初友とデジャヴ
「悠ちゃんがこの家を出ちゃうなんて…いくらなんでも早すぎるわ。まだ中学1年生なのに」
「その中学1年生に毎日電車に2時間乗れってのはきつすぎるだろ…それに長期休暇にはちゃんと帰ってくるよ」
「もう決まっちゃったのならしょうがないけど、こういう大事なことはきちんと親と話し合わなきゃだめよ。これからはそうしなさい」
「わかったよ。行ってきます」
「お父さんには言った?」
「…父さん、行ってきます」
次にこの家に帰って来るのは夏休みだな…
「A組はここか…1クラス40人なんて初めてだな。早く全員の名前を覚えられるよう頑張らないと」
ガラガラ、ドアを開けるとみんなが一斉にこっちを向いた。
(こういう視線が1番嫌なんだよなぁ。目立たないようにしよう)
幸い席は1番後ろだ。席は左から数えて6列ある。縦には7列、しかし1番廊下側(生徒から見て右)と窓側(左)の1番前は机がない。これがこのクラスの概要だ。席に着くまでにいろいろな声が聞こえる。
「あれって代表挨拶した会長の牧村悠平くんだよね…思ったよりふつうじゃない?」
「ふつうだったらあんな挨拶しないでしょ。関わらない方がいいよ」
聞こえてる、聞こえてる。しかし俺の評価ひでえな。やっぱりあの挨拶は変だったか…入学早々苦労しそうだな…
「おい、お前1学年生徒会長の牧村悠平だろ?俺は高山尊。よろしくな。お前すごいよな、あのスピーチ。感心しちまったよ。普通じゃできねえもんな、度胸があるっていうのがどういうことなのかよーくわかったぜ。仲良くしようや」
そういって手を伸ばしてくる高山君。
「よろしく。高山君」
「かたい、かたい。尊でいいよ。おれも悠平って呼ぶからさ」
「じゃあ改めて、よろしくな、尊」
グッと手を握り合う2人。…こいつ握力強すぎだろ。俺も一応60あるけどそんなもんじゃねえ。
ガラガラ、また誰か来たみたいだな。あいつどっかで見たことあるな…ああ、思い出した。面接で一緒だった…たしか、香月祭璃だっけ。あいつも同じクラスなんだ。
「おい悠平見てみろよすげえ美人だぜ。性格がわからんから94点ってとこか。お前はどう見る?」
「俺?うーんそうだな、96点だな」
同級生と話すなんて久しぶりなのに、結構ふつうにしゃべってるな俺。俺の会話スキルが思ったより上なのか、尊がフレンドリーなだけなのか…後者だな。
「やっぱおまえも高得点つけるか。あれほどの美人は記憶にねえな。是非お近づきになりたいっ。お前もそう思うだろ?」
白鳥先生の例があるからな…正直微妙だ。
「おい、こっちに来たぞ。誰だ?標的は誰なんだ?」
「わからん。でもこっちにいる男子は俺たちだけだし、女子に用があるんだろ?」
そう話すうちに彼女は俺の前に立った。……デジャヴ。
「牧村悠平さんですね。私香月祭璃と申します。以後お見知りおきを」