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第19章 飢えた神鼠は、もう我慢できない

挿絵(By みてみん)


パーティは、好きでも嫌いでもない。


ただ、今回の晩餐会は、リヒトさんが来ないと分かってからひどく面倒になった。


宴もたけなわ、僕はロベルトに耳打ちして、いったん休憩に出た。


*********************


僕やリヒトさんの自室がある棟に向かう廊下は、

当然専用通路だから、来賓もおらず、今は守衛も出払ってシンとしている。

ようやく息をついた僕は、廊下をぼんやり歩く。


が、踊り場の人影を見るなり、階段を一足飛びに降りた。


「リヒトさん!」


リヒトさんが壁にもたれてうずくまっている。

ぐったりとしたリヒトさんを抱き上げて、彼女の部屋に急いだ。


**********************


薄暗いリヒトさんの部屋のベッドに、そっと彼女を横たえる。


大丈夫ですか、と呼びかけようとして、

月明かりに照らされたリヒトさんが、

スゥスゥと寝息を立てていることに気付いた。


フッと僕も息をついて、枕元の椅子に腰を下ろした。


そっと頬に触れたが、熱はないようだ。

むしろヒヤリと冷たい。

かえってドキリとして、もう少し触れてみる。

彼女の息が指にかかり、僕は、もう一度フッと息をついた。


************************


ここ2か月、僕はリヒトさんに飢えていた。


リヒトさんと挨拶をして、

リヒトさんと食事をして、

リヒトさんに憎まれて、

リヒトさんが僕を見て、

リヒトさんを僕が見て、

リヒトさんに近づいて、

リヒトさんが怒って、

リヒトさんが顔を赤くして……


そんな何気ない日々が、

穴に落ちたように、目の前から消えたのだから。


あの日、リヒトさんを得たと思った分、

遠ざかっていくリヒトさんが寂しかった。


「どうして、リヒトさんは、再生(リザレクション)計画を進めようとするの?」


僕は、子供のような寝顔に問いかけた。


「マリアがいるから?

…それとも、僕のことが嫌いになった?」


リヒトさんは眠り込んだままだ。


「…そもそも、僕は、リヒトさんの視界に入っていなかったの?」


僕は、自分の、

まだ細い腕や体を見た。

まだ十分に大きくない手を見た。


テオが、リヒトさんの涙を拭こうとした手の大きさ、指の長さ、

エスコートするときの背の高さ、体つき……

年だって、僕より6歳上で、もう大人だ。


…僕は、頬に触れていた指をゆっくりずらし、そっと彼女の唇に触れた。

最初の日、僕の血のりを付けていたところ……


と、リヒトさんは、

「ふ…」

とうめくような吐息をついて、身をよじった。


制服のローブが首元が絞めるからか、顔を少し左右に振っている。


僕は手を伸ばしてローブのボタンをそっと外し、リヒトさんの首元を開けた。


リヒトさんは、またスゥスゥと寝息を立て始める。


しかし、僕の目は、ローブの下にあった姿に釘付けになっていた。


リヒトさんの体は、ごく簡素な、丸首、長袖の黒いワンピースに包まれていた。

官吏の制服として支給されたものだろう。

晩餐会で飽きるほど見せられた、

背中や胸元が大きく開いたドレスと異なり、

肌の露出などない。


でも、この素っ気ないワンピースは、月の光の中、

白く波打つシーツの上の、リヒトさんのしなやかな体を、この上もなく浮き立たせていた。


*********************

我慢することは、もうできなかった。


僕は、リヒトさんに覆いかぶさり、

温かい寝息で湿っている、少し開いた彼女の唇に、顔を近づけた。



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