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「合格おめでとう」

1/31 改稿

3/3 大幅改稿

第1話~第3話を新規エピソードと共に加筆し、6話分に再構成しました。前後で矛盾してる文脈とかあったら指摘してくださると嬉しいです……。

10/12 冒頭を改稿

挿絵(By みてみん)






 前略。

 電車が脱線しました。



 そもそもの始まりは、「ダイナ」という国の貧困地域、「サウスディグノ」という炭鉱に住む少年、ジョン・アークライトが、それよりはるか遠方の地、「テラス」という国に存在する魔法学校の名門、国立第四魔法学校「クロフォード」に合格したのがきっかけだった。


 この学校の入学試験というのが、またえらく難易度が高く、並たいていの者が受かるものではなかった。

 ましてや、ただでさえ勉強の機会が無いに等しい(ジョン)が受かるなど、誰もが期待していなかった。

 というか受かってからも疑われた。

 以下、彼と親しい間柄との会話録である。


『CASE1 両親の場合』

「おい見ろよオヤジ! これ! 合格通知!」

「ハッハッハ! 誰の?」

「いやいやいや俺のだよ! べつに強奪してきたわけじゃねえから!」

「あらあらどうしたの騒がしい」

「ああ、カーチャン! 見てくれよこれ合格通知!」

「誰の?」

「いやだから俺のだって! なんで二人とも同じ間違いすんの?」

「いや、だって……、あんたが受かるわけないでしょう、国立第四魔法学校(クロフォード)なんて」

「残念でしたー! 受かりましたー!」

『え、マジで……⁉』

「だからなんでそんな世界の終わりみたいな顔してんの⁉」

「せっかく入試に落ちたあなたを励まそうと豪華な食事を用意してたのに……」

「それそのまま合格した俺を労えばいい話だよね⁉ なんで『うわーコイツKYだわー』みたいな顔してんの⁉」

「えー、でもケーキにも『来年も頑張れ』って書いちゃったし……。このままでいい?」

「なんでそんな失意に塗れたケーキ食わなきゃいけないの⁉ もういいよ自分で書き直すから!」


 このあと滅茶苦茶飯ケーキ食べた。



『CASE2 同居人 メリッサ・ボーマンの場合』

「なあ、メリッサ、これ何に見える?」

「ごめん、後ででいい? いまちょっと採掘機材の修理が立てこんでて……」

「待って! ねえ! マジで俺いまけっこう悲惨な目に遭ってるから! ちょっと! ちょっとだけでいいから!」

「もう今晩いっしょに寝てあげるから泣きごと言わないの! ほら、あっち行って!」

「誰がテメーと寝る話してんだよ! 違うの! 俺国立第四魔法学校(クロフォード)の入学試験受かったの! これその証拠!」

「お前があんな名門受かるわけねーだろうが! あんなのねえ、都会のボンボンとかが毎日必死に勉強してやっと受かる学校なの! こんな貧乏なとこから受かる人が出るわけないじゃん! 夢みてんな!」

「いやだから受かったのがスゴイって話だろうが!」


 このあと滅茶苦茶ケンカした。



『CASE3 幼馴染み アシュリー・J・エンフィールドの場合』

「アシュリー、助けてくれよー……」

「な、なに、どうしたのジョン……そんなやつれて……。そんな落ちたのがショックだったの……?」

「なんでお前まで俺が落ちる前提で話すすめてんだよ! 違うの! 受かったの! ほら、これ、合格通知!」

「ヤダ……ホントだ……。え、マジで受かったの……⁉」

「おお、話を聞いてくれる人がここに……!」

「……みんな信じてくれなかったの?」

「それどころか挙句のはてには『これ他のやつの通知書奪ってきたんじゃねーの?』って言われた……」

「ま、まあ……、そうよね。あんたが国立第四魔法学校(クロフォード)を受けるって聞いたとき、てっきり私、それを口実にして「テラス」の国を観光するんだと思ってたもん……」

「どんなドラ息子だよ。第一、俺ってばちゃんと勉強してただろ」

「そりゃそうだけど……。参ったな……」


 アシュリーは、計算違いだとばかりに顎を摘まんだ。彼女の異変に気付いたジョンは控えめに尋ねる。


「……何が?」

「……ううん、なんでもない」


 アシュリーは首を振り、それから笑顔でジョンに言った。


 ――その笑顔は、果たして、真か、偽りか。


「合格おめでとう、ジョン」



「学校なんて、滅びてしまえばいいのに」

「いや、あの、まだ通ってすらいないじゃないですか……」


 国立第四魔法学校(クロフォード)に向かう電車の中で、そんな声が聞こえた。

 ドレスを着た少女が、窓の淵に肘を載せ、気だるい面持ちで頬杖をついている。一見、深窓の令嬢といった雰囲気で、実際、令嬢であることは事実なのだが、その薄い唇から紡ぎ出される言葉は、そんな可憐なイメージを薙ぎ払うには充分すぎた。その証拠に、メイド服を着た成人の女性が、半眼で顔を曇らせている。

 車内の誰もが、期待と興奮を口々に語りあう中、その客間には、異様なほどの暗雲が立ち込めていた。

 希望に満ち溢れている国立第四魔法学校(クロフォード)の生徒たちの輝かしい晴れ姿とは、似ても似つかない。


 ドレスを着た少女、『エリーゼ・デーベライナー』は、今年の国立第四魔法学校(クロフォード)の新入生であり、悪名高き『デーベライナー一家』の末裔である。

 ゴシックロリータと呼ばれる黒いドレス。フリフリでなおかつ華美であり、少女趣味をこれでもかというほど詰め込んだ装飾。しかし、そういった絢爛な様相とは対照的に、その衣装が示すものは、退廃的で陰惨な雰囲気だった。

 身も心も曇天そのものといった風体のエリーゼが着ると、より一層、アンダーグラウンドな趣を増す。


 エリーゼは、年齢のわりに低い身長と、絹のように滑らかな、長く黒い髪を特徴とする美少女であった。

 加えて、顔は細く、目元はキリッと鋭い。

 その美しさは、男子はもちろん、女子すら魅了してしまうほどで、彼女の前では嫉妬という言葉さえ居場所を失ってしまう。

 まるで、西洋の名画から飛び出してきたような、現実離れした美しさ。


 ……だが、しかし。


「ねえ、エルナ、あそこに座ってるダッサイ田舎っぺの髪を燃やしたらどうなると思う?」

「やらないでくださいね? あの、フリじゃなくて。ホントにやらないでくださいね?」


 ――中身は、最悪だった。


 エリーゼから見て、通路を挟んだ反対側のシートで寝ている赤髪の少年を、彼女はつまらなそうに指さした。

 そんなエリーゼを、冷めた顔でなだめるメイド。

 名を、エルナという。


 耳までかかるボブカットに、豊満な胸と、しっかりとした体つき。

 掘りが深く、顔だちも整っている。

 対面に座る人間が、エリーゼのような規格外の美少女でなければ、自然と注目を集めていただろう。


 しかし、エルナが通常の人間の違う点の最たるものは、その美貌ではなく、耳が、顔の側面ではなく、頭の上に付いていることだった。

 いわゆる猫耳というやつである。正確には、エルナは犬寄りの種族なので、「犬耳」と呼ぶべきなのかもしれないが。

 エルナのように犬耳を生やした種族は、この世界ではそれほど珍しいものではなく、世間では「アーネンヴェルグ」と呼ばれている。

 人への忠誠心が高く、身体能力も秀でており、加えて鼻が利くため、メイドや、探偵の助手など、古くから重用されてきた。

 エルナもその一人で、「デーベライナー」一家に派遣されてきたのだが……。

 ――エリーゼの、一筋縄ではいかないどころか、逆に引っ張られそうになるほどの難物さに、手を焼かれっぱなしだった。

 エルナは、心労で倒れそうになりながらも、外面では平静を装って、エリーゼをたしなめる。


「……お気持ちは察します。肩身が狭いこと、このうえないでしょう。

 ですが、この国立第四魔法学校(クロフォード)は、お父様が、エリーゼ様のことを思って、薦めてくださった学校です。

 ここはひとつ、周囲の偏見の目に晒されることも含めて、将来への訓練として乗り越えてみては如何でしょうか」

「……言われなくたって」


 エリーゼは、小声でそうつぶやき、視線を窓の外へと移してしまった。

 まるで不遜な態度。

 しかし、エルナは、傲慢ともいうべき主人の態度を、それ以上責めることができなかった。

 それというのも、エリーゼの一族の由縁に原因があった。


 ――デーベライナー一家は、血塗られた背景と、陰惨な風習を持つ、邪悪な一族として恐れられていたからだ。


 実際の歴史はデーベライナー一家の者しか知りえないのだが、過去に起こした様々な事件、ないし戦争により、その悪名は世界各国に轟き、不動のものとなっていた。

 それこそ、子供たちを躾けるための昔話として用いられるほどに。

 つまるところ、エリーゼの不満げな態度の原因は、まさにそこにあったわけだ。


 一族の実情も知らないで、聞きかじり以下の知識でものを語られ、そして避けられる。

 そんな、ある種のいじめが、エリーゼが幼少の頃から現在にかけてまで、絶え間なく続いていた。


 エリーゼがあまり大きな問題を起こさなかったおかげで、エリーゼの地元での悪評は、多少は改善されてきたものの、地元を離れたこの地域、……そう、例えば、これから赴く「テラスの国」で、同じようないじめに遭うことは想像に難くなかった。

 元々、人と話すのが苦手なエリーゼである。

 ただでさえ、親元を離れて生活するのは、並々ならぬストレスがあるのに、これからさらに、「デーベライナー」の偏見に耐えていかなくてはいけない。


 それが、エリーゼにとって、どれだけの屈辱、鬱積であったか。

 その圧力は、計り知れない。

 それを知ったうえで、……それでも、エルナは、エリーゼに苦言を呈す。


「エリーゼ様。その強大なる力を、人を苦しめるために利用されることが無いよう、御自身をお諫めください。……くれぐれも、デーべライナーの歴史に泥を塗ることの無きように」

「……はなから泥だらけじゃない」


 エリーゼの言葉に、エルナは口元をしかめる。ハイハイ、とエリーゼはエルナに無駄口を止めるように手を払うが、心配性なエルナは、なおもエリーゼに忠告する。


「そうです、まずはお友達を作るのです、エリーゼ様。信頼できるお友達を作りましょう。そしてその方と交友を深めるのです」


 エルナのお説教じみたアドバイスに、エリーゼの胸がそろそろ我慢の限界量を超えんとする。

 フン、とエリーゼは鼻を鳴らし、気晴らしに毒の一つでも吐いてみようかと思った。

 ……が。

 その矢先。


「……ん」


 エリーゼは、新幹線の窓から見える青い空に、黒いゴマのようなものが浮かんでいることに気づいた。

 初めは目のゴミかと思ったが……、……そうではない、ハッキリと動いて見える。

 おまけに、それは一粒ではない。軽く十粒くらいはある。

 その、ゴマと思しき物体がだんだんと大きくなり、その輪郭(シルエット)を現し始めたとき、エリーゼは、それが何であるかを悟った。


「――龍だ」


 ――エリーゼは、ボソリとつぶやいた。


「……龍、ですか」

「うん、ほら見て」


 先ほどまでの怒気はどこへやら、エリーゼは、エルナをちょいちょいと手招きし、窓の外を指さした。

 エルナは目を細め、視界の先にあるものを見定める。


「……龍、ですね。なんでこんなところに……」


 エルナは、その姿を認め、深く驚いた。

 ――こんな、電車が往来するような交通の要地に、龍が飛んでいるなんてありえない。

 そもそも、龍の生息地に、電車のレールを敷くこと自体、ナンセンスである。

 わざわざ乗客を死に追いやっているようなものだからだ。

 単純に考えて、どこかで捕獲された龍が脱走したと考えるのが無難だろう。

 ――でも、なぜこんなときに。

 タイミングの悪さに、エリーゼは歯噛みした。

 ――さらに、不運なことに。


「……あれ、近づいてきてません?」

「……ホントだ」


 エルナの指摘に、エリーゼはうなずいた。

 龍と思しき物体は、明らかに、真っすぐ、この車両へと向かっていた。


「こちらに来るのかしら」

「分かりません。……ただ……」


 エルナは、不意に口ごもる。


「こちらに敵意があるというよりは、……なにやら、怒っているような、それでいて逃げているような……」

「まどろこっしいわね……」


 エルナの漠然とした答えに、エリーゼは眉をひそめる。

 エリーゼは、僅かに俯き、逡巡したのち、建設的な方向へと話を進める。


「この新幹線、魔導人形の配備はあったかしら?」

「確か、ここより後ろ、中ほどの車両にあった気がしますが――」


 エルナは、脳内で車両の地図を広げ、それからエリーゼに問うた。


「あの龍と――戦われるおつもりですか?」

「このまま喰われる趣味はないわ」

「同感です」


 エルナは肯定の意味を込め、目を伏せた。


 「魔導人形」とは、人類――特に魔法使いの、叡智の結晶である。

 魔法使い同士の戦争が苛烈を極めた現在。生身の魔法使いが戦闘を続けては、すぐに魔法使いの数が枯渇してしまう。

 一瞬の油断が命取りになる、熾烈な戦闘が続けられているからだ。

 そのような中、主要各国は、いかに、「魔法使いを消耗せず」、「戦闘を押し進めるか」という問題に対し、研究に研究を重ねた。……そして、遂に生み出されたのが「魔導人形」である。


 使用者の肉体、魔力回路、容姿などを、原子レベルで構築し、その中に使用者の意識を転送し使用する、戦闘媒体。


 また、ある程度の筋肉量・魔力量の増強もされるため、こと現代においては、「魔導人形」無しに戦地へ赴くことは自殺と変わらない、……とまで言われるほど、その重要性は周知され、また必須のモノとなっている。

 もっとも、銃や刀剣などと同じく、凶器であることには変わりないため、使用するには免許(ライセンス)が必要なのであるが――エリーゼとエルナに関しては、その心配はない。


 魔導人形を使って、迫りくる龍、あるいは第三勢力を撃退し、車両を守る――ということで、二人の意見は合致した。

 幸い、窓の外に見える龍が、車両に接触するまで、時間がありそうに見える。


 そうと決まれば、時間が惜しい。

エリーゼとエルナは立ち上がり、周囲の客が談笑にふっけたり、あるいは瞼を落としているのを睥睨したのち、後部車両を目指した。


 ――そのとき、だった。


 不意に、ガシャン、というつんざくような音が轟いた。


「⁉」


 エリーゼは目を見開く。

 揺れる車内。激しい振動に身を振られながら、音のした方向へと、むりやり首を曲げる。

 ……その、視線の先。


 龍のものと思しき、琥珀色の鋭い爪が、窓ガラスを突き破り、車両へと食い込んでいた。


 そして、さらに運の悪いことに。


「エリーゼ様! お手を!」

「くッ……!」


 エリーゼは、エルナの手を握る。

 エルナに体を引かれ、そのまま、大きな体躯に抱かれる少女。


 それと同時に、列車は線路から脱線していった。


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