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「好きな人ができました」

「好きな人ができました」

『……』


 ……その、あまりにも突然の告白に、無限の同好会アンリミテッド・サークルは静まりかえった。



 そもそもの始まりは、あの学校戦争(スクールウォーズ)が終結した、数日後のある日だった。

 場所は、無限の同好会アンリミテッド・サークルの部室。その中には、会長であるジョンを筆頭に、レオン、メアリー、アシュリー、マオ、タケシの、計6人がいた。その他のメンバーはお出かけ中のようだった。


 会長であるジョンは、「世界を変える」ための次なる一手を思案していた。バングルで魔導ウィンドウを開き、世界の流れを掴まんとニュースをつまみ食いするさなか、編入生であり新入部員であるアシュリーは周囲でその存在を顕示していた。


「いやーもう、ホントねー、あのときは参ったわー!」

「えー、それマジで? ヤバくなーい?」

「あーでもジョンならやりかねないねー」


 アシュリー、メアリー、マオの三人は、かしましさ全開で会話に花を咲かせていた。それだけならばジョンも大して気にするところではなかったが……。


「そうそう、ジョンってばさ、もう素っ裸で家中かけまわってんの! お前小学生かよって! いやまあ小学生なんだけど!」

「ウケるー。はあーこの場にモニカとかエリーゼとかいなくてよかったわー、あの子らぜったい発狂すんでしょ」

「って、てか! クワガタって! 乳首にクワガタって! ち、ちぎれる~!」

「か、陥没乳首になっちゃう~!」


 ギャハハと品の無い笑いをする三人の会員。始めは(反応したらダメだ、反応したらダメだ……!)と自分を抑えていたジョンだったが、さすがにそろそろ、堪忍袋の緒が切れかかっているというか、ぶっちゃけ限界だった。MK5(マジでキレる5秒前)である。

 ジョンの過去話が赤裸々に暴露され、しかも笑いの種になっているという現状に対し、不満を抱くのはレオンとタケシだった。しかし両者の怒りは似て非なるものであった。

 レオンは、先ほどまで整備していたライフルのモデルガンをリロードし、静かに、しかし震える声でジョンに問う。


「……アニキ、あいつらやっちゃっていいッスか? 俺もう我慢の限界ッス」

「待て、レオン、早まるな。それはマジでヤバい」

「アニキが……、笑いものにされて……黙っていなければならない、この屈辱……!」


 レオンは震える手を抑え、指がトリガーを引こうとするのを必死で抑えていた。彼のことがあるから、なおのことジョンがキレるわけにはいかない。

 そして、彼の隣のタケシは。


「……な、なんだよ、ジョンのヤツ……! ど、童貞仲間だと思っていたのに……!」

「なんて嫌な分類分け(カテゴライズ)だ……」

「ジョンってば、ひ、ひ非モテだと、お、思ってたのに……! あんなか、可愛くて、きょ、きょきょ巨乳な幼馴染みがい、いるだなんて……!」

「ヤッてないからね? べつに肌をかさねた経験とかないからね?」

「この裏切り者ッ‼」


 うわーん、とタケシは泣き出した。なんというか同年代の男性がガチ泣きしてる姿ってけっこう引きますね。

 タケシの言いたいことが分からないでもないジョンだったが、本当にアシュリーとは幼馴染み以上の関係はないと、少なくともジョン自身は思っているし、裏切り者呼ばわりされても、濡れ衣を着させられた気分しかなかった。

 まあそもそも諦めているともいえる。モテることに。


 そうこうしている間にも、アシュリーの口から語られるジョンの笑い話は止まらない。ちょっとモニカが聞いたら殴られそうな勢いだった。いつからあの子は暴力キャラになったんですかって感じだが。エリーゼはわりといっしょになって笑いそうである。


「……まあ」


 とはいえ。

 よくもわるくも、アシュリーがいつも通りでホッとしたのも、また事実である。ちゃんと別れを告げてきたとはいえ、なかば一方的に離別してしまったようなものだったから。

 実際、彼女の憤激は相当なものだった。


 学校戦争を勃発させる、その数日前。ジョンは地元であるダイナの国のサウスディグノに戻ったわけだが、自宅に帰ったジョンを出迎えたのは、両親ではなく、幼馴染みのアシュリーであった。

 彼女は、ジョンを一目見るや、不意に顔を歪ませ、涙を見せたかと思うと。


『死ねッ!』

『⁉』


 手に持っていたドライバーを、ジョンに向けて投げつけてきたのであった。刺しに来なかったのがせめてもの救いだろうか。

 それからアシュリーは、とにかく自身の不満を、置いてきぼりにされた寂しさを、ジョンに訴えようとしたが、言いたいことが多すぎて、うまくまとまらず、口からポロポロとこぼれるのは嗚咽ばかりで。


『……ばか』


 と、ひとこと言って、ジョンに抱き付いたのだった。ダイナの国ではわりと日常的に交わすスキンシップであり、ジョンも深いことを考えずに、


『……ごめんな』


 と、アシュリーを抱きしめた。

 決して、永遠の別れをしたわけではない。

 だが、正当な理由があるとはいえ、アシュリーには、テラスの国へ行くジョンが、幼馴染みを地元に残した薄情者としか映らなかったのだろう。


 理不尽だ、というのは簡単だが。

 そんな言葉で終わらせられない程度には、二人の仲は深い。


 そういう意味では、ジョンはアシュリーに少なからず罪悪感を抱いていたし、少しくらいのワガママやイタズラくらいは大目に見てやろうという気持ちがあった。

 ……が。

 ……しかし。

 いくらなんでも、やりすぎだ。


「そこでジョンは言ったのよ、『お前がママになるんだよ!』ってさ!」

「てんめええええコラああああああああアアアアアアアアアッ‼」


 キレた。ついにキレた。ジョンがぷっつんした。


「言わせておけばああああああアアアアアアアアアア‼」


 珍しく戦闘や打算以外でキレるジョン。しかしそんな姿を見慣れてるのか、アシュリーの飄々とした態度はくずれなかった。


「なーに、ジョン? ガールズトークの邪魔しないでくれる? いまジョンのち〇この話で盛り上がってんだから。股間だけに」

「そんな汚ねえガールズトークがあってたまるか!」


 でもちょっと上手いと思ってしまったのは内緒である。


「いいか、アシュリーよく聞け! こっから先は無限の同好会アンリミテッド・サークルは俺をネタにして話すことを禁止とする!」

「……」

「……」

「……」

「ちょっと待って君たち他に喋ることないの⁉」

「やーんもおージョンったらー! 少し話のネタにされたくらいで怒るなよー!」

「そうだぞ! ぼ、僕なんて、ね、ネタにすらされないんだからな!」

「いや知らねえから⁉」


 なぜかタケシまで敵に回してしまったジョンであった。これが四面楚歌というやつか(違う)。


「とにかく! 俺の話題で盛り上がんのやめろ! きしょいから!」

「えー、でもこっからがいいとこなんだよー? もう少しでジョンが広大な世界地図を……」

「わー、ばかっ、やめッ!」


 ジョンがアシュリーの口をおさえんと、突撃する。

 ドシーン、と、部室が揺れた。二人の男女が床に倒れたためだ。


『……』


 ……部室内の空気が、固まる。

 蓋を開けてみれば、ちょうど、ジョンがアシュリーを押し倒すかたちになってしまっていた。

 アシュリーはポカンとした顔をし、ほのかに顔を赤らめていたが。


「……もう、時と場所を選んでよ?」

「真っ昼間から下ネタぶっこいてるお前に言われたかねえ!」

「まったく……家に帰るまで我慢できないの?」

「いつもやってるみたいに言わないで⁉」

「ジョ、ジョン……お、お前というやつは、なな、なんて破廉恥な……!」

「いや確かにこの絵面だけ切り取ればハレンチ極まりないけど! フツーにアクシデントだから!」

「なーに言ってるんスかアニキ! 女を堂々と手籠めにしてこそ男の中の男じゃないッスか!」

「男っていうか単なるゲスだろそれ!」

『やーん犯されるー』

「もうほんと黙れお前ら‼」


 頼みの綱だった男性陣にも見捨てられ(?)、孤軍奮闘の様相を呈したジョン。

 そこへ、救いの手が差し伸べられる。

 不意に、部室のドアを開け、中へ入ってくる少年が一人。


「ジョン、ちょっと相談……が……」

「あ! アレックス! ちょうどいいとろへ――」

「お、おお、お邪魔しましたー!」

「だーッ! まて、違うこれマジでそんなんじゃ!」

「ごゆっくりー!」

「待ってえええええええええええええええええ!」


 無限の同好会アンリミテッド・サークルは、今日も平和です。


 

 長くなってしまったが、本題に入る。

 あのあと、なんとかしてジョンはアレックスを連れ戻した。このまま誤解されたままは嫌だったし、アレックスの用事も気になったからだ。


 赤いクセっ毛に、同年代の男子よりもいささか若くみえるその童顔。

 アレックス・エッジワースだった。


 ジョンは彼の来訪に、「ようっ」と片手をあげ軽くあいさつをしたが、対するアレックスの表情は重苦しげだった。

 けっして沈んでいるというわけではないのだが、不要な口がはばかられるような、そんな雰囲気。ジョンはそれを知ってか知らずか、「まあ座れよ」と椅子を用意し、その対面にすわった。微妙に角度がナナメなのは、彼がズボラなのか、はたまた彼なりの気遣いなのか。


「なんかあったのか?」


 足を組んで背もたれに体を預けるジョン。周囲の会員は野次馬のようにジョンの元に集まっていた。アレックスはガラにもなく、そわそわと指をいじっていたが、やがて意を決したようで、コホンという咳ばらいののち、ゆっくりと口をひらいた。



「レイカって知ってる?」


 アレックスは、いまだ唖然としていたジョンたちに問うた。

 なんというか、すごい失礼な話ではあるが、アレックスは、なんというか、その、そういう色恋沙汰とは無関係な超然とした人物だと思っていたので、いきなりこんなカミングアウトをされ、反応に困っていた。

 だって……、ねえ?

 今までそんな兆候なかったし?


「レイカって?」


 マオがアレックスに問うた。あんまり描写が無いので混乱してる方も多いと思うが、マオやタケシはジョンたちとはクラスが別である。

 マオとメアリーはこの学校に入る前からの縁で、タケシはマオにむりやり入れさせれた感じである。まあまんざらでもなさそうだったが。


「クラスの子。マオは……別のクラスだったっけ。綺麗な赤い髪の子なんだけど……」

「へえー、あの子に惚れるなんてねー」


 ニヤニヤと会話に入ったのはメアリー・ギブソンである。ピンク色の髪の毛を無造作にヘアバンドでまとめている。なんというか、こういう話題が好きそうなかんじがある。


「ねーねー、どんな子なのー?」


 興味津々なようすでマオがメアリーの肩をゆすった。メアリーは「んー」と宙を見る。


「無口な子よぉ。私も一回、授業でいっしょの班になったことがあるんだけどね。なんだっけ、物理学の実験だっけか。ムスッとしてるわけじゃないんだけど、とにかく静かなのよね」

「ぼ、ぼぼ、ボッチなの?」

「たぶん言い寄ってもあんたにはなびかないとおもうわ」

「ま、まだ、ダにも、ゲホ、いってぶふぉァ!」


 ド直球で図星を突かれたタケシが激しく咳きこんだ。あれである。「やあ、どうしてこんなところで一人でご飯食べてるの?」「え、この人……、私のことを心配してくれて……?」みたいな感じの出会いを求めていたのである。そしてそれを一瞬で悟ったメアリーにソッコーで打ち砕かれてしまったのである。童貞だからね。しかたないね。


「まあタケシはほっといて」メアリーは髪をかきあげた。「ようは、レイカと付き合いたいってこと?」

「そう……だね、うん。そういうこと」


 アレックスは顔を真っ赤にしてうなずいた。アレックスにこんな一面があったとは、とジョンは内心おどろいていた。


「しゃらくさいわねえ」


 スナイパーライフルのモデルガンをいじりながら話を聞いていたアシュリーが、面倒くさそうに銃をコッキングする。ガシャリ、という金属音が、そのまま彼女の感情の引き金(トリガー)を引いているようだった。


「男ならもっとドーンといけよー。あんたそれでもダイナの人間? ちゃっちゃとコクっちゃいなよー!」

「い、いや、でも、ほら、その、物事には順序ってものがあるじゃない? いきなり告白しても、そもそも……僕と彼女レイカにはそこまで親密ってわけでもないし」

「確かになあ」

 ジョンはうなずく。

「その辺りの作戦は? なんか考えてあんの?」

「一応……その、デートに誘ったんだけど……」

「準備が早いな」


 ジョンは素直に驚く。アシュリーも「ヒュー」と口笛を吹いていた。マオも身を乗り出す。


「そこで、しんぼく? を深めて、いい感じになったところで思いを伝えるって寸法だね!」

「う、うん」


 アレックスは頷く、……が、申し訳なさそうに頬を掻いて。


「……でも、肝心のデートコースが思い浮かばなくて……」

「なんて誘ったの?」

 とメアリー。

 アレックスは答える。


「ほら、今度の授業で、魔法学のテストがあるじゃない? レイカってけっこうそういうのに詳しいって聞いたから、参考書を選ぶのを手伝ってほしいなって、そう頼んで」

「あー私もそれ良いよって言っちゃうかも。知ってるクラスメイトならってね」

「ねー、たしかにあれ超メンドいよねー。魔法の属性がうんたらかんたらって」


 メアリーとマオが共にうなずく。彼女たち的にこの誘い方は悪くないのだろうか。メアリーはふむふむと頷いたあと、ソファに深く沈みこんだ。


「まあ、でも、そうねえ……。レイカちゃん的にあんたのことをどう思ってるかってところよねー」

「と、いうと?」

「友達以上か以下かってこと。ちょっとでも意識してるなら、そのあとお茶にでも誘えるじゃない?

 でも、単に参考書を選んであげるっていう意識だったら、終わったあとすぐにサヨナラ、……かもしれないし」

「うぐ、それは嫌だなあ……」


 メアリーの指摘にアレックスは顔を暗くする。

 彼の気が落ちそうなところで、助け船を出したのは、意外にもアシュリーだった。


「アレックス、私に良い案があるんだけど」

「うっわ、すっげえ不安」


 隣にいたジョンが苦いものでも噛んだかのような表情をしたが、アシュリーはジョンの頭を叩いたのち、なにごとも無かったかのように進める。


「まあー確かに初めてのデート、しかも相手はけっこうな美人さんだもんねー。静かな子って打ち解けるまで本音が分かりにくいし? 不安になるなって方が無理よね」

「それを打開する名案とは……?」


 アレックスが神妙な面持ちで尋ねる。会話の中心へと躍り出たアシュリーは、意気揚々と告げる。


「ダブルデートって、知ってる?」


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