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相談

 ヴィッキーたちから試合の詳細を尋ねている内に、頼んでいたセットメニューを給仕が運んできた。

 いい香りだ。

 メインのチキンの香草焼きもサイドメニューもどれも美味しそうだった。先ほど饅頭を食べていたので、空腹とは言えないが、それでも十分食欲を誘う香りだ。

 ヴィッキーたちのパイ包みも、きつね色の焼き目が綺麗だ。パイの部分は見る限り香ばしそうで、ナイフを入れればきっとサクサクとした感触を伝えてくれることだろう。次の機会には頼みたい。

 

「まあ、試合に関しては大体分かった。一対一形式のそれは特に珍しくない。ただ、君たちが二人共、剣が不得手でそれを魔法で補うのならば、勝つのはキツいな。」


 手はフォークとナイフを動かすことに忙しいヨハン。彼は、彼女たちにそう告げると大きめに切ったチキンを口いっぱいに頬張った。

 ヨハンの頬張る癖は、出会った頃から変わらずだ。慌ただしい時もそうして頬張っては、時間が無いことに焦って喉に詰まらせるのだから、いい加減直したらいいのに。

 

「そうですか。出来れば勝ちたいのですが。」


 彼女たちのメニューを決めていた時の明るさに、影がさした。

 ヴィッキーはあからさまに、クレアは怯えていたこともあり分かり難いが、残念だと、態度に出ている。

 勝負事は、例え授業の一環であろうとも勝ちたいという気持ちは、俺にも分かる。誰にだって負けたくない相手はいるだろう。まあ、落ち込み過ぎな気もするが。

 俺が何か言ってもいいのだが、ここはヨハンの次の言葉を待つべきだろう。……だから、早く口の中を空にしろよ。


「……キツいとは言ったが、勝てないとは言ってない。」


 飲み込んでから、ヨハンは二人に言う。

 そうだな。確かに言っていないな。だが、真面目な顔で言っても、唇が油でテカっているようでは台無しだ。


「二人の魔法の適正にもよるが、一応勝算はある。規定の範囲内できちんと方法があるのだから、後は君たち次第だ。」


「私達次第?」


 もう一口、今度は小さめな欠片を食べたヨハンは頷く。

 首を傾げてみせた二人は、再びヨハンが口を開くのを待つ。


「君たちの適性が黒しかないならば、直接的な魔法での攻撃を禁止している試合の規定から、剣術の腕を補うことが難しい。また、白にだけ適正があっても術を使えないことには、端から無理だ。さて聞くが、君たちの適性や属性はどうだい?」


 そう問われ、二人は過去の適正診断や授業内容を思い返しているのだろう。視線が空を彷徨う。

 魔法において、適性が黒か白のどちらか一方だけというのは稀だ、大体偏りはあれど両方の適性を持つ。

 黒ならば、術の軸が術者自身となって、周囲に事象を生じさせる方向に魔力を操作することに長けている。そして、術の傾向として攻撃に適したものが多い。

 白ならば、すでにある存在を対象に、作用又は改変が起きるように力を加えることに魔力を操作することに長けている。そして、術の傾向として対象に状態変化をもたらすものが多い。

 そこから更に属性やら魔力許容量などの分類項目があって、総じて術者としての素質を測る。

 一定以下の素質、術者として有用でないレベルの素質のものは、以降関連する講義が免除される。受けるのは自由だが、そう判定された者の中に受講している者は少ない。


「相談を持ちかけてきたんだから、まさか素質なしってわけでもないだろう?術だって、全く知らないわけでもないだろうし?」


 ヨハンは天才にして神童と言われるだけあって、その素質は大変優れたものである。

優れた素質は、時には実績の積み重ねよりも優遇される面があり、各魔法関係の施設では既にヨハン獲得に向けての動きが水面下であるという。ヨハンは口にしないが、定期的に訪れる有力者や彼宛ての手紙の束はそういった動きの一面なのだろうと思う。

 反面、俺の魔法に関する素質は術者としては平均以下で、しかも属性が偏りすぎている。努力次第ではそれなりの成績を修められるかもしれない。が、習得不可な術がある以上、ヨハンどころか姉相手にも術者としては劣ることになる。

 こればかりは生まれ持ったもののため、仕方がないと諦めるしか無い。それに術者として有用なまでの素質を持っている者の方が、割合としては少ないのだから。

 さて、では彼女たちはどうなのだろう。


「私もクレアも白へと偏りはありますが、今のところ習う術に習得不可なものはありませんでした。」


 と、いうことは彼女たちは二人共、俺よりも術者としての素質は高いということか。

 まだ基礎だろうが習得不可が無いということは、属性に偏りが少ないということだし。羨ましい。


「教本は基礎の1?2?授業は今、どこまで進んでる?」


「1です。第四章の詠唱の略式まで進んでいます。」


 一冊の内容が全八章だから、ちょうど半分か。ここから一気に難しくなるんだよな。

 ヨハンの助けがなかったら絶対に追試だった過去を思い出し、少し暗い気持ちになる。

 正規の呪文を暗記するのも長くて大変なのに、発動を阻害しないように詠唱を省略するための法則まで暗記しなければいけなかったあの頃。辛かったなぁ。

 暗記で乗り切ったから、一体どういった仕組みのものなのかは、いまいち理解できていない。なので、この分野に関する講義は、常にヨハンの手を借りていることになる。


「それじゃあ、詠唱破棄と起動のための単呪文構成までは触りしか習っていないんだな。」


「はい、そうです。」


 二人の習得状況を細かく聞き出すヨハンの様子に、口を挟む必要が無さそうだとチキンを口にする。

 皮側はパリっと焼きあがったそれは、歯を立てるとじんわり肉汁が溢れてくる。数種類のハーブが香り豊かで、肉の旨味をしっかりと引き立てている。

 うん。美味しい。

 魔王の復活で閉鎖されていた学園の再開直後は、生徒はおろか働く者も集まりが悪く少なかった。料理人も腕は立ったのだろうが、忙しさに追われてかどうもイマイチなものが出されることが多かった。

 しかし、最近は学園への入学者が増えたことに比例し、雇用を増やしたことでようやくハズレのないメニューが提供されるようになった。親元を離れ学園に通う身としては、数少ない娯楽の一つでもあるため、この変化は嬉しい。

 また、勇者の母校ということもあって、他国からの留学生も多くなり、それに合わせたメニューの提供があるのも嬉しい。聞きなれないメニューの中には、口にあわないものもある。だが、逆に、食べるまでわからない点がドキドキして楽しい。


「ふーん。優秀だね。」


 質問が終わったのか、そう言ってヨハンは再び口に料理を運んだ。

 相談を受け始めた時とは違い、優しげな表情だ。彼女たちに、そんな顔を見せるのは珍しいな。


「え、あ、そんなことないです。ねえ。」


「は、はい。」


 ほら、滅多にないことに加えて褒められたから、二人共頬を染めて照れている。

 どちらも日に焼けていない白い肌だから、赤くなればすぐに分かる。

 可愛いなぁ。

 妹がいたらこんな感じなのかな。


「なぁ、ドミニク。お前ならどちらがやりにくい?」


 そんな幼さが残る彼女たちの様子など視界に入っていないのか、口の中が空になると俺へと話を振った。

 いや、愛でろよ。お前のせいで可愛い彼女たちを。

 とは、さすがに口に出せず、ヨハンの質問に素直に応えることにした。


「どちらって、相手にして厄介な方を選べって言うことか?」


「そう。顔と足、術を掛けられて厄介なのはどっちだ?」


 何か方法が思い浮かんだのだろう。

 顔と足。

 どちらも術を掛けられては隙ができそうだが。


「術によるが。俺としては、やはり顔の方かな。急所だし。」


「ああ、言葉が足りなかったな。顔だったら“目隠し”かそれに似た効果を出せるやつだ。足ならば“鈍足の足輪”などの動きを阻害する効果があるやつだな。」


 視界封鎖と行動阻害か。

 なら、やはり俺としては顔の方だろう。


「足を封じられても、勝負が剣でつく場合なら、やはり相手の次の手が見えないほうが困るな。」


「え?そうなんですか?」


 ヴィッキーが意外そうに口を挟む。


「ああ、その場を動けなくても剣で勝負を付ける場合なら、相手から近づいてくれるからね。よほど相手が特殊な剣を使っていない限り、こちらの剣も似た間合いだから届くだろう?その点、視界が悪ければ相手の行動が読めない。こうなると、先程よりも隙が多すぎる。更にその隙をついて足を封じられたら、あとは偶然当たることを祈って、闇雲に剣を振り回すしかなくなる。」


 世の中には心眼といって、視界が塞がれようと心の目で相手を捉えることができる達人がいるらしい。銀の守護者と二つ名が付けられるような、異母兄のリオネルならできそうな気がするが、俺には到底無理な芸当だ。


「でも、足が封じられても同じ事じゃないですか?動けない対象なら、こちらから術はかけやすいですし。」


 おずおずといった感じで、クレアも意見を言う。

 ヨハンに褒められた影響か、先程よりはそれほど恐れている素振りが鳴りを潜めている。個人的には嬉しい傾向だ。


「確かにそうだね。」


 思わず笑みを浮かべて肯定したら、クレアの肩が揺れ、あからさまに怯えられた。え?何で?

 いや、落ち込むな自分。これくらいはよくあることだ。


「……掛けられる側としては、どちらもやられて嫌なことに変わりはしないしね。」


 だからこそ、ヨハンは術の対象としてこの二点を上げたのだろう。武器を持つ手では、目標として狙うには慣れていなければ小さすぎる。

 その点、相手がこちらへと向ける顔と足は、よっぽどでなければ狙いを外さないだろう。後、多分術としては、比較的習得が簡単なものを選択した結果だと思う。俺でも幾つかその方法に適した術を覚えているのだし。


「まあ、どちらを採用するかは後にするか。どちらが君たちにあった方法かは、一度君たち自身の剣の腕前も見たいところだし。明日の休み時間にでも、教本を持って訪ねてきてくれ。」


 皿を空にしたヨハンがそう言って、話題を終わらせる。

 彼女たちはそれに返答し、食事に戻る。

 一生懸命だったのだろうか。既に食べ終えたヨハンや後数口を残す俺と比べ、あまり食が進んでいなかったようで、まだ三分の二以上が皿に残っている。

 相談をした立場では、そう食べることに意識を向けていられるわけ無いか。気が利かなかったなあ。


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