表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

26/26

第26章(第Ⅰ章 最終話)星座が一つ、消えた昼

挿絵(By みてみん)




俺たちは、猿族がスクリーチ州に向かう岐路に到着した。

ここから、猿族は離脱し、鶏族と犬族がさらに西に向かうことになる。


隊列が止まる。

俺はポケットに入れていた一枚のハンカチを取り出し、拳に握った。


俺が馬から降りる前に、クロエが馬車から飛び降りるのが見えた。

気の早いお嬢さんだ…

ずっと馬車でソワソワしていたことを想像すると、思わず笑いが出る。


坂の上から、クロエが俺に大きく手を振る。


「アダム!!早くして!!」


自分の言葉が可笑しかったのか、クロエは満面に笑みを広げた。

…それは、オフィーリアとは違う、一人の女性の顔だった。


「絶対、私、頑張れるから!!!

一緒に家に帰ることが嬉しいって…」


突如、

数本の矢が、手を振るクロエを貫いた。

誰もが、アッと叫ぶ間もなかった。


「神路開門! 神通力 猿臂捕縛(えんぴほばく)!!!」


俺は矢が来た方向に神通力を発出し、

「あっちで動けなくなっている犯人を捕まえてこい!!!」と衛兵に指示して、

全力でクロエのもとに走る。


既に馬車から転がり出たレンが「クロエ!クロエ!!」と叫びながら抱き起こしている。


クロエは、何とか顔を起こし、自分を貫く矢を見たが、


「嘘…アダム…」


と呟く。

涙を一筋流し、ドッとレンの腕の中で力を失った。


「クロエ!!!」


俺は、レンからクロエを抱き取ろうとして、声にならない呻き声を上げた。


矢には、クロエが最期に見た矢には、

俺の…神猿(しんえん)の紋章が入っていたのだ。


俺は、クロエの頬を叩き、肩を必死に揺らした。


「おい、目をもう一度開けろ!!!これを見ろ!!!」


俺は握っていた黄色いハンカチをクロエの目の前に持ってきて、必死に叫んだ。


「死ぬなら、せめてこれを見ろ!クロエ!!クロエ!!!」


クロエはもう動かない。

俺と共にクロエの名前を叫んでいたレンが、矢に目をやってピクリと止まった。


神猿(しんえん)の紋章…?」


レンが俺に猛然と飛び掛かった。


「貴様!貴様!!貴様!!!絶対許さねぇ!!!!!」


レンは左手を空に突き上げ、右頬の刻印を爪で搔きむしりながら叫んだ。


「神路開門!!!!!神通力…」


俺はレンを殴り飛ばした。


「俺じゃねえ!!!!!誰かが、俺の紋章の矢を使ってるんだ!!!」

「この野郎!!!死ね!!!!」


レンは俺に飛びかかって馬乗りになった。

俺を殴ろうとして…

…そのまま激しく泣き出した。


「俺に、お前の神通力をかけろ。逃げ出せなくなるやつを!

それで、俺をディモイゼに連れ戻せ。

シリウス様なら、俺に真実を話させる神通力を持っている。

そこで俺の無実は証明される。」


俺は、衛兵が連れてきた、捕縛された数人の男たちを指さした。


「アイツらも同じようにしろ。」


レンは震える声で詠唱した。


「神路開門 神通力 鳥籠(とりかご)


一瞬、幾つもの格子が俺を囲うが、すぐに見えなくなった。

これで俺は、レンが神通力を解くまで、絶対にレンから逃げ出せない。


「なあ、最後に、クロエに声を掛けさせてくれ。頼む。」


レンは黙っている。

俺はクロエに近づいた。


「おい、人生の最後のページで見るものがよ…

好きな男が自分を殺した印なんて、あんまりだろ。」


半眼を開けて永遠に動かないクロエの目の前に、

落とした黄色いハンカチを近づけた。


「よく見ろ。クロエ、ほら…

今からはじめようぜ。お試し期間をよ…な?

だから…目を開けな?」


俺は唇を噛みしめた。

クロエの目をそっと閉じてやると、黄色いハンカチを顔に掛けた。


「このハンカチを掛けてやっておいてくれ。頼む。」


衛兵が俺の腕をとって、馬車の方に連行する。

俺はもう振り返らなかった。


幾つもの幾つもの矢が、俺の心を貫いている。

俺はもう何も考えられない。


猛烈な吐き気に襲われて、

衛兵の手を振り払うと、道端に激しく嘔吐した。…


**************

ツムギは、馬車に揺られながら、

「伝令」が到着することを今か今かと待っていた。


なんのかんので、きっと、アダムはクロエを受け入れる。

去っていったリヒトさんにも、きっといつか会える。


その時は、アダムを外にほっぽり出して、

三人で、ワインで乾杯して、糖人参を食べさせ合おう。


ツムギは空に広がる雲を見ながら、

明るい未来を、皆の幸せを、自分に言い聞かせた。



(十二支と神鼠は猫に「こい」 第Ⅰ章:人生の 最後のページで 見えるもの(完結))


この章で、十二支と神鼠は猫に「こい」(第Ⅰ章:人生の 最後のページで 見えるもの)は完結です。


第Ⅱ章では、ここから3年後。神鼠シリウスと猫族リヒトが再会します。

連載を開始しているので、ぜひご覧ください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ