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対応

パイロットシュート(仮)に乗って、私は狭い通路を滑っていた。新しい軍服が肌に擦れて痛い。摩擦があって、熱で肌が溶けそうだった。耳に付けたインカムを気にしながら私は小突いて年時に合図を送る。


「反応は?」


『お前まず確認しろよ。急にかけてくんな』


「誰のせいだ誰の。早く言え」


「ミサイルは全部火薬製だった。お前の領分だろうよ。ただ、能力拡張なんて出来そうにもねぇからな。加速装置は用意してる。飛べるんだな?」


確証はない、と言いたかったが私には出来なかった。なんせ、室咲が張り切っていたのだから、私が水をさせる筈がなかった。室咲を残して行くには少々不安だった。尻で滑りながら、インカムが落ちない様に手で抑えてふん、と笑う。素直に私は笑っていた。何を含むでなく、純粋に室咲に対しての笑みだった。心地良いものだと私は思う。無駄な思考の無く、本能から笑える事は素晴らしい事だと私は思えた。


「あぁ、問題ない」


『そうか、それじゃあ全身タイツ型のスーツをd』


「いらん」


拒否の言葉を放った瞬間にパイロットシュート(仮)が途切れた。突然虚空に投げ出された感覚に素早く対応して体勢を整える。橙色が薄くかかったような照明に照らされている紅葉桜を視認した。変化は一切ない。室咲と一戦を交えたその時その瞬間のままの姿で私の前に悠然と立っていた。難なく着陸して私は軍服に仕込んだナイフの調子を確かめる。そんな暇はないと自覚しておきながら、私はそれをせずにはいられなかった。


右手を遠心力でふるって袖に忍ばせたナイフを右手の掌に持ち変える。手にしっくりとくる感触が心地良い。だが、刃を握ってしまう可能性を孕んでいる事には違いなかった。今になって気付くって私はどうしたんだ。


ナイフを宙に投げて、再度持ち変える。そして、私の顔を映し出した。こんな時なのに、私は笑っている。でもそれは狂的な笑みではなく、純真な少女の笑みだった。


「そうか。私はこんなにも人間のような表情が出来るんじゃないか」


そう呟いてしまった私は既に壊れそうだった。私は今を維持出来ているのは、私が支えられているからだろう。室咲に支えられ、私は私でなければならなくなっている。そう自覚したからこそ、私は壊れないのだ。むしろ、壊れてはいけなくなったの方が正しいのだろう。


「………操縦室を開き、紅葉桜が屈めば私は紅葉桜の差し出した左手に乗って」


言葉を紡いでく。私が機体の原理を把握してしまったが故のデメリット、言葉で指示しなくては紅葉桜は動かない。そう思っているだけで動きを想像すればその通りに動くのだが、私はそれが出来なかった。疑い深い私には、自分をバカみたいに騙す事しか出来ない。そう自覚していたからこそ、私は自分に暗示をかける言葉を発する事で想像を強固にして現象として起こす事を選択したのだ。その言葉は現実となり、紅葉桜は応える。


紅葉桜の操縦室が開いて、身体を屈めて私に手を差し出してくる。指示したのは私のはずなのに、紅葉桜が私を誘っているかの様に感じた。従順な騎士、と言えば聞こえはいいが、コイツは私にとって元凶でしかなかった。利用出来るから利用して、便利だから使ったまでだ。私はこの悪魔に思い入れと呼べるものはない。


「紅葉桜は左手を操縦室へと運び、私が操縦室に座れば操縦室の扉は閉まって」


言葉を紡いで悪魔に命令を下していく。


「───紅葉桜、起動」


命令を下し、紅葉桜を動かす準備をする。ここから、私は飛ばなければならない。その時の状況を思い出す。飛べるという事を強くイメージする。前回とは違って、私には確固たるイメージが存在する。一度飛んだ記憶を呼び覚ます。黒く染まった室咲を私は許せなかった。黒い狂気に染められた室咲の誤った正義を、ただ、私は───私は飛べるぞ。


「状態変化し、背に紅葉と桜の造型をした羽を生やせば軽く羽ばたかせる。羽によって起こされる事象は浮遊。翼の保たれる間にのみ地に足を付く事はない。両手にレールガンを持ち、浮遊する姿は双銃士と言えた」


事象を再び口に出して上書きする。その言葉は現実となる。翼が生える。蝶の様なその羽は私を浮かせる。そこで私はインカムを小突いて年時を呼び出した。


「いいぞ。ハッチを開けろ」


『早いわ』


機体内に座ると広がる360度の視界から確認出来る扉は一つ。正面向かって左側下方に存在する扉だけだ。紅葉桜を起動させて、一歩動かす。身体に同期しているかのように紅葉桜はなめらかに動き、ハッチの目の前に立つ。


『ちょうど5発飛んできてるから、なんとかして撃ち落とせ。以上』


「了解」


ハッチが開かれる。眼下に広がったのは一面の雲だった。辺り一面が真っ白で、雲の先は真っ青。水素で浮いているとは思えない。一度裂いた経験のある雲の上に今はいる。くるりと機体を回旋させながら母艦から身体を投げ出すようにしてハッチから出る。ティアという機械に乗っているというのに360度の視界のせいで自由落下を感覚的に味わう事が出来る。羽があるというのに、私は落下していた。空母が視界に入っていて、数秒の落下をすると雲と空の色で色が消える。鏡とはこういうことかと身をもって理解する。


「加速装置、起動」


展開する加速の翼。浮遊の羽を大きく広げて加速の翼で母艦のちょうど真下についた。そこにはもう室咲がいたことには驚いたがそれよりも驚いた事は、室咲が砂鉄を纏っていた事だ。漆黒の砂鉄の羽が室咲の機体を支えながら浮遊している。私はレールガンを両手に持ってミサイルからの襲撃に備える。


「確認、残り10秒で5発だ。いけるな?」


『「了解」』


隣の室咲の声がインカムから聞こえる。ここまで不安を感じないのは何時ぶりだろか。


室咲が頼もしい。それよりも、室咲が私よりも危険な状態にあると分かっているというのに私は安心していた事だった。これは許される事なのだろうか。自分は弱いと認識しているからこそ、私は室咲に支えられていると感じられる。しかし、室咲は私に支えられているのだろうか。むしろ、負担にしかなっていないのではないかと、思考だけがぐるぐると巡っていく。


『和音。ありがとな』


突然インカムから室咲の声が響いた。私は気を動転させて銃を手から滑り落としそうになる。


「ま、まだそんな、感謝させるような事はぁ───!?」


声が変わっている。一オクターブ高い声。私本来の声だと自覚した。今弱くなる訳にはいかなかったが、私はこの状態が心地よかった。強くなくても認められているような、そんな感覚に、私は。


『───くるぞ』


室咲の声で意識がガラリと変化した事が分かった。スイッチが切り替わる。私はレールガンの引き金に指をかけて、雲の中を睨みつける。


「右方レールガン射出、標的ミサイルA。左方レールガン射出、標的ミサイルB」


言葉を紡いで私は引き金を引いた。照準は勝手にアプリケーションが調整する。元々、ラグは必要なのだ。私にはこれで数を減らす事しか出来ない。私に残された武器は手だけだった。しかし、それが今回一番の武器となる事は、年時から聞いている。


「───無銃力空間適応」


私の持つ唯一無二の銃弾に対する絶対の防御が、初めて他の人の為に使えるという事実が私を鼓舞する。私の能力はただ自分を銃弾から守るための臆病な能力だと思っていた。しかし、今この瞬間だけに関していえば、私はこの能力を持ってよかったと断言出来る。私は銃弾の効かない───『銃の効かない双銃士』であると


視界にミサイルを捉えた。大きさは然程大きくはないものの、噴出孔から火が上がっていることから私の能力の及ぶ範囲内であると判断して私は加速の翼をはためかせる。


「3つ」


軽く触れてミサイルの推進力を殺すと、私は再びミサイルを目で追う。二つ同時に飛来したミサイルのうち片方は自分の行動範囲内で動けるし、対処は可能だろう。しかし、もう一つだけはどうしても届かなかった。


「4つ……室咲ッ!」


室咲がその身体に纏った砂鉄を右手に集めて、砂鉄で形成された刀を作り出した。同じく砂鉄の翼を動かして滑空し、砂鉄の刀でミサイルを切り裂く。黒装束をまとった暗殺者だと言えば名が通ってしまうような行動だった。


『5つ、な』


室咲が笑顔を浮かべているのが分かってしまうような声色でインカムに話しかけてくる。私は安心したのか、深く息を吐いて緩やかに上昇していった。


『あーごめんごめん。一本逃してもうた』


『クソアマァ!お前は状況を一切わかってねぇだろ!?』


室咲の声で、室咲は感情を発露している事に気がついた。


「………帰る」


『おま、火ィ当てんなっつってんだろ!!爆発すんぞ!?』


『しらんやん。というか、あんたらの担当の場所やってんけど』


小さな嫉妬心を、私は芽生えさせた。

次回予告


乗り込むしかねェだろ

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