無口女を笑わせろ!
無口無表情な女をどうにか笑わせようと、ひとりの男が奮闘(?)する物語。
「よ、また会ったな」
「……」
「んー、相変わらず黙りか」
「……」
「そして無表情、と」
「……」
「にこやかに、とは言わねえからさ、こう、もうちょいなんか喋ってもよくね?」
「……」
「そして無愛想、と」
「……」
「ふとんがふっとんだ」
「……」
「そして無反応、と」
「…………っ」
「え、今反応した?」
「……」
「……」
「……」
「ストーブがすっとぶ」
「……」
「……」
「…………っ」
「おおっ?」
「……」
「……隣の家に垣根ができたんだってさ、へぇー、かっこいー」
「……」
「……」
「…………っ」
「遅れて反応すんのな……」
「……」
「なに、ダジャレ好きなの?」
「……」
「……」
「……」
「アルミ缶の上にあるミカン」
「………………っ」
「金曜日の夕食といえばテンプラだよね、なぜならフライデーだから」
「………………っ」
「睡魔に負けてすいません」
「………………っ」
「……隣の客はよく柿食う客だ」
「………………っ」
「いやいやいや、今のダジャレじゃねえだろ!」
「……」
「別に噛んでもねーし、どこに反応する要素あったんだ?」
「……」
「うーむ、謎だ……」
「……」
「オーケー、わかった、今日はぴくりと反応しただけだったが、明日は爆笑させてやるかんな」
「……」
「明日もここに来いよ、んじゃなー」
「…………………………………………………………変な、人……………………」
◇◆◇
「おっす、また会ったな」
「……」
「むっ、今日も今日とて挨拶もなしか」
「……」
「しっかーし!」
「……」
「今日こそは何か喋らせてやる、笑わせてやる、跪かせてやる!」
「……」
「……」
「……」
「検証その一『突っ込みどころがあれば反応する』、失敗かー」
「……」
「こう、最後のおかしいだろ!とか突っ込んでくれるかなー、と……」
「……」
「……では検証その二に移行します」
「……」
「トンネルで豚が寝ている」
「…………………………っ」
「おおっ、検証その二『説明されなきゃ微妙に分かり難いようなダジャレにも反応する』、反応が遅かったけど、一応成功か!」
「……」
「この調子で検証その三いってみよー!」
「……」
「……検証その三『ノリで反応してやる』、失敗だ」
「……」
「検証その四『それも検証だったのかよ!』、失敗、と」
「……」
「生麦生米生卵!」
「………………っ」
「検証その五『突発的早口言葉に反応する』、成功」
「……」
「……なあ、なんで早口言葉にも反応するのか訊いていいか?」
「……」
「すもももももももものうち!」
「………………っ」
「検証その六『早口言葉なら何でもいいから反応する』、成功だぜい」
「……」
「……赤巻紙青巻紙黄みゃきぎゃみゅぃ!」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……馬鹿な、検証その七『早口言葉を噛むと反応する』がなんで失敗すんだ!?」
「……」
「くそっ、結局よく分からなかったが検証はここまでだ……」
「……」
「こっからが本番だ、覚悟しろ!」
「……」
「丹羽さん家の庭に二羽鶏がやにわにワナにかかった!」
「……」
「坊主が屏風に上手に坊主の絵を描いたら別の坊主が『坊主が上手に坊主の絵を描いた屏風』に上手に『屏風に上手に坊主の絵を描いた坊主』の絵を描いた!」
「……」
「東京特許許可局局長今日急遽許可却下、ブスバスガイドバスガス爆発!」
「……」
「どうだ、この『反応される前に複数の早口言葉を言えば積もり積もって爆笑になるだろ作戦』は!」
「………………」
「………………」
「………………」
「無反応だと!?」
「……」
「……くっ、ネタが尽きてしまった……」
「……」
「そんな『ネタ少な過ぎんだよバーカ』みたいな目で見ないでくれ!」
「……」
「……」
「……」
「……あーあ、結局喋ってもらえなかったかー」
「……」
「せめて何か表情変えてほしかったんだけどな」
「……」
「反応してもらうのがせいぜいとは、ワシの腕も落ちたのう……」
「……」
「そして無反応、と」
「……」
「……」
「……」
「……っつーわけで、さ」
「……」
「俺、しばらくここには来られないんだよね」
「…………」
「今度引越しすることになってさ」
「……………………」
「だからあんたにも当分会えなく――」
「やだ」
「……………………へ?」
「…………」
「えっ、今、しゃべ……った?」
「……」
「……」
「……」
「……あ、あのー、今、なんて……」
「やだ」
「…………えーっと、何が?」
「離れて行っちゃ、やだ……」
「え、あ、えっ!?」
「……うぅ……」
「え、ちょ、な、泣くなって!?」
「……一緒に、いたいよぉ……」
「…………」
「…………」
「あー、いや、その」
「……うぅぅ……」
「ちょ、ちょっと待った、たぶん勘違いしてるぞ!」
「なにが……」
「俺、引っ越すけど、また会えるから!」
「いつかきっと、なんて信用できない……」
「いや、一週間後ぐらいに会えるから!」
「……どうして」
「や、だって、引っ越し先はすぐ近所だし」
「……………………?」
「引越しの準備とかで忙しいからしばらく会えないって言ったわけで……」
「…………」
「引っ越した後はむしろここと近くなるっていうか……」
「………………」
「これからはもっと頻繁に来ようかなー、って思ってたり」
「……………………」
「だから、な?」
「……………………」
「いてっ、ちょ、無言で殴るのやめて!?」
「…………ばか」
「あれ、なに、もしかして照れてる?」
「…………」
「おーい、こっち向けよー」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「………………れるの?」
「え?」
「一緒に、いてくれるの……?」
「…………おう、ずっとな」
「ず、ずっと……?」
「おう」
「…………」
「い、いやか?」
「…………っ」
「や、そんな激しく首振られてもどっちか分かんねえよ」
「…………いたい」
「痛い?」
「…………ばか」
「殴るな、痛いぞ」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………その……」
「おう」
「……ずっと一緒にいたい、です……」
「そっか……」
「うん……」
「…………」
「…………」
「…………えへへ」
「あ――……」
「……?」
「あ、いや、笑った顔見れたなー、って」
「…………」
「……ちなみにすげえ可愛かった」
「…………ばか」
「いてっ!」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………ははっ」
「…………ふふ」
「……まあ、その、なんだ……」
「…………ん」
「これからも、よろしくな?」
「――うんっ」
会話文オンリー第二弾。
さて、登場人物は普通の(?)男と無口女という、無茶だなー、書ききれるかなー、むしろ会話になんねえだろ! と書き始めたときは不安だった今作品。作者的には、第一弾みたいなキレ(というかテンポとか痛快さ?)はないけどそれなりには纏まったかな、と思うのですが……いかがだったでしょうか?
執筆時間はアイディア構成から数えて四時間ほど。予想以上に時間取られてしまいましたが、実は一番長く時間かかったのはダジャレを考えること……。改めて考えるとなかなか思い付かないんですよね、ダジャレって。意外な伏兵でした。結局いくつかはネットで検索しちゃいました。…………あ、ちなみに今回はキーボード片手打ちなんて馬鹿な事には挑戦してませんw
『これこれこういう二人の会話が見たい! あんたに書いてほしいんだ!』という奇特な意見があればお気軽にどうぞー。テンションMAXになって一日か二日で書き上げると思いますので。これ書いたきっかけも第一弾の方で感想をいただいたからですしね。※追記:さすがに一日、二日では無理ですw 長い目でお待ち下さい。
拙作を読んで、少しでも楽しんで頂けたなら幸いです。
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