何もしなければ、きっと何事も起こらない
私の判断は正しかった。こちらに誘う時の台詞以外は年時の用意した台本通りに進めた。そして、あの青年兵の判断も予想の範疇だった。簡単で、扱いもしやすく、自身が近づく必要のない銃を選択し、彼はナイフを捨てた。普通であれば、正しい判断だったが、私にすれば、ただ愚かだったとしか言えないが。私は特異であった。無銃力空間を発動させていたが故に、弾丸は無力となり、彼のその行為から処分することとなった。情報を漏らす事はよくない。ある程度は私の事も有名になりつつあるが、それでもこれ以上の拡散は許されないだろう。
私は彼の血で汚れたナイフを拭い部屋を出る。侵入する際には、真希の時空間制御で加速し、青年兵の速さをできる限り減速させた。その為に、物音に関しては青年兵には聞こえなかったのだろうか。
元々真希が全て行えば早い離しだったのだが、加速している時に、青年兵の攻撃がもし、仮に銃でもナイフでも使った場合に、真希の能力は無意味すぎた。加速は3倍まで、減速は3分の1まで。対象の複数設定は可能でも、咄嗟の発動にはボイスコマンドの入力を有する彼女の能力では、奇襲には対応できない、と私が判断し代わったまでのことだ。べ、別に楽しかったとか、そんなんじゃない。
「はよ歩いてもらわんと遅れんねんけど。アーンドランがさっさと殺しとったら早かってんけどなー」
「まぁ良いではないか。速さなら貴様がなんとか出来るであろう」
「いやせやけどな……慣性の法則とか無視出来へんから嫌やねんけど」
「そうか。では急ぐとしよう」
今、この本部は無人となっている。正確には何人か……いや、非戦闘要員はいるかもしれないが。あと、セラフィム(と言うらしい)も今はない。全て指示によって戦地へと向かっている。私たちは、その固まっている集団に奇襲をかける。
一直線に進む武器を使う私としては、余り気の進まない話だったが、この際仕方ないだろう。近接のみの真希と室咲もいる。正面と向き合うまでに、どれだけの戦力を削れるかが、そのまま勝率に直結する。
敗北は必要ない。それはそのまま革命の終結を意味する。私はどんな手を使ってでも、悪者だろうが、卑怯だろうが、えげつなかろうが、止まるわけにはいかなかった。
私は紅葉桜に乗り込み、年時に通信を繋いで、作戦が無事終了したことを伝える。予定では、約一時間程で東軍はポイントに辿り着く予定だ。私たちがセラフィムを全機出した事には意味がある。
1、今まで精鋭だった操縦士が、素人並の者が乗り込む事によって、全体的な操縦レベルを下げる。
2、多すぎる戦闘に向いていないスタイルをよく取っていたあの機体に連携を期待しなかった為に個人的に動いた機体同士で同士討ちになる事を期待する。
3、加速装置のような、外付けハードウェアを使わせない事。
私たちの持っている情報以上の戦闘方式を取らせないことに集約されるが、手段せんが如何に難易度が高いかは知らずとも歴然としている。レールガンが実装されているが、それはあくまでエネルギー調達の為に必要なのであって、そこまで有効に使ってくる者はいないだろう。まあ、熱で動く機体ならば当たり前か。
ひとまずこの汚れた服を着替えなければ。どういうわけか、いままでとは比にならない量の血が付いてしまった。それはそれでかまわないのだが、着替えるのが面倒だ。服に拘りはない。ただ、そこにあった軍服を羽織るだけ。少し大きめの所為で、手足の袖を切らなければならない事もあるが。そういえば、バンダナもすっかり赤褐色に変わってしまった。昔の本来の色が何であったかも忘れてしまった。
私は服に手をかけて脱いでいく。体型維持をしているつもりでも、穴で生活していた時よりも栄養分を摂っている所為だろうか少し………いやいや。考えるのはよそう。
ピピピッ、と電子音が鳴った。どうせ年時のテキストメールだろうと適当に判断して、リクエストを許可する。ホップアップが表示される。今気付いたが、室咲との個人通話だった。そしてこれも今気付いたが個人通話にはカメラ機能が付いていた気がする。そして今気付いたが、私は今着替え中だった。つまりのところ。
「お、届いたか和音。そろそろ出発した……ほ、うが……」
「……………」
「え、えっと……その…ですね?」
「…………………」
当然こうなった。
私はすぐさま紅葉桜を起動し、360度の視界を確認した上でレールガンを構える。室咲との距離は目測で300m。室咲は右斜め後ろにいた。それだけ確認すると、私は銃口を向けて引き金を引いた。橙色の光が室咲の機体を掠めて通り過ぎる。
「次は……当てる」
「お前スナイパーの方が向いてるんじゃぇの!?距離とかの問題じゃなくて!!」
「あと、私でシたら殺す」
「思考がぶっ飛んでらっしゃる!?」
スナイパー向きなのは自覚しているが、それだと何も感じないではないか。悲鳴も血肉も感情も。私は殺しを仕事にしたい訳じゃあない。あくまでも娯楽の一環として、私は愉しみたいのだ。ひとまず予備に軍服を着て、袖の長さを確認する少し大きいが……切るほどではなかった。袖を折ってサイズを合わせる。首の所が大きく開いてしまった。私の戦闘力がもっと上であればよかったものの……
因みにもう通信は切った。二度と肌を晒さないからな。通信も音声だけでよかろうに。何に技術を注ぎ込んでいるんだあの白。そういえば、何時からだろうか。前まで……穴の中にいた時は服を着ていようと全裸だろうと視線を気にした事がなかったのに。普通、なのだろうか。私は私のはず。私は一体何が変わったというのだろうか。私は通信機能を使って年時に通話と繋げた。
「年時、本隊との接触まであとどれくらいだ?」
「ん?あァ和音か。そろそろだ。問題ねェなら全員に通達すっけど、いいな?」
「構わない。あと、聞きたい事があるのだが。私のレールガンの電力源ってなんだ?」
「俺特製の乾電池だけど」
「いやすごいけども。貴様の技術力は一体何処に向かってるんだ」
「あ、あと今予備電池作ってるから。代えはまだ効かねぇぜ?一丁にきっかり10発ずつ」
「私もう2発使ってるんだけど。説明なかったせいでかっこいいからとか言う理由で消費したりしているんだが」
「大丈夫だって。なんとでもなる。手前が戦おうとする限り、そいつか答えてくれるさ。和音から指示出せ」
ぷつっと、それだけ言うと年時から通信を切った。指示は出す事はやぶさかではないが……私は他の四人に加速装置使用の通信をして返事を待……来た。
う、うむ。皆待ってたのだな。い、いいいい行くとしよう。
私は加速装置を起動させ、レールガンの銃口を空に向ける。引き金は、相変わらず軽い。この作戦が成功すれば、世界の半分は救われる。東側の無罪の人々の命は、二度と奪われる事はなくなる。私は引き金を引いて合図をした。それとほぼ同時に、四人ともが家族装置を起動させる。私も同様だ。
「全ては、この世界を終わらせる為に」
緩い重力を受けながら、私はそう呟いた。
次回予告
ーよぉ、軍人さん。ぶっ殺しに来たぜ




