結論
エンダァァァァァァァァァッッィヤァァァァァァァァァァァァ
今年に亡くなったそうで。結婚式とかの定番だったのに。この年でも知ってる有名歌手の歌が生ではもう聞けません。死とは終着駅だと何処かで聞きました。でもその割には、その人の作品は死んでからも語られていくんですよね。電子という簡易的かつ高速で提供できてしまう僕等現代人にとっては然程『作品を残す』という事は重大に見えていないのかもしれませんけど、これってすごい事なんですよ(16)
何を悟ったんだよ高坊。
室咲によって人員は内部に入れられて、各自で休養を取ることとなった。年時が気を使ったのか、私たち6人に関しては個室が与えられていた。広さは2人が寝転ぶ事が出来る程度。その部屋にベッドなどを置くものだから、一層狭く感じる。私はナイフを懐から取り出した。二週間に渡って狂気を用いて人を殺しつづけた小刀の反射は鈍くなっており、たんぱく質が纏わり付いている事が分かる。室内までもが全て鉄で出来ている所為か、鏡のように私を写し出し、私の異常性を示してくる。首に巻かれたバンダナ、手に小刀を持つ姿、そして、大きな傷のない身体。他の面子は傷を負っているというのに、私は目立った外傷がなかった。室咲は目と耳を、真希は足を、綾火は五感を失っている。年時でさえ、何かを背負っている。では、私は一体なにを失い、何を得たのか。ポケットから砥石を取り出して床に置く。ナイフを鋭く、薄く磨いていく。私の顔が移った。しゅっ、という単調な音が無人の部屋に響く。
「本当に私は変えたかったのか?」
自問を投げかけるも返答はない。一番初めの動機が一体なんだったのか、濃い日ばかり過ごしてしまった所為で忘れつつある。ここを出てみたいと思って、世界を変えたいと願った私は、年時の発案から第三倉庫を占領し、周囲の穴の孤児を集めて、東軍との初陣をして、殺し、レールガンの設計図を手に入れて、真希を入れて、東軍との全面戦争をして、殺して、殺して、殺して。
私は結局は恐怖を知っただけだった。弱くなっただけだった。研いだナイフを天井にかざして形の変化がないか、刃こぼれがないかを確認してから、私はナイフを懐に戻そうとした。
「………これでは、変わらない」
小さくそう呟いて、私はナイフをしまう事を止めた。手元に忍ばせておこう、と思って私は右手首にナイフを入れて、何時でも手にできる様に位置を調整する。パーカーはナイフで簡単に切れてしまった。いつもの軍服ならそうはならないだろう。
「服、あるかな……?」
ふとそんな自分の口調とは違う声色で声が出た。1オクターブ程高い自分の声に唖然とする。自分の喉から発せられた声なのに、にわかに信じられない。自分はこんあ声が出るのか、と感じる。狂気を孕まない自分はこんなにも綺麗なのかと。
「黙れ狂人。私が綺麗な訳がなかろう」
ぴしゃり、とその思考を停止させる。自分を許してはいけないし、自分を認めることも許されない。自分を肯定しはじめれば、どうなるかは目に見えている。また狂ってしまう事に違いなかった。
疲れた。少し休もう。ベッドに横たわって私は濡れた服を脱いだ。一切の服を取り払って肌を外気に晒す。一人の部屋でよかったなと改めて思う。備え付けてあった一枚の毛布を除いて衣類は身につけていない。蒸し暑い筈の室内の空気が汗の影響で涼しく感じる。
力を抜くと、気だるげな感覚に襲われて、重力を感じる。こんなに疲れていたのか、と私の体力の無さに打ちひしがれる。感覚的な問題なのだろうか。一日こうして活動しているだけで疲弊していく。思考のしすぎが原因であることは分かった。明らかに思考の回数が増えているし、狂気を避ける様に意識し過ぎたせいでなおさら疲れている。糖分が足りない。
そうこう考えているうちに、ふわりとした浮遊感に襲われる。眠る寸前に訪れる独特の感覚なのだろうかと思ったが、それは違った。意識は未だ続いていて、思考が夢の中へと変化しない。何が起きたのだろうか、と私は起き上がって部屋の外に出た。
「………は」
異様な光景が広がっていた。鉄で出来た母艦内から外の様子が伺える。さらにその景色が高度な場所からのものであったのと同時に、移動している事に、私た驚愕する。
「くっそ飛びやがったか」
左側を見ると室咲が何やらおかしな表情で部屋から飛び出してきた。必死の形相と言えばさし違えないが、何故そんな顔をしているのか、私には見当が付かなかった。そんなことよりも、私は今の自分自身の格好が異常だという事に気付く。
「──────」
「…………」
目が合ってしまった。そして、室咲が目を見開く。そりゃそうだ。私は毛布一枚で飛び出してきたものだから、ほぼ全裸といっても相違ない。
「和音サン?」
「…………」
動けない。毛布が大きめのサイズであればよかったものの、所詮夏場に用意されたタオルケット程度の大きさの毛布ではこの状況を凌ぐ事で精一杯だった。ここで動けば絶対に見える。何がとは言わないが見える。
「………何してるんです?」
「………後ろを向け」
「はい…………」
室咲は私の言った通りに後ろを向いた。
「────ふ」
笑みが漏れる。私は今、何がしないのか。身体と心が分離しているかの様に、私の身体は部屋に戻ろうとはしてくれなかった。身体の前面部を毛布で隠しながら、私の身体は室咲へと近寄っていく。止せ止せやめろ。私の身体に一体何が合ったというんだ。そんな抗議の声に身体が従う訳もなく、私の身体は室咲に触れた。
「………えっと」
「───室咲、私は」
「いや俺の方が聞きたいよ。どうしたんだ」
ぎゅっ、と抱きついた私の身体は室咲の背中に密着し、身体の熱を室咲に伝える。鼓動が早まっている事に気付いた。有耶無耶にしていたが、私はこの男に告白された事を思い出す。しかし、それは私か?私という仮面に告白しただけじゃないのか。私という個体には興味がないのかもしれない。それでも、返事が───したかった。
「お前の事が、好きだ」
「──────」
室咲が息を飲んだ事が伝わった。背中が微かに膨らんで、空気を吸い込んだ事が私の胸越しに感じる。言ってしまったという後悔よりも、私は不安を覚えていた。拒否されるかもしれないと、臆病な私はそう思ってしまった。寒い。体温が急激に下がっていくのが感じられる。夏だというのに、手先が冷えて震えていた。
「そうか」
短く室咲はそう言う。返事になっていないじゃないか、と私は声を出したかったが、それは叶わない。胸に込められているものが邪魔で声どころか、呼吸すらままならない状態になっていた。抱きついている腕につい力がこもってしまう。嫌なオンナだ、と自己評価を下す。こうしてしまえば、室咲は私から逃げられないじゃないか。室咲の選択肢を、半強制的に絞って私は何がしたいんだ。
室咲は私の腕を解く。男と女の力の差は歴然だった。幾ら戦場に立っていようと、人を殺めていようと、私は室咲という男の前では結局は女のままだった。いとも簡単に腕が解けてしまう。密着していた肌が離れて空気が冷たい。拒絶されたかのような虚無感に襲われる。今きっと私の表情は酷く歪んだものとなっているだろう。狂的に歪んだ表情ではなく、悲劇のヒロインの様な、絶望に満ちたそんな表情に。
室咲は手を解いてから、半回転して私の方を向いた。向いたというには齟齬があるかもそれない。早すぎて私に起こった事象が理解出来なかった。だけど、結果的にどうなったかは分かる。私は今、室咲の腕に抱かれている。互いの鼓動を胸で感じて、私は満足だった。室咲は温かかった。大きな胸板もさながらに、その表情は確認しなくても分かる。優しい、温かい笑みだったに違いない。
「俺も好きだぜ、和音」
その言葉を聞くと、私は満足したかの様に意識を放置して、眠りについてしまった。
次回予告
「ミ……サっ!?くっそこの野郎……」




