴れると、そこには魔導装甲に身を包むカナエの姿があった。魔法少女のような趣を持ちながらも、どこか三年生としての落ち着きを感じさせる衣装だった。


「ほら、リクトとなっちゃんも早く!」


 カナエがリクトとナターシャに魔導装甲の使用を催促する。リクトはカナエの振る舞いにため息を吐いた。仮にも戦闘に出るというのに、まるで緊張感が無い。むしろ楽しんでいる風ですらある。

 リクトが額を抑える所作をしているところに、ふと通信が入った。エリーゼからだった。リクトはすかさず通信を繋ぐ。エリーゼは息巻いてリクトに報告した。


『もう少しで船の甲板まで着くわ! もう戦闘が始まってる!』

「分かっている。私もすぐに出撃する。君はモニカを保護した後はどうする?」

『戦うに決まっているじゃない!』

「よかろう!!」


 リクトは司令室を出て、通路を渡り、ブリッジへと歩いていった。一歩進むごとに、外からの戦闘音がどんどん大きくなっていった。爆発、衝撃。剣と剣が交じりあい、銃弾がそこかしこに打ち込まれる、正に戦場。リクトはそのような光景を思い描き、深く息を吐いた。


「まったく、ナンセンスだな……」


 メガネをクイと上げるリクト。それから流れるような動作で、バングルを操作し、自身の魔導装甲を呼び寄せた。


「往くぞ、『金剛』」


 ユニットがリクトの肩に浮かび上がり、右手に武器が召喚される。戦闘着は既に着ていた。

 リクトの武器は、騎士が用いるような長剣だった。ジョンのような、とにかく一撃の強さを求めた武骨な形状とは違い、長さは若干短いものの、悠々と振り回すことができる身軽さとリーチを兼ね備えていた。アレステッドの剣とは違い、刃は曲線を描いておらず、リクトの精神のように真っ直ぐだった。

 リクトは、厭世的な調子で、魔導装甲の召喚を締めくくる。


「このような醜い争いは早々と終結させるに限る。そう、それはまるで鍵を差し込むように。魔導人形を壊し壊されの合戦など愚の骨頂。品性の欠片も感じられない。さあ、往くぞ、賢しき同志たちよ。


 粛清の時間だ」


 生徒会役員は、その号令を合図に、一斉に駆けだした。



「リクトだ! リクト会長が来たぞ!」

「おっせーよ、リクト! 今までなにやってたんだよ!」

「おお、リクトが来たか! 魔法学校始まって以来の天才が!」

「みんな、リクトが来るぞ! 援護に回れ!」

「うおおお! やっちまえ、リクトー!」


 リクトが戦場へ姿を見せるやいなや、ブリッジで戦闘を繰り広げていた者たちが一斉に歓声を上げた。プロの魔法使いですら、その実力とカリスマ性には一目置いているようだった。

 ……対して、リクトの反応は冷ややかだった。


「……なるほど、まさしく愚の骨頂だな。貴様らはそれでもクロフォードの生徒か、教師か、卒業生か」


 リクトの声は、戦闘の爆音に掻き消され、戦場へと届くことはなかった。しかし、生徒会役員にはさすがに聞こえていた。カナエは苦笑いを浮かべ、一応、リクトに注意する。


「そんなこと言うもんじゃないでしょ、リクト。あの人たちだって、君のために集まってくれたんだよ、労いの言葉でも言ってあげたらどう?」

「学校の危機に駆け付けるのは生徒の義務だとは思わんかね?」

「会長、人間っつーものは英雄を求めるもんなんだぜ」タクミもリクトにそれとなく注意した。「あんまそういうこと言ってやるなよ。むしろスター気分で両手でも上げてやったらどうだ?」

「馬鹿馬鹿しい。なぜそのような愚昧な行為をせねばならない」

「ほら、行くよ、リクト」ナターシャがリクトの服の裾を引っ張る。「……エリーゼが頑張ったんだよ。後はリクトの仕事でしょ」

「まったく、仕方ない」


 リクトは剣を構え、疾駆の体勢をとる。腰を低く屈め、敵の船を見据える。


「……さあ、リクト、気張って行こうぜ」

「無駄な戦闘は避けていくぞ。狙うは大将。それだけだ」

「アレステッド・ブロウだね。私も付いていく」

「じゃあ、見せてもらいましょうか」


 カナエは伸びをし、楽天的な態度を崩さなかった。

 戦況は互角。人数も個々の戦闘力も拮抗している――、いや、国立第四魔法学校(クロフォード)の方がやや劣勢か。


 ――まあ、どちらにせよ、私は切り込むだけだ。


 純白の迅雷(ライトニング・ボルト)の二つ名を持つ国立第四魔法学校(クロフォード)生徒会長、リクト・スドウは、戦場へと飛び出した。


 まるで、稲妻の様に。


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