第19章 飢えた神鼠は、もう我慢できない
パーティは、好きでも嫌いでもない。
ただ、今回の晩餐会は、リヒトさんが来ないと分かってからひどく面倒になった。
宴もたけなわ、僕はロベルトに耳打ちして、いったん休憩に出た。
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僕やリヒトさんの自室がある棟に向かう廊下は、
当然専用通路だから、来賓もおらず、今は守衛も出払ってシンとしている。
ようやく息をついた僕は、廊下をぼんやり歩く。
が、踊り場の人影を見るなり、階段を一足飛びに降りた。
「リヒトさん!」
リヒトさんが壁にもたれてうずくまっている。
ぐったりとしたリヒトさんを抱き上げて、彼女の部屋に急いだ。
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薄暗いリヒトさんの部屋のベッドに、そっと彼女を横たえる。
大丈夫ですか、と呼びかけようとして、
月明かりに照らされたリヒトさんが、
スゥスゥと寝息を立てていることに気付いた。
フッと僕も息をついて、枕元の椅子に腰を下ろした。
そっと頬に触れたが、熱はないようだ。
むしろヒヤリと冷たい。
かえってドキリとして、もう少し触れてみる。
彼女の息が指にかかり、僕は、もう一度フッと息をついた。
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ここ2か月、僕はリヒトさんに飢えていた。
リヒトさんと挨拶をして、
リヒトさんと食事をして、
リヒトさんに憎まれて、
リヒトさんが僕を見て、
リヒトさんを僕が見て、
リヒトさんに近づいて、
リヒトさんが怒って、
リヒトさんが顔を赤くして……
そんな何気ない日々が、
穴に落ちたように、目の前から消えたのだから。
あの日、リヒトさんを得たと思った分、
遠ざかっていくリヒトさんが寂しかった。
「どうして、リヒトさんは、再生計画を進めようとするの?」
僕は、子供のような寝顔に問いかけた。
「マリアがいるから?
…それとも、僕のことが嫌いになった?」
リヒトさんは眠り込んだままだ。
「…そもそも、僕は、リヒトさんの視界に入っていなかったの?」
僕は、自分の、
まだ細い腕や体を見た。
まだ十分に大きくない手を見た。
テオが、リヒトさんの涙を拭こうとした手の大きさ、指の長さ、
エスコートするときの背の高さ、体つき……
年だって、僕より6歳上で、もう大人だ。
…僕は、頬に触れていた指をゆっくりずらし、そっと彼女の唇に触れた。
最初の日、僕の血のりを付けていたところ……
と、リヒトさんは、
「ふ…」
とうめくような吐息をついて、身をよじった。
制服のローブが首元が絞めるからか、顔を少し左右に振っている。
僕は手を伸ばしてローブのボタンをそっと外し、リヒトさんの首元を開けた。
リヒトさんは、またスゥスゥと寝息を立て始める。
しかし、僕の目は、ローブの下にあった姿に釘付けになっていた。
リヒトさんの体は、ごく簡素な、丸首、長袖の黒いワンピースに包まれていた。
官吏の制服として支給されたものだろう。
晩餐会で飽きるほど見せられた、
背中や胸元が大きく開いたドレスと異なり、
肌の露出などない。
でも、この素っ気ないワンピースは、月の光の中、
白く波打つシーツの上の、リヒトさんのしなやかな体を、この上もなく浮き立たせていた。
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我慢することは、もうできなかった。
僕は、リヒトさんに覆いかぶさり、
温かい寝息で湿っている、少し開いた彼女の唇に、顔を近づけた。




