第22章 神鼠は猫に「恋」をした
強烈な痛みで、僕は目を覚ました。
外は、まだ暗い。
顔に手をやると、ユーリのように包帯でぐるぐる巻きにされている。
僕は、痛みを緩和する神通力を自分に掛けようとして、やめた。
この痛みも傷も、リヒトさんの唇が、僕の口に触れた証だ。
リヒトさんの微笑む顔、
吸い付くような耳たぶ、
滑らかな首筋、
僕の首に回した手
微かな吐息、
細い体の柔らかい部分…
そんなことが次々と思い浮かぶ。
どうしていいか分からない。
いっそ転げまわりたくなる。
僕は、柔らかい枕の一つを抱え込んで、西の空にかかる月を見つめた。
僕は一度目を閉じた。
そして、諦めて、これまでの僕のリヒトさんへの気持ちに、名前を付けた。
これは「恋」だ。
簡単なことだった。
神鼠は、猫に恋をしてしまったのだ。
あの気高い猫族の少女は、
僕の感情を再生するだけでなく、
創生までしたのだ。
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僕は、枕をリヒトさんの頭に見立てて抱え込んだ。
口もつけようとしたが、包帯が邪魔で、できなかった。
これでも、在位8年のこの国の大王だ…
恋と認めてしまえば、後は進むだけだ。
この想いを、リヒトさんに伝えるんだ。
リヒトさんは、僕をどう思っているんだろう。
あの「会いたかった、ずっと」は、どの意味なのか。
聞く前に獣化してしまったのが残念だ。
僕の「恋」を伝えたら、リヒトさんにもう一度聞こう。
いや待て、「恋」を伝える前にすることがある。
フレドリック、マリア、リュウザキ夫妻に会って、
婚約の予定を断るんだ。
これは、僕から直接言おう。
色々大変だろうが、そこは乗り切ろう。
閉会の儀の前後に、彼らと面会する時間を調整するよう、ロベルトとステファニーに言わないと。
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また傷の痛みが激しくなった。
うたた寝から覚めた衛兵に、ロベルトを、可能であればステファニーも共に呼ぶよう命じた。
僕は、久々に晴れやかな気持ちだった。
起き上がり、服の乱れを整えて、白いガウンを羽織る。
彼らと話しやすいよう、痛みを止める神通力を自分にかけた。
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彼らはすぐに来た。
ステファニーが何か言おうとするのを制して、僕は切り出した。
「フレドリック、マリア、リュウザキ夫妻と面会する時間を調整してほしいんだ。
閉会の儀の前でも後でもいい。」
「なぜ面会を…」
「婚約の「予定」を断ろうと思う。」
彼らが何かを言おうとするのを、僕はまた制した。
「聞いてほしい。僕は、リヒトさんといたい。その…」
さすがに顔に血が上ってきたが、僕はくじけなかった。
「リヒトさんが好きなんだ。
だから、マリアとの婚約の「予定」を断りたい。」
ステファニーが、「リヒトさんは…」とかすれた声でしゃべり出す。
僕は、ステファニーの方を向いて言った。
「リヒトさんには、まだ、明確に僕の気持ちを伝えていない。
もう、分かっている気はするけど…
婚約の「予定」を断ったら、ちゃんと伝えようと思っている。」
二人が、「婚約の「予定」を断りたい」という僕の話を、猛然と制止することも予想していたが、
その雰囲気がないのは幸先がいい。
僕は少しホッとしていた。
ロベルトが、「リヒトさんは…」と低い声で話し出すが、僕は自分で続けた。
「リヒトさんが僕をどう思っているかは、分からない。
それは…僕の気持ちを伝えたら、聞く。
もしだめでも、僕を好きになってもらえるように…」
「リヒトさんは」
ロベルトは、今度は、明確に僕の言葉を遮った。
「リヒトさんは、もういません。」




