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メトゥス  作者: 髪槍夜昼
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四人目


「おい…おい!」


突然聞こえた大声に騎士服を着た男は驚いた。


目の前にはイラついた顔をした同僚の顔がある。


「お前、逃げ出した六人目を追っていたんじゃなかったのか! どうしてこんな所にいる!」


言われて男は自分が知らない場所に立っていることに気付いた。


ここはどこだ?


どうして自分はこんな所にいる?


自分は森の中で六人目を追っていた筈…


いや、そもそも六人目って誰のことだ?


「くそっ! こいつも駄目だ! 何で捜索隊が全員任務を忘れて帰ってくる…騎士団長になんて報告をすればいいんだ!」


ぼんやりとした頭で考える。


確か、誰かの声を聞いた。


白い白い、少年の声を…








「追っ手はもう来ないと思いますよ?」


「何で?」


「それは秘密」


レプスの前にホットミルクを置きながらフェレスは薄く笑みを浮かべる。


この不審な男はこればかりだ。


自分のことは出来るだけ話さず、何事にも深く関わらず、


好意も悪意も与えないように、当たり障りない態度を取っている。


これだけ目立つ姿なのに、村人の注目を集めないのはこう言った態度が原因だろうか。


「…それでも、いつまでもここには居られないわ」


「おや? 行く当てでもあるのですか?」


「………」


意地悪な質問にレプスは無言でフェレスを睨む。


当てなどある訳がない。


こんな力を持ったことで騎士団に誘拐され、


今はその騎士団からも命を狙われている。


だが、自分のこんな思いを理解してくれる『仲間』には心当たりがあった。


「モルス教団。帝国南方のニゲル地方にある宗教団体よ」


少し前までは名前すら知らなかった騎士団に比べて歴史の浅い団体。


十年前の災厄で居場所を失った者達の拠り所と言われる新興宗教の一団だ。


「噂ではその教団の中心人物は『五人目』のアニマ寄生者だと言われるわ」


「なるほど、同じ寄生者を味方に付けるってのは良い考えですね…しかし、よりにもよってあの邪教集団ですか」


「仕方ないでしょ。今すぐに居場所が分かるのは五人目だけなんだから」


五人目は教団と言う組織を隠れ蓑にすることで騎士団の接触を拒んでいる。


他の面々は騎士団から身を隠す為、表立って行動はしていない。


「そんな訳で、私はニゲルへ向かうわ」


「ニゲルか、あそこは年中暑いらしいですね」


「…短い間だったけど、世話になったわね。手当てしてくれたこと、感謝してるわ」


「でも、果物が美味しいとか。楽しみですねぇ」


「………」


(コイツ、基本的に私の話を聞かない!)


少し寂しげに別れを告げたレプスの顔をフェレスは見ていない。


それ処か小屋内を駆け回り、旅支度を進めている。


「この村は平和です。それを気に入って僕はここに住んでいる」


木で出来た鍋と食器を鞄に詰めながら、独り言のようにフェレスは言う。


「この十年、村は何も起こらなかった。何一つ悲劇は起こらず、何一つ進歩もなかった」


白い鞄に猫の人形を無理矢理詰め込み、フェレスは窓の外を見た。


今日も平和に暮らす村人達を、冷めた目で見つめる。


「しかし、君はここへ現れた。村一つが雪に埋もれる異変も起こった…『始まったんだ』」


「始まるって…何が?」


「…それを知る為にも、僕は君に付き合うことにしたんですよ」


病的に白い少年は、薄ら笑いを浮かべて言った。








「い、嫌だ…やめてくれ!」


ボロ布を纏った少年は叫んだ。


何かに怯え、訴えかけるように泣き叫ぶ。


周囲には眠る母親がいるだけで誰もいない。


しかし、それでも少年は虚空へ怯えた目を向けた。


「違う、違うんだ! アンタのことを悪く言ったのは俺なんだ! 母さんは関係ないんだ!」


眠り続ける母親に目を向けて少年は懇願する。


近くでこれだけ大声を上げられても母親はピクリとも動かない。


まるで死んだように眠り続けている。


「天罰なら俺に与えてくれよ! 俺を、俺を地獄に落とせよ!」


少年の声に答える者はいない。


泣き叫ぶ少年はやがて疲れ果て、地面に倒れ伏す。


『地獄に落とせ。それがお前の夢なんだな?』


意識が朦朧とする中で『神』は言った。


『ならばその夢。この俺様が叶えてやろう』

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