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メトゥス  作者: 髪槍夜昼
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三人目


フェレスはスコップを手に雪掻きをしていた。


まだ春が来たばかりだと言うのに、季節外れの雪は辺りを真っ白に染め上げていた。


何よりも白を好むフェレスとしてはその景色は望む所だが、寒いのは得意じゃない。


前世がネコ科だった自信のあるフェレスは冬が大嫌いだ。


「はっくしょん!…さぶいですね」


雪よりも白い髪と外套を揺らし、自分の家を眺める。


治療はしっかりと行ったのでこの寒さの元凶はもうじき目を覚ますだろう。


「いきなりこんな景色になったら怯えそうな物ですけど、子供達喜んでるし、大人も微笑ましく見てるだけだし…本当にカエルレウスの人々は大らかですねー」


雪玉を転がしながらフェレスは薄ら笑いを浮かべる。


少年達が投げ合う雪玉を躱しながら、段々と雪玉を成長させていく。


ある程度のサイズになったら、それに小さな雪玉を乗せる。


「これに目を付けて完成っと、いやー全身真っ白なイケメン君に育ちましたよ」


「…何やってるの?」


雪だるまの出来栄えに満足しているフェレスの後ろからレプスは声をかけた。


身体はフェレスの手当てを受けているが、精神的な物か顔色はかなり悪い。


「おお、目が覚めましたか。ご覧の通り、久々の雪を満喫している所です」


「私のせいで、村が…こんな…」


どうやらネガティブモードはまだ終わって無いようで、レプスは雪塗れの村を見て目を覆った。


雪で遊ぶ子供の姿は見えていないらしい。


「まあまあ、出してしまった物は仕方なし。気にしないで行きましょうよ」


「私、私が…」


フェレスの励ましも聞こえていないのか、レプスは俯く。


完全にダメな状態だ。


自己嫌悪のあまり自分の世界に閉じ篭っている。


「………」


フェレスは相談するように隣のイケメン雪だるまを見つめた。


つぶらな小石の目と猫目が見つめ合う。


やがて、一つ頷くと彼の身体を少し借りる。


雪を握り締め、顔を完全に下に向けたレプスのコートを背中側から引っ張る。


そして、出来た服の隙間から握り締めた雪を投入した。


「うひゃあああああ!」


背中に入ってきた雪にレプスは飛び上がった。


数秒目を白黒させた後、バッとフェレスに顔を向ける。


「ななな何てことするの!?」


「やっと正気に戻った。君って面倒臭い性格してますね」


「余計なお世話よ!」


息を荒げて激怒するレプスに先程までの暗さはない。


別の意味で心が乱れているが、何とか持ち直したようだ。


それを確認すると、再びフェレスは作業に取り掛かる。


今度はこのイケメン君に彼女を作ってあげなくては、


可愛い系よりも綺麗系で、歳はイケメン君より少し上で…


「…聞かないの?」


「んん? 何ですか?」


「私の力のことよ! 普通は驚いたり、怯えたりするものでしょ!」


鼻歌まじりに雪玉を転がすフェレスにレプスは叫ぶ。


それでもフェレスは手を休めず、作業を続けた。


「僕って滅多なことでは驚かないんですよ。それに普通でもないですし」


「普通じゃないって…そう言えば、アンタどうやって暴走した私を止めて…って聞いてる!?」


「お兄さんはとても忙しいのです。なので子供はその辺で遊んでらっしゃい」


「私は十八歳よ!」


「僕は二十歳です。目上の言うことは素直に聞くべきですよ」


完全に眼中にない様子のフェレス。


そんなフェレスに必死に叫ぶレプス。


その姿はまるで兄に構ってもらいたい妹のようだった。








「『アニマ寄生者』…私達は騎士団にそう呼ばれているわ」


雪掻きと雪だるま作成を終えた後、小屋の中でレプスは話し始める。


フェレスは近くにある椅子に座り、ホットミルクを飲んでいた。


「私達は『心を具現化させる力』を持ち、自身の最も強い感情を世界に具現化出来るのよ」


美味しそうにホットミルクを飲みながら、フェレスは外へ目を向ける。


外には未だ銀色の世界が広がっていた。


これは全てレプスの心が形となった結果。


「私のアニマは『マエスティティア』…静かで冷たい『悲哀』のアニマよ」


ホットミルクの中に角砂糖を落としながら、フェレスは笑みを浮かべた。


「私の心が沈めば沈む程に『寒気を具現化する能力』で…って聞いてないでしょ!?」


「え? ああ、聞いてる聞いてる」


「それは聞いてない奴のセリフだ!」


「聞いてますよー…それで、そのアニマ寄生者ってのは君以外にもいるんですか?」


まともな質問をするフェレス。


案外、本当にレプスの話を聞いていたのかもしれない。


「…十年前に起きた『災厄』を覚えてる?」


「………」


その言葉に、ようやく興味を持ったのかフェレスはレプスへ顔を向けた。


十年前の災厄。


それは帝国の北方『アルブス地方』で起きた火災だ。


数百、数千の人間が焼け死んだ大火災で今も人々の心に傷を残している悲劇だ。


「十年前、最初のアニマ寄生者が確認されたの。その少女は大火災の中で亡くなっているのだけど、彼女の後も次々とアニマ寄生者は生まれた」


「………」


「私がその六人目。だから私の他にもまだ四人のアニマ寄生者がいる筈よ…騎士団に捕まって殺されてなければね…」


レプスは騎士団に追われていた。


つまりはそう言うことなのだろう。


正義を謳うサンクトゥス騎士団は化物であるアニマ寄生者を探している。


騎士らしく化物を退治する為に。


世間一般的にサンクトゥス騎士団は『魂の救済』を思想とする宗教組織だ。


十年前の大火災時には人命救助を率先して行った慈善組織だが、正義も行き過ぎれば悪になる。


「それじゃ、今度はアンタが話してよ。フェレス」


「…何を?」


「何をって、少しはアンタのことを教えて欲しいってことよ。聞きっぱなしなんて卑怯だからね?」


勝気な笑みを浮かべてレプスは言った。

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