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第22章 神鼠は猫に「恋」をした

挿絵(By みてみん)



強烈な痛みで、僕は目を覚ました。


外は、まだ暗い。


顔に手をやると、ユーリのように包帯でぐるぐる巻きにされている。

僕は、痛みを緩和する神通力を自分に掛けようとして、やめた。


この痛みも傷も、リヒトさんの唇が、僕の口に触れた証だ。


リヒトさんの微笑む顔、

吸い付くような耳たぶ、

滑らかな首筋、

僕の首に回した手

微かな吐息、

細い体の柔らかい部分…


そんなことが次々と思い浮かぶ。


どうしていいか分からない。

いっそ転げまわりたくなる。

僕は、柔らかい枕の一つを抱え込んで、西の空にかかる月を見つめた。


僕は一度目を閉じた。


そして、諦めて、これまでの僕のリヒトさんへの気持ちに、名前を付けた。


これは「恋」だ。


簡単なことだった。

神鼠(しんそ)は、猫に恋をしてしまったのだ。


あの気高い猫族(フェリス)の少女は、

僕の感情を再生(リザレクション)するだけでなく、

創生(クレアシオン)までしたのだ。


**********

僕は、枕をリヒトさんの頭に見立てて抱え込んだ。

口もつけようとしたが、包帯が邪魔で、できなかった。

これでも、在位8年のこの国の大王だ…


恋と認めてしまえば、後は進むだけだ。

この想いを、リヒトさんに伝えるんだ。


リヒトさんは、僕をどう思っているんだろう。


あの「会いたかった、ずっと」は、()()意味なのか。

聞く前に獣化してしまったのが残念だ。

僕の「恋」を伝えたら、リヒトさんにもう一度聞こう。


いや待て、「恋」を伝える前にすることがある。

フレドリック、マリア、リュウザキ夫妻に会って、

婚約の予定を断るんだ。


これは、僕から直接言おう。

色々大変だろうが、そこは乗り切ろう。


閉会の儀の前後に、彼らと面会する時間を調整するよう、ロベルトとステファニーに言わないと。


*************

また傷の痛みが激しくなった。


うたた寝から覚めた衛兵に、ロベルトを、可能であればステファニーも共に呼ぶよう命じた。


僕は、久々に晴れやかな気持ちだった。


起き上がり、服の乱れを整えて、白いガウンを羽織る。

彼らと話しやすいよう、痛みを止める神通力を自分にかけた。


*************

彼らはすぐに来た。


ステファニーが何か言おうとするのを制して、僕は切り出した。


「フレドリック、マリア、リュウザキ夫妻と面会する時間を調整してほしいんだ。

閉会の儀の前でも後でもいい。」


「なぜ面会を…」


「婚約の「予定」を断ろうと思う。」


彼らが何かを言おうとするのを、僕はまた制した。


「聞いてほしい。僕は、リヒトさんといたい。その…」


さすがに顔に血が上ってきたが、僕はくじけなかった。


「リヒトさんが好きなんだ。

だから、マリアとの婚約の「予定」を断りたい。」


ステファニーが、「リヒトさんは…」とかすれた声でしゃべり出す。

僕は、ステファニーの方を向いて言った。


「リヒトさんには、まだ、明確に僕の気持ちを伝えていない。

もう、分かっている気はするけど…

婚約の「予定」を断ったら、ちゃんと伝えようと思っている。」


二人が、「婚約の「予定」を断りたい」という僕の話を、猛然と制止することも予想していたが、

その雰囲気がないのは幸先がいい。

僕は少しホッとしていた。


ロベルトが、「リヒトさんは…」と低い声で話し出すが、僕は自分で続けた。


「リヒトさんが僕をどう思っているかは、分からない。

それは…僕の気持ちを伝えたら、聞く。

もしだめでも、僕を好きになってもらえるように…」


「リヒトさんは」


ロベルトは、今度は、明確に僕の言葉を遮った。



「リヒトさんは、もういません。」




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