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狂気は傷付ける

てれれってってってー学校に携帯指導二回目ー♪


暫く自重しなくちゃ

「んで、話戻すけど、どうして綾火がぶちギレたのか。わかってんのか?」


「理解はしている。こんな私でも司令なのだ。誇りにもならないが私はここを統べるべき人物なのだ。心情くらい読み取れる」


和音が落ち着いてから室咲は会話を始めた。何もない部屋に二人きりで向かい合った状態である。


何もない、というのは誤りかもしれない。無機質なベットがすぐそばにあり、今和音はそのベットに腰かけている。


「どこがわかってるっつーんだよ………」


室咲は小さく呟いた。表情は言葉を奥歯で噛みしめるような苦しい顔だ。


室咲の望んだ言葉はわかっているではない。理由、怒っているその理由を彼女自身は理解しているのか、ということが聞きたかった。


しかし、和音の言い方ではまるでそれをわかっていない。そう室咲は確信していた。


綾火が怒った理由。


和音が自身を卑下したからだ。どうでもいい、とたった六文字の文字の羅列は自身、つまりは和音を否定していたのだ。


綾火にはそれが我慢できなかった。


和音・F・アーンドランは一人しか存在しない。和音という一個体はどうあっても、何があっても何が起ころうともたった一人だ。DNAをいくら同じにして同じように育てたとしても一人が二人になることはない。


そのたった一人を愛されてしまった綾火は和音のたった六文字の自身の否定が許せなかったのだ。


しかし、和音はそんなことは理解していない。そこではない、もっと浅いところに和音はいた。悪かったのは無視したからだと、和音は考えていた。


「小声で話すな室咲。本人が目の前にいるのだ。本音で話せ。それでも男か?」


ドスの効いた声で和音は強く言った。和音のしていることは室咲の心を逆撫でしているにすぎない。そのほかのなんでもない。


室咲は壁をドン、と叩き感じていた言葉を滅茶苦茶でもいいから、と言葉を並べる。


「あぁそうかい言わせて貰うよ!」


室咲は悲しい表情で和音に話しかける。本人は本気で伝えようとしているが、和音はそうではなかった。


ーどうせ大したことではないのだろう?私の事など、誰も分かってはいないのだ。


「俺ゃぁ、どこがわかってんだよっつってんだよ!人に趣味にまで文句は言わねぇ。


和音が男を嫌ってるのもよく知ってる。俺と和音は所詮他人だよ。姉でも妹でも恋人でもねぇ。お前がどんな人間か、どんな性格か、俺が短い間に見てきた和音しか知らねぇ。


でもなぁ、でもなぁ!俺の知ってる和音はあんなこと言わねぇんだよ!自分勝手に綾火を嫁にするとか言っときながら自分の身はどうなってもいいってのか!?どうなんだよ和音!


自分の言葉には責任を取れ。なんで自責(アーンドラン)なんて大層な名前付けた!?意味は違うかも知れねぇ。でもその方がいいだろうが!」


「長い。簡潔に示せ」


「責任取れっつってんだよ!わっかんねぇのか!?」


ガッと室咲は和音の胸ぐらを掴んだ。年時でも足が離れる程の室咲の身長では和音も軽々と持ち上がる。


室咲の表情は怒りと涙で歪んでいた。室咲は眉間の皺が消え、睨むような鋭い目が無くなってまるで少年のようだ、と表現するのが正しい程の少年の表情だった。


和音は室咲をこんな表情にさせてしまったという罪悪感よりも、男に触れられたことの嫌悪感を感じていた。


「降ろせ室咲。貴様が私に軽々しく触れるなど、私は耐えきれん」


低めの声で和音は室咲に向かって無慈悲にいい放った。相手を突き放すような声は彼女の嫌悪感を表していた。


室咲は苦虫を潰すような顔をしながら和音を降ろす。降ろされた和音は首元を軽く擦って元に整えて、チッと舌打ちをした。


「では、貴様は私のことが分かっているのか?」


わからない、が室咲の答えだ。室咲は読心術など持ち合わせていない。察することはできるが、あくまでも一般的なものだ。


室咲は無言で紅茶を啜った。


「貴様のような常人に狂人の私の気が分かるまい。一度狂気を覚えれば一生その甘い蜜の味を知りながら過ごさねばならない。


薬物その物だ。自分で作れるお手軽な薬。狂気に身を委ねている時の私の思考がどんなものなのか知っているのか室咲ッ!


狂わない私がどれだけ無力か。血を見ることも怖い。人も殺せない。狂気から突然開放されたときは、きっと人生が崩壊するぞ。


狂気によって正気を保つ。とんだ矛盾だが、私には狂うしか方法はないのだ。狂わぬ私はただの枷、鎖、錘。


そんな人間が王になれるのか?


そんな人間が戦争で勝てるのか?


この狂った世界で生きていけるのか?


貴様も人くらい殺しているだろう。その時の気分はどんな気分なのだ?


貴様は狂わずして殺せるのか?


だとすれば貴様のほうが狂っている。私は狂わないと人を殺せない。狂気に任せなければ戦うことすらままならない私だ。


無銃力空間とはよく言ったものだ。幼少のころから怖い怖いと逃げ続けて得たこの馬鹿げた能力。貴様はどう思う?


私はただの怖がりなのだ。ビビりなんだ。私を支えるの柱。狂った時の気分の高揚、能力。人生楽なほうが得だろう?


結果は同じなのにいちいち疲れる回り道をすり必要はない。


さて、貴様はどう思う?問いに答えろ」


「第一、俺は和音の気持ちなんてわかんねぇ。


第二、王は狂わなくてもなれる。


第三、勝てる。


第四、生きることくらい出来る。


第五、最ッ低で最悪の気分だ。


第六、殺しはそんなもんじゃねぇ。


第七、能力なんて有ろうが無かろうが関係ねぇ。


第八、楽な方がいいが、和音の方が辛ぇよ。


満足か?なら俺も一つだけ質問だ。俺は和音が殺しを楽しむのはいただけねぇ。


でもな、ならどうしてテメェは何時も殺す前に、狂う前に泣くんだよ!!


どうして悲しそうな顔で涙を流すんだよ!!


だから言ってんだ。和音は狂っちゃいねぇ。


罪の意識はあるのに狂っていることを理由にして責任逃れしてるだけじゃねぇか!!


正気のままだろうがテメェは!!!!」


事実。和音は泣いていた。和音自身はまったく気付いていないが、室咲はカメラの映像、一対一の戦闘時、その二回で確信していた。殺す度、狂気に委ねる度に和音は涙を流す。


明らかな罪の意識は和音の真相心理の中にあった。しかし和音は認めない。認めたくない。


ヒテイしようとヒッシにテイコウする。


「正気が狂気にはなるが、狂気は正気にならない。不可逆だ。理だ。狂人が世界を変え、常人が世界を運用する。


言ったことには責任をもって行う。こっちじゃぁ、有言実行っつーんだろ?真面目になれよ。和音は狂っていないって証明しやがれ!!」


はぁはぁと、息を荒げて室咲は和音の瞳を覗き込んだ。和音の目は、じっと室咲の奥を見つめている。


まるで何も分かっていないのだろうと見下すような目だった。


その逆はない。狂人は世界を運用することは出来ないのだ。常人はレールを曲げられない。皮肉なものだ。狂人が世界を変え、常人が動かす。私は世界の踏み台になるのだ。狂人に、私はなるのだ」


室咲は和音の最後の言葉を聞いて、和音が正気であることを感じとる。


「なる、なんだろうが!まだなってない。なりきってない。自分でも分かってるじゃねぇか!不可能だろうが何だろうが知らねぇ。本当に狂人はモドレねぇかも知んねぇ。第一に、和音はなってねぇ。ならせねぇ!俺が踏みとどませてやらぁ!!!!!!」


室咲は和音の肩を両手でがっちりと掴み、いい放った。室咲の目は真っ直ぐで、純粋だった。


しかし、かもの目は違った。


絶望しきっている死んだ目。罪の意識を否定した。彼女は室咲に罪の意識を肯定してほしかったのだ。


くるわない。其処に至らせない。


ーーーならば何故(なにゆえ)に私を苦しめる?


何故に私と思っていることと違うことをする?


何故に、何故に何故に………


カチッ、と何かのスイッチの音が聞こえた錯覚を覚えた。


「…………キヒッ………キャハハハ………」


和音の目からサーッと涙が一筋流れる。狂気に満ちたその表情は恐ろしいものだった。


口端はニタァと吊り上がり、死んだ目で室咲を見つめた。


室咲はそれに恐怖を覚えなかった。


ナイフは外にあるし、この部屋には机、椅子、ベットの三つの家具のみ。いくら狂気に任せようとも、狂うだけでは素手では殺せない。


そんな、甘い判断をした。


人間の体は意外と脆い。首の骨を折られれば死ぬし、体の何処からか血を大量に失えば命を落とす。


そして、狂人(かずね)は後者を選択した。


「キャハハハ………キヒッ………ヒヒヒ………」


狂人(かずね)の狂った指は室咲の顔へと伸びていく。室咲は肩から手を離してその手を阻もうとしたが、狂っているとしか表現出来ない力でその手を弾いた。


和音の涙は流れ続ける。それこそ涙は枯れてしまうのではないかと言うほどに涙は止まらなかった。狂気に満ちた笑みを浮かべながら涙するその光景は異常としか表現できない。


「……っ、やめろ和音!今何しようとしてんのかわかってんのか!?」


咄嗟に室咲が問うが、和音は無視する。いや、無視しかできなかった。和音は狂気に任せて動いているだけに過ぎない。


つまりは自我など存在しないに等しいのだ。和音はまともな言葉を発っせず、ただ笑うだけ。


吊り上がった口端と狂ったような力。その迫力に押されて室咲は和音にマウントポジションを許してしまった。


涙が室咲の顔に幾粒も落ちる。狂った力を使って和音の指は室咲の右目眼球に進んでいっ室咲がやめろやめろと叫んだが、和音に声は届かない。狂化した手は無慈悲にも右の眼球に触れた。


「や、やめろ和音!やめろ!やめてくれぇぇぇえぇえええええ!!!!!!」




パチュン、グチュ、うにゅ。




「キヒッ……………キャハハハ………ティヒヒヒヒヒヒ………………アハハハハハハハハハ!!!!!!」


眼を潰し、瞳孔すらも傷付ける狂ったような親指は室咲の中へと侵入した。


血が流れ、室咲の悲鳴と狂った狂人の笑い声は小部屋に木霊した。


しかし、狂った和音は手を止めない。


右眼球を貫いた親指を引き抜き、右手で左耳を強く掴んだ。


和音は室咲が抵抗しないことに少しばかり疑問を抱いたが、そのほうが都合が良い。


和音は右手で掴んだ左耳を思い切り引きちぎった。赤い鮮血が耳から吹き出し、返り血がかかった右手から血が滴る。


「キヒッ…………………キャハハハ………レロッ」


その右手を口に持っていき、ペロリと舌で舐めた。狂った和音はその味に快感を覚えていた。


鉄の味、血の味、魅惑の味。そのすべてによって和音は満たされていく。



と、狂気から突然開放された。




顔の血の気が失せる。体温が下がる。体が震える。赤く染まった手を見た。赤い。紅い。兵士を殺したときにこんな感情はなかった。怖い。狂気に飲まれた自分が怖い。飲まれただけでこうも簡単に他人を傷つけられる自分が怖い。


「ぁ…………ぃゃ…………ぃゃ…………ぃゃ…………」


次回予告


ーー「うくっ………ひっく…………すま、ない………室咲………私は………私は………!!」


狂気から開放された狂人、和音

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