室咲は何者か
文化祭用のと同時進行!つら……そっちもグロ走ろうとしたせいでこっちと被りそうで怖いな☆
なーんて。思ってるけど三人称って難しいね。この一日終わったらまた一人称戻します。
小さく声を発した。いや、とそれだけしか言えなかった。
ただ、怖い。自身が怖い程怖いことはない。そして、自身がいい放った言葉が頭をよぎった。
狂気から突然開放されてみろ。きっと人生が崩壊するぞ。
和音は既に壊れきっているつもりだった。軍人をその手で殺めたあの瞬間から和音は良心すら捨てていたつもりだった。
しかし、それは違った。和音は壊れていない。必要に迫られて狂っただけで、和音は正気で壊れてなんか、いなかった。
理由は簡単なことだ。狂気に和音は守られていた。人格という硝子は狂気というまとわりつくヘドロに守られ、殺人という攻撃を吸収していたのだった。
和音の矛盾はこの狂気を貫いた。
今までは顔もよく知らない他人を殺していたに過ぎなかった。死んでも仕方ない。当然の事だ。だから仕方ない。殺しても、大して問題にならない。と心の中で割りきっていた。
今回は違う。
よく顔を知る友人。死んではならない人間。殺してしまっては大問題。
和音は狂気から少しずつ離れていた。殺しよりも五人で仲良く話しているときのほうが楽しかった。
それなのに、それなのに、どうして、どうして、私は、私は。
「………うぐっ…………ひっく…………すま……ない……室咲………私、は………」
和音は悲しかった。苦しかった。辛かった。嫌だった。
ただこの無意味な殺しあいを終わらせたかっただけだ。それなのに、どうして、私は、こうも人は簡単に、傷つけるのか。
マイナスな思考だけが和音の頭をぐるぐると回る。狂ってしまった人間は他人を愛することは出来ない。仲良くすることも出来ない。
狂気から逃れたとしてもそこから常人にまで戻ることは出来ない。居ても、居ただけで迷惑なだけだ。
和音はバンダナを外して室咲の顔にかけた。というよりは傷口を縛ったというのが適切だろう。止血のためにだ。
室咲の胸が上下していることを確認して和音はとりあえず止血を、という判断をした。
生きていることにほっとしたが、それと共に罪悪感が込み上げてくる。
和音は判断を下した。
「私は………私、は………こんな狂った……私は………居たところで迷惑だろう。死ぬしかない……出来るだけ多く殺して、そして死のう。では、な。短い間………だったが………楽しかったぞ……」
狂人は居なくとも世界は動く。狂人には変えることしか出来ない。ならば。
「私のこの小さな、命。その全てを使って、変えて、死ぬ。それしか私が迷惑にならない方法はない。狂人は………世界から必要とされていないのだ………」
自らの命を使って、変え、燃え尽き、死ぬ。そんな短絡的な考えだった。和音は室咲を見つめて振り向いた。
外からは光が漏れ出していて、それを扉が阻んでいた。そこを退ければ直ぐに和音は狂って殺すだろう。
もう、ここに戻ることは、ない、と。
その必要すらない。彼らの力量は私が居なくとも反抗出来る。
「かっ、和音………ど、こ………行くって、………んだ?」
聞き慣れた青年の声が弱々しく聞こえた。か細く小さな声だったが和音はその声を聞き逃さなかった。
期待を込めて後ろを振り向く。室咲はそこに立っていた。顔に巻かれたバンダナは血で真っ赤に染まり、頬を血が伝う。
潰れていない左目だけで和音を真っ直ぐに見ている。額からは血で赤くなった脂汗が垂れていたが、痛がる素振りを見せずに和音の目をずっと、その奥を見つめていた。
和音はじわっ、と涙を浮かべる。罪悪感を押さえきれなかった。謝りたい。何故に立ち上がったと怒りたい。
引き止めてくれた彼を愛したい。様々な感情が和音から涙を流させた。
「ったく……泣き……虫野郎、………だ、な」
「………!な、野郎ではない!私は女だっ!………すまない、もういい……傷口は大丈夫なのか?痛く、ないか?」
顔がぐしゃぐしゃになった和音は手で涙を拭いながら言った。血はゆっくりと流れているが、室咲の足下のは血だまりができている。
ハァハァと息を荒げる室咲を見て和音は彼が無理をしていることを理解した。
「はぁ…………はぁ、はぁ………」
「無理、してるだろ?座ってくれないか?」
「ばーか……せっかく止めてやったのにそういう態度か……?傷口はそんな数秒で………治るも、んじゃねぇ、よ」
「んなっ……!私は馬鹿ではないぞ!その………シャコウジレイというやつだ!」
「はいはい。それは、いいから……俺は目ん玉と耳潰されたんですけど。そこについてなにかないでしょうか?」
なんだ。無理している割には元気そうではないか、と和音は思う反面、思考はほぼパンクしていた。どうやって謝るべきか、どうすれば許してくれるか、一体何をすればいいのかを必死に考えている。
室咲はアドレナリン大放出で痛みが麻痺していた。本来ならば確実に失神ではすまないのだが、室咲はとある特異体質だった。
室咲は、眠ることができない。
正確には眠っても直ぐに目が覚めてしまう、というのが正しいだろう。
人間は……というよりは生物は眠ることで脳細胞を復活させ、記憶を脳に焼き付け、体を休ませる。しかし、室咲にはそれが出来ないのだ。
特異体質というのは、気絶しても数秒で意識を取り戻すというものだった。しかしそれは眠れないこととも形容できる。
そのために室咲は海豚のように、脳を半分づつ眠らせるような方法を得た。部分的に脳を休ませて、睡眠と同様の休息をとる。
人体改造とも言える能力は元々彼に備わるべきものだったのかもしれない。彼は器用だ。頭に血が上ると何も出来ないが、殺しの腕は、西からの亡命が証明している。
彼は注意深い。その目、耳、鼻、味、触覚に至るまでのことを把握して判断できる。それをセーブするための能力と言っても過言ではないだろう。
一方和音はと言うと、
「(やはりここは謝るべきだろうな……あ、当たり前だ!
典型的なものと言えばジャパニーズ土下座だが……しかしその程度で許してくれるだろうか?
仮にも目と耳を奪ってしまった私を頭を下げるくらいで許してくれるはずがない……ならば何か行動を起こさねば……しかし、一体何を………?私に色気など………)」
どうすれば許してくれるのかを必死に考えていた。
「あ、あのー……おーい……戻ってきてくださーい和音さーん」
「(そ、そうだ。私程度の胸で満足するわけがなかろう……くそっ。ならば私の純潔を……?
待て待て待て!それは綾火に捧げると決めたはず………)」
「うぐっ………目と耳の傷口が疼きやがる………!くそ、こんなときに………!!」
「(いや、確かに綾火に捧げるべきだが今はもうこれしかない。うむ。仕方ない。私の処女など……必要かどうか定かではないが……)」
「あ、あのー?和音さん?こちとら随分無理してる訳ですが無視はやめていただきたいですねー……」
和音は室咲の前に正座で座り、三指を立てて頭を下げた。
「ふっ、ふつつかものですが、よっ、よろしくお願いしまひゅ!」
室咲は呆れてはぁ、と息をついた。その後屈んで和音の頭にポンと手を置く。
「何考えたか大体見当はつくから。もういいんだ。早くまともな包帯を持ってきてくれ」
「私の処女はいらんというのか!?室咲貴様は!!」
「そんな形で貰いたくなんかねぇよ。早く包帯持ってきてくれ。ちゃんと止血したいんだ」
「だ、だだだだから、処女はいらぬのだな!?」
「だーから、いらねーって。早く」
トン、と和音の肩を叩いて室咲は和音をたたせ、部屋の外に出した。
室咲は地面に転がった耳と眼を見つけた。ついさっきまで己についていた体の一部。もう二度と元には戻らないであろうその眼と耳を室咲は、
「ったく……全くもって人間っつーもんは脆いもんだぜ」
一切の迷いも無く踏み潰した。ぐちゃ、と肉と血が音を出して形を失う。
平面的にしか見えなくなった視界にも適応しつつあり、その事に恐怖はない。出血によるアドレナリンの異常が無くとも室咲は恐怖を感じなかっただろう。室咲は西から亡命してきた人間だ。死がどのようなものくらいは、把握している。
ふっ、と息をついて室咲は千切れた左耳の耳元でパチンと鳴らそうとした。
ぺちっ、と明らかに空振りした音。
端から見ればシュール以外の何でもないが、室咲の行動には意味があった。
「………っと、一応聞こえてるっぽいな……ま、耳朶とか集音の部分は千切られたから細けぇ音は聞こえねぇけど」
事実、耳というのは鼓膜が震えて音を感じるのだ。穴が開かず、鼓膜が無事であれば音は聞こえるだろう。
しかし、問題は眼球だ。潰された眼球は既に機能していない。赤と白と黒の混じったモノになった目玉はグロテスクであったが、神秘的にも見えた。
視神経まで抉られた室咲の右目は如何なる技術をもってしても光すら灯らないだろう。眼帯で蓋をするか、義眼をいれるかの二通りしか方法はない。
先ほどまであった右目の瞳孔に手を触れた。ぷにぷにとした触感はもうそこにはない。ねっとりとした体液と鮮血が指に付着した。
これ以上出血するのは命に関わると判断した室咲はベットに腰をかけた。
その後、服を破って耳から目にかけてをきつく縛る。その際、左目で視界を確保出来るようにと左目だけは露出させる。意識を失うことの出来ない室咲はベットに横たわって体を休ませた。
次回予告
「ぃ………ゃ……ぃゃだ……殺せ………嫌だ殺せ嫌殺嫌殺嫌殺嫌殺嫌殺嫌………!!」
ーー狂った少女、和音




