表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/53

第6章 激戦の闘技大会 ―前編―

 ガンッ!!

 ガキィィン!!

 ドゴォォォン!!!


 大きく開けた平地に響く音。

 ここは学園の外にある戦闘訓練場の1つだ。

 

 ある日の午後。

 いつものように戦闘訓練をしていた俺達のクラスだったが

 どういう訳か、周りのやる気が全然違った。


魔族生徒「うぉぉぉぉ!!」


神族生徒「なめるなぁぁぁ!!」


 周囲は、気合の入った連中の掛け声も飛び交い

 さながら戦場のような状態にも見える。

 フィーネやミリスは、対戦希望の連中に囲まれており

 次々と相手をさせられていたりする。


和也「・・・なんでこんなに、みんな全力なんだ?」


 俺の素朴な疑問に、正面でこちらに剣を向けていた亜梨沙が

 ため息をついた。


亜梨沙「兄さん・・・明日、何があるのか

    忘れてないですか?」


和也「何かあったっけ?


亜梨沙「闘技大会ですっ!」


和也「・・・ああ、そういやそうだったな」

 

 学園フォースには、3大イベントと呼ばれるものがある。


 1・全階級合同実戦試験

 2・階級対抗総合戦闘大会

 3・闘技大会  


 この3つが学園内で盛り上がるイベントであり

 一番成績に直結するイベントでもある。



・全階級合同実戦試験

 これは前にやった実戦試験だ。 

 パーティーを組んで小隊とし、指定された場所を回りながら

 ゴールを目指すという探索型の試験だ。

 別のパーティーとの戦闘もあり、様々なことが試される試験で

 戦闘を回避する行動でさえ評価される特殊な試験。

 探索エリア内で、他の階級の探索エリアと重なっている場所が数箇所あり

 1階級でも運が悪ければ5階級のパーティーに出会ってしまうことも

 あるので注意が必要とされる。

 どちらかと言えば索敵・生存が優先される

 戦闘外の能力も強く問われる試験でもある。

 前期と後期の年2回あるため、単位としての重要度も高めだ。

 

・階級対抗総合戦闘大会

 各階級ごとを1つの大隊とし、階級同士で戦う大規模な戦闘試験である。

 

 1日目 1階級VS2階級

 2日目 3階級VS4階級

 3日目 5階級VS特別編成チーム


 という対戦が決まっており、5階級は教師を中心とした

 特別編成チームを相手する。

 また特別編成チームには各階級の優秀生徒が混ざっていることもあるため

 さながらドリームチームのようなメンバーになることが多い。

 部隊単位の戦闘となるため、チームワークなどが重要になってくる。


 部隊指揮が得意な者が作戦を立て、索敵が得意な者が偵察をするなど

 どれだけ自分の役割をやり切れるか。

 そしてどれだけ適材適所で人材配置が出来るか。

 そういった総合的な要素が問われる。

 実際の戦場を想定しており、普段の少数VS少数の戦闘ではなく

 多数VS多数という普段あまり経験しない戦闘に、向き合う必要もある。



・闘技大会

 学園で磨いてきた力を学園全体に見せ付けるイベント。

 1対1の個人戦と2対2のペア戦があり、それを学園内の

 闘技場で全生徒が見ている前で戦うことになる。

 階級によるランク別けなど一切なく、1階級の生徒が

 5階級の生徒と戦うなんてことも十分にありえる

 ランダム対戦となっている。

 そのため、ここで活躍した生徒は嫌でも全階級に名前が知れ渡り

 注目されてしまう。

 

 ペア戦は、それを希望した生徒により行われる。

 簡単に言えば仲の良い奴と戦いたいという奴が

 申請する戦いの形式だ。

 ペア戦の場合は、一度に5チームが登場して

 そのうち3チームが脱落したら終了となる。

 自分か相方のどちらかが戦闘不能になった時点で

 チームの敗退が決定するため、注意が必要ではある。


 どちらも他人の試合をゆっくり観戦出来ることもあり

 一番盛り上がるイベントでもある。



亜梨沙「もう、何で忘れてるんですか」


和也「いや、最近色々あったからさ」


 フィーネやセリナ・エリナの王女様方との出会いがあったり

 ミリスに襲われたりで、ここ最近周囲の環境が激変していた。

 おかげで学園の授業よりも、そっちに意識が向きがちだったりする。


和也「・・・そうか。

   もう闘技大会か」


 学園では、より強い者ほど他の生徒達から尊敬や畏怖の対象となり

 また軍関連からの勧誘も激しくなる。

 特に有名になった生徒は、在学中にも関わらず魔族なら魔界で

 神族なら神界でといった自分の故郷で英雄的な扱いで迎えられる。

 

 実際、四界どの種族でも平民の出である生徒が

 学園で有名になり、それぞれの世界の重要な役職を任されたり

 貴族の称号を得て上流階級の仲間入りを果たした者も居る。

 そのため、学園で有名になるということは生徒達にとって

 憧れであり、目標であると言える。


 この学園に入ってくる誰しもが、自分がそんな英雄となることを

 目指して頑張っている。


 他の2つの大きなイベントと違い、全生徒が観戦している前で

 戦う闘技大会は、そんな名前を売る絶好の機会であり

 これに賭けている生徒は、かなり多い。


和也「・・・今年は、どうなるんだろうねぇ」


 期待と不安。

 その両方を噛み締めながらも、頭を切り替える。

 俺は、正面の亜梨沙に対して、『行くぞ』という合図を込めて

 剣を構え直した。





第6章 激戦の闘技大会 ―前編―





 一切の穢れを寄せ付けないほどの白銀が

 太陽の光で一層輝いて見える。

 その白銀を身に纏った神族の少女は

 ゆったりとした足取りで倒れこんだ相手に近づくと


セリナ「これで、終わりですね」


 優しい笑顔と共に、相手に剣を向けた。


竜族「ま、参りました・・・」


セオラ「勝負ありっ!!

    勝者! セリナ=アスペリア!!」


 その宣言と共に、静まり返っていた場内が

 一気に歓声で溢れる。


 一年で恐らく一番学園が盛り上がるイベントである

 闘技大会が開催されていた。

 現在、神界王女であり『白銀の女神』の二つ名を持つ

 セリナの試合が終わったところだった。

 相手が1階級の竜族だったこともあり、勝負は一瞬でついてしまった。

 こうなると逆に相手の竜族の娘が可哀想に思えてくるが

 実戦では、自分と格上の相手と戦う局面だって当然あるだろう。

 その場合に、どうやって戦うのかということも

 瞬時に考えられなければ、生き残れない。

 そうした咄嗟の判断であったり、相手への対策という点も

 闘技大会では評価の対象だ。

 だから勝てない相手であっても善戦出来れば

 しっかりと評価はしてもらえる。


 周囲でまた歓声が上がる。

 こうしている間も、また次の試合が始まったようだ。


リピス「さっきから黙っているが、どうした?」


和也「い、いや。

   何でもないよ」


 隣に居たリピスに声をかけられ、思わずドモってしまう。


リピス「そんなに妹の試合が心配か?」


 ニヤニヤとした顔でリピスがこちらを覗き込んでくる。


和也「さっきのセリナの試合。

   対戦相手の娘が可哀想だと思ってただけだよ」


リピス「なんだ、そんなことか。

    つまらん」


メリィ「そんなことを、お気になさるだなんて・・・。

    もしかして、先ほどの娘が和也様の好みなんですか?」


リピス「なにっ!?

    そうなのかっ!?」


メリィ「先ほどの娘、胸が結構大きかったですねぇ。

    和也様もやはり男。

    大きな胸が大好きなんですね」


リピス「そ、そうなのか・・・。

    ・・・胸」


和也「だから、どうしてそんな話になるんだよっ!!」


 この2人は、どうしてちょっとでも何かあると俺をネタにしたがるのか。

 そして、眉間にシワを寄せて自分の胸を見るリピス。

 ・・・結構、気にしてるんだな。


 今、俺の周りにはリピスとメリィさんしか居ない。

 フィーネや亜梨沙、エリナは今頃、出場待機場所に居るだろう。

 事前に引いたクジ引きで、自分の対戦順番は決まるため

 出番が近くなると待機場所へ移動する決まりになっている。

 待機場所では、1人づつ個室で待機させられるため

 対峙する瞬間まで対戦相手がわからないため、緊張する生徒が大半だ。


 俺はまだだが、リピスの試合はもう既に終わっていたりする。

 ・・いや、あれを試合と言っていいのだろうか。

 4階級の魔族が相手だったんだが、開始前から『魔族こそ最強だっ!』と

 高らかに宣言し、他種族を見下す発言を繰り返していた。

 リピスは相手の挑発に一言も返事を返すこともなく

 ただ開始の合図を待っていた。

 そして開始の合図があった瞬間―――

 相手は、リピスの一撃で闘技場の壁に叩きつけられ気絶していた。


 一瞬で相手の懐まで踏み込めるだけの圧倒的な速度もそうだが

 相手がギリギリ発動した防御魔法を、まるで何もないかの如く貫いた

 強力な一撃は、もはや反則だと言えるだろう。

 これだけのことをして、補助魔法一切使用してないのだから

 リピスが本気で暴れたら、それこそ誰も

 止められないんじゃないだろうか。


リピス「・・・おい、和也」


 そんなことを考えているとリピスが話しかけてくる。

 ・・・なにやら顔を真っ赤にしながらというのが気になるが。


和也「お、おぅ。

   どうした?」


リピス「・・・む、胸をも、揉むとだな・・・

    そ、その、あの、えっと・・・。

    大きく・・・なる、と・・・聞いたのだが・・・。

    ・・・私の胸も・・・そ、育てる・・・ために、だな・・・

    も、ももも揉ん、だり・・・する・・・のか?」


和也「えっ!?

   いやいやいやいやっ!!

   無いからっ!

   そんなこと無いからっ!!」


メリィ「リピス様、最っ高ぉぉぉぉぉぉ!!!

    はぁはぁはぁ・・・」


和也「やっぱりアンタが犯人かっ!!」


 普段は王族らしく、尊大な態度が多いリピスだが

 どうもエッチなネタは苦手らしく、あまり会話にも参加してこないのだが

 たまに亜梨沙のように変な暴走の仕方をすることがある。

 その変な暴走が見たいのか、よくメリィさんが

 色々吹き込んでいたりする。

 自分の主人で何をやってるんだろうね、この人。

 

リピス「・・・そうか。

    やっぱり、小さい胸では・・・ダメなのか・・・」


 今まで見たことがないくらいにテンションが下がるリピス。

 何もそこまで落ち込まなくても・・・。


和也「違うって!

   別にリピスの胸を揉みたく無い訳じゃなくてだなぁ・・・」


リピス「だ、だったら・・・。

    だったら、その・・・揉む、のか?」


和也「・・・まあ、アレだ。

   リピスが良いなら・・・まあ、別に」


リピス「・・・ッ!!!」


 ボンッ!!と、音と煙が出るような感じで顔を更に真っ赤にしたリピスは

 メリィさんの後ろに隠れてしまう。


メリィ「いやっぁぁぁぁぁぁぁ!!!

    リピス様、かわゆぃっ!!

    何がもうって全部っ!!

    あぁぁぁぁんっ!いやぁぁぁぁんっ!!

    きゃっほぉぉぉぉぉぉぉいぃぃぃぃぃぃ!!!」


フィーネ「ただい・・・ま・・・。

     ・・・何、これ?」


 いつの間にか試合を終えたフィーネが帰ってきたのだが

 目の前の光景は、そんな彼女の理解力を超えたものだったらしい。


 身体をクネクネとさせながら奇声を発する駄メイド。

 その駄メイドの後ろで顔を真っ赤にして隠れる普段からは

 想像できないリピス。

 そして周囲で起こっている竜族によるリピスへのバンザイコール。 

 

 このあまりのカオスっぷりに

 もはや俺も突っ込みを入れる気力もなかった。


セオラ「次の生徒!

    入場しなさい!」


 闘技場の一部が、カオスな状態にあろうとも

 セオラ先生による仕切りで次々と試合が執り行われる。

 そんな中―――


?「おーっほっほっほっ!」


 謎の高笑いが闘技場に響いた。

 何事かと闘技場を見ると、見るからにお嬢様という感じの

 神族の少女がいた。


?「さあ、ワタクシの舞台がやってきましたわ。

  みなさん、お待たせしてしまってごめんなさい」


 観客からの声援に答えるように

 手を振りながら余裕そうにしている神族の少女。


魔族男生徒達「アクアさ~んっ!!」


神族男生徒達「俺達が応援してますっ!!」


 信じられないことに普段から仲の悪い魔族の連中・・・というか

 種族を問わず、男連中からの声援が凄かった。

 例えるなら、それぞれの種族の王女様親衛隊に

 近いような感じといったところか。


 まあ、こんなバカ騒ぎされる相手と対戦でなくてよかったと思う。

 そう考えると、対戦相手は可哀想だな。


 ふと対戦相手が気になって視線を向けてみると―――


亜梨沙「・・・」


 物凄く、うんざりとした顔をしている亜梨沙が居た。


アクア「ワタクシの相手が人族、ということに文句もありますが・・・

    まあ、いいでしょう。

    レーベルト家の長女にして『氷の騎士』と呼ばれる

    このアクア=レーベルトと戦えることを光栄に思いなさい。

    おーっほっほっほっ!」


 よほど自信があるのか、大きな胸を揺らしながら

 大声で高笑いをする神族の娘。


セリナ「丁度、亜梨沙の試合ですね」


 いつの間にか帰ってきていたセリナが横に立つ。


和也「おかえり。

   まあ、あんな娘と対戦なんて亜梨沙の奴もついてないな」


セリナ「そうですね。

    レーベルト家と言えば、神界では

    知らない人が居ないほどですから」


 名門レーベルト家。

 セリナが言うには神族貴族の中でも特に有名で

 歴代の当主達は政治や軍事での

 重要な役割ばかりを任されている優秀な一家だそうだ。


 彼女は、そんな一家の長女で『氷の騎士』という

 二つ名を持つ騎士だそうな。

 ただ二つ名に関しては本人自らが、そう名乗っているものであり

 この学園フォースでようやく浸透し始めた程度の二つ名で

 四界的にみれば非常にマイナーらしい。

 しかし本人の実力は相当のものであり

 決して油断出来るものではないそうだ。


セオラ「生徒アクア、開始位置に移動しなさい」


アクア「あら。

    ワタクシとしたことが、失礼しましたわ」


 先生の軽い注意にも、平然とした顔で謝罪の言葉も素っ気無く

 少しも悪いと思っている様子はない。

 ただ自信に満ちた足取りで開始位置へと歩いている。


亜梨沙「・・・はぁ」


 一方、亜梨沙は『めんどくさい』という雰囲気を全開で出している。

 まあ気持ちは解らんでもない。

 俺だってこんな対戦相手だったら同じような顔をしていただろう。


神族女生徒「さっさと負けちゃえ、人族!!」


魔族女生徒「人族の癖に目障りなのよっ!!」


 相変わらず人族に対しての暴言もあったりして

 いつも通りの完全アウェーである。

 だが、常にこんな罵声を浴びせられる環境に居ると

 意図的にそういった雑音は遮断出来るようになるのだから

 人の環境への適応力というものは、凄いと思う。


セオラ「それでは、3階級 アクア=レーベルト

    2階級 風間 亜梨沙の試合を開始します」


亜梨沙「我が手に力を!!」


アクア「さあ、いらっしゃい。

    誇り高き我が剣よっ!!」


 2人は同時に儀式兵装を手にする。

 アクア=レーベルトは、剣の形をした儀式兵装を手にしている。

 その剣は、うっすらと青く光っているようにも見える。


セオラ「では、はじめっ!!」


 短くも力強い開始宣言と共に湧き上がる歓声。

 相変わらず、やかましいことだ。


アクア「では、行きますわよ!」


 声高らかに宣言した彼女は、正面から亜梨沙に向かって突っ込んでいく。

 そして剣を上から振り下ろす。

 これを同じく正面から受け止めようとした亜梨沙だったが―――


亜梨沙「・・・っ!!」


 強力な一撃に思わず受け流すように体勢を瞬時に変えると

 相手の力を利用して後ろに大きく跳躍する。


アクア「あら、初めから逃げの一手ですの?

    まあ、人族ですから仕方ありませんわね。

    おーっほっほっほ!」


亜梨沙「(・・・今のは、まさか)」


和也「・・・あれは、強化魔法か?」


セリナ「みたいですね。

    でも、あれは恐らく―――」


亜梨沙「(・・・恐らく、儀式兵装の特殊能力)」


 儀式兵装には一部だが、特殊な力を持ったものが存在する。

 例えば有名なのが、今は亡き魔王の儀式兵装だ。

 盾の形をした防御型だったが、その盾には魔法を反射する 

 特殊な力があったそうで、ほとんどの魔法を弾き返すため

 魔法が通用しない最強の防御力と称されるほどだった。


 血筋とか何か条件がある訳でもなく、本当に低い確率ではあるものの

 そういった特殊な儀式兵装を手にする者が居る。

 彼女もそんな一人だったのだろう。


アクア「ふふっ、どうやらワタクシの剣の素晴らしさに

    声も出ないようですわね。

    ワタクシの儀式兵装にはパワー・ウォーターが

    ワタクシの魔力を消費せず常にかかっている状態ですの。

    これこそ、ワタクシが選ばれた者であるという証ですわっ!!」


 上機嫌でそう語る彼女に対して、亜梨沙もそして俺達も呆れていた。


和也「何で自分でバラすんだよ・・・」


フィーネ「・・・」


 どんな力だって正確に把握さえすれば、何かしらの対策がある。

 しかし、たぶんそうだと相手の能力を決め付けて挑んだ時に

 もし違ったとなれば、こちらが逆に致命的な隙を生む可能性もある。

 だからこそ慎重に相手の出方や能力把握をするのは基本だ。


 相手に特殊能力のある儀式兵装だと認識されたとしても

 答えを言わなければ、それはどこまでいっても疑惑止まりだ。

 本当に自分の答えが合っているのか、それを元に戦っていいのかと

 疑心暗鬼にさせることも戦いにおいては重要な武器の1つであるにも

 かかわらず、アクア=レーベルトは、それをあっさりと捨てたのだ。


亜梨沙「・・・バカ女」


アクア「そんなにお褒めにならなくても・・・。

    あら? 何か違う言葉を仰りませんでした?」


亜梨沙「別に。

    素敵な武器ですねと言っただけです」


アクア「あらまあ。

    どうしようもない野蛮な人族でも

    ワタクシの儀式兵装の素晴らしさが

    理解出来たようで何よりですわ」


 おほほと、また高笑いをするアクア。

 そんな彼女を呆れ顔で見る亜梨沙。


亜梨沙「(どれだけバカでも、儀式兵装だけは厄介ですね)」


 ゆっくりと構えを取り始める亜梨沙。

 うっすらと青い刀身は、やはり水魔法の強化付与。

 常に強化魔法がかかっているということは

 常にあの力で攻撃してくることを意味する。

 魔法として使用していない分、魔力消費や制御に

 一切気を使う必要がないため単純な効果ではあるが

 非常に効果的であるとも言える。

 非力さを速度でカバーしている亜梨沙にとっては

 羨ましい能力であると言える。


亜梨沙「(今更それを嘆いても意味がありません。

     私は、私らしく戦うのみです)」


 加速魔法を準備しながら相手に向かって走り出す亜梨沙。

 途中で加速魔法がかかり、一気に高速で相手の前まで距離が詰まる。


 急激な速さに驚くアクアの表情すら気にも留めずに

 素早く相手までの距離を詰めた亜梨沙が突きを放つ。


アクア「そんな攻撃、当たりませんわよ」


 あくまでも優雅にという感じで回避するアクア。

 しかし、その突きは途中で止まると、横薙ぎに変化する。


 キィン!


 軽い金属音。

 避けられないと察したアクアは、剣で受け止める。

 その直後、亜梨沙は既に蹴りのモーションへと移行していた。


アクア「くっ!」


 何とか片腕を引くのが間に合い、蹴りを受け止めるモーションを取る。

 しかし蹴りは、亜梨沙のフェイントだ。

 亜梨沙は、蹴りと見せかけて防御しにきた相手の腕にそのまま足をかけて

 相手の腕を弾き飛ばしながら、一気に相手の真上に飛んだ。


 全てが高速かつ見たことも無い動きにアクアは、一瞬反応が遅れる。

 相手の真上に飛んだ亜梨沙は、そのまま刀を振り下ろそうという

 モーションを取る。

 一本の腕に体重をかけられた上、亜梨沙が飛ぶ際の反動で

 片腕を大きく弾かれた形となり、かなり体勢が崩れているアクア。

 いくら亜梨沙が軽いとはいえ、人間一人の体重を同じく年頃の女の子が

 支えられる訳が無い。

 それでも剣を持った方の腕だけを自分の頭の上に持っていき

 防御の姿勢を作ろうとしている。

 そしてアクアの剣が、亜梨沙の落下より僅かに早いようにも見える。

 だが―――


アクア「―――ッ!!?」


 亜梨沙は、落下しながら構えた刀を振り下ろすことなく着地する。

 そして着地した瞬間、既に刀を水平に振り抜こうとする構えを

 取っていた。

 更にその刀の刀身は、うっすら緑色に輝き出す。


亜梨沙「パワー・ウインド」


 その言葉と共に亜梨沙は、一気に相手に向けて刀を振り抜いた。


 バリィィン!!

 

 何かが砕ける音と共に、大きく吹き飛ぶアクア。

 そして地面を滑るズザァァァ!!という音がして

 ようやく彼女の身体は、移動を停止する。


 周囲に舞った砂埃が無くなると、そこにはアクアが倒れていた。

 会場は静まり返っていた。

 亜梨沙は、軽く息を吐く。


 鞘に刀を戻すと、アクアに向かって一礼して

 セオラ先生の終了宣言を待たずに、出口へと歩き出す。


?「まだ・・・終わって、いませんこと・・・よっ!」

 

 静かな会場に響く声。

 そして亜梨沙は、ゆっくりと振り返る。


アクア「勝手に・・・終わりにしないで、欲しいですわっ!」


 ゆっくりと立ち上がるアクア。


亜梨沙「・・・なるほど。

    アレではダメでしたか」


 あまり驚いている様子もなく、淡々としている亜梨沙。


セリナ「・・・良い反応でしたね」


和也「咄嗟にアイスシールドを展開して亜梨沙の一撃を遅らせながら

   威力を削いで、更に同時展開したウォーターシールドで

   直撃を防いだ・・・か。

   亜梨沙の一撃を完全に防げなかったとは言え

   よく対応出来たなと思う。

   あのお嬢様、凄いじゃないか」


 観客席に居る和也とセリナが、そんな話をしていると・・・


 ウオォォォォォ!!!

 

 歓声が巻き起こる。

 これは良い戦いをしているなとか、立ち上がったアクアへの激励だとか

 ましてや亜梨沙を褒める声ではない。

 他の3種族が、人族に負ける訳が無い。

 今のはちょっとしたマグレで、スグに人族が負けるはず。

 そんな意味が込められた、どうしようもない連中の叫び声である。


和也「・・・しかしアレだ」


 別段何かがあった訳ではない。

 そう、ただ痛みに耐えて立ち上がっている姿なだけなのに・・・。


和也「・・・とりあえずエロい」


セリナ「え? 何か言いましたか?」


和也「いや! 何も言ってないぞっ!」


 こちらを不思議そうに見るセリナ。

 

和也「(危ない、口に出ていたか)」

 

 何とかバレずには済んだが、これは色々と問題だろう。

 ふと周りを見ても神族も魔族も男連中は、ジッとアクアを見ている。


 さっき立ち上がる時も、大きな胸が揺れていた。

 ただ揺れていただけならいいのだが、どういう訳か無駄にエロいのだ。

 何がどう他と違うのかと問われても答えは出せない。

 しかし、何か圧倒的に違う。

 そしてこの時点で、ようやく理解した。


 アクア=レーベルトが種族を問わず男連中から人気な理由。

 大きな胸が特徴的のスタイル抜群な身体。

 顔も美少女と言えるし、家柄も申し分ない。

 これだけでも人気になれる要素たっぷりなのに

 更に、この無駄なエロさが加われば

 そりゃ男連中が放っておかないだろう。

 あのエロさは、もはや特殊能力の域だ。

 計算だろうがそうでなかろうが

 あのエロさは男を堕落させる危険なもの。

 特にあの胸は、まったくもってけしからん。

 何だ? 揉むのか? 揉めばいいのか?


セリナ「和也くん、どうしましたか?」


 ふと気づくと、こちらの顔を覗き込むようにして

 前に居るセリナと目が合う。


和也「おおおぅ!

   な・・・なな何だ?」


セリナ「ずっと、ぼーっとしていたみたいですから

    大丈夫かなと思いまして」


和也「何でもない、何でもないっ!!」


 色々と危なかった。

 いや、本当に危なかった。

 これは精神力の必要な戦いだ。

 しっかりと、おっぱ―――もとい亜梨沙の試合を見なければ。


 しかし、そう考えるとセリナの胸も大きい。

 まだ可愛らしさが残る顔立ちとは違い、身体は立派に女を主張している。

 そう言えば双子のエリナも胸、結構あったな。

 こう腕を絡めてくる時に当たるムニっという感触がまたなんとも―――


 ・・・ああ、ダメだ。

 色々と末期だ。

 余計なことばかり考えてしまう。

 俺は、自分の頬を両手でパンパンと叩いて気合を入れ直す。


フィーネ「ん?

     どうしたの、和也?」


和也「な、何でもないって」


 俺だって健全な青少年だ。

 そういう妄想の1つや2つはする。

 しかし、それを年頃の女の子に理解しろとは言えない。

 理解どころか軽蔑されるのがオチだ。

 

 周囲の女性陣に気づかれないように何とか色々と話題を逸らす。

 そんなことをしている間に、試合も動き出す。


亜梨沙「・・・」


 ゆっくりと刀を抜いて構える亜梨沙。


アクア「このワタクシを本気にさせたこと・・・

    後悔させてあげますわっ!」


 儀式兵装を掲げて四翼を開く。

 弾装の薬莢が地面に落ち、カランと音が鳴り

 彼女の足元に青く輝く魔方陣が展開される。


アクア「全てが凍りし、極寒の地。

    アナタは、生きて出られるかしら?

    さあ、いきますわよっ!!

    ワールド オブ アイスッ!!!」


 魔方陣が放つ強い光に闘技場全体が包まれる。

 あまりの眩しさに目を閉じる。

 そしてそのまま数秒後。


フィーネ「・・・フィールド変更魔法ってところかしら?」


リピス「なかなか、面白そうじゃないか」


 聞き慣れた声に、ゆっくりと目をあける。

 いつの間にかフィーネとリピスが、セリナと同じく隣に立っていた。

 感想を言う彼女らに対して、会場は誰も居ないと錯覚するほど

 静まり返っていた。

 俺は、フィーネ達の視線を追って、ゆっくりと亜梨沙達が居た

 戦闘フィールドを見る。

 

 そこには、別の世界が広がっていた。

 巨大な氷柱が、いくつも立ち並び

 フィールド全体が氷に閉ざされたエリアと化していた。


和也「・・・こんな魔法、見たことないぞ」


 魔法は、基本的に形が決まっていないため、様々な応用が可能だ。

 ただ、制御が非常に難しいため、それらを簡略化して使いやすくした

 テンプレート魔法が一番初めに覚える魔法となる。

 ファイア・アローやパワー・ウインドなど

 みんなが使っている魔法がそれで

 これらテンプレ魔法は長年の研究結果として

 非常に扱いやすい術式に進化したため

 誰もが好んで使用する一般的な魔法となった。


 逆に1から生み出すオリジナル魔法は、使い手が少ない。

 既存の概念に囚われない発想力と、オリジナル魔法を作れるだけの

 魔法制御力や魔法知識を持っている者が、そもそも少ないためである。

 なのでオリジナル魔法は、一種の強さの基準とも言え

 魔法を使う者達にとってはオリジナル魔法は

 1つの目標であり憧れでもある。


 そんなことを考えながらも亜梨沙を探す。

 すると大きな氷柱の横に立っていた。


亜梨沙「・・・」


 亜梨沙は、刀を構えながら周囲の様子を伺う。

 オリジナル魔法と言っても大半は、解りやすい攻撃魔法等が主流だ。

 魔法で広範囲のフィールドを変えるなんてやり方、経験したことがなく

 相手の次の一手が、まったく読めない。

 様子見するしかない状況に、自然と刀を握る手にも力が入る。


 ガシャーン!! 


 後ろで何かが砕けた音がする。

 見れば氷柱の一部が落ちて砕けた音だった。

 その瞬間、まるで亜梨沙が振り返るのを待っていたかのような

 タイミングで、亜梨沙の後ろから氷の槍のようなものが

 亜梨沙に向かって飛んできた。

 気づいた亜梨沙は跳躍して回避する。

 着地した瞬間、氷の張っている地面のせいで足が滑って着地が乱れる。

 その隙を見逃さないというようなタイミングで

 またも亜梨沙の前方と後方から、何本もの氷槍が亜梨沙を襲う。


 だが亜梨沙に命中する少し手前で、氷槍達は亜梨沙を避けるように

 急に向きを変えて違う場所へと飛んでいった。


和也「・・・ウインドシールドか」


 薄っすらとした壁が亜梨沙を周りを包んでいたのが

 氷槍が向きを変えられた瞬間

 その一瞬だけ見えた。


リピス「亜梨沙は、バランスの取れた良い戦士だな」


和也「まあ亜梨沙は、人界最強と呼ばれる風間流の師範代の一人だからな」


リピス「確か師範代は・・・教える立場だったか?」


 そうだなぁ、と少し前置きをしてから風間流の称号説明をする。


和也「まず最高師範。

   これが亜梨沙の爺さんで、風間の全てを決める決定権を持ってる。


   次に師範。

   まあクソ爺は、門下生の相手なんぞ滅多にしないから

   門下生を指導している最高指導者的な存在になってる。

   この師範をしてるのが亜梨沙の父親。


   その次が師範代。

   師範の代わりに人界の様々な場所で流派を教えている。

   まあ先生的な位置がこれだな。

   基本的に風間流で、まず目標にされるのが師範代ってこともあって

   全門下生の手本となるような者が選ばれているらしい。

   亜梨沙を含めて確か今は、10人ぐらいだったはず。


   で、次が準師範代

   基本的には師範代のサポート役という感じの扱いだ。

   だから師範代が中々見に行けない地方の道場なんかを中心に

   指導しに行ってる人が、ほとんどだな。

   人数も確か10人ちょっとだったはず。


   この次が、名乗り。

   名乗りは、まあ風間流以外の誰かと試合をする際に流派の名を

   名乗っていいかどうかの称号だ。

   流派の名を背負えるぐらいの強さを持っていると判断された奴だけが

   これになる。

  

   その下も色々あるが、名乗りより下は、似たようなものばかりだし

   長くなるから省く。

   まあ門下生が、数十万人居ると思ってくれればいい」


リピス「・・・ほぅ。

    まあ私の金麟を抜いたぐらいだし

    人界で亜梨沙は、かなり上位のレベルだということか」


和也「そういうことだな。

   あいつは自分を卑下する悪い癖があるが

   本人が思っている以上に亜梨沙は、強い」


 亜梨沙の全力を誰よりも知っているからこそ俺は、そう断言できる。

 そして何より、あの若さで風間流の師範代になった者は

 歴代を通しても数えるほどしか居ない。

 それほどまでに亜梨沙は、実力があるのだ。

 ただアイツの悪い癖で、全力で戦うことが滅多にない。

 俺には、いつも全力で戦わないことについて文句を言う癖に

 亜梨沙の方こそ全力で戦わないじゃないかと言っても

 スルーしてくる不公平さ・・・それが亜梨沙だ。

 

 俺とリピスが話している間も、亜梨沙の戦いは続いている。

 

亜梨沙「・・・っ!!」


 緩急をつけながらも常に死角から飛んでくる氷槍。

 滑る足元のせいで、なかなか上手く動けないながらも

 それらを回避しながら前へと進み、大きな氷柱の角を曲がった瞬間―――


アクア「待っていましたわっ!」


 亜梨沙が来ると予想していたアクアは

 無数の氷槍を周囲に準備していた。

 それらを一斉に亜梨沙へ向けて飛ばす。


亜梨沙「ウインドシールドッ!!」


 咄嗟に弾装を使用し、名前を叫んで魔力制御に集中する。

 弾装の薬莢が地面に落ちた瞬間、無数の氷槍が亜梨沙に襲い掛かる。


 亜梨沙は、風盾により強引に氷槍の軌道を変えようとする。


アクア「モード・ペネトレイトッ!!」


 アクアの声に反応してか、風盾にぶつかっていた氷槍のうち

 3本だけを残して、あとは全て砕け散る。

 だが残った3本は、風盾による軌道変更に逆らうように

 ズレていた矛先を亜梨沙に向け直した。


 何かを察した亜梨沙は、横へ逃げようとする。

 その瞬間、風盾を勢い良く氷槍が貫通して亜梨沙を襲う。


亜梨沙「―――ッ!!」


 何とか直撃は回避したものの氷槍の1本が亜梨沙の左腕に

 少し触れたらしく、服が少し切り裂かれて

 血が滲んでいる。


アクア「まだまだ、これからですわよっ!!」


 アクアは、更に氷槍を発射する。


亜梨沙「ウインドシールドッ!」


 風盾を展開するも―――


 バシュッ!!


 貫通力が増した氷槍は、いとも簡単に風盾を貫き亜梨沙に迫る。


亜梨沙「くっ!」


 下手に斬れば魔力爆発が起きるため、何とか刀で氷槍の矛先を

 ズラして回避する。


アクア「はぁぁぁぁっ!!」


 氷槍が回避されることを予想してか、アクアが跳躍して

 上から剣を振り下ろしてくる。

 亜梨沙は、それを横に飛んで回避するも

 またも着地で足が滑って体勢が崩れる。

 しかしアクアは、跳躍からの着地の際も

 まったく足を滑らせることはない。


アクア「もらいましたわっ!!」


 アクアは、振り落とした剣を水平に素早く構え直して亜梨沙に突っ込む。

 自身が作り出した氷の空間ゆえに、アクアが凍った地面で

 足を滑らせるようなことはないのだろう。


アクア「パワー・アイスッ!!」


 水の強化魔法がかかっている剣に、更に氷の強化魔法を重ねて

 アクアは、亜梨沙に向かって剣を薙ぎ払う。


亜梨沙「―――ッ」


 風盾も間に合わず、刀で受け流そうにも不安定な足元のおかげで

 体勢が崩れているだけでなく、力を入れて踏ん張ることも出来ない。

 しかもただでさえ力負けしていたところに強化魔法の重ねがけをされては

 とてもではないが防ぎきれない。

 

 何とか刀で受け止めようとするも、吹き飛ばされて

 大きな氷柱に激突する。

 氷柱は、衝撃に耐え切れずに倒壊していく。

 倒壊した氷柱で亜梨沙が激突した付近は、白い霧に覆われる。

 氷柱の瓦礫が亜梨沙の居た付近へ崩れ落ちる中、更にアクアは

 氷槍を発射して追撃をかける。


 そして数秒後、霧が晴れる。

 亜梨沙が居た場所は、倒壊した氷柱の残骸で埋まってしまっていた。


観客達「うぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」


 一気に歓声が上がる。

 神族達を中心に、アクアへの賞賛の声も聞こえてくる。


セリナ「・・・和也くん」


 少し不安げな顔で俺を見るセリナ。


メリィ「・・・あの一撃。

    かなりまともに入ってしまいましたね」


 メリィさんも心配そうにしている。

 亜梨沙の心配をする2人に俺は『大丈夫』と声をかける。

 風間の師範代が、あの程度の攻撃で倒せるのなら

 誰も苦労はしないだろう。


 闘技場内は、アクアコールが起きており

 アクアも手を振って声援に応えている。

 もう勝ったつもりなのだろう。


 しかしセオラ先生は、まったく勝利宣言をする気配がない。

 それを気にしてか、アクアが声をかける。


アクア「ワタクシの勝利宣言は、まだですの?」


セオラ「・・・生徒アクア。

    あの燃え上がるような闘志に気づきませんか?」


 セオラがアクアにそう告げた瞬間だった。

 突然崩れた氷柱のあたりから竜巻が発生し

 辺り一面の氷柱の残骸を上へと吹き飛ばしていった。


 竜巻は、地面の氷まで吹き飛ばし

 氷柱の残骸があった付近だけ土の地面が見えている。

 そして消えた竜巻の中心には、亜梨沙が立っていた。


和也「・・・あ~あ」


リピス「ん? どうした?」


フィーネ「どうしたの?」


 2人が同じタイミングで声をかけてくる。


和也「まあアレだ。

   亜梨沙の奴、完全に怒り爆発ってところだな~と」


 長年、亜梨沙を見てきたから解る。

 あの眼は、完全に切れてるな。


フィーネ「怒ると何かあるの?」


和也「亜梨沙は、普段だと対戦相手にも気を使うことが多い。

   よほど嫌いな相手以外だと、一方的な展開にせず

   相手に多少は華を持たせたりして『良い勝負』をワザと演じる。

   まあ師範代としては、それでいいんだがな。

   でも、あの眼になった亜梨沙は、完全に容赦が無くなるんだよ。」


 俺も昔、あの眼になった亜梨沙と戦ったことがあるが

 普段は、絶対にやらないような相手の苦手な箇所を執拗に狙う攻撃や

 嫌がらせのような小技などを躊躇い無くやってくる。

 いつもは、全力を出さないように抑えているものが

 一気に出るという感じで、まさに亜梨沙の本気モードだと言える。

 ・・・まあ怒っている分、判断力が少し鈍くなるのが欠点だが。


フィーネ「なるほど、亜梨沙の本気か・・・」


リピス「・・・ほぅ。

    それは愉しみだ」


 リピスとフィーネは、不敵な笑みを浮かべる。


 闘技場内は、また一気に静まり返った。

 あれだけ綺麗に決まったと思える一撃を受けて

 まるでダメージを受けていないが如く、普通に立っているのだ。

 アクアも驚いた顔をしている。


 亜梨沙は、刀を構えると魔力を一気にチャージする。

 足元に緑色をした魔法陣が展開され、亜梨沙の構えた刀が

 緑色に輝き出す。


亜梨沙「風間流 ―かぜしょう― 烈風破滅斬れっぷうはめつざんッ!!!」


 叫びと共に亜梨沙が刀を振り下ろす。

 その瞬間―――


 大きな衝撃音と共に辺り一面を爆発と砂塵が覆った。


 しばらくして辺りを覆っていた砂塵が無くなる。

 すると、戦闘フィールドが激変していた。


アクア「・・・そんな」


 アクアが作ったフィールドは、完全に崩れ去り消えていた。

 魔法で作られたフィールドは、本来破損しても魔力を込めるだけで

 元通りになる。

 しかし亜梨沙の一撃は、アクアのフィールドを作り出した

 フィールドを完全に破壊し、再生不可能な状態となっていた。

 それはすなわち、亜梨沙の一撃に使った魔力が

 アクアのフィールドを作っていた魔力よりも

 完全に上だということの証明である。


アクア「(み、認めません・・・。

    そんなこと、認めませんわっ!!)」


 神族や魔族は、翼のおかげで魔力を増幅することが可能なため

 強力な魔法が行使可能だ。

 逆に翼を持たない竜族や人族は、本来魔力的には劣ってしまうために

 あまり強力な魔法は使えない。


 しかし目の前の人族は、いったい何なのだ。

 神族である自分が翼を開いて弾装まで使用して使ったオリジナル魔法を

 同じくオリジナル魔法のような一撃で完全に潰した。

 しかも弾装を使わずに。

 そんな魔力を持った人族なんて聞いたことがない。

 そして、ここまで人族が強いという話も。


亜梨沙「・・・」


 亜梨沙は、無言のままアクアの近くまでゆっくり歩く。

 そして―――


亜梨沙「最強を掲げる風間流。

    その創設者、風間かざま 一刀斎いっとうさいすえ

    風間 亜梨沙!

    流派師範代の末席なれど、剣舞見せよう、風間の舞をっ!

    風間は、ただ勝利あるのみっ!!」


 亜梨沙は『名乗り』を上げ、刀を持ち直して右半開の構えを取る。


 『名乗り』とは、風間流の中でそれが許された者が

 誰かと試合をする際に流派を名乗る行為だ。


 風間の名を広めるために名乗るのではなく

 『これから全力でお前を倒すぞ』という意思表示として

 用いられているのが風間の名乗りである。

 

 そして名乗りを上げた以上、決して無様な戦いは許されない。

 常に最強を掲げる風間において、名乗りとは

 それほどまでに重要なものとされている。


亜梨沙「スピードアップ・セカンドッ!!

    パワー・ウインドッ!!」


 叫んだ瞬間、一気に高速化してアクアの後ろまで回り込む。


アクア「アイスシールドッ!!」


 後ろからの一撃をアイスシールドで耐える。

 亜梨沙は、そのまま構わずに弾装を使用した2撃目を放つ。

 弾装の純粋魔力を攻撃に回しての一撃に氷盾は砕かれる。

 

 だがアクアも既に振り返っており、振り向きながらの一撃を放つ。

 亜梨沙は、その一撃を受け流すとカウンター気味に蹴りを入れる。

 脇腹に蹴りを受け、アクアが後ろに下がろうとするところを

 更に加速魔法による圧倒的な速さでアクアの後ろに、また回り込んだ。


亜梨沙「―――ッ!」


 後ろに回り込んだ亜梨沙だったが、アクアの後ろには

 まるで回り込まれるのが解っていたと言わんがばかりに氷槍が3本

 亜梨沙に向いていた。

 回り込んだ勢いを殺さずにそのまま側面まで移動する亜梨沙。

 それにより飛んできた氷槍は回避出来たものの

 その動きを予測していたかのように

 側面を向いていたアクアの一撃が亜梨沙を襲う。

 だが、アクアの完璧とも思える一撃をも亜梨沙は『旋風』で返す。


アクア「アイスシールドッ!!」


 タイミング的には決まったはずの旋風だったが

 アクアは弾装を使用しての氷盾で亜梨沙の旋風を防ぐ。

 攻撃を防がれた亜梨沙は、嫌な予感を感じて横に飛ぶ。


アクア「ブレイクジャベリンッ!!」


 アクアの声と共に氷盾が砕ける。

 しかし、ただ砕けたのではなく槍と化した破片が

 亜梨沙の居た場所に、大量に突き刺さる。

 判断が少しでも遅ければ亜梨沙は、危ないところだっただろう。


 そしてアクアの魔法制御技術も凄いと言える。

 本来、暴走させて爆発を誘発する『ブレイク』魔法を

 狙いを持たせて爆発をさせるとは。

 いや、あそこまでいくと、もはや別魔法への発展というべきか。

 どの道これほどの技術は、学園フォース内でも滅多に居ない。

 

 氷槍を回避した亜梨沙は、刀の先をアクアに向けた形で構えて

 姿勢を低くしていた。

 そして―――


亜梨沙「風間流『まい鬼刃きば


 呟き声の後、亜梨沙が一気に距離を詰める。


アクア「ッ!?」


 加速魔法を使用しての高速突きの嵐にアクアは

 氷盾を使いながらも必死に防御に徹する。

 そして防御に専念しすぎるあまり、足が止まってしまう。

 それが一番『鬼刃』に対してして、やってはならないことだと知らずに。


 足を止められロクに動き回れなくなった状態の相手に

 鬼刃の容赦の無い全力攻撃が始まる。

 ここぞとばかりに正面からの突きだけではなく側面からの攻撃や

 フェイント等が混ざり始め、攻撃の精度だけでなく

 攻撃速度まで上がり始める。

 全てが変則的かつ立体的な攻撃に、反撃どころか防御すら間に合わず

 対処しきれない攻撃で、腕や足に切傷が増えていく。


 しかしアクアも、このまま負けるような戦士ではない。


アクア「アイスシールドッ!!」


 亜梨沙が剣を引いた一瞬のタイミングを見逃さずに翼を広げ

 弾装を使用して全方位を囲むように氷盾を展開するアクア。


 目の前に出現した氷盾に亜梨沙は、1歩距離を取るも

 スグに姿勢を低く構え直して―――


亜梨沙「パワー・ウインド・セカンドッ!!」


 刀に、中級強化魔法をかける。

 直後に亜梨沙は、再び鬼刃を舞う。

 始め一撃目に魔力の衝突が少しあっただけで

 亜梨沙の刀は氷盾を貫通した。

 鬼刃の驚異的な連続突きにより一瞬で穴だらけになる氷盾。


 時間稼ぎまで潰されたアクアは、氷盾を捨てて後ろに下がる。


アクア「(いったいあの人族は、何者なんですのっ!?)」


 一般的な人族の平均レベルでは、中級の補助魔法1つが限界だ。

 目の前の相手は、腐ってもフォースに入学出来る相手と考えれば

 刀にかけた初級強化魔法と加速魔法の中級を同時使用しているのも

 まだ納得出来る。

 しかし、それが限界だ。

 それ以上は、魔力制御がどうとかの問題以前に

 『魔力そのものが足りない』のだ。

 

 翼の無い人族では、そこまでの魔力を用意することは出来ない。

 だから使える資質があっても根本的に無理であり

 弾装を使用して無理やり使えたとしても

 弾装分の魔力が切れれば維持出来なくなるため持久力が無い。

 だが目の前の人族は、弾装も使用せずに中級魔法を2つ併用している。

 

 亜梨沙は、後ろに下がったアクアとの距離を一瞬で詰める。

 加速魔法相手に距離をあけることが出来ず、再び防戦一方になるアクア。


アクア「・・・」


 必死に防戦するも徐々に押し込まれていく。

 直撃を回避するのが精一杯で、避けきれない攻撃に

 また切傷が増えていく。


 自然と悔しさが胸に広がる。

 学園に入学してから一度たりとも負けたことはない。

 今まで自分よりも上の階級相手でも勝利してきた。

 一度に複数の相手と戦っても常に勝ってきた。

 だからこそ間違いなく学園内でも、かなり上位の実力者であるという

 自信もある。


 そんな自分が、ここまで押されているのだ。

 人族は、弱いと言ったのは誰だろう。

 少なくとも目の前の戦士は、他種族に劣っているとは思えない。


亜梨沙「―――ッ!」


 アクアの防御を正面に集中させ、その隙を突いて

 またも脇腹を狙う軌道で蹴りを放つ。

 その蹴りを回避しようとしたアクアだったが

 それが亜梨沙のフェイントだと気づいた時には

 既に亜梨沙の蹴りが、アクアの剣を持った手を捉えていた。


 剣を持った手を捉えた蹴りが、そのまま勢い良く押し込まれる。


アクア「くぅっ!」


 腹まで押し込まれた蹴りで、剣の柄が脇腹にめり込んだ。

 苦痛で一瞬怯みそうになるが、痛みを堪えて氷槍を1本素早く作り出すと

 亜梨沙に向かって放つ。


 亜梨沙は、それを難なく回避すると、そのまま追撃しようとする。

 しかし足元にチラリと見えた氷槍に、後ろに軽く飛んで距離を取る。

 その瞬間、下からの氷槍が亜梨沙の居た場所から上へ飛んでいく。

 一瞬空いた距離のおかげでアクアは、体勢を整える。


 亜梨沙は、様子を見ることにしたのか

 刀の先をアクアに向けた形で、低い構え姿勢のまま動かない。

 

アクア「(くっ・・・力が・・・)」


 剣を思わず落としそうになり、手に力を入れ直すも

 思うように力が入らない。

 視界も少しボヤけてきている。

 ・・・恐らく、血を流しすぎたのだろう。

 身体中についた切傷は、既に痛みを感じないものの

 未だに少量ではあるが血を流し続けている。


 それでも構えは、崩さない。

 無様な姿は、決して見せない。

 

アクア「ワタクシは、アクア=レーベルトッ!

    誇り高き名門レーベルト家の長女ッ!!

    敗北など、決してありえませんわっ!!」


 翼を広げ、弾装を使う。

 アクアの周囲に氷槍が精製されていく。

 1本作るごとに弾装が排莢される。

 連装式の利点を最大限活用し、1本1本を必殺の威力としているようだ。


 儀式兵装の弾装は、二種類ある。

 単装式と連装式だ。

 

 単装式は、1発使うごとに弾を装填しなければならないという

 欠点があるもののその形状は連装式よりも大きく

 威力も連装式よりもかなり高い。

 連装式は、儀式兵装によって数が変わるが

 内部に数発から数十発の弾を入れておくことが出来る。

 そのため1発ごとにリロードが必要な単装式とは違い

 ある程度リロードの心配をせずに使用することが出来る。

 だが、単装式より弾は小さく威力も低い。


亜梨沙「・・・」


 強化魔法と加速魔法を維持しながら、鬼刃の構えで

 アクアの準備が整うのを待つ。

 待たずに鬼刃を舞い続ければ、恐らく押し切れただろう。

 しかし亜梨沙は、アクアの全てに正面から挑むつもりでいた。

 それは『名乗り』に値する強敵に対する敬意だけでなく

 流派師範代としての亜梨沙のプライドでもあった。


 そして、アクアの準備が整った。

 彼女の周りには30本を越える氷槍がある。

 その数に誰もが驚く。

 アロー魔法と違うものではあるのだろうが、それでもそれに近い魔法で

 この数を揃えた者が、今まで居ただろうか。


アクア「・・・アナタ。

    名前は、何だったかしら?」


亜梨沙「・・・風間 亜梨沙です」


アクア「そう。

    その名前、しっかりと覚えましたわ」


 その言葉と共に、掲げていた剣を亜梨沙に向ける。


アクア「行きますわよ、風間 亜梨沙ッ!!」


 一斉に氷槍が、まるで雨のように亜梨沙に降り注ぐ。

 それを亜梨沙は、何度も回避する。

 1本でも直撃すれば即負けが確定するほど強力な一撃を持つ氷槍の雨を

 まるで踊りでも踊っているかのような動きで

 氷槍を避けながらアクアに近づく。


 途中、避けきれない一撃に左腰にある刀の鞘を投げる。

 氷槍にぶつけた際に出来た一瞬の空間を全力で通り抜け

 ついにアクアの目前にたどり着く。

 亜梨沙の儀式兵装の弾装が使用され、排莢された薬莢が

 弧を描きながら宙を舞う。

 そして走り込んだ勢いのまま、アクアに向けて刀を振る。


アクア「パワー・アイス・サードッ!!!」


 叫び声と共に排莢された薬莢が、弾き飛ばされたかのように

 勢い良く飛び出す。

 あれだけの魔法を使ったにも関わらず上級魔法を使用するアクア。

 力を酷使した反動か、身体が悲鳴を上げるように痛むも

 構わずに魔法を使う。

 弾装を単純な魔力付与として剣に使うのではなく

 上級魔法を使用するためのブーストとして使用したのは

 彼女の魔力が既に限界だということだろう。

 

亜梨沙「(あれだけ使ったのに、まだ魔力や弾装が残ってるっ!?)」


 アレだけ魔力を注ぎ込んだ必殺の氷槍を

 全て囮にして待ち構えていたアクアに亜梨沙は、驚くしかなかった。


 氷槍に全ての魔力を使ったと思い、魔力の再チャージ前に接近戦に

 持ち込んでしまおうと大きく踏み込んだのだ。

 まさか待ち構えられていると思わず

 逆に大きく踏み込んだことが仇となり回避行動が取れない状況に

 なってしまったため、そのまま攻撃を選択する以外に道が無くなる。


 一方アクアは、思わず笑みを浮かべる。

 ・・・そう。

 全てアクアが『狙った通り』の結果なのだ。

 まさにアクアの執念が呼び込んだチャンスと言えるだろう。


 アクアは、強化魔法が付与された剣で亜梨沙の一撃を

 下から上へと、思いっきり弾く。


 ガキィィン!!


 高めの金属音と共に亜梨沙の刀が宙を舞う。

 中級の強化魔法に弾装の魔力付与があったとしても

 相手は、儀式兵装による初級強化と強力な上級強化魔法だ。

 アクアの強力な一撃に耐え切れず、刀を手放してしまった亜梨沙。


アクア「これで終わりですわっ!!!」


 下から上へと斬り上げた剣の勢いを止め、剣を握り直して足を踏み込む。

 そしてアクアの渾身の一撃が振り下ろされる。


 儀式兵装の刀以外の武器を持っていないように見える亜梨沙。

 その刀も弾かれ宙を舞っている。

 武器の無い亜梨沙に、アクアの攻撃は止めれない。

 誰もがアクアの勝利を確信しただろう。

 しかし亜梨沙は、振り下ろされる剣を前にして両手を

 鞘のあった左腰に当てている。

 しかし鞘は、氷槍を避けるために投げたため、もうそこには何もない。

 何も無いはずの場所に手を当て、構えた亜梨沙は呟いた。


亜梨沙「風間流・三光さんこう


 ・・・。


 一瞬の出来事だった。

 亜梨沙は、何時の間にかアクアの少し離れた後方に居た。

 二人の間に風が吹いた瞬間、弾かれ宙を舞っていた亜梨沙の刀が

 綺麗に地面に突き刺さる。


アクア「・・・ホント、誰かしら。

    人族が弱いなんて言ったのは。

    全然、強いじゃないの」


亜梨沙「・・・」


アクア「正直・・・『悔しい』ですわ」


 アクアから少量ではあったが、勢い良く血が吹き出す。

 そしてゆっくりと地面に倒れこんだ。

 アクアの判定ネックレスが反応して身体中についていた傷を

 全て綺麗に治していく。


セオラ「勝負ありっ!!

    勝者! 風間 亜梨沙!」


 先生の宣言が、静まり返った闘技場内に響く。

 しかし、やはりというべきか歓声など起きない。

 ただ皆、呆然としている。


 亜梨沙は、儀式兵装の刀や鞘を拾った後にアクアに向けて一礼している。

 すると―――


 パチパチパチ


 俺の隣から小さいながらも拍手が聞こえてきた。


リピス「・・・素晴らしい戦いだった。

    やはり闘技大会は、こうでなければな」


フィーネ「面白い勝負だったわ」


メリィ「久々に良い勝負を見た気がします」


セリナ「どちらも素晴らしい戦いでした」


 彼女らの拍手の後に、竜族達が拍手をし始める。

 まあリピスが拍手しているのに、自分達がしないわけにも

 いかないというものあるが、元々友好関係にあった種族でもあるため

 そこまで抵抗を感じている娘も居ないだろう。

 神族や魔族連中は、もちろん拍手なんてしていない。

 竜族のみの、ささやかながらも闘技場内全体からの拍手。


 亜梨沙は、闘技場の観客席を軽く見回すとリピスを見つけて

 頬を紅く染めながらも、まるで『余計なことはするな』と言うように

 軽く睨んで控え室へと戻っていった。


和也「まあ、途中から全力だったから当然と言えば当然の結果だな」


リピス「しかし、最後のアレは何だ?

    武器らしいものが見えなかったぞ」


和也「まあ、気になるなら本人に聞けばいいさ」


 亜梨沙の最後の一撃。

 それを俺は、知っている。

 しかしアレは、文字通り亜梨沙にとっての切り札の1つだ。

 俺が説明する訳にもいかない。


リピス「・・・う~む」


和也「さて、俺もそろそろ行ってくるかな」


 そろそろ控え室に向かう時間となったため

 悩むリピスをそのままにして、控え室に向かう準備をする。


フィーネ「和也、頑張ってね」


セリナ「頑張って下さいね」


メリィ「応援しております」


 それぞれの応援を背に受けながら、控え室へと歩いていく。

 その途中―――


亜梨沙「・・・兄さん」


和也「よう。

   さっきは、良い勝負だった。

   俺も兄として鼻が高いぞ」


亜梨沙「・・・イジメですか、兄さん」


 勝ったことを褒めたつもりが、頬を膨らませて怒る亜梨沙。


和也「・・・何でそうなるんだよ」


亜梨沙「あれは、私の完全な油断です。

    そうでなければあそこでアレを使うことなんて―――」


和也「はいはい。

   わかった、わかった」


 そう言いながら強引に亜梨沙を抱きしめる。


亜梨沙「なっ!?

    ちょ、兄さん・・・」


和也「お前が完璧主義なのも、風間の師範代としての立場も知ってるが

   それでも、お前自身が頑張ってることを

   お前が否定しちゃダメだろう」


 初めは少し抵抗する素振りだったが、今は完全に大人しくなった亜梨沙。

 その頭を優しく撫でる。


和也「お前は、頑張ってるよ。

   さっきのも、風間の名に相応しい立派な戦いだった。

   だから勝ったことを素直に喜べ」


亜梨沙「・・・まあ。

    兄さんがそういうなら、そういうことにしてあげます」


 こちらと目を合わせないように顔を下に向けたまま

 こちらに身体を預けるように抱きついてきた亜梨沙。


 そして1~2分ぐらい経ったころに


亜梨沙「・・・兄さんの試合。

    応援してます」

 

 そう言うと、スッと俺から離れた。


和也「任せとけ。

   妹の前で、かっこ悪い所は見せられないからな」


 軽く笑いながら、俺は亜梨沙に手を振って控え室の中へと入っていった。


亜梨沙「・・・兄さん」


 私は、兄さんが見えなくなるまで、その姿を見送った。


亜梨沙「・・・はぁ」


 兄さんの姿が見えなくなった直後に、思わずため息が出る。

 私の考えなどお見通しだという感じだった。


 確かに兄さんの言う通りなのだが、それが悔しいのだ。


亜梨沙「だって、私は・・・。

    私は、兄さんのことをそれだけ理解出来てるとは言えませんから」


 何年も傍に居るのに、未だにあの人の全てを捉えきれない。

 これだけ見てきているのに・・・という想いがある。


亜梨沙「・・・ホント、兄さんなんて嫌いです」


 和也の向かった方角に、そんな言葉を呟く。

 そして、くるりと背を向けて歩き出す。


亜梨沙「・・・うそです。

    大好きですよ、兄さん」


 歩きながら、つい口からこぼれ出た言葉。 


 その言葉は、誰に聞かれる訳でもなく

 ただ辺りを吹く風の中に消えていった。







第6章 激戦の闘技大会 ―前編― ~完~



ここまで読んで頂き、ありがとうございます。

今回から闘技大会編です。

バトルばかりです(笑)


闘技大会が終わったあたりから、また他ヒロインの話を

入れていく予定はしていますが

とりあえず現在続きを鋭意製作中ですので

お待ち頂けると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ