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第25章 十二支の王たちの 禁じられた幸せ

挿絵(By みてみん)




首都ディモイゼから、俺が治める神猿(しんえん)スクリーチ州、レンが治める神鶏(しんけい)コルリ州、神犬(しんけん)ペンブローク州の各州までは、馬で数日かかる。


犬族と猿族の仲が悪いため、いつも、鶏族の隊列を挟んで、十二支会議からの帰路を進む。

今回もそうだ。


俺は騎乗し、レンとクロエは一緒の馬車に乗っている。

というより、俺が毎回、レンをお嬢の馬車に蹴り込んでいる。


もう20も超えているのに、レンの奥手ぶりは、まるっきり深窓の御令嬢。

さっさとその眼鏡を(いき)に外して、整ったお顔をお嬢に近づけて、

既成事実の三つや四つ作っちまえと、心底思っていた。


************


昨晩、シリウス様がリヒト嬢に襲われて大怪我をしたことは、十二支のみが知っている。


リヒト嬢の処遇については、彼女自身の希望で、十二支にも秘匿されるとのこと。

……おそらく、自分から大神殿を去ったのだろう。


「決して探してくれるな…ってことか…」


俺は薄雲がかかった空を見上げた。

あの素敵な「ネグリジェの天使」は、シリウス様の感情を取り戻してくれた。


出立の前、我々十二支の前で、

あの方は、感情の再生(リザレクション)計画は完了したことを宣言した。


顔の半分は布で覆われていたが、常よりも堂々として、張りのある姿が、

かえって、あの方の壮絶な苦しみを俺の心に突き付けた。


俺は、俺ですら、絶対に思い出さないようにしているあの光景を、

今、敢えて、眼前に思い出した。


誘拐戦争が始まって2年後、

あの方が幽閉されている部屋を開けたとき、

数匹の糞野郎に囲まれて、

どちらにも突っ込まれ、まさに虐待されていた最中のあの方の悲惨な姿を。


畜生…!畜生…!!…畜生!!!


どうして?…あの方に悲劇が起こる?

どうして?…あの方はあんなにも真摯に生きているのに?

どうして?…あの方は幸せになれない?


俺は図らずも神を呪った。

神の御業に何か意味があるとしても、あんまりじゃないか…


****************

雲が広がってきたようだ。

俺はベルトに挟んだ手紙を見やって、鼻からフゥと息を吐いた。


「葉巻吸いてぇなあ…」


*****************

昨晩の晩餐会、ツムギに誘われてテラスに葉巻を吸いに出た。


ツムギは、ロベルト様、ファリス、オスカーと共に、あの方を救出するときに、共に戦った十二支の王。

気の置けない友人だ。


葉巻に火をつけ、口の中で煙を転がす。

煙を優しく吐き出しながら、ツムギは言った。


「クロエはいよいよ可愛くなったわね。そう思わない?」

「そうだな、あんよが上手になってきた。」

「またそんな…もう立派な女性よ。」


ツムギは俺をチラリと見た。


「分かっているんでしょ?クロエの気持ち。」

「ハッ」


俺は煙を吐き出した。


「元婚約者の子供なんか抱けるか。」

「それは言い訳よ。…ねえ…私、シリウス様が大好きなの。アダムもでしょ?」

「当たり前だろ。食べちゃいたいね。」

「だからこそ…私たちみんな、囚われてる。

…シリウス様が幸せになれないのに、自分たちが幸せになっちゃいけないって。」

「…」

「ねえ、ツヴェルフェト各地で、妙な動きがあるのは知ってるでしょ。」

「ああ…『神鼠の…』ってやつだろ?」

「そう…」


ツムギはゆっくりと煙を吐き出した。

煙は、ゆっくりとテラスから流れていく。


「…この国では、王の命は余りにも軽いわ。」

「生贄、かつ、捨て駒だからな。」

「だから…アダム、せめて、幸せになろうよ。明日からでも。

クロエは、あの子は本当にいい子よ。貴方を幸せにして、自分も幸せになる力がある。」

「おい、幸せ云々はアンタもだろ?アンタは…」


しかし、葉巻を灰皿に置いて、ツムギは席を立った。


「アダム…お願いだから。」


テラスに残された俺は、煙の中で、ツムギが去っていく背中をぼんやり見送っていた。


***************


大神殿を出立するとき、何やら青ざめたクロエお嬢がやって来て、

俺にコッソリ手紙を渡したときは、ハハンと思った。


ツムギは知っていたのだ。お嬢が俺に告白することを。

まったく、お人よしが過ぎる。


馬上で封筒を開けると、黄色いハンカチと青いハンカチと共に、手紙が入っていた。


「貴方のことが好きです。

私のことを好きになってもらえるよう頑張りたいので、

少しでも、お試し期間をもらえませんか。

承諾してもらえるなら、貴方がスクリーチ州に向かう岐路のところで、

黄色いハンカチを私に振ってください。

どうしても駄目なら、青いハンカチを振ってください。」


お試し期間とは、お嬢も考えたもんだ。

いや、ツムギの入れ知恵か?あるいは、あの…


*************

いつもは長い道のりも、今回はあっという間だった。

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