不安
最悪だ。どうしてこうも私は弱味を見せてしまうのだろうか。
「…………そ、そそ」
「ん?どうした和音」
そろそろ離してくれないか。という言葉が出ない。きっと今も顔は真っ赤なのだろう。私は未だに室咲の腕に抱かれたままだった。一体どれだけの時間が過ぎたのだろうか。私は安心してしまって意識をなくしたのだった。そして、私の今の状況から推測するに、室咲は私が意識を失ってからずっと抱いていたという事になる。周囲は見えない。下を向こうにも室咲の胸板が邪魔をして顔が動かない。
「な、なんでも………な、ぃ……」
「そうか」
最後の方が小声になってしまった。
「寒くないか?」
「さ、寒いな……私全裸だし…」
「毛布一枚じゃ寒いに決まってるだろ。和音、なんで外に出たんだよ」
変な感覚に気付いたからだ。その他に理由はない。私はそう答えたかったのに、私の口から出たのは違う言葉だった。
「───不安、だったから」
違うだろ。というか、これ普通逆じゃないか?好意的な言葉は胸の中で、否定的な言葉が口に出るものじゃないのか?何があったんだ私。
「不安、か」
あながち誤りではないから質が悪い。否定しようにも否定できないじゃないか。確かに私は不安だった。私は何が変わったのか、私は何を得たのか。何のために、得たのは恐怖とうマイナスなものだけだった。だったら私はどうして人を殺めてまで世界を変えられたんだと、自問を投げたのだ。半数とはいえ世界を手に入れたも同然と言って良い。しかし、凡人である私がそこまで出来た理由が分からない。
「俺も不安だった」
室咲の口から思いもしない言葉が飛び出た。
「嘘」
「殺すぞ」
私の『思いもしない』とかいう驚きの表現を返せ。
「ただ不安だった、と言えば嘘になるっつーだけだ。不安という言葉は間違ってはいない。不安というよりは『焦り』かな」
「………」
思い当たる節が自分にしかない事に対して私は心の中でだけ謝罪する。東軍との全面戦争の間私はずっと室咲への返事をしなかった。要らぬ決意をさせて室咲をただ狂わせただけの私には、こうして抱かれている事すらも認められるべきではないのだろう。私はまた力を込めてしまう。謝罪の意で、私は室咲に思いが伝われば、と思った。
「このままだと、さ。ぶっ壊れるんだわ。俺」
「───室咲」
理解が及ぶ答えではなかったが、瞬時に室咲の言わんとしている事が理解出来た。室咲は私の言った通り、狂気に立ち向かっている。しかし、それは決して優勢ではなくて、今にも呑み込まれそうな程にまで危険な状態だった。室咲はそれなのに機体を狂気を以て動かし、私たちを乗せたというのか。
「アホみてぇに弱いから今。何も言うんじゃねぇ」
室咲はそういって、私を強く抱いた。つい先ほど私を抱いた時とは比べ物にならない程に弱々しい力で身体全体で私を包もうとしてくる。
『至急、全員、中央司令室まで集合。非常事態発生』
今となっては聞く事自体がありえないと思っていた典型的な機械アナウンスによって私たちの時間は阻害される。不機嫌に成りながらも、私は肩に掛かっていた毛布を羽織って身体を隠し、室咲の抱擁から離れて立ち上がる。
「室咲、この部屋に軍服とか置いてなかったか?」
「ん。それならそこの籠に入ってる」
そういえば、何故この部屋にはあるのだろうか。そういえば、何故私は前面で持っていた毛布が背中にかけられていたのだろうか。そういえば、室咲貴様。キィッ、という効果音が相応しい程に私は室咲に鋭い視線をぶつける。
「いやぁ、すっごい綺麗でしたよ和音サン」
さらっととんでもない事いうなコイツ。
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「状況は?」
「旧英国領空に入ったとたんにレーダーが感知してなァ俺としちゃーなんとかしたいところなんだが、いかんせん急離陸だったもんで、武器なんてそこまで沢山積んでないのよ」
「して、問おう。何故に急離陸?」
「お前寝てたのかよ和音。西軍からの強襲だよ。俺ちゃんとアナウンス流したぜェ?」
「兄貴ってば超テンパるから年日大爆笑。つゥかありえねェだろ。誰もあそこまでテンパらねェよ」
「五月蝿ェよ年日。ティア積んですぐとか可笑しいだろ。もっとも、ティアだけでも積めた事に感謝して欲しいもんだ」
「なるほど貴様等同時に喋るな。で、集合させた理由はティアを飛ばせという事で問題ないんだな?」
「物分かりがよろしくて大変結構ですねェ。そうそう。飛べるのはお前ら二人だけだからな。年日も弾薬で援護は出来るけど取りこぼしとか出るし」
「誰が雑いってェ?遠距離系の性だろォが兄貴。理解しろよ」
「そもそも、年日はここに居る間は戦力外なんだけどな。もっと初歩的な部分で」
「で、それは俺らには教えてくれるんですか?天才さんよ」
「いいぜ。これ、実は浮いてるのって水素なんだよ」
「「──────ごめんもう一度言って?」」
「だから水素だって」
「「火ィ点いたら終わりじゃねぇかこの野郎!!」」
「ほらほら急いでー。ここにパイロットシュートがあるから飛び込んでくれれば一発でティアん所にいけるからさ」
ガンッ、という衝突音と爆発音が艦内に響き渡る。というかどう考えても危険だった。
『年時さん!流石に私だけじゃ下方をカバー出来ません!!』
『クソ坊主はよせんかい。うちらじゃ限界あるーゆーとんねん』
「ミ……サ!?くっそこの野郎……」
そんな小芝居はどうでもいいから早くして欲しかった。
「早く行くぞ和音!まぁ、俺らの愛のちkへでぶっ!?」
言い終わる前に腹パンで強制キャンセルしておいた。年時たちに何を言われるかわかったもんじゃない。口を慎め室咲。
私は年時に指定されたパイロットシュートなるものに手をかける。というか、これダストシュートじゃないか?と思うくらいの大きさに、これダストシュートじゃないか?と思うくらいの深さだった。というかこれダストシュートじゃないか。
次回予告
おま、火ィ当てんなっつってんだろ!!爆発すんぞ!?




