第23章 神鼠の肉を食べた、猫の行く先
「は…?」
僕は、ロベルトに向き直った。
「それは、僕が考え得る、一番悪い意味か?
…すぐに答えろ。」
「そうです。」
「神路開門!…神通力【鎖錠】!!」
瞬時に青い光の鎖が部屋中に張り巡らされ、ロベルトを宙で縛り付ける。
怒りで部屋ごと吹き飛ばしそうだ。
「不問だったんじゃないのか!?この計画で、あの人が僕を傷つけることは!!!」
口の傷が開いて、血が包帯ににじむのを感じる。
ステファニーが「シリウス様!」と走り寄ろうとするが、光の鎖で身動きがとれない。
「連れ戻せ!今すぐ!!!」
ロベルトは、何とか目だけを僕に向けて、声を絞り出した。
「リヒトさんは…自分から…出ていきました……」
「何を言っている…?」
「貴方の…シリウス様の肉を食べてしまったと…
…近くにいたら、殺してしまうと…」
何かをにちゃにちゃと食べる猟奇的なリヒトさんの顔が、頭をよぎった。
が、僕は激しく首を横に振った。
「そんなこと、これまでも…!!!」
ステファニーが叫んだ。
「リヒトさんは、震えながら、腕一杯、鎮静剤を抱えて、私たちのところに来たのです!!
打っても打っても、止まらない、と!!!
シリウス様への憎悪と食欲が…止まらないと!!!」
ステファニーは泣き叫んだ。
「肉の味を覚えた猫族には、もう鎮静剤は効かない…
また同じことを…繰り返すと…
シリウス様を殺してしまうと…
注射で腫れあがった腕と足を引きずって、
理性にすがって…必死に、必死におっしゃるんです!!!!!」
ロベルトは、光の鎖に縛られながら、僕を凝視して声を振り絞った。
「貴方が…リヒトさんの立場なら、ここにいることを選びますか…?
選べるんですか…?」
僕は、最後の可能性にすがった。
「別の鎮静薬を…」
でも、言葉は続かなかった。
光の鎖は部屋の端の方から薄くなっていく。
ステファニーが肩を震わせて言った。
「今の鎮静薬も、何百年もかけて研究されたもの…
安易に打てば、リヒトさんが死んでしまいます…」
光の鎖はすべて消え、ロベルトが床にドサリと落ちた。
部屋は、元の薄暗さに戻った。
僕の頭は、真っ白だった。
「僕、嫌だよ…リヒトさんに会えないなんて…」
僕はぼんやり呟いた。
「やっと、さっき、会えたんだよ…」
胸に鉛のような痛みが突き上げる。
「リヒトさんに、会いたい…」
包帯を通り抜けた血のしずくが、白いガウンにボタボタと散る。
「僕、もっと頑張るから…仕事も…勉強も…訓練も…だから…」
ステファニーは顔を覆った。
ロベルトは膝をついたまま、凍り付いたように動かない。
「だから…」
でも、僕はもう、その後を続けられなかった。
僕は扉に向かって歩き出した。
ほどけた包帯が虚しく揺れて、顔にまとわりつく。
扉を開けると、廊下中に衛兵が待機している。
「ついてくるなと全隊に伝えろ。
蟻の子一匹、僕に近づけるな。」
親衛隊長に命じると、隊列が道を開ける。
僕はボタボタと血を流しながら、その場を去った。




