第4章 波乱のクラス対抗戦
ガキィィン!!
いつもより明るい夜。
そう、今日は満月だ。
その満月の夜に響く異質な音。
和也「・・・だから、いい加減にして欲しいんだが」
ミリス「そういう訳には行きません。
正直にフィーネ様との関係を白状して下さい。
・・・いえ、死んでくれればおっけ~ですっ♪」
自身の身の丈を超えるほどの大斧を、軽々と連続で振り回すミリス。
その連撃をギリギリで回避しながら、後ろに大きく跳躍して距離を取る。
和也「・・・困ったなぁ」
いつもの日課である訓練中に突然現れた彼女に襲われて
既に結構な時間が経つ。
そろそろ俺の体力も限界だ。
ミリス「ここまで粘れるなんてミリス、正直驚きました。
甘く見ていたこと、素直に謝罪しますね」
まだまだ余裕そうな彼女を見て、つい苦笑してしまう。
そろそろ真剣にどうするか決めなければならないか・・・。
そんなことを思っている時だった。
夜の闇を切り裂くかの如く、巨大な炎柱が出現して
2人の間に壁を作る。
フィーネ「・・・これはどういうことかしら?」
闇から現れたのは、静かな怒りを秘めたフィーネだった。
ミリス「・・・これはフィーネ様。
こんばんはっ☆」
フィーネ「これはどういうことかと聞いてるのよっ!!」
まるで何事も無かったかのように挨拶をするミリスに
語気を強めて迫るフィーネ。
ミリス「うふふっ。
少し試させてもらっただけですよ」
フィーネ「・・・そう、そんなに死にたいのね」
のんきに答えるミリスに、フィーネが得物を構える。
するとミリスは大きく跳躍して距離を取ったかと思えば
儀式兵装をしまう。
ミリス「フィーネ様と、あまり敵対する気はありません。
ですが、ご自分の立場というものを思い出して下さい。
そうすれば、そんな男を構ってる暇なんて・・・」
フィーネ「そこまでよ、ミリス。
これ以上、和也を悪く言うのなら・・・『殺す』わよ」
ミリスの言葉を途中で遮るフィーネ。
フィーネの殺気が本物だと察すると、ニヤッと笑みを浮かべてから
闇夜に消えていくミリス。
そして満月の夜に静寂が戻った。
第4章 波乱のクラス対抗戦
教師「さあ、走れ走れっ!!」
闘技場に教師の声が響く。
今日は朝から実技訓練だったのだが、教師の思いつきにより
体力作りのマラソンになっている。
教師「お前ら、魔法を使うなよっ!!」
魔法を使いそうになっていた神族達は、注意を受けて不満を口にする。
教師「魔法を封じられた状態で戦うことだってある。
その時、最後にものを言うのは基礎体力だぞ」
今の世界、魔法無しの戦闘は考えられないほどに魔法が浸透している。
しかし実際の戦場で、魔法が封じられるということは
想定しなければならない。
そのため、やはり基礎体力というのは重要になってくる。
フィーネ「魔法が封じられた戦場なんて、遠慮したいわね」
亜梨沙「しかし、そういったことも想定することは大事です」
和也「まあ、戦場ってのは何が起こっても不思議じゃないだろうしな」
軽く走りながら雑談する余裕のある俺達は
適当に流しながら授業を受ける。
そしてやはり基礎体力と言えば竜族だ。
うちのクラスの竜族達は、やはりというべきか先頭を走っている。
和也「そういや気麟って魔法になるのか?」
亜梨沙「さあ?どうなんでしょうね」
フィーネ「似たようなものだけど、根本的な元になる力が違うらしいわよ」
和也「ふ~ん。
やっぱりそうなのか」
ふと知っている竜界のお姫様の顔が頭を過ぎる。
そういや前に同じようなことを直接本人に聞いたような気がする。
教師「お前ら、真面目に走らないなら追加で筋トレもやらせるぞっ!!」
遅れている生徒達「はぃ! すいませんっ!!」
結局午前の授業は、そのまま走り続けるだけで終了した。
昼休みになり、いつものメンバーで食事を取っている時だ。
今日は走りこみしかやっていないという亜梨沙の話に
リピスが反応した。
リピス「魔法が使えないといえば、今日の実戦訓練もそうらしいな」
和也「ん? 何かあるのか、今日?」
リピス「今日の午後、どうやら2階級は授業内容が変更されるらしいぞ。
何でも魔法無しでのクラス対抗戦をやるって話だったか」
エリナ「え? 何それ?」
リピス「昼休み前に、丁度セオラに会ったんだが
その時にそんな話をしてたんだよ」
セリナ「魔法無しってことは、魔法禁止というルールってことですか?」
リピス「詳しく聞いた訳じゃないから知らないが
そういう話だったぞ」
エリナ「げっ。
そんなの私、どうすればいいのよ」
亜梨沙「大人しくやられればいいんじゃないですか」
エリナ「それ、ひどいよ~」
和也「まあ、午後になれば嫌でも解るか・・・」
リピス「そうだな。
ま、楽しそうなイベントになりそうだ」
次の授業の話で盛り上がっている時だった。
ピー! ピー! ピー!
学内アナウンスの音が入る。
セオラ「2階級の生徒全員にお伝えします。
本日午後からは、授業を変更して野外実戦訓練となりました。
ですので昼休み終了後は、教室ではなく校門前に戦闘訓練用装備で
集合して下さい。
繰り返します――――」
先ほどの話を裏付けるかのように
授業変更のアナウンスが校内に響いた。
和也「せっかくだし、このままみんなで行くか?」
何気なく口にした台詞だったが、みんな嬉しそうに返事をしてくれた。
・・・その可愛さに、ちょっと照れてしまった。
校門前から2階級全員で今日の授業場所へと移動する。
亜梨沙「ここは相変わらずですね」
今日使う場所を見て、亜梨沙は声のトーンを下げながら呟く。
目の前に広がるのは、森の中にひっそりと残っている廃墟達だ。
ここは大戦争時に前線基地として利用された砦跡。
周囲に森しかないため、全力で暴れるには最適な場所になっているため
たまに授業で使用されている。
全員居ることが点呼で確認されると、2階級主任教師である
セオラ先生が話し始める。
セオラ「本日は、職員会議により午後の授業を変更することになりました。
みなさんにとっては、良い経験となるでしょう。
今回は、クラスごとによる対抗戦と致します。」
生徒達が、一気に騒ぎ出す。
クラス対抗戦は、各階級で行われる戦いの1つだ。
その名の通り、各クラスごとに分かれてクラス単位を部隊単位とする
部隊戦となっている。
闘技大会と違って、個々の技量よりも全体の団結力が
勝敗を左右しやすい。
セオラ「盛り上がっているところ申し訳ありませんが
そのままルールの説明をします。
1度しか言いませんので、聞き逃しても知りませんわよ」
その言葉で騒ぎは、若干落ち着く。
おかげで何とか先生の言葉を聞くことが出来た。
セオラ「今回のルールは、次の通りです。
1つ、生存数が10名以下になったチームは即敗退とします。
1つ、今回は魔法・気麟の使用を禁止します。
1つ、勝利条件はありませんので
生存することを優先して下さい。
1つ、今回の―――」
ルールが1つ発表されるたびに歓声が起きる。
元気な連中だ。
エリナ「え゛っ!?
やっぱり魔法無しなのかぁ~」
セリナ「勝利条件が無いのなら、戦わない人が増えるような・・・」
まあ2人の声は、もっともだ。
魔法使いに魔法禁止は、戦えないのと同義である。
そして勝利条件が無く、生存を優先するなら戦わないのが一番だ。
セオラ「・・・しかし、このルールでは誰も戦わないでしょう。
ですから今回、チーム撃破数が3チームを超えたチームは
本日出ている課題を全て免除して差し上げますわっ!!」
当然ながら戦わない生徒が出ることも予想済みだと言わんがばかりに
俺達からすれば非常に魅力的な提案を力強く宣言する。
それを聞いた生徒達からの歓声が、最高潮に達する。
リピス「今日は、教科書を丸写すだけの面倒なものが多かったからな」
隣に居る竜姫様は、撃破報酬に大変気合が入ってしまわれている。
・・・これは面倒なことになりそうだ。
一通りの説明が終わると、各クラスごとに固まって
スタート位置に移動する。
セオラ「それでは、ルール限定・クラス対抗戦を開始いたします。
皆さん、正々堂々戦って下さい。
では、スタートッ!!」
開始宣言と共に歓声があがり、血の気の多い奴から走って
敵の居る方向に進んでいく。
―――そして二時間後
セオラ「前半戦、終了!!」
先生の声が森に響く。
今回の戦いは前半、後半の2回を争う戦いだ。
しかし後半戦は前半戦で、やられた奴の復活などはない。
ただの休憩タイムである。
俺達のクラスは、会場中央にある大きな砦を占拠して・・・
いや『追い込まれて』おり、その中で休んでいた。
ギル「お、まだ残ってたみたいだな」
和也「ん? ああ、ギル=グレフか」
休憩中に声をかけてきたのは、ギル=グレフだった。
ギル「かなりやられちゃったからねぇ、色々と」
和也「そうだな。
『色々と』面倒なことになったな」
俺達の状況は、実はかなりヤバイ状態だ。
魔王の血族様を含めた特攻隊のおかげで、余計な戦いが多くなり
最終的に敗残兵の如く、狩られる側になってしまった。
そしてその原因を作った魔王の血族様達、主だった主力の連中は
リピスの『チーム・竜姫』に正面から突貫して、あえなく散っていった。
魔法が使えない状況で、よくあんな無謀なことが出来るものだ。
亜梨沙「もう勝つことは無理でしょう」
フィーネ「まあ、こうなったら生存を優先することしか出来ないわ」
彼女達の言うように、勝つのは不可能だ。
なにせ現在、うちのクラスでの生存者は13名。
敗北条件の1つである10名以下ギリギリだ。
そして残っているのは
俺と亜梨沙の人族2人。
フィーネ、ミリス、ギルの魔族3人。
神族の女の子が3人。
あとの5人は全員竜族の娘だ。
それに比べて生き残っている他チームは、まだかなりの人数が居る。
正直絶望的と言わざるおえない状況だ。
和也「だったら、連中を巻き込んでやるか」
俺はそう言うと、戦況が表示される魔力端末を操作する。
ギル「お、何か面白いこと考えたみたいだな」
和也「面白いかどうかは解らんが・・・。
とりあえず全員、悪いんだが見てくれ」
周囲のクラスメイト全員に呼びかける。
人族である俺の呼びかけに、顔を見合わせるクラスメイト達。
ギル「どれどれ、俺にも見せてくれ」
ギルが大げさなリアクションをしながらこちらに歩いてくる。
それを見ていた他の娘達も、集まってきてくれた。
そして全員が戦況を確認出来る状態となったことを確認して
俺は、話を始めた。
和也「まず生き残っているチームは、俺達を含めて3チーム。
俺達のチームは残念ながら撃破チーム1だ。
そして残っているチームの1つは
神族王女姉妹が率いるチームで現在2チーム撃破。
残りの1つが、竜族王女率いるチームで
こちらも現在2チーム撃破」
フィーネ「やっかいなチームが残ったって訳ね」
和也「そういうことだな。
そして前半戦終了直前、俺達のチームは
挟撃を受けたのを覚えているか?」
亜梨沙「ああ、左右から同時に攻撃されていましたね。
それでこの砦に逃げ込んだわけですし」
ギル「なるほど。
王女様方は、強いチーム同士の潰し合いよりも
潰れかけの俺達を狙って3チーム撃破を狙っていると
・・・そういうことか」
和也「理解が早くて助かる。
つまり後半戦は、この2チームが事実上同盟を組むような形で
襲ってくる確率が高い」
そんな俺の予想に、神族の娘達から泣きそうになっている。
まあ無理もない。
圧倒的な戦力差になってしまうからな。
和也「そこでだ。
このままじゃ負けるわ、どっちかのチームが3撃破ボーナス貰うわで
つまらないから、巻き込んでやろうということだ」
フィーネ「どういうこと?」
和也「俺達は、まず最低限として生き残る。
それだけで、向こうは3撃破出来ないからボーナスが貰えない。
つまりみんな一緒に課題やろうぜってことだな」
ギル「なるほど、確かに自分達が貰えないなら相手を巻き込んで
全員もらえなくしてしまえば、例え事実上の負けでも
一矢報いたってことになるか。
・・・面白いこと考えるね」
亜梨沙「でも、実際どうするんですか?
普通に戦ったら確実に押し潰されますよ?」
和也「それなら考えがある。
だが、それにはここに居る全員の協力が必要なんだ」
改めて周囲を見て、そして言葉を続ける。
和也「作戦に、協力してくれないか?」
数秒の沈黙が流れる。
これは無理か?と思った時だった。
フィーネ「私は、もちろん協力するわ。
だって私は、和也と一心同体だもの」
亜梨沙「私も当然、協力します」
ギル「俺も協力するぜ。
この状況で引き分け以上は狙えないだろうし
代案があるわけでもないからな。
・・・そして何より、面白そうだ」
竜族達「わ、私達も協力します」
神族の3人「わ、私達も・・・」
次々と声を出してくれるクラスメイト達。
今までロクに会話すらしたことがない娘達であり
種族的なこともあって拒否されると思っていただけに
素直に嬉しかった。
フィーネ「・・・で、アナタはどうするのかしら」
ただ1人、隅っこで様子見を決め込んでいた紅の死神ミリス=ベリセン。
彼女は、わざとらしいぐらいに盛大なため息をつくと
ミリス「別に構いませんよ。
今は『まだ味方』ですからね」
意味ありげな台詞と共に、一応の参加を約束してくれた。
その発言にフィーネの表情が険しくなったが
ミリスはまったく気にしていない。
和也「・・・じゃあ時間も無いし、作戦を説明するぞ」
・・・・・・・・・。
・・・・・・。
・・・。
セオラ「それでは時間ですっ!
後半戦を開始致しますわ。
では、スタートッ!!」
後半戦開始が開始される。
そして勢いよく飛び出していく生徒達。
?「姫様、偵察部隊が敵と交戦になったようです」
開始宣言から、少し時間が経ったころ。
傍に控えていた竜族の声に、ゆっくりと閉じていた瞼を開ける。
リピス「アイリス、彼らはまだ脱落してなかったんだな?」
アイリス「はい。
人族の2人は、共に健在です。
あと『漆黒の悪魔』『紅の死神』と魔族のギル=グレフも
生き残っているとの報告があります」
リピス「残りわずかとはいえ、それなりに厄介なのも残ったか。
さすが、と言っておくか」
?「でも、リピス様。
その人族、そんなに警戒する必要ってあるんですかぁ?」
反対側に立っていた竜族が不思議そうに聞いてくる。
リピス「ああ、気が抜けん相手だ。
リリィも気をつけるんだな」
リリィ「はぁ~ぃ」
とりあえずクラスメイト達を見渡す。
誰もが私の指示を待っている状態だ。
それは種族が違うはずの神族・魔族も含んでいる。
他種族とはいえ、王族に対してそれなりに気を使っているのだろう。
まあ、私に噛み付いた時点でメリィを含めた竜族達が
先に色々してしまうのも影響しているのかもしれない。
竜族の姫という重さに、改めて嫌気が差す・・・が
だからといって、逃げ出す訳にもいかない。
嫌な考えを打ち切るように頭を横に振ると思考を切り替える。
リピス「では、攻撃を―――」
攻撃の号令をかけようとした時だった。
?「リピス様ぁぁぁぁぁ!!!」
土煙と共に一人の竜族がこちらに向かってくる。
そして―――
リピス「あ・・・」
?「あ・・・」
切り株の根っこに足を引っ掛け
?「ふにゃぁぁぁぁぁぁ!!!」
盛大に転がって私の後ろにある大木に、ぶつかった。
アイリス「はぁ・・・」
リリィ「あらあら」
リピス「・・・何をしているんだ、カリン」
カリン「も~しわけぇありましぇ~ん」
アイリス「・・・カリン。
とりあえず逆さまになってる状態から何とかしなさい」
カリン「はぅ!?」
指摘され、申し訳なさそうに立ち上がると
カリン「ああ、そうでした。
リピス様、大変なんですっ!!」
リピス「何があったか、頼むから落ち着いて話してくれ」
私は、苦笑いをしながらなだめる。
カリン「実は―――」
同時刻・神族王女姉妹陣営
神族男生徒「セリナ様、偵察部隊が敵と接触いたしました」
セリナ「そうですか。
ありがとうございます」
エリナ「そういえば、調査はどうなったの?」
神族男生徒「それに関しては既に調査済みです。
人族2名の他に『漆黒の悪魔』や『紅の死神』
またギル=グレフも健在との報告があがっています」
エリナ「そっか、ありがと」
一礼すると神族男生徒は、その場を離れる。
彼女達のクラスは、ほとんどが王女姉妹の親衛隊で構成されている。
そのためチーム戦では、自動的に彼女達が指揮することに
なってしまっていた。
エリナ「やっぱりまだ残ってたかぁ」
セリナ「楽しそうね、エリナちゃん」
エリナ「そう?
私としては最近、セリナちゃんも楽しそうだと思うんだけど」
セリナ「そう、かな」
エリナ「うん、そう見えるよ」
セリナ「そっか」
自由に生きようとする妹を見て、少し羨ましく思える。
私も、彼女のように自由に生きることが出来ればと。
神族女生徒「セリナ様、エリナ様、大変ですっ!」
突然、息を切らせて走りこんでくる神族女生徒。
セリナ「どうしました?」
神族王女生徒「そ、それが―――」
同時刻・廃墟砦西側
神族男生徒A「ふん、そんなもの効くか!」
神族女生徒が放った矢を、男生徒は剣で弾く。
神族女生徒「に、逃げよぅ!」
その場に居た2人の女生徒と共に3人は逃げ出す。
神族男生徒A「逃がすかよ」
神族男生徒B「ははっ、待てよ」
まるで狩りを楽しむかの如く、逃げた女子生徒を追いかける男生徒達。
薄暗い廃墟となっている砦の中に入った瞬間だった。
竜族生徒1「おりゃ!」
竜族生徒2「はっ!」
男生徒達「ぐはぁ!!」
暗がりから突如飛び出した竜族生徒による打撃をまともに受けて
追いかけていた生徒達が次々と気絶していく。
魔族男生徒「く、くそっ!」
神族達の後ろに控えていた魔族生徒達は迎撃体勢に入るが
竜族達はスグに砦の中へ逃げてしまう。
魔族女生徒「ちょ、何それっ!?」
魔族男生徒「きっと俺達を誘い込もうとしてるんだよ。
誰がそんな手に―――」
ギル「残念。
もう少しだけ先を読めるようにならなきゃな」
魔族生徒達「!?」
突如後ろに現れたギルの一撃で魔族生徒達は、気絶する。
周りに敵が居ないことが確認出来ると、先ほど逃げていった
神族女生徒3人組も姿を現す。
神族女生徒「上手くいきましたね」
竜族生徒1「そりゃもう、ギルくんの指揮だもん」
ギル「そんなに褒められたら俺、照れちゃうじゃない」
戦闘訓練中とは思えないほど、華やかな笑い声が響く。
竜族生徒3「お~ぃ。 どうやら上手くいったぽいよ~」
近くの大きな木の上で見張りをしていた竜族生徒が
手を振りながら声をかけてくる。
ギル「おや、さすがだねぇ」
同時刻・廃墟砦東側
神族男生徒「つ・・・強い」
魔族男生徒「これが噂に名高い『漆黒の悪魔』の実力かっ!?」
周りには、既に数人の生徒が倒れている。
何度も、一斉に攻撃を仕掛けているのに簡単に返されてしまうどころか
攻撃をするたびに、何人も逆に倒されてしまう。
実力の差を見せ付けられて彼らは、すっかり尻込んでしまう。
神族女生徒「で、でも囲んでしまえば・・・!!」
そう言ってフィーネの横に回ろうとした女生徒だったが
ミリス「残念で~すっ♪」
神族女生徒「きゃぁぁぁ!!」
突如現れたミリスの一撃で、女生徒は大きく吹っ飛んで気絶する。
魔族男生徒「『紅の死神』までっ!?」
魔族女生徒「そんな・・・どうすれば」
神族男生徒「ぞ、増援だ。
増援を呼ぶぞっ!」
ついに緊張に耐えかねた生徒が逃げるように後ろに下がろうとする。
亜梨沙「逃がしませんよ」
神族男生徒「っ!?」
いつの間にか後ろに居る亜梨沙に反応しようとするが
振り向く前に斬られる。
魔族女生徒「・・・そんなっ!?」
フィーネ「あら、こっちを向いてなくていいのかしら?」
ミリス「とりあえず倒れて下さいねっ☆」
圧倒的な攻撃を前に叫び声すらあげれずに、次々と倒されていく生徒達。
気づけば、あれだけ居た生徒達は全て倒されてしまっていた。
ミリス「手ごたえが無さ過ぎます」
フィーネ「何を期待してるのやら・・・。
あ、そういえば亜梨沙が来たってことは―――」
亜梨沙「はい。
成功したので撤退して下さい」
同時刻・砦中央の森
和也「・・・はぁ、疲れた」
俺は砦に何とか走って逃げ帰る。
何度も後ろを警戒したが、誰も追ってきている様子はない。
とりあえず作戦の成功を確認するため廃墟砦の屋上にあがる。
すると、そこには既に残りのクラスメイト達が集合していた。
そして俺を見つけると、みんなは満足そうな笑顔を見せてくれる。
その顔を見て、作戦の成功を確信する。
俺は、ゆっくりとみんなの横を抜けて
屋上から下にある広場を眺められる位置へと移動する。
そこには・・・
両クラスが大激突する戦場が、広がっていた。
西側は、竜族を正面に集めた△の形をした魚鱗陣で
中央突破を仕掛けており
東側は、両翼を前方に張り出し『∨』の形を取る鶴翼陣形で
応戦していた。
どちらも決め手に欠けており、中央は本物の戦場さながらの
激戦区となっていた。
和也「よし、じゃあ最後の仕上げといきますか」
俺の掛け声で、俺達のクラスも動き出す。
・・・・・・・・・。
・・・・・・。
・・・。
戦いは、泥沼のようになってきていた。
それを打開すべく、西側陣営は動き出す。
神族男生徒A「で、出たっ!
竜姫が来るぞっ!!」
西側から迫る新たな増援を見つけた神族が声をあげる。
その言葉に、一気に動揺が広がる。
リピスが普段からよくチーム戦で組んでいるメンバーを
『チーム・竜姫』とみんなは呼んでいるが、彼女らの強さは
2階級では、広く知られている。
数々の試験で、手当たり次第に他チームを潰して歩く姿から
『破壊神』と呼ばれることもあるほどだ。
神族女生徒「金色の竜牙を、これ以上進ませちゃダメっ!!」
神族男生徒B「俺達、セリナ様親衛隊の力を見せる時だっ!!」
セリナの親衛隊「おおっ!!!」
神族男生徒C「エリナ様親衛隊っ!
俺達の力をエリナ様にご覧頂く絶好の機会だっ!!
気合入れていけよっ!!」
エリナの親衛隊「いくぜぇぇぇ!!!」
中央に陣取る神族達から気合の入った雄たけびが聞こえてくる。
しかし、まったく気にすることなく突撃する竜族達。
竜族生徒A「あの残念な変態共を蹴散らすわよっ!!」
竜族生徒B「我らがリピス様に勝利を!!」
アイリス「では、行きますっ!」
リリィ「は~ぃ。
いっきますよぉ~♪」
カリン「頑張りますっ!!」
激戦区だった中央が、更に激しさを増す。
互いに姫様の親衛隊同士の意地のぶつかり合い。
中途半端に引けない分、やっかいでもある。
神族男生徒C「うぉぉぉ!!
竜姫、覚悟ぉぉぉ!!!」
乱戦を上手くすり抜けた敵生徒がリピスに斬りかかる。
だが―――
神族男生徒C「・・・なっ!?」
一瞬のことだった。
やられた生徒は何故自分が今、倒れているのか理解出来ていない。
リピス「さあ、敵本陣は目前だっ!
一気に押し込めっ!!」
自分に攻撃してきた相手のことなど、まったく気にせずに
自部隊に指示を出しながら前進するリピス。
本当の戦争を経験してきた彼女からすれば、死ぬ危険がほとんどない
お遊びのようなものであり、勝って当然の戦いである。
リピス「・・・アイリス」
アイリス「はっ!」
リピス「私は客人を出迎えてくる。
ここを任せるぞ」
アイリス「姫様お一人では―――」
リピス「私の決定に不満が?」
アイリス「い、いえ!」
リピス「お前まで居なくなっては前線が維持出来ない。
だから頼むのだ。
わかるな?」
アイリス「・・・はい」
リピス「では、頼んだぞ」
アイリス「姫様も、お気をつけ下さい」
リピスはアイリスにその場を任せると反転して後方へと向かう。
リピス「さあ、和也。
お前が作りたかった状況を、わざわざ作ってやったんだ。
・・・私を楽しませてくれよ」
同時刻・東側陣営
エリナ「ちょ、中央押されすぎなんだけどぉ!?」
中央の指揮を執っていたエリナは、焦っていた。
何せ今の自分は魔法の使えない役立たずだ。
一応、それなりの武術なども身に付けてはいる。
乱戦をすり抜けて迫ってくる相手を儀式兵装の杖で
倒せてはいるのだが、やはり苦手なものは苦手だ。
また基本的に魔法を使用しない戦いでは
どうしても竜族が有利となってしまう。
たとえ気麟が無くとも、竜族の身体能力は、それほどにやっかいなのだ。
神族男生徒A「で、出たっ!
竜姫が来るぞっ!!」
そんな声が前線から響く。
更に慌しくなる陣営。
エリナ「リピスまで来たら、もう止められないよぉ~」
神族男生徒D「ご安心ください、エリナ様」
神族女生徒「我々親衛隊が、必ず止めてみせますっ!」
周囲に居た神族達は、そう宣言するとエリナに一礼して
前線に向かっていく。
エリナ「セリナちゃん、早くしてねぇ~」
空に向かって不安そうに声を出すエリナ。
彼女の絶対的な自信は、魔法にある。
その自信そのものを禁止されている状態では
どうしても不安になってしまう。
だが、彼女はそんな自分にダメ出しをする。
エリナ「実際の戦場じゃ、こんなことあっても不思議じゃないんだし
こんなんじゃダメだよねっ!」
気合を入れ直すが、それでも不安な気持ちは消えてくれない。
エリナ「はぁ~。
和也とか来ないかなぁ」
和也が居てくれれば、こんな不安もきっと―――
エリナ「お?」
あれ?何で和也?
しかも和也は、今回敵なわけで・・・
エリナ「あれぇ?」
不安な気持ちは無くなったが、今度は和也のことで疑問が生まれる。
どうして今、和也だったのだろう・・・。
数分後・西側陣営後方
神族男生徒「て、敵だっ!!」
竜族生徒E「そんなっ!?
どうしてこんな後ろからっ!?」
陣営の後方から突如襲撃する東側軍勢。
魔族男生徒「神族だけだと思うなよっ!!」
竜族生徒F「そうよっ!
私達だって居るんだから!!」
セリナ「みなさん、敵は隙を突かれて動揺しています。
一気に蹴散らして勝利しましょうっ!!」
本陣をエリナに任せて、別働隊を指揮していたセリナが
西側陣営の後方に回り込んで奇襲を仕掛ける。
この戦いは、相手チームを10人以下にしてしまえば良いという試合だ。
正面から強い相手を倒しにかかる必要はない。
奇襲が成功し、勝利を確信したセリナだったが――
神族男生徒「セリナ様っ!
金色の竜牙がっ!!」
セリナ「えっ!?」
・・・・・・・・・。
・・・・・・。
・・・。
竜族生徒G「主力は、ほとんど前線に行っちゃってるのに、どうするのよ~」
魔族女生徒「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!」
突然の奇襲に混乱している西側陣営。
リピス「落ち着けっ!!
しっかりと体勢を立て直せば十分追い返せるっ!!」
最前線に居るはずのリピスの登場に一瞬周囲が静まり返るが・・・
神族男生徒「金色の竜牙だっ!」
竜族生徒E「リピス様が助けにきてくれたわっ!!」
リピス「我々は誇り高き竜族の戦士っ!
どんな状況でも、誇りを胸に気高く歌えっ!!」
西側生徒達「うぉぉぉぉ!!!」
リピスの激励により、一気に士気が最高潮に達する。
リピス「さあ、我々の力を奴らに見せつけてやれっ!!」
彼女の言葉に、先ほどまで混乱していたとは思えないほど
統制の取れた動きで反撃体勢を整える西側陣営の生徒達。
竜族生徒G「リピス様がいらっしゃれば勝てるわっ!!」
神族女生徒「勝利を約束された竜姫と共に!!」
次々とリピスを称える西側陣営の生徒達。
リピスは大戦争が終結する末期頃に戦場に出たのだが、そんな彼女が
四界にその名を轟かすことになったのには理由がある。
その1つが、生徒達が言う『勝つ』ということだ。
リピスが戦場に出た戦いで、竜族は負けたことが無い。
どんなに劣勢な状況でも、リピスが戦場に駆けつければ
必ず引き分け以上の結果を残しており、敗北したことは一度もない。
そんな勝利の女神に愛されたかのような結果が
大戦争末期、わずかに登場しただけの彼女に
二つ名と名声を与えることになった。
一斉に反撃してくる敵を見て、思わず奇襲を仕掛けた側が浮き足立つ。
魔族男生徒「な、何なんだこいつらっ!?」
神族女生徒「奇襲をかけたのは、私達のはずなのにっ!?」
セリナ「皆さん、落ち着いて下さいっ!
こちらの方が押していますっ!!
焦らず確実に敵を撃破して下さいっ!!」
仲間を激励するも、心の中でセリナは焦っていた。
ある程度は対応されると思っていた作戦だったが
予想以上に上手く決まった。
これは勝ったと思えた展開を
竜族王女リピス=バルトたった1人の登場で
こちらが逆に押し込まれる結果となってしまったのだ。
これが実戦経験の差なのだと思いたい。
でなければ、自分は何のための王女なのか。
悪い考えばかりなのは自分の悪い癖だ。
自身の勝利をイメージしながら剣を手に取り、私も敵陣に突撃する。
そのころ、東側本陣前で戦況が動き出す。
アイリス「押せっ! 押し込めっ!!」
西側陣営の本体が東側陣営の本陣を突き崩すところまで来ていた。
エリナ「これは・・・まずいなぁ」
もう組織的な攻撃が出来ているのが奇跡な状況だ。
本当の戦争なら、とっくに退却命令を出している。
そろそろ最後の突撃をする覚悟を決めるか。
そんな心の整理をしている時だった。
和也「おや、思ったより本陣に人が居ないな」
エリナ「・・・え?」
数分後・中央激戦区
魔族男生徒「くそっ!
もう持たないぞ!」
神族女生徒「そんなこと解ってるわよっ!!
それでも、エリナ様のところへ
行かせる訳にはいかないのっ!!」
アイリス「申し訳ありませんが、あなた方はここで終わりです」
吹き抜ける風の如く、蹴りによる一閃が生徒達を襲う。
ガキィィン!!
フィーネ「楽しそうね、混ぜてもらえないかしら?」
アイリス「『漆黒の悪魔』だとっ!?
バカな・・・何故敵対勢力を守るっ!?」
ミリス「そんなの、決まってるじゃないですかっ♪」
カリン「させませんっ!!」
ガギィィ!!
アイリスに向けてミリスが放った大斧による一撃を
カリンが割り込んで受け止める。
リリィ「あらまあ。
『紅の死神』まで居ますねぇ~」
亜梨沙「我々は同盟を結びましたっ!!
一気に『チーム・竜姫』にトドメを刺しましょうっ!!」
亜梨沙の声に、崩壊しかけていた東側陣営が息を吹き返す。
神族男生徒「『漆黒の悪魔』に『紅の死神』と同盟だってっ!?
・・・これはいけるかもしれないぞっ!!」
魔族女生徒「最後のチャンスよっ!!
思いっきり暴れてやるわっ!!」
時間も押し迫ったクラス対抗戦。
その最後に特攻を仕掛ける東側陣営。
わずかではあるが同盟という形で得た『増援』というものが
士気を最高潮に押し上げた。
アイリス「くっ!
体勢を立て直せっ!!」
リリィ「これは~・・・無理かなぁ~」
もう誰もが限界の疲労を抱えていた。
そして勝利することが確定していた状態からの予想外な
展開によって、勝利から遠ざかってしまった西側は
もう気力も尽きかけていた。
対して誰しもが敗北を覚悟していた状況から援軍が到着し
反転攻勢に出た東側は、勝利を確信して突撃を仕掛けている。
この流れを止めるのは不可能だった。
アイリス「ま、まだだっ!
まだ―――」
フィーネ「往生際の悪い指揮官は、戦死も早いらしいわよ?」
アイリス「くっ・・・!!」
再び部隊をまとめようとしているアイリスに攻撃を仕掛けるフィーネ。
アイリスは何とか回避するものの、とても『漆黒の悪魔』を
相手にしながらという訳にはいかない。
カリン「今行きますっ!!」
ミリス「あら、どこに行くんですかぁ?」
カリン「にょわぁぁぁ!!」
援護に行こうとしたカリンだったが、ミリスに妨害されてしまう。
一瞬でも気を抜けばやられると本能的に察したカリンは
ミリスと向き合った状態で動けなくなる。
リリィ「これは困りましたねぇ」
亜梨沙「そうですね。
出来ればそのまま大人しくしてて貰えると助かります」
こちらもお互いに背中を向ける訳には行かずに、けん制し合ったままだ。
こうなると完全に試合は逆転する。
残りわずかとなった人数であっても追撃の手を緩めない。
ギル「あと少しだっ!!
みんな、頑張ろうぜぃ!!」
ギルは、まだ脱落していない生徒を集めて
最後の突撃を行っている。
そして流れが完全に決まったころ―――
セオラ「時間となりましたっ!!
スグに戦闘を中止しなさい、試合終了ですっ!!!」
ビー!!!
終了の合図が森に響く。
やっと終わったという感じがあたりに漂う。
緊張の糸が切れたのか皆、その場に座り込んだり倒れたりしている。
フィーネ「終わったみたいね」
亜梨沙「疲れましたね」
ミリス「まあ、本物の戦場に比べれば問題ありません」
アイリス「・・・どうして、そんなに体力が」
試合終了の合図と共に、体力の限界となり安心感から
その場に座り込んだアイリスは、未だ立ったまま会話を続ける
彼女達が不思議でならなかった。
亜梨沙「そんなの、途中で休憩してたからに決まってるじゃないですか」
アイリス「・・・は?」
フィーネ「少し考えれば解らない?
途中までリピスとセリナ達が全力でぶつかってくれてたおかげで
こっちはゆっくりと休めたわ」
リリィ「あはは~。
そ~いえばぁ、そ~ですねぇ」
アイリス「くっ!」
自分が如何に目の前のことしか
見えてなかったのかということに腹が立つ。
それなりに出来るようになったという自信は
結局自己満足だったという訳か。
そんな自分の未熟さを噛み締めるアイリスだった。
数分後―――
学園側の救護班が忙しく戦場を駆ける。
動ける者は、ゆっくりとだが集合場所に向かって歩いていく。
そして全員が集合場所に集まって、終了の挨拶が行われる。
セオラ「まずは皆さん、お疲れ様でした。
今回の対戦では本当のクラス対抗戦以上の戦いが行われたようで
皆さんにとっても、学ぶことの多い戦いとなったのでは
ないでしょうか?」
先生の言葉に、皆が頷く。
今回の戦いは未だかつて経験したことがないほどに『実戦』だった。
セオラ「皆さんの中には、今回の戦いで『実戦』と『恐怖』を意識して
戦うことが怖くなった方も居るでしょう。
しかし、その恐怖に勝たなければ、自分だけでなく
一緒に戦う仲間の命まで危険に晒してしまうということを。
そして今、皆さんが経験した『恐怖』を、自分達の親兄弟や
大切な人に経験させないためにも皆さんが、この『恐怖』に
打ち勝ってくれると、私は信じておりますわっ!」
今回は、予想以上に激戦だったおかげで学ぶことも多かった。
しかし、これでこそこの学園に来た甲斐があるというものだ。
そして今回の結果が発表される。
セオラ「今回生存したチームは全て残り人数
11名・13名・15名という大激戦でした。
そして何より―――」
先生の声が響く中、こちらを見つけたリピスが近づいてくる。
リピス「見つけたぞ、和也。
やってくれたじゃないか」
和也「ん?
何の話だ?」
リピス「とぼけてもらっては困る。
後半戦で私とセリナ達を戦わせるように仕向けただろう」
和也「げっ、バレてたか」
リピス「当たり前だ。
これでも戦場で部隊指揮をした経験もあるんだ。
それぐらい見抜けなければな」
和也「ん?
ならどうしてわざわざ誘いに乗ったんだ?
リピスなら制御出来ただろ」
リピス「本当の戦場ならそうしたさ。
だがこれは所詮、お遊びだ。
ならせっかくだし、本物の戦場って奴を
全員に体験させてやるのも面白いと思ってな」
悪そうな顔で語るリピスが、少し怖く見える。
彼女は、生徒しか居ないとはいえ擬似的な戦場を
全て制御していたということだ。
リピス「それに、和也が何か仕掛けてくると思っていたからな。
どんなことをしてくるのかも興味があった」
和也「俺は結局のところ、リピスの手のひらの上だったというわけか」
リピス「まあ、そう悲観するな。
和也のおかげで今日は皆が学ぶ点の多い
非常に有意義な授業となった。
それについては礼を言わねばならん」
和也「やめてくれ。
俺は最善手を尽くして、結果としてそうなったってだけで
感謝されるようなことは一切ないよ」
改めて周りを見るが、誰もが疲れ切っている。
それほどまでに全員、力を出し切った試合だった。
リピス「ところで話は、変わるんだが
・・・それは何だ?」
そう言いながら、こちらを指差す。
フィーネ「~♪」
亜梨沙「(-ω-*)」
エリナ「ぎゅ~っ☆」
俺は現在、何故か3人に抱きつかれている。
和也「俺もよく解らんのだが・・・」
事の発端は、エリナだった。
そもそも後半戦の最後の方に、エリナの居る本陣に着いた俺は
エリナに同盟を提案した。
どちらも単体ではリピス達に勝てない。
その提案にエリナが乗ってくれたおかげで
最後にあれだけ押し返すことに、成功したのだ。
だが、同盟後からだった。
当初は俺も前線に行く予定だったのだが
エリナ「か~ずやぁ♪」
とまあこのような感じで、謎に甘えてくるエリナに腕を取られ
説得したのだが、どういう訳か離してくれなかったために
最後まで本陣で、エリナと2人で腕を組んでいるだけという
謎な状態だった。
そして結局、集合場所へ移動する際も腕を組んだままだったために
途中でフィーネに見つかり
フィーネ「ズルいっ!!
私も腕組んで歩きたいっ!!」
と言われて反対側の腕に抱きつかれてしまい
集合場所に到着するなり亜梨沙に見つかって
亜梨沙「ああ、もう。
だからどうして・・・っ!!」
怒りモードの亜梨沙に詰め寄られたが
フィーネ「亜梨沙も、くっつけばいいのよ」
というフィーネの提案に乗っかってしまい
亜梨沙「こ、これはなかなか・・・」
俺の正面から抱きつく形となって現在に至る。
一連の話を黙って聞いていたリピスだったが
リピス「ほ~ぅ」
ジト眼のまま、ずっとこちらを睨んでくる。
リピスがそういうことをするのも珍しい光景ではあったが
何分、普段そういうことをしないだけに怖かったりする。
リピス「まあ、ほどほどにするんだな」
ジト眼のまま、ため息をつくと彼女はそのまま去っていった。
和也「何だったんだ・・・?」
リピスの行動に少し疑問もあったが・・・
和也「とりあえず、どうしよう」
抱きつかれて動けないこの状況の方が、切実な問題だったりする。
このクラス対抗戦の内容は、学園長の元まで届くことになり
その結果、また学園長の思いつきによるルール変更が起きることなど
今はまだ、夢にも思わなかった。
第4章 波乱のクラス対抗戦 ~完~
まず、ここまで読んで頂きありがとうございます。
今回は戦闘を中心とした物語となりました。
ストーリーに登場する学園『フォース』は、次世代の育成を掲げており
主に軍事面の強化が中心となっています。
そのため文官よりも武官を重視した教育方針となっています。
これは戦争が終結してまだ10年しか経っていないということと
種族間の隔たりが依然あり、ちょっとしたことで戦争が再開される
可能性があるため、どうしても戦争を想定したものになっているという
話があるからです。
なので本作も、戦闘回がそれなりに多くなる予定です。
戦闘の合間を利用して、なるべくキャラ達の魅力を引き出すような
話を登場させたいとは思っています。
また今回は、原作に登場しないオリジナルキャラクターも
登場させました。
まあ、まだ新キャラは登場しますが・・・(笑)
今後も原作を知ってる方も、知らない方も
どちらにも楽しんで頂けるように物語を書いていく予定です。
初心者の私としては、いきなりの長編作という
無謀な挑戦となっていますが、頑張って完結させるために
頑張っていきますので、出来れば最後までお付き合い頂ければと
思っています。