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結末

六人の陣形は変わらない。円を描くかのように囲んでいる事には違いなかったが、欠けていた。綾火を抱いていた。上半身と下半身を分断された綾火はそれでもまだ笑っていて。心肺は停止しているというのに私に向かって微笑み続けていた。死因は、転がっている円状の刃物による切断。出所が分からなかった。破裂音もなく無音で飛んできた刃物は恐らく火薬を用いていないものだった、即ち、私はあの時に死んでいた筈だったのだ。綾火という異分子の介入によって、私は命を拾った。だが、拾った命を大切にしたいとは思えなかった。


「だって……貴様は……」


あんなにも優しかったのに。料理が上手で、自己犠牲で成り立つ事なら自分を厭わなくて、可愛らしくて。この時代に生まれなければそれこそ幸せな生活を過ごせたであろうに。そんな貴様の命と、狂ってしまって壊れかけの私の命が釣り合う訳がなかった。


「あんなにも……あんなにも………」


続く言葉が嗚咽によって遮られる。先の言葉が出ない。私の弱さが露呈する。嫌だ、嫌だと現実を否定する。現実の否定程無意味なものもないというのに、私はただ嫌だと言い続けた。


「もう、うちは耐えられへん」


真希が弱音を吐き出した。耐えられないのは私だって同じなのに、私は奥歯を噛み締めた。口の中で血の味が広がる。自分の血液の味が鉄っぽくて嫌気がさした。


「和音。ケリ付けるんじゃなかったのか」


「もうどうでもいい」


そんな投げ遣りな返答をして、私は綾火を抱きつづけた。真希が来てからというもの、綾火はずっと付きっ切りで私との干渉は薄くなっていた。ただ、いい人だった事には違いない。私に影響を与えた一人であることには違いない。私は一体綾火に何が出来たのだろうか。


「製作者様よ、地球ってどれくらいで回ってるか知ってるか?」


「突然何言い出すんだクソアマ。知った所で何をする気だ」


「1666(km/h)。お前さ、まさかのぶっ壊すとか言うんじゃねぇだろうな?たちまち死の星だぞ」


「うちは止められへんよ。3倍速、1/3速に出来るだけ。慣性の法則って、うちがどうしても縛られるいらんもんやと思ててんけど、今回はそれに助けてもらうし」


「かっ、時速1111(km/h)で地球の表面削り取る気なの?年日たちまで死んじゃうんだけど」


「いいじゃん。もうどーだっていい。うちがぜーんぶぶっ壊す」


そんな言葉が真希の口から放たれているのに、私は何も感じられなかった。そんなことはどうだっていいほどに、私は悲しんでいた。


「本当に……?」


自分に対しての問いを、小さく問いかける。


「ホンマや。うちはなもう……普通ちゃうんや。この持った能力を隠していく事も出来へんし、ましてや足もないのに。どないして普通でいろっちゅーんや?」


真希が問いに答える。違う、私が欲しかったのは真希の答えではない。ただ、私の持っている言葉が正しいのか、私が本当に悲しいと感じているのかどうかを知りたかっただけだ。


「さァて。それなら耐えられる様に繋ぐしかねェんだな。【ガマズミ】」


年時が機体の名を呼び、起動させると変形し始める。そんなことはもうどうだっていい。


「起こりうる事象は3つ。地表破壊、津波被害、大嵐。これくらいだろ?となるともう飛ぶしかねェよな。陸海空全部おじゃんの様に見える」


「それで、終わるんなら俺は止めねぇよ。和音は?」


自分の名前が呼ばれた気がした。そんなことは意識に入る余地がない。訳もわからないまま私はコクリと頷いた。


「もう、いいんだ。もう……欠ける事は、許されない筈だった」


「そ。そんじゃ、早速始めるか。行くのは空だ。大嵐なんて起こるのは一時的だし、収まった頃合いを図って降りればいい。空気がなければ風なんて吹かないしな」


「───うちにはここまま死なせて。綾火と一緒に」


「うっは、まさかのメンヘラ勢がここにもいるんですけど。マジ怖ェわ」


「和音───和音?」


聞こえない。聞こえないんだ。だって私は悲しいんだから。


ぐいっ、と私は持ち上げられる。何も見えない。視界はぼんやりと涙が滲んでいてはっきりと視認出来なかった。


「飛べるのは2機だけだからな。俺ら兄妹は和音のに乗るわ。お前ら二人で室咲のに乗れ」


私を持ち上げた人が無言で頷いた。その人はゆるりと歩きながら緑色をした大きな塊へと向かう。私は成すがままにされるだけだった。


「結局、何も出来ず仕舞いだったな。俺らじゃあ何者にもなれなかったんだ。正義なんて程遠かった」


そういって人は塊の中へと私を連れ込んだ。腕に抱いていた綾火を置いて何処へ行くつもりだろうか。砂が金属を擦る様な音が聞こえる。サラサラと音を立てながら周囲から集まってくる。


「俺は、正義だから、飛べる」


人がそういうと、浮遊感に襲われる。


「ゴメンな。俺がそのまま死んでれば何も起きなかったのかもしれないのに」


人が話しかけてくるけど、私には何の事なのか理解出来ない。


「終わったんだよ。最悪のカタチで。平和になんて終わらなかった」


人が話しかけてきたけれど、私にその意味は伝わらない。


「このまま、俺らが普通に暮らす事なんて、出来るのかな?」


人が私に話しかけてきたけれど、私にその答えが出せない。


「答えてくれよ……お願いだよ……」


そう言うと人は涙を流した。理由が理解出来ない。


「和音、お前は俺の何だったんだ」


私の名前が言葉に混じっていたのには気がついたけれど、その答えは出せない。


「──────」


「お前だけは、生きていてほしい」


愚かな願望だ、と私は吐き捨てた。

次回予告


もう、いやだ

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