兄妹の関係
7日目お疲れ様です!高校って案外しんどいです!では宜しくお願いします
年時はキーボードを叩いていた。カタカタと意味のある文字列を打つと、ゆっくりと左の大きいボタンに指を重ねる。
Enterキーに合わせるが、その手を止めた。そしてその少し上。Deleteキーを押す。
pc画面には本当に消去しますか?とホップアップが表示されていた。年時はなんの躊躇いもなく【はい】にカーソルを合わせる。
「兄ちゃんはそれでいいの?」
背後から年時の愛する妹の声がした。能力を発動させていない年日の声は透き通るようなソプラノ音で、それであってよく通る。年日は手に珈琲を持っていた。
右には年時用のブラック珈琲で左には自分用の砂糖たっぷりミルクたっぷりの甘い珈琲が淹れられている。ろくに確認もせずに年時は年日用の珈琲を手に取る。
「いィんだよ。それにこんなもん見せつけられちゃァなァ?」
カチッとマウスを左クリックしてとある監視カメラの映像を表示させる。和音と室咲が写っている。二人の出来事の一部始終を年時は見届けていた。
年時は珈琲を口に含んだ瞬間に吹き出す。
「何だこれ甘ェ!!年日、もっと食料は大事にしろっつったろォ!?一応これでも戦争してんだぞ!!」
「兄ちゃんが間違えるのが悪いんだよ……それで、年日はいいの?って聞いてるんだよ?兄ちゃんここ最近ずっとそれ作ってたでしょ?それを消しちゃうって事は今までの事が無駄になるってことだよ?いいの?」
「いィっつってんだろォが。俺は考え方を変えられたんだよ」
年時は口に残る甘ったるい珈琲を手で拭いながらそう言う。変えたと変えられたでは大きな差がある。後者は他人によって変えられている。
年時の持論、狂った世界を直すしは狂ったモノが必要だ、ということ。
「まァ、あれだよ。友人の願いを聞き入れてやろうと思っただけだなァ。アイツとは短ェ間なのに仲良くなれたし」
そう言って年時は年日からブラック珈琲を受け取り、口に含む。苦味が頭を目覚めさせ、思考がハッキリする。
「結構兄ちゃんってロマンチストなんだね……ま、あんなの作って欲しくなかったけど」
「作ってて楽しいもんじゃァなかったなァ。もうあんな馬鹿げたプログラム組むのはゴメンだ。悪の科学者ってのも楽じゃねェな」
「やっぱりわざとだったんだよね。年日は兄ちゃんのそういう優しい所知ってるもん。兄ちゃんはいつも表に出ようとしないし、表の人の後ろに隠れてるでしょ。どうしてそんな……」
年時は口ごもった。言いたくない。妹にまでそんなこと言えばどんな反応をされるかわからない。理想の兄でありたかった。しかし、現実は理想とは違う。
年日は年時の机に腰掛け、はぁ、と息をついた。先程兄が間違えて飲んだ甘い珈琲を口に含む。
甘さは脳に染み渡り、思考が安定していく。言いたくないなら、と言い出そうとした所で年時は年日を制止させた。
「俺は、臆病だから。怖がりだから。元々機械を作る才能はあったかもしれないけど、俺は戦いたくなかったんだ。俺は最低だよ。クズだ。自分が怖いから、戦線にたちたくないから俺は武器を作って、それを兵士に渡して。俺がいなかったらもしかしたらただの殴りあいで済むかもしれないな………ははっ、和音の様に自分と戦うこととかしないでさ、怖いから背を向けて、こうしで何か作って参加してますよーって、な」
臆病者、と年時は自身を評価した。年時はホップアップの【はい】にカーソルを合わせ、クリックする。すぐに削除は実行され、年時のプログラムは消えていく。年日はそれを見つめていることしかできなかった。
「こうすれば、少しは臆病じゃなくなるかなって思ってな。ちょっと無理しちゃってな。これさえあれば、確実に引き分けにまで持ち込める。つまりは東西全部相手してこっちも相手の全滅ってくらいには出力が出るんだ」
「じゃぁ、どうして?」
「そこまでして終わらせたいと思ってない」
年時は年日からブラックコーヒーを受け取り、少しすすった。苦さが年時の意識はハッキリさせられる。画面には削除が完了しました、との一文。
「兄ちゃんは……どうなりたいの?」
「自分の負けない、そんな人……かな。俺はとことん弱いから。室咲みたいに力もないし、和音みたいに持論が強い訳でもない。綾火みたいに優しくもない。年日みたいに一つの事に夢中になれる訳でもない。何か欲しいんだ。俺にも誇れる、何かが」
「兄ちゃん、なんか勘違いしてるよ……兄ちゃんは弱くなんかない。だってあの研究所から年日を連れ出してくれたのは兄ちゃんだよ?喧嘩から助けてくれたのも兄ちゃん。初めて一緒に食事をしたのも兄ちゃん。年日って初めて呼んでくれたのも兄ちゃん。初めて頭を撫でてくれたのも兄ちゃんなんだよ?………年日もあの二人の惚気に当てられておかしくなっちゃってるのかな?年日は兄ちゃんに初めてを奪われてばっかり……なんだよ?」
年日は机から降りて椅子に座った年時に抱きついた。その勢いで椅子についているローラーが転がってコロコロと移動する。
年時はその年日の行動に驚き、身を引こうとしたが年日の甘い香りと柔らかさで思考力が削がれてしまった。シャンプーは協同で同じものを使っているはずなのに自分とは違った匂いが、年時の鼻孔をくすぐった。
性別が違っただけで、ここまで変わってしまうのかと、実感する。
「わかってる……許されないことだってくらい知ってる。でも、年日は大好きだから。たった一人の家族だけど、それでも………好き、なんだから……」
年時は何も言えなかった。ただ椅子に座ったまま脱力した腕をぷらんと垂らす。
年日は椅子から降りて年時に背を向けた。年日の目は赤く腫れている。
「やっぱり……気持ち悪いよね……そんな、兄妹でそんなの……おかしいよね……ゴメンね、兄ちゃん……変なこと言って……でも、年日とこれからも」
「俺も大好きだぜ。年日。ずっと前から」
年時は年日の後ろに腕を回し、強く抱き締めた。二人ともが、和音と室咲の空気に当てられておかしくなっていたのは事実だが、この事は必然だったかもしれない。二人の好意は互いに、だった。
年時が年日の肩を持ってくるりと自分のほうに向けさせる。同じ髪に同じ眼。しかも特異な白髪紅眼。まるで鏡を見ているようにそっくりな二人。二人ともが、相手を愛しく思っていた。
「やっぱり、さ。俺は臆病だよ。ここまで来て…女に言わせちまってさ……こんなにも年日が……愛しいのに、まだ決心がつかない。怖いんだ。一線越えてしまうと、もう、今までのような関係が崩れてしまうかも……って。もう設計図を囲んで笑う事なんて、出来なくなっちゃうんじゃないかって。不安……なんだよ」
年時は耐えきれず目を反らした。恐怖を覚えていた。このまま妹を愛してしまえば、二度と妹として接することが出来なくなるかもしれない。もし周囲にバレたら迫害を受けるかもしれない。年時は押し潰されそうだった。
「大丈夫だよ。年日は兄ちゃんをずっとずっとずぅーっと愛していくから。兄ちゃんが怖いなら、年日が壁になってあげる。弱い兄ちゃんは年日が守る。だから、優しい優しい兄ちゃんは年日を支えて、年日を守って、年日を愛して欲しいの」
「妹に守られる兄って……示しつかねぇじゃねぇか……」
「違うよ兄ちゃん」
年日は年時の頬を両手で挟んで自分から目を離せないように固定する。
「兄ちゃんは年日を支えて、愛して、守ってくれるの。だから、年日も守られてるの。ね?」
「……………そっか」
長い沈黙の後、年時は小さく頷いた。
自分と瓜二つな妹。しかし、それは外見だけで、まったくといっていい程に、二人は違っていた。
「嬉しい、な。年日、兄ちゃんと同じ気持ちになれて、嬉しいよ 」
年日の目は赤く腫れ上がっていた。少量の涙が軽く頬を濡らす。年時はぎゅっと年日をより強く抱きしめた。
「いつから、なのかな……兄ちゃんはいつからそう思ってくれてたの?」
「俺は……いつからだったかも忘れちまったよ。でも、気付いたら、大好きだったんだ 」
「嬉しい……年日は研究所から助けてくれた時だよ。兄ちゃん」
年時は目を逸らして右の人差し指でポリポリと頬を掻いた。顔は真っ赤だ。
年日も気恥ずかしくなったのか目を逸らす。はぁ、はぁ、と上気した頬が妙に艶めかましい。
「じゃ、じゃあ、さ、兄ちゃん。……きっ、キス……しよっか 」
「お、おう 」
年時は年日の肩を軽く抱いて、息を飲む。年日はその手が回ってくることを予想していたように目を閉じ、少し上を向いた。部屋は暗い。
パソコンの画面の光だけが淡く二人を照らし、年時の感情は高ぶっていった。薄い桃色の妹の唇が、機械の光を受けてテラテラと光る。年時は意を決して年日の唇に唇を合わせた。
柔らかい。人に肌の中でこれ程までに柔らかい部位が他にあるだろうか、と年時は思考する。ただ、合わせるだけで、こんなにも感情を伝えることができるのか、と
「ふむっ……ちゅっ……」
「……んっ……んんっ…」
無人で無機質な部屋に淫靡な音が木霊する。その音は二人の思考能力を確実に奪っていき、ただの雌と雄に近付いていった。
年時は小さな欲を感じ始めていた。舌を入れてみたい、とそう思っていた。それくらいなら、と年時はその欲望に従うように、二枚の肉壁を割って中に浸入していった。
初めに触れたのは年日の歯だった。その後、歯を、歯茎を、頬肉を舐め回す。甘い味がした。年日の味なのだろうか。
満足出来ずにそのままずっと年時は妹の口内を舌で蹂躙していく。妹はただそれを悦んでいた。
年時は呼吸が辛くなったのか、舌を抜こうとする。しかし、それを年日は阻んだ。
年日が年時の体に抱きついて舌を舌で絡ませた。そのまま外気に舌が触れ、水音を立てながら絡み合っていた。
「兄ちゃん……」
「……年日……」
接吻を終え、年時は少し顔を赤く染めた。
「ねぇ、兄ちゃん。手、握っていい?」
「…どうして?」
「もぅ。兄ちゃんはロマンチストだと思ってたのに。いいでしょ?気分なんだから 」
年日は力を抜いて、と年時に言って、右手首を掴んだ。手を握るにしては明らかに握る強さが違った。年日の目的はそれではない。
その握った手を自身の胸へと運んだ。ふにょん、と大きくもない小さくもない年日の胸が形を変える。年時は力を入れて離れようとしたが、年日はそれをさせなかった。
「とっ、年日!?おま、何して 」
「兄ちゃん……感じる?年日の……心臓の音 」
「あっ、いや……その……はい 」
年時は動揺でそんな事と気にすることが出来なかったが、返事をしてしまった。思考能力が削がれていく。その間にも、二人の鼓動は加速していた。
「年日を、こんな兄ちゃんしか好きになれなくした責任……取ってよね」
「なんで、そんな責任取らなきゃ、いけねぇんだよ。年日こそ、俺をこんな風にした責任とれ……」
「いいよ……年日、兄ちゃんの責任…とってあげる。だから、兄ちゃんもだよ?兄ちゃんは年日のモノで、年日は兄ちゃんのモノ……なんだからね 」
二人の夜は更けていった。
Extra
綾火
「綾火、すまなかった。もう、私はあんなことは二度と言わない」
「急にどうしたんですか和音さん 」
「私は……現実だけを見ているつもりだった。ずっと、確実に進んでいるつもりだったのだ……だが、それは間違いだった。綾火、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだ」
「こう言えとでも……言われたんですか? 」
「私の言葉だ。もう私は……卑下などしない。自分は自分でたった一人だ。皆が仲間で友人、そして、綾火は嫁だからな 」
「ふふっ、和音さんらしいです。でも、次やったら許しませんから 」
Year Extra
「本当に、しちゃったね。兄ちゃん 」
「まぁ、な。下手くそだったかも、しれないけど 」
「初めては皆下手くそなんだよ。これから上手になっていってね 」
「な、なぁ…年日、俺で本当に」「良かったに決まってるでしょ」
「でも、さ」
「もう……兄ちゃんはでも、って言うの禁止っ。いいの。年日は兄ちゃん大好きなんだから」
Murosaki Extra
「これでいいんだ……これで」
ー狂いたい程に、愛しい。
「いいんだ。折れが絡むことじゃねぇ」
ー何故だ?一体何があった?
「関係ねぇだろ!?俺!!」
ーそうだ。和音とはたった1週間の付き合いじゃないか。
「趣味も知ってる。それに、俺は合ってねぇんだよ」
ー綾火も同じ1週間の付き合いだろうが。
「違う。違う!!」
ー違っちゃいねぇよ。欲しいなら、殺せよ。
「そんなことしたいんじゃない!!!!」
ー狂え。殺せ。狂え。殺せ。
「殺して何になるってんだよ!」
ー綾火が死ねば、和音はこっちを振り向いてくれるんじゃないか?
「そんなもん、俺は望まねぇ!!」
Unknown Extra
「はぁ?また負けたんか?何やねん……アンタらもうちょい本気出しぃや……セラフィムも壊されたって……操縦士は誰や?いっぺんしばいたろ。……向こうもパチもん持っててそれで負けた……と。わかった。で、話反らしたらアカンで?パイロットや。パイロットを出し。……セラフィムと一緒にパクられた!?ほんま何やっとんねんアンタら!!怒られんのはうちやで!?どんだけボロ負けしてんねん!!……あーもう。ええわ。向こうの機体の特徴とパイロットの死因。一応通信くらいあったやろ?情報報告。………機体は凍結。パイロットは失血死…っと。もうちょい詳しく。……局所の温度上昇と下降?ん、ちょっと待ってな。それ能力やんな?…………………そか。ほんなら、もうええわ。お疲れちゃん。うちが行く。あぁ?他なんか要らんよ。私用やし。うん。あ、知り合いやってん。行かせて」
傷だらけの赤髪の女は椅子から立ち上がって外に出ていった。




