綾火のお菓子
思いっきり不定期更新です。
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「だからどうした。筋肉など最低限だけあればいいのだ。そうまで大きいと的が大きくなるだけだと思うのだが……まぁざっくり言うと私は貴様を嫌ってはいないぞ」
「あらあら。それは俺が美男子だっつーことか?えぇ?」
「あくまでも嫌いではない、だ。しかし貴様にも美しいところがないと言えば嘘になるがな」
和音は信頼している人間には嘘を吐かない。自身が信頼しているのに対象に信頼されていないと関係が崩れるからだ。
狂人、和音は出会いで変わりつつある。それは本人は気付いていないが殺しを楽しむよりもこうして会話をしているほうが多くなっていることは明らかだった。
狂人は未だに完成していない。
「おっ、マジか?俺ゃぁそんな大したもんじゃねぇけどよ……和音も少しは自重したらどうだ?結構ナリは良いんだからよ」
「世辞か?悪い気はせんが、貴様に私が落とされるとは思えないのだが」
と言って和音は机に腰かけた。
和音は少々ながら警戒している。
一応この勢力のリーダーになっているのだ。奇襲をかけるとすれば彼女が一番危険だろう。
「み、みなさん……お菓子を作ってみたんですけど……良かったら………召し上がってください」
綾火がお盆にお茶と白い饅頭を四人に運ぶ。お茶は薄い緑色の緑茶だった。綾火が赤い着物を着ているのにも頷ける。
着物で料理はいかかがものだろうか、と和音は心の中で呟いてそっと胸の中にしまった。
初夏、と呼ぶに相応しい月。今は五月だ。
何故に綾火が茶菓子を饅頭にしたのか理由は不明だが、茶には透明の氷が浮いていた。
和音は出された茶を手で握る。
温かいうちに氷を入れていたのだろうか。
おかげで氷はキンキンとまでは冷たくなく、ぬるいとまでは温かくない、不思議な温度になっていた。
それであって、カラン、と氷が涼しげな音を湯飲みの中で高いソプラノ音で奏でられている。
まさに職人技と言えようか。
饅頭はほんのりと甘い香りを放ち、緑茶が爽やかな香りを放つ。
互いが互いを打ち消さず、互いの魅力を醸し出していた。
故に逸品であることには間違いないだろう。
いただきます、と四人は揃えて呟き、饅頭を食べた。男二人は一口で。女二人は小さく一口。
「…………うめぇじゃねぇか」
一番に感想を言ったのは室咲だった。すかさずに緑茶を啜る。
ゆっくりと味わうように飲み込むと甘味の仄かな甘さが舌に残った。
緑茶は飲んだ後に爽やかな香りとのど越しが甘味をすっと消し去って、しつこさを感じさせない。
そして飲んだ緑茶の冷たさは冷やしすぎることなく身体をクールダウンさせ、思わず室咲の表情が明るくなった。
一口で食べ終えてしまった男二人はとにかくその余韻に浸ることしかできなかったが、女二人は小さく食べた彼女らにはまだ楽しむ余地がある。
年日は何も考えずに茶と菓子を交互に食べていたが、和音は違った。
饅頭、茶、饅頭、茶のサイクルをわざとずらして単品での味も味わった。
一口食べた後、もう一口饅頭を啄む(ついばむ)ように口に入れた。
もちもちとした食感が口内だけで駆け巡り、そこに餡の仄かな甘味が加わる。
しかし、餡はごく普通の餡ではなかった。
僅かだが、香る柑橘類の爽やかな酸味。和音はそれが何かを瞬時に理解した。
柚だ。
季節外れにも程がある。と和音は思ったがそのことを除けば、美味であった。
堪らずに饅頭をもう一口頬張る。饅頭のもちもちとした食感が口内広がり、仄かな甘味と酸味が鼻をすっと抜けた。
一口目とは味が変わったような気がした。
それほどまでに饅頭は美味であった。一口、また一口と餡を、餅を口に含んでいく。
和音の表情は無意識に綻んでしまう。
勿論、饅頭は一個ずつしかない。饅頭はあっという間になくなってしまった。
口寂しくなってしまった和音は緑茶を啜る。
「ど、どうでした……か?」
「悪くないな」
即答だった。悪くないとしか言えなかったのは和音が恥ずかしがっているだけだ。
綾火は着物の袖をイジイジしながら上目遣いで和音に言う。その和音へのダメージは計り知れない。
「能力で温度管理しながら作ったんです!その……戦闘では余り使いたくない……ものですので……せめて料理でも、と……思いまして……」
「うむ。嫁として相応しいスキルだと思うぞ。私としては、毎日この料理が食せると思うと嬉しい限りだ」
「一家に一台綾火ちゃん!見たいのだよねー。あ、今度年日に教えてよ」
「かっ、構いません……けど……どうしてまた?」
「ん、うちの兄ちゃんが珍しく嬉しそうに食べてたからねー。ちょっと妬いちゃったって感じかな」
能力の影響を受けていない年日は可愛らしい。
外見が既に目立つ白髪に紅眼。
小さな身体に見合った口調と仕草。
クリクリと大きな目は猫のようだ。
しかし能力が発動すれば大きな目は吊り上がり、口調は悪くなってしまう。
二重人格です。とカミングアウトされれば誰もが信じこむだろう。
そのどちらの年日にも当てはまることが、甘味への執着心と兄への思いだ。
無論、和音は自身にその思いが向かないことを理解している。
次回予告
ー「まだ聞きたいんなら説明するけど、俺は止めたぜェ?」
ーー科学者、年時