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第24章 再生計画の終わりと、始まり

挿絵(By みてみん)



僕は、リヒトさんの部屋を開けた。

月の残光で、部屋が灰色に浮かび上がっている。


ついさっき、ここでリヒトさんと踊ったんだっけ。


僕は、ベッドにそっと腰を下ろした。


白く波打つベッドは、あの時のままだ。

彼女の頭の形に、枕がくぼんでいる。


それは、僕にとってあまりにも残酷な光景だった。


あそこで、あの場所で、リヒトさんは僕に微笑んで、

会いたかったと腕を回してくれて、

僕は激しく貪るように抱き締めたんだ。


僕の唇を彼女にすり寄せて、

それに応えるように、彼女は腕に力を込めて…

ついさっき…この月の光の中で…


感触も、体温も、息遣いも、言葉も、

すべて、すべて、

まだ僕に残っているのに。


僕は、枕元にあるものにふと気づいた。

黒い、リヒトさんの数本の髪。


僕が、あんなに激しく抱き締めたから、抜けてしまったんだろうか…


僕は、一本一本、リヒトさんの艶やかな髪の毛を集めて、ぼんやりそれを見つめる。

でも、すぐに、涙で霞んで見えなくなった。


僕は、髪の毛を握りしめたまま、

拳を何度も何度もベッドに打ち付け、激しく慟哭した。


どうして?

どうして?

どうして?


どうすることもできない言葉が口をついて、

次から次に出てくる。


会いたいよ、

行かないで、

ごめんなさい、

答えを聞かせて、

好きなんだ、

リヒトさん、

僕は…


涙は、流しても流しても、後から後から溢れ出る。

僕は、シーツを千切れるほど噛みしめながら、しゃくり上げた。


胸が張り裂けて千切れていくほど泣いても、

泣き続けても、


…リヒトさんは戻ってこなかった。


***********

僕はフッと目を開けた。


灰色だったリヒトさんの部屋が、白く映えてきている。


少しウトウトしたらしい。

顔は乾いた涙と血で引きつっている。


僕はハッとして、握った手を開いた。


…よかった。ちゃんと持っていた。

大切なリヒトさんの髪の毛を…


僕は寝ころんだまま、大事にリヒトさんの髪の毛を胸の隠しポケットにしまった。

そこに手を置くと、温かい気がする。


僕はそのまま窓の外を眺めた。

リヒトさんは、きっと、目を覚ますたび、この景色を見ていたのだろう。


そうそう、向かいにある部屋が僕の自室で…

僕はといえば、目を覚ますたび、

リヒトさんの部屋を見て、姿が見えないかと期待して…

一度なんか、着替え途中のリヒトさんが見えて、

慌てて隠れたこともあったっけ…


僕は思わずフッと笑った。優しい気持ちになる。


僕は、リヒトさんの枕に自分の頭をドスンと埋めて、仰向けになった。

左手は刻印、右手は胸の隠しポケットに置いて、

僕は静かに目を閉じた。


***********

パッと、僕は、勢いよく飛び起きた。


鏡をのぞくと、傷と血で汚れ、髪も着衣も乱れ切った「僕」がいる。


僕は、そこにあった水差しの水を頭からザブザブとかけ、

着ていたガウンをタオル代わりに、ゴシゴシと顔や全身を拭いた。


そして、ガウンのまだ汚れていない部分を破り取って、

スカーフのように口元を覆った。


もう一度鏡を覗くと、こざっぱりした姿になっている。


僕は、鏡の中の、

たびたびリヒトさんに「輝き過ぎだ」と叱られた、

自分の目を真っ直ぐ見た。


「ありがとう、リヒトさん。」


貴女のすべてを賭けて、僕の感情を取り戻してくれて…


「僕の感情の再生(リザレクション)計画は、今ここで終わります。

これからは、神鼠(しんそ)猫族(フェリス)再生(リザレクション)計画を始めましょう。」


僕は目を閉じて、小さな声で詠唱した。


「神路開放 神通力 (まぼろし)


その途端、リヒトさんの部屋の中に緑が溢れ、花が咲き乱れた。

あの大学の思い出を今、ここに。


「きっと、お迎えに参ります。そのときは、どうぞ…」


僕は、右手を刻印に添えたまま、そっと、自分の左手の指に口を付けた。


「僕と共に、大神殿に帰ってください。」


僕は、目を開けて、鏡の自分の姿を目に焼き付けるように、しばらくの間、凝視した。


************

僕は、リヒトさんの枕を手に取り、白いシーツを思いきりはぎ取って、枕にグルグル巻いた。


それを持って、勢いよく部屋を出ると、廊下の端で直立する老親衛隊長を大声で呼んだ。


「ダンテス!!」

「ハッ!」


僕はズカズカと近づきながら命令した。


「大至急、ロベルトとステファニーを呼べ!」

「ハッ!!」


通り過ぎざま、ダンテスを見ると、泣きはらしたのか、目が腫れ上がっている。

僕は、トンッとダンテスのたくましい腕を叩いた。


「もう大丈夫だ……すまなかった。」

「ハッ!!!」


僕は駆け集まってくる侍従たちに声を張り上げた。


「さあ、今日は閉会の儀だ!

君たちも、僕と共に最後までやり抜いてくれ!!!」

『ハッ!!!!!!!!!』


僕は、そっと胸元のリヒトさんの髪に手を置くと、

遠くから駆け寄ってくるロベルトとステファニーのもとに大股で向かった。


早朝の大神殿は一気に活気づき、小鳥のさえずりと共に、爽やかな空気が流れ込んできた。



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