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「……二人だけ?」

「リクト!」


 生徒会室に一人の少女が入って来た。生徒会副会長のカナエ・ミモリである。リクトは彼女の方を向いた。カナエは肩で息をしつつ、リクトに告げる。


「……アムスティアの方で何かあったみたい。警備員が……何者かにやられた」

「……」


 ……額を抑える、リクト。そのカナエの言葉だけで、大体なにが起こっているか予想が付いてしまった。そしてそれはリクトにとって、だいぶ悩ましい問題であった。リクトは順を追った説明を要求する。


「……警備に当っていたのは?」


 カナエは魔法で作られたウィンドウを操作し、事態の情報を整理しつつ答える。


「三年生の学生有志が3人と、あとはプロの魔法使いが2人。その5人が、さっき急に、カプセルポッドから目を覚ましたの」

「魔導人形が……やられたか」


 リクトが忌々しげに語る。詳細な状況が掴めない今、どういった対策を練っていくか。少ない状況報告から思案してるところに、更に二人の生徒会役員が入って来た。


「リクトさん! 大変なことになってます!」


 そう言って生徒会室に入室してきたのは、生徒会庶務、スズカだった。


「アムスティアの方面か?」


 リクトが問うと、スズカは「はい」と頷いた。


「さっきカプセルポッドから5人が帰って来て、――どうやら空賊にやられたらしいんですけど……」


 そこまでは、ジョンの証言とカナエの報告から予想していた。だが、リクトの思っていた以上に、事態は深刻であったことを、スズカの言葉から思い知らされる。

 スズカはパニックを起こしそうな心情を押しとどめ、努めて冷静に語る。


 ――リクトたちの対策を嘲笑うかのような、現況を。


「――再度アムスティアの基地にアクセスしようと思ったんですが、出来ないんです」


「……乗っ取られた……?」


 ナターシャが独り言のように呟いた。リクトも「ああ」と首肯した。その表情は苦渋に満ちている。


「……クラックされているのか」

「そうみたいです。こちらの要求を受けつけません。パスワードも書き換えられてる……!」

「ヤベえぞ、こりゃ」


 スズカと共に入室してきた長身の男、タクミも手を振って訴えた。


「一応電脳班の方でアクセスを試みてるが、そもそも機械自体を壊された可能性が高い」

「出た……、超どうしようもないヤツ……」


 カナエがげんなりした顔で言った。確かに、アクセスする機材、それ自体が破壊されてしまっていては、クラッキング以前の問題となる。


「……どうするの?」


 ナターシャがリクトに問うた。リクトはまだ対策を練りきれていなかったため、とりあえずの頭に浮かんでいることを纏めようとした。


「……整理しよう。まず、アムスティアの拠点についてなのだが、恐らく、空賊に占拠されている」

「フロントブリッジの?」カナエが問う。「あの超めんどくさい連中」


 リクトは首肯する。


「まだ確認はとれていないが……、恐らくそうだろう」

「空賊、ですか……」


 スズカが眉根を寄せて呟く。

 空賊とは、チームの名称ではなく、いわゆる「空で動いている犯罪集団」の総称である。いわばならず者の集団であり、飛空艇を拠点として、各地に点在している。

 その中でも「フロントブリッジ」地域の空賊は、個々の戦闘力も高く、非常に厄介な敵として名を馳せている。

 ジョンは目の前の敵対集団を「空賊」と言っていたが、恐らく間違いないだろう。フロントブリッジ地域はアムスティアの隣接地域であるので、おそらくジョンたちはその空賊と対峙している。


 スズカは自身にできることは何かを考え、リクトに報告する。


「……とりあえず、戻って来た人たちに、敵の姿と特徴を訊いてみます」

「ああ、頼んだ」


 スズカの提案を承認したリクトは、生徒会の面々に相談するように呟く。


「……アムスティアの拠点に置いてある魔導人形なのだが、ほとんどはもう既に略奪されているだろうな」


 ナターシャも口元に指を当て考える。


「……カプセルポッドのネットワークを破壊されていたら、こちらからはアクセスできないけど、同様に向こうも魔導人形を使用することはできない……」

「……とはいえ、個別の使用キーに関しても、クラックされたら終了だ。それだけの技術者が居ないことを祈るしかないな」

「向こうには、誰か居ないんですか?」不意にスズカは尋ねた。「アムスティアには他に誰が居るんですか?」

「……あー……」


 リクトは苦々しげに呟いた。……できれば話したくなかったが、状況的に避けて通れない話題であることを悟り、リクトは渋々告げる。


「……その、ジョンとエリーゼ……」

「……二人だけ?」


 スズカが絶望に満ちた表情でリクトに訊きかえした。タクミもリクトに問う。


「他の実習生とかは? あっちの方に出向いてないのか?」

「というか……そもそも、その2人は誰なの?」カナエが問う。「エリーゼは知ってるけど……、――今年度成績トップの子でしょう? ……でも、そのジョンっていうのは……誰なの?」

「負け犬」

「は?」

「失礼」リクトは眼鏡を直す。「……ジョン・アークライト。ダイナ出身の1年生だ。現在、ブルーハーロンの火を獲りに向かっている。その最中に、空賊と遭遇したとの連絡を受けた」

「……何それ」カナエは顔をしかめた。「超命知らず」

「1年生をアムスティアに向かわせたんですか?」スズカはリクトの裁断に疑問を抱いていた。「だって、まだ入学式から3日しか経ってないですよ。下手したら魔導装甲だってまともに扱えないかもしれないのに……、ブルーハーロンの火を持ってこいだなんて……。

 ……何があったんですか?」


 スズカがリクトを質問責めにする。リクトは答えるのが億劫であったが、そこにザックが口を挟んだ。


「勝負だよ」

「うわ、ビックリした!」


 カナエは、ザックが生徒会室に居たことに今更気づき、驚きの声を上げた。スズカとタクミも同時に振り向く。


「……居たんですか、ザック先生」

「っつーかなんでそんな図体デカいのに存在感薄いんスか」

「君たちはなぜ揃いも揃って同じ反応をするのだね……」


 ザックはやれやれといった調子で息を吐いた。それから事情を知らない3人に説明する。


「リクトはこの通り、サークルの新設に否定的だろう? だが、そのジョンという新入生は意地でも作らせろと食い下がった。そこでリクトは、アムスティアのブルーハーロンの火を持ってきたらサークルの新設を承認してもいいとジョンに提案したんだ。

 ……そういうわけで、サークルの創設メンバーであるジョンとエリーゼは、共にアムスティアに向かっている」


 ザックの簡単にまとめられた話を聞いた3人は、一様に「お、おう……」といった表情をしていた。カナエが眉をひそめてリクトに言う。


「……リクト、あんたバカァ?」

「なんとでも言え」

「いくらなんでも1年生にそれは無茶ですよ……」

「分かっている」

「ちょいと新人いびりが過ぎませんかねえ、リクト会長……」

「ええい!」


 リクトはガバっと立ち上がり、声を上げた。


「拠点にアクセスできない以上は、この学校から直接向かうほかあるまい! すぐに船を用意し、精鋭を集め、順次魔導人形を使用せよ! そして船に乗り込むのだ! これは戦争だ!」


 凄まじい気魄をもって生徒会役員に命令するリクト会長に、ナターシャが突っ込んだ。


「……リクト、やぶれかぶれになってない?」

「なってない。超真面目」

「キャラ崩れてんじゃん」


 さすがのカナエも呆れていた。スズカも同じような調子でリクトに報告する。


「というかもう事情を知った先生たちが生徒や正規の魔法使いに招集かけてますよ」

「フン、たまにはやるではないか……」

「んなこと言ってね―で、さっさと行くぞ、リクト!」

「分かっている!」

「ユイとカズマにも声を掛けました! 遠征先から直接来るそうです!」

「でかした!」


 そうして、生徒会役員5名と教師一名は、生徒会室を飛び出した。

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