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銃の効かない操縦士  作者: 木樵蝋梅
14日目
36/65

とある兵士と侵入と

東軍には既に核足る人物あ消滅していた。数多の実力者は暗殺、若しくは失踪していたのだ。理由は未だにはっきりとしていない。東軍のとある兵士ははぁ、と呟いた。


「そろそろ本気で死ぬぜ……西のでも逃げてれば良かったなぁ……」


この青年兵は、穴の中で育った子供だった。それが18歳になったその日にこの東軍に来たのだ。彼は戦意があった為に、戦う事が嫌い、という訳ではなかったが、それでも人間の死と、殺人には慣れなしなかった。彼が来たのは三年前だ。この軍には三年も所属してしまったが故に、今更西へと逃げる事など出来るはずもなく、多少ばかりの思い入れがあるために、この呟きは真意ではなく、単なる小さな願望であったと言える。


軍人は、戦に参加さえしていれば衣食住は勿論のこと、ある程度の娯楽さえ楽しめた。子供時代に出来なかった事を、戦に参加する事を条件に叶える、非人道的なこの行為も、長い戦争の間にその感覚が麻痺していた。性欲処理すらも提供している。


数々の子供への強姦行為は軍の指示によるものだった。そのような欲で戦闘中に意識が削がれてはならない為という大義名分の元でその行為は行われている。そして今も18を迎えた女は医療部で働き、食堂で働く傍らで、淫婦としても仕事をこなしていた。


「俺はレイプ紛いなのは嫌いなんだ!」


あくまで彼個人の意見でしかなかったが、それでも彼はそれを良しとはしなかった。かれこれ一年程その様な事には参加していない。そんな彼はふと立ち止まる。東軍司令部前。


今は誰もおらず、ロックすらかかっていない。好奇心を抱いた彼は司令部の中へと入っていく。


「ったく……こんなに飾るくらいならもっと武器増やせっつーの」


中は豪奢な雰囲気で包まれており、今の軍備とはかけ離れている。大きな画面に黒い椅子。彼が一般の知識を持っていれば、社長室の様だ、と例えただろう。彼は黒い椅子に腰掛け、足を組んだ。


「やべ、これめちゃぽくね?」


ふふん、と鼻を鳴らし、画面を見上げた。画面には、今現在の兵士全ての行動がモニタリングされており、その隣では何かの設計図があった。彼らの武器である、鎧。


セラフィム。総数、1206。


「………マジで言ってんのか…?」


東軍のトップは、今までにもこの様な数のセラフィムがあるとは一切述べていなかった。制圧時も、西との境界戦線でも精々100に届くほどしか出さなかったのに、本当はこんなにも多量のセラフィムを隠していたなんて。それの為に、重火器を生身で持たせ、戦場へと自分たちを送っていた。そしてなによりも、セラフィムの操縦経験の一切ない彼に、銃を一丁だけ持たせて死地に向かわせていた彼の不安を煽った。どうして出し渋っていた。戦場での戦力は多いに越した事はないのに。


「っと。やァっとハッキング出来たか。………たく。地味に固ェウォールなんて張ってんじゃねェよ」


画面から、荒々しい口調で声がした。


「動くな。叫ぶな。話すな。私の言う通りに動け」


彼の背後から声がした。女の声だった。少し低めの凛とした口調で、女は彼の行動を制する。彼は首筋にヒヤリとした物を感じた。どう考えてもナイフだ、と彼は判断を下す。刃渡りも確認出来ず、ただ今は女に脅されているという現実のみを受け入れ、言うことを聞くことにした。


「武装を解除しろ」


彼は懐からナイフ、グレネード弾、ハンドガンを取り出し、地面へと投げ捨てた。勿論、全てを捨てた訳ではない。彼は右袖の内側に単発の銃を所持している。


「それで全部だな。よし。なら、今から軍の通達で『南南東、距離100kmに敵を発見。恐らくは例の反逆集団かと思われる。倉庫にある機体全てを使って殲滅せよ』と言え。知らぬ声だと疑われるのでな。『向こうは数は500程、黒色の機体を数体所持』も追加だ」


彼は言われた通りに行動する。何時でも発砲出来るように、彼は少し身を屈めて放送のマイクを取る。その間も首に刃物を突きつけられていたが、彼あ動じなかった。


「………よし。ご苦労だったな。ところで御仁、私たちに寝返らないか?と言っても、死に損なった兵士は引き入れるつもりだが」


と女は言いながら、彼の首からナイフを離す。彼は女の容姿を確認すると同時に、単発銃を手に取り、女の方を見据えた。背丈は160弱で、頭にはバンダナを巻いた女……少女と形容する方が正しいだろうか。少女はナイフを投げてがキャッチし、彼の返事を待っていた。


「私は返事を待っているのだぞ?速く答えねば計画に支障を来すではないか」


彼はその瞬間に行動を起こす。少女がナイフを空中に投げたその瞬間を狙って、単発銃を少女へと向けた。ナイフが滞空している間に事を済ませば問題ないと判断した為だった。


狙いは少女の額。急所部分。生物であれば、脳を破壊された瞬間に絶命する必殺の場所。引き金を躊躇なく引き、発砲した。パァン、という乾いた破裂音が、二人しかいなかった部屋に木霊する。


「ほほう……それが答えか貴様」


しかし、放たれた弾丸は額を貫く事なく、地に落ちる。血の一滴すらも流れていない。何故そうなったのか、彼には理解出来なかった。少女の額へと真っ直ぐに進んでいく弾丸。そして、少女に触れた瞬間に勢いを失い弾丸は地に落ちた。理解不能だった。


彼には能力所持者、という選択肢はなかった。そんなものを持っている人間は、それこそ堂々と目の前に立ち、自慢する様にその能力を行使するからだ。


少女はニタァと嗤う。残酷なまでに歪んだ表情には一筋の涙があった。彼は死にたくないと思うと同時に、思考が別の回路を使って異なった思考解答を出した。


ーーーどうして、こんな優しい少女が、大人の喧嘩に巻き込まれないといけないんだ


Dead out

次回予告


次は……当てる


和音・F・アーンドラン

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