綾火の昔話 後編
確か姉さんの能力は自身の時間軸をいじって早くしたり遅くしたりするものだった気がします。
止めたりする事はできませんが、遅くも早くも自在だそうです。
出血した時も、時間軸をいじって出血を抑えて包帯を巻いていました。
しかもそのあとに傷の時間を早めて自己治癒をしていました。無茶しすぎです。
無茶をするのは和音さんも姉さんも変わりません。
私はベッドから腰を上げて着物に手をかけました。
そろそろ寝ようかな、と思ったからです。
あの出来事とか色々あって今日は疲れています。でもこれは戦争のためですから。仕方がないです。選択肢はこれしかありませんから。
「のぉ、綾火。お前さん、一緒に一杯交わさんか?元々それが目的なのだが。寝る前に酒を飲むと良く眠れるぞ。ソースは私」
「いいです。和音さんと飲みたくありませんから。私は疲れています。早く出ていってくれませんか?」
「それは困ったな……うむ。仕方があるまい」
なにがですか。と言いながら和音さんの方向に振り向くと、私達の口は塞がれてしまいました。勿論口でです。
私は和音さんに二度も奪われてしまいました。そういえば姉さんも好きだったなぁ。
しかし、今回は舌ではなく冷たい液体が流れて来ました。多分お酒でしょうか。そこまでして私にお酒飲ませたかったのでしょうか。
理由は後でじっくり和音さんに問いただします。そういえば姉さんともこんなことがありました。
その時、私は風邪を引いてしまいました。
穴の中には充分な薬もなく、毛布もなかったです。ただ寝ることしかできません。
姉さんに気付かれないように振る舞っていたのですが、そんなことは、姉さんにお見通しだったみたいです。
能力を使って兵士さんのテントから薬を持ってきてくれました。しかし、薬は錠剤で、私は飲むことができませんでした。
何度も飲もうとしましたが、そのたびに吐き出してしまいました。
すると、姉さんは水と錠剤を口に含んでガリッと錠剤を歯で噛み砕いて私に口移しをしました。
驚きで私は目を見開きましたが、薬を飲ませるためだと理解した私は姉さんを受け入れました。
和音さんは優しさではなくて私欲のためなのが残念ですが。
和音さんの口のなかにお酒がなくなって私の腹の中に収まりました。
和音さんはそれから名残惜しそうに私から離れると、またお酒の入った容器で飲み始めました。
「何のつもりですか。和音さん。私にお酒を飲ませたかっただけですか?なら早く帰ってください。こうしている間にも戦争の犠牲者は出るんですよ?短期決着にするんじゃなかったんですか?」
「兄弟の契りと言ったであろう?始める前に綾火が帰ってしまったのではないか。こうして私が来た、と言うわけだ。これで綾火と私は姉妹だ。お互いに仲良くしようではないか」
「ふふっ、和音さん、ただの変態さんなんですね」
「ひ、人と変態呼ばわりするな!私はいたって健全に綾火と結婚しようとしているぞ!」
「ほーら。変態さんです」
私の表情は少しだけ緩んでしまいました。こんな風に和音さんとお喋りするのはとても楽しいです。
和音さんは優しいです。
人を殺すことを躊躇います。躊躇します。簡単にいうと、泣いてしまいます。
和音さんはプライドの高い人ですから、指摘しても否定するでしょう。でも、私達は和音さんを知っています。
誰が否定しようとも、例え世界否定しても、私は和音さんを心から肯定します。
これは、私が和音さんと拷問をした時に決めたことです。
こんなに優しい人が世界を変えるなら、私は命だって惜しまないと思います。
だから、能力だって使います。目が霞んで来たりと、体は確実に機能を失っていきます。
あ、これは秘密ですよ?姉さんに言ったら能力を使う度に怒られちゃうんですから。
「同性結婚ならまだしも、家族内は私結婚できるかどうか知りませんよ?私の知る限りではそんな国は知らないです」
「な、何と言うことだ……和音ハーレムの実現は不可能だいうのか?」
「何を作ろうとしてるんですか……これで用事はすみましたね。なら帰って下さい。私、寝ますので」
「あぁ…………おやすみ………綾火」
ぐったりしたまま和音さんは外に出ていきました。私がおやすみなさいと言う前にですよ!?
それが未来に嫁にする宣言をしている人に対する行動ですか?
私はとても悲しいです。姉さんに言っていたようにおやすみなさいを言いたいです。
私は着物を脱いで寝る専用の服に着替えました。そして、ベットに横になります。
布団を被って今日一日のことを思い出します。これは姉さんとの約束です。姉さんは一日一日を大切にしろと言いました。それに習ってこうして毎晩一日を振り返ります。
今日はいつものように少ない支給の朝食を食べた後にエネルギーを使わないようにボーッとしていました。
日が昇って、沈んで。
いつもならそれを見て寝るだけの一日だったのに今日は違いました。
髪の白で眼は紅色。口の端を歪に歪ませた天使が私を迎えに来ました。年日さんです。
それから、ここに来て室咲さんや、年時さんに和音さん。あ、勿論年日さんも、出会いました。
私の持っている能力であの人達の中に入れるかどうか心配でしたが、和音さん達は好い人でした。
それから、東の兵隊さんがいっぱいきて、私は怖かったです。
能力暴走状態で戦うのも怖かったです。
拷問も怖かったです。
改めて今は戦争に反乱していると理解しました。
それから、和音さんとは二回も、き、キス……してしまいました。
だけど嫌ではありませんでした。
………これくらいかな。よし。おやすみなさい。
そんな時に、ダダッダダッ!という足音が聞こえました。
もう………誰ですかこんなときに。
バン!と私の部屋の扉が開け放たれてそこにいたのは和音さん。
「綾火!名案を思いついたぞ!」
「私は寝るんです。邪魔しないで下さい」
「私と綾火がホモのカップルと結婚すればいいのだ!これなら向こうも万々歳!」
「あぁ、バカ何ですね和音さん。私は寝るので帰って下さい!」
「むぅ、どうして誉めてくれないのだ?かなり名案なのに………」
「誉めるとかの問題じゃありません!」
「だが良い案だろう?」
「……………能力暴走状態突入」
「綾火やめろ!私は死にたくない!」
ふんだ。
次回予告
ーただいま。
狂人となりつつある優しい少女、和音