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第20章 飢えた神鼠は足りない、抱き締めるだけでは

挿絵(By みてみん)



僕の口が、彼女の唇の、ふっくらと盛り上がった頂きにかすろうとするとき…


…リヒトさんがフッと薄目を開け、うわ言のようにささやいた。


「シリウス……?」


僕はハッと顔を離して、リヒトさんを見た。


でも、彼女は、夢見るかのように微笑んでいる。


「シリウス…」


僕の名を呼びながら手を伸ばし、

震えるように、僕の頬を両手で挟む。


「会いたかった…」


そのまま両手を滑らせ、リヒトさんは、

羽根のように不安定な腕を、僕の首に回した。


「ずっと…」


その言葉、その仕草は、雷光のように僕を引き裂いた。


**********


僕は、彼女の頭や背中に、手を力一杯差し入れて、

無我夢中で、彼女を抱き締めた。


僕の心臓は、僕自身を揺らすほど、激しく鼓動している。


抱き締めるだけでは、とても感触が足らない…

足らない…

足らない…


僕は、僕の唇を、リヒトさんの耳や髪に激しくすりつける。


「僕も…会いたかった…」


僕の吐く息は、

彼女の髪の毛にこもり、

肌で反射され、

蒸気のように張り付いてくる。


「…すごく…リヒト…さん…」


吐息と言葉が、途切れ途切れに混じり合う。


僕が唇を擦りつけるたびに、

頼りなく回された彼女の手に力がこもる。


僕の全身の血は逆流して、汗が噴き出してくる。


もう僕は、ほとんど我を忘れていた。


僕の手は、彼女の素肌を探して、ワンピースの首元から背中で這い回る。


僕の唇は、彼女の首まで滑り降りていく。


「リヒトさん…ずっと…」


***********


しかし、次の瞬間、リヒトさんがピクッと止まった。


「シリウス…?」


僕の背中に回していた手が、ふいに離れた。


「本物の…?」


声に芯が通る。


僕の両肩をつかんで顔を確認しようとしているようだ。


僕は驚いて体を離した。


まだ体には、狂おしい火が滾っている。


リヒトさんは、肘をついて上体を起こした。

茫然と僕を見ている。


「私…部屋に戻ろうとして…どうして…」


「ああ…」


僕はため息のように息を吐いた。


熱が冷めていくことが、あまりにも残念だった。


「…リヒトさんが倒れていたので、

僕が部屋まで抱えてきたんです。」


「…あ、ありがとう…」


リヒトさんはベッドの上で姿勢を直したが、

ローブが開いていることに気付き、

気まずそうに重ね合わせた。


「僕が開けたんです…首が苦しそうで…」

「…あ、ありがとう…」


リヒトさんは、落ち着かない手つきでローブのボタンを留めながら呟いた。


「晩餐会は…終わったの…?」

「ロベルトに任せて休憩に…」


さっきの鮮烈な熱は、星の瞬きだった。


とうに傷物にされた僕も、

こんなことには幼過ぎて、取り戻すことなどできない。……



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