誰も、正義なんて望んではいない
一気に投稿。二つに分けてるけど、長すぎたんだよきっと(笑)
戦闘は三人称。読み返してみたら、僕って語彙少ないなって
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立ち尽くす、互いの機体。蠢く黒と、鮮やかな紅。双方は共に敵意を向けていた。故に彼らは衝突するために加速を始める。翼の様に広がった黒一色の機体は翼に溜まった推進力を使って紅色、和音へと機体を加速させた。和音は落ち着いていた。そして、狂気に染まった室咲を見てさらに冷静さを増す。和音は操作ロジックを知ってしまった。その為に和音はその動力となる、脳波パターンを自己形成しなければならない。そのイメージを強固にするために、和音はボイスコマンドを入力する。だが、その行動は1テンポ遅れた。二機に差は殆ど無かったが、操縦士に明確な違いが在った。意識しているか、していないか。目的を形にしているか、曖昧か。その差は心象面、内面的な事だったが、大きいことには違いなかった。室咲は翼の推進力を保ったまま、体中に纏わり付く砂鉄を右手に集め、一本の刀へと変化させる。和音の手には一発使ったレールガンと、フル充電されたレールガンが一丁。一丁銃がない理由は、補給用の電池が無かった為に、消費した分を移し替えてきたからだった。それしか、和音に武器はない。
「レールガン。照準は室咲の左足。発射」
ボイスコマンドを入力し、和音は引き金を引かせる。全視界を補填する機体に乗っている所為で、体が機体そのものかのような錯覚を覚えていた。右手のレールガンから一条の光が放たれる。右手に感じているのは、小さな反動の衝撃。視界の所為で、和音は機体と同一化したかの様に錯覚した。反動は実際には小さなものだったが、和音が『反動がある』と錯覚した事によって、反動が再現され、和音の機体の右手は必要以上の反りを見せる。
室咲はとっさ刀を左足にかざし、橙色の閃光を阻んだ。レールガンはレーザーを放っている訳ではない。電力によって中に入っている弾丸を射出しておいるだけに過ぎない。弾丸に種類は問わず、電力さえあれば何発で弾切れを考える事なく射出出来る事が利点だが、そこを除けば他の銃と大差なく、故に刀によってその軌道を反らされた。砂鉄で作られた刀の強度は言うまでもなく並の鉄刀と同等だが、砂鉄であるが故の利点、再構成によって、刀は砕けた後もその姿を取り戻した。
「ま………っずっ……」
和音は次の動作に繋ぐためのボイスコマンドを発する間もなく、再構成された砂鉄刀を阻む事が出来なかった。室咲は勢いをそのままに、その砂鉄刀を和音の喉へと横一閃する。砂鉄であるが故の、ましてただ周囲から集めた砂を固めただけに過ぎない特徴の為に、砂鉄刀は頭を切断するまでに至らない。幾センチ程切り込んだが、その後砂鉄刀は折れて、再構成を始める。
好機、と和音は一瞬で思考を回転させる。室咲が横一閃に力任せに刀を振った為に、その体勢は、丁度自身に背中を向ける様になっていた。手に持っていた、先ほど放った方ではない左手のレールガンに力を込める様にして、ボイスコマンドを入力しようと息を吸い込む。
「左方レールガン射出、標的室咲」
正しくボイスコマンドを入力したことによって、その言葉は実行される。作法のレールガンから橙色の一閃。室咲の背面装甲へとダメージを与える。力を込めても威力は上がらない銃弾であったが故に、機体を貫通とまでには至らなかったが、確実に装甲が損傷したことしは違いない。
「甘ェ甘ェ甘すぎんだろ!?んな鉄屑ぶち込んだくれェで勝ったと思ってんじゃねェよなァ!?え゛ェ!?」
室咲が叫んだ。狂気に染まっているとしか形容出来ない、枯れ気味の荒々しい声質。和音は次のボイスコマンドに備え、息を吸う。その瞬間に室咲の翼が推進力を得た。しかし、翼の双方ではない。右方のみ。左方には一切の推進力は生まれず、故にそれは左回転のエネルギーとして実行される。室咲は右手にある砂鉄刀を遠心力を最大限に活用する為に、目一杯に伸ばした。回転は高速で実行される。
「左方レールガンの腹部で防御」
和音はそれを予想していたのか、流れるように言葉を紡いだ。確かに言葉は実行に移され、砂鉄刀の進行お阻害するかの様に銃が構えられる。ガッ、という音と共に、防御が実行された。だが、その防御は一瞬のものでしかない。
砂鉄刀、と形容出来る室咲の武器。それは鉄と同等程の堅さだが、集めて作った故に、それよりも確実に脆い。だが、再構成が可能であった室咲の武器は、銃の腹部との衝突の後、分解し、銃を抜けた辺りで再構成される。そして、幾センチのみの切り込みを入れて、また砂鉄刀は空を切った。一撃必殺ではない。幾多の攻撃が確実に通り、確実性をもって殺す。故に必殺。何も出来なかった能無しは、狂気を使って正義を真っ当する。和音はひとまず、とボイスコマンドを入力する。レールガンのサブウェポン、バーストの行使を指示するコマンド。「押せ」。小さく呟いて、それを実行させる。溜め込まれた熱を、双方レールガンより吐き出した。それによって後方への推進力が生まれ、距離を取る。
「なァに考えてんだァ!?俺は此処にいんだよ。何で離れんだ!?」
室咲が叫び、砂鉄刀を禍々しく光らせる。表面上は、電気の力によって振動し空気を振るわせる砂鉄の塊だが、再構成という利点からその砂鉄は凶器と化していた。和音は思考を巡らせる事すらも忘れ、室咲の事を哀れだ、と思う。狂気に呑まれる事がこんなにも哀れだなんて、汚い。穢らわしい。殺人衝動ははたから見ればこんなにも醜悪なものなのか。
疑問が生じる。何故、ではなく室咲がこの行動へ移した意味への自問。なんだろうか。自分ならば、意味のない殺人への衝動は押し殺す。意味があるからこそ、狂う。自身の否定や、矛盾。無力さ等を補う為、補填するため、否定を否定するために狂っている。では、室咲は一体何のために狂っているのか。否定したか?矛盾していたか?無力だったか?答えは逃避の為だった。殺しへの罪悪感。室咲が感じていた、最悪で最低な気分、それは罪悪感だと和音は判断を下す。その室咲の罪は一体なんだったのか。そして狂う為に起こした自身の論は。
「目的はなんだ室咲」
「も、く………的………」
和音は室咲に問うた。機体の通信機能すらも、機体を思考で制御する和音にとっては、今までは出来なかった事も、システム上は可能であることを成す事は造作ない事だった。室咲は狂いながらも、和音の声を聞く。それの理由は定かではないが、狂気のロジックからである事には違いなかった。正義の声。室咲にはそう聞こえただろう。
「だっ……だ……正義を……ぜいぎを………」
正義、正義と室咲は繰り返す。彼にとって、狂気は正義を行う事に必要な事であり、正義とは和音を守ることに集約されていた。室咲の思考は、『和音を守ること』だった。それが狂気によって歪に歪み、『和音以外を殺すこと』へと変化していた。室咲は思考できない。一つの事にのみ特化し、狂い、殺すことにしか思考が回らなかった。
だが、
「問おう、室咲。貴様はそれを正義と思っているのか?貴様が信じた正義とは何だ?貴様はそんなにも安いものの為に狂うのか。貴様は私と、和音・F・アーンドランと同じく狂人なのか!?」
和音は、守られる事を是としなかった。逃避による狂気は、自我の崩壊へと繋がる。和音はその事を理解していた。否、つい先程理解した。狂気にベクトルがあることは、和音も初めから分かっていたことだが、それを詳しく把握したのは室咲を見て、だ。自我を守ろうと、正の感情を向ける彼に対して、そして、自分では何もしない自分自身に対して、何と、私は弱いのだろう、と和音は思った。フォルテの名を名乗りながらにして弱者である自分自身。自責の名を名乗りながら責任から逃れようとする自分自身に対して。この名前は室咲にこそ相応しいのではないかとまで思う。そう自虐した。
「室咲、貴様は何処までも強者だった。その名の通り、室内で咲く弱々しそうな者ではなく、マリアの名を名乗っているように、何処までも聖者だった。
思考は全て守ることにのみ直結し、本当の意味での終結を望んでいたのは貴様のみかもしれない。私は汚かった。頭の奥底では、争いが終わったあとはそれなりの立場を与えられ、何もせずとも暮らせると思っていた。私の狂気は自己暗示と共に逃避であった。”狂っているから、仕方ない事だ”と言い聞かせ、殺人を是とする。そんな人格を形成しつつあった。
だが、貴様は違うだろう?最低で最悪な気分になりながらも殺しを行う、そんな人間だったのではないか?私あ既に戻れるような場所には立っていない。だが、貴様は違う。まだ足を踏み入れただけだ。貴様は罪を背負える器を持っている。貴様は何処までも真っ直ぐだ。一度間違えても、一度戻せば貴様は戻れる」
答えを聞こうか、と和音は続ける。ボイスコマンドを放っていないのに、その行動が機体に表れた。紅葉桜の右手、レールガンの銃口が室咲に向けられる。
「貴様がまだその狂気を是とするのなら、私が貴様をこれ以上歪めない為に、貴様という狂気を殺す。その馬鹿げた方法論、理論から崩し、貴様を壊す。いいか。まだ是というか。ならば殺すぞ。ならば貴様を否定するぞ。
───誰も、正義の味方なんて望んではいない。望むのは、間違いを正す者のみ」
和音はそう言って、レールガンにのこった電力を確認する。年時によって改良が加えられていれば、と思ったが、その装備に与えられた弾数は変わっていなかった。右が8発。左が9発。消費は確かに実行されていた。もしかすると、と和音はボイスコマンドを入力する。「レールガン電力、充電」そう言ったはいいが、何も変化しない。やはりシステム上可能な事しか出来ないか、と和音は声を出さずに思う。
「正義だ………から………正しィんだから………」
「正しい?だから狂うのか?貴様にとっての正義は殺しなのか?」
「俺は何処までも正しィんだよォォォォォ!!否定すんじゃねェェェェェ!!」
ガコッ、と外れる音。ザザッ……と集まる音。そして、狂ったような嗤い声。室咲の機体のカタチが変化していく。加速装置は無残に地面に落ち、周囲から更なる砂鉄が集まってくる。ドス黒く染まる、室咲に体は血に塗れていた。痛みを欲するが故に、耳の肉へと手を伸ばす。空気に触れた瞬間に押し付けるような痛みを感じたが、それでは足りなかった。手を伸ばす。触れる、抉る。痛みのあまりに絶叫した。
「あああああああああああォォォォォォうぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛だいぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃぃぃぃぃ!!!!」
狂え、狂え、狂えと自身に言い聞かせていた。もっと染まれと、そうでなければ、正義の否定者には勝てないと、無能が有能に勝るには狂うしかないと言い聞かせながら、更に機体の形状を変化させていく。仮の翼は必要ない。必要なのは、相手に勝るポテンシャル。圧倒的優勢でなくては、きっと無能にすらなれない。砂鉄が背中へと集まっていく。外れて何もなくなった翼を埋める様に、砂鉄は形状を変化させながら固まっていった。
「律儀に待つ訳なかろう」
和音はレールガンを二丁構え、同時に引き金を引いた。3本目は存在しない。「奪え」と小さなボイスコマン。ラグは発生せず、その言葉は実行された。年時に与えられた方法には程遠かったが、ある武器を使っての最大出力だった。寸でのところで室咲が動いた。砂鉄が丁度その進行を邪魔する様に板状に展開される。しめた、と和音は呟く。砂鉄の刀で防がれたが、そとは違う、それ以上の出力。阻まれるはずがなかった。しかし、先程とは違ったのは双方同じ。砂鉄が崩れない。どれだけ固めても鉄は鉄でしかないはずなのに、室咲はそれを狂気を以て征する。
「い゛ォォォォォォォぉぉぉぉぉぉぉぉゥゥゥゥゥゥゥあああああああああ■■■■■■ッ!!」
もはや絶叫でもなくなる。彼な何だったのか、何がしたかったのかまで忘れる。だが、それに狂気は確かに応えた。
ドス黒い、鈍い光を放つ、鉛色の翼。全身が黒色に染まり、翼が悪魔の様に各骨の先端が尖り、幕は砂鉄で薄く形成される。その翼を羽ばたかせ、空気を叩く。飛翔する。浮き上がる、地面から足が離れる。言葉では何とでも表現出来たが、その事についての思考が追いつかない。飛ぶ。鈍く黒く光る、日光が砂鉄を透かさない、鉛色だった。
「ほぉ■、俺が正義だ■ら飛■る」
次回予告
私は、正義だ




