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五月とメイドの雨降りな日々

 全く売れない作家・五月乃月ごがつのつきとそのメイド・愛糸めいと

 これはふたりの、とある日常をつづった物語、六作目です。

 梅雨前線絶好調な日々、じめじめが続く今日この頃です。



「五月様、また雨です」

「ん、雨だな」

「お布団が干せません」

「梅雨だからな」

「お洗濯物、また中干しです」

「柔軟剤臭」

「いいにおいです」

「ん、いいにおいだ」

「干す場所が足りません」

「これでいいじゃないか」

「それはクリスマスツリーです。あ、靴下干してございませんでしょうね?」

「夏は靴下履かない」

「……」


 今日も今日とて漫才のようなやりとり。

 五月家では、じめじめなんか関係ないようです。


「七夕の日も雨ですかね」

「どうだろうな」

「笹、用意いたしましょうか?」

「これでいいじゃないか」

「だから、それはクリスマスツリーです」

「似たようなものだろ」

「全然違いますです……」


 ピンポーン


 おや、宅急便です。


「誰からだ?」

「ヒロシです」

「細長いな」

「でございますね。いったいなんでしょう?」


 ガサガサガサ……。


「……」

「何送ってくれたんだ?」

「笹です……」

「これで七夕できるな」


 ヒロシのこの贈り物、気が利いているのか、いないのか。

 笹と一緒に、手紙と短冊も入っています。


「オレの願いも下げてくれ? ですって」


《彼女ともっと仲良くなれますように》


「これの意味は?」

「単なる嫌がらせかと思われます……」

「……」

「実家の母様のもあります」


《豪華客船で世界一周してみたい》


「これは?」

「戯言です」

「……」


 今日日、本物の笹を用意するのは容易ではないでしょう。

 なので、これはこれでありがたいことです。

 ちなみに、願い事を書く短冊の色は、願いの内容によって決まっているのだそうです。

 願う相手は織姫様です。

 そして、七夕の行事食はおそうめんだそうです。


「五月様、短冊に願いこと書かれますか?」

「書かない」

「な、なぜでございますか?」

「お前が見るから」

「見ないでございますよ」

「お前は書くのか?」

「あ、いえ……」

「なんで?」

「えっと、五月様が見るから……」

「だろ?」

「ええ……」

「でも、ま、せっかくヒロシくんが送ってくれたんだ。何か書くかな」

「あい」


《足臭いのが治りますように》


「そんなお願いは嫌でございます……」

「お前のは?」


《五月様の原稿の単価が上がりますように》


「嫌がらせ?」

「切実な願いですっ!」

「ごもっともです……」



 さて、七月七日、七夕です。


「やっぱりお天気良くないですね」

「たとえ晴れたとしても、東京の空では天の川は見れないからな」

「織姫様と彦星様は、雲の上でランジブですね」

「ラウンヂ、ブッ?」

「逢瀬のことです」

「それを言うならランデブーだ」

「そう、それです」

「またどっぷり昭和的な単語が出たな」

「おっしゃいませんか? ランヂブ」

「そこは普通にデートでいいんじゃないか?」

「それじゃ軽いです」

「何の重みだよ……」


 ううう、ふふっ……。

 ランデブーって、しかもランヂブって……ぷぷ。

 あ、失礼いたしました。

 古くから伝わる、五節句のうちの一つです。

 その意味を重んじるめいとさんの気持ち、わかりますよ。

 しかしこれで、めいとさんの昭和ッ子は確定ですな。


「どちらにしても、これらの願いは叶わないだろうな」

「そうですね……」


 いやいやおふたり、ヒロシの願いはまんざらでもないと思いますよ。

 あ、もう眼中なしなのですね。

 ヒロシくん、励めよ。


「明日も雨かな」

「のようでございます」

「布団、湿っぽいな」

「そうでございますね」

「洗濯物乾くかな」

「どうでございましょうねぇ……って、五月様、笹にパンツ干さないでくださいましっ!」

「短冊四つじゃ寂しかったんで……」

「確かに……」

「いいじゃん、カラフルで」

「い、いえ、だめでございますぅ〜」


 こうして五月家の七夕は、織姫様にそっぽを向かれましたとさ。

 おしまい。

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