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第16章 東屋の妖精は、下衆ウサギ

挿絵(By みてみん)



突風のような十二支会議も、明日終了を迎える。

明日は、閉幕の儀の後、各王の一行が帰路に着く流れだ。


私たち官吏の方は、日々苛烈な作業に追われてきたが、それも今日で一区切り。


今晩は盛大な晩餐会が催されるが、官吏の部屋では、互いをねぎらうごくささやかな夕食会が開かれている。

皆、一様にやつれているが、開放感に満ち、私も皆からお礼を重ねられ、どうにも照れくさい。

気楽な酒が進んでいく。


「今、王様たちは豪華な晩餐会か。羨ましいなァ。」


「晩餐会なんか気が休まらなくて、大変なだけさ。」


「シリウス様は本当にすごいよ。あの方が誰よりも働いている。」


「しかも、毎朝、ファリス様たちに剣技の特訓まで受けてるんだよ?」


「頭脳も体力も神だ!」


「しかも、毎秒美しさを発光するしなァ!」


「あれは困りものだ。仕事の手が止まってしまう!」


皆は大声で笑い出した。私も吹き出した。


「今日の晩餐会のシリウス様、見たか?…いや、あれはもう…」


「もったいぶるなよ!」


「いや、本当に言葉に出来ないんだ。

絵にも描けない美しさ…」


「ダンスもお上手なんだろ?」


「見たことないのか?早めに見ろ。

間違いなく寿命が延びる!」


また、皆で笑い出す。

しかし、もう私は、愛想程度しか笑わなかった。


今頃、人々の感嘆のため息の中、マリア様と優美に踊っているのだろうか。

二人で見つめ合って…


…そして、マリア様に、耳元で囁くのだろうか。

あの日、大学からの帰路で、私にささやいたように。


(僕は嬉しいです。貴女と共に踊ることが。)


その瞬間、私はコップを手から滑り落とした。

割れなかったものの、床に酒が飛び散る。


私は夢中で拭き取ると、疲れを言い訳に、滑るように夕食会から退出した。


***********************


薄闇の庭園にも、晩餐会の麗しい音楽が漏れ聞こえる。


自室に戻る気には到底なれない。

私は、晩餐会の…シリウスの面影を微かにでも感じていようと、

庭園の東屋(ガゼボ)に足を向けた。


が、そこには先客がいた。


背を向けているが、明らかに子供だ。


盛装をしているから、招待客のお子様が迷子になったか、具合を悪くしたか…

…とにかく、慌てて声を掛けた。


Master(マスター)、私は大神殿の者でございます。いかがなさいましたか?」


その子はスッとこちらを振り向いた。


目を疑った。

それは、雪のような純白の髪と透き通るような肌、

ルビーのように赤い瞳を持つ少年。

妖精が大神殿の東屋(ガゼボ)に迷い込んだかのような……


「あんた、シリウス様の猫族(フェリス)じゃん。」


この声は…


「…ユーリ様…ですか!?」


「はぁ?ユーリ様だよ、神兎(しんと)のユーリ様!

何だよ、今さら。」


「日中、お顔を拝見しなかったので…」


ユーリ様は、鼻で笑う。


「は?僕のこと聞いてないの?

猫族(フェリス)って野蛮なうえに無能なの?」


腹を立てるより、興味が遥かに上回った。

私は素直に頭を下げた。


「はい、申し訳ございません。どうか、お聞かせください。」


ユーリ様は鼻をピクピクさせながら胸を張った。


神兎(しんと)は夜行性で、日光が苦手なんだよ。

目も顔も怪我するし、神通力にも影響が出る。」


なるほど、だから日中の行事はほとんど代理が出席していたのか。


「晩餐会は、夜だから出席なさっているんですね。」

「退屈だから抜けてきたのにさあ、野蛮な猫族(フェリス)に会うなんて最悪。

不愉快だから、そろそろあっち行ってくれる?」


浮世離れした顔面でも、下衆なご性格はそのままだ。


「失礼いたしました。それでは…」


私が立ち去ろうとしたとき…


「ユーリ様、なぜここにいるんですか?」


「オッ、オスカー先生!」


…オスカー様!……「先生」?


「まったく…また逃げ出したんですか?

貴方の年齢のときは、晩餐会でも式典でも、シリウス様は堂々とこなされていましたよ。」


「ああ、うるさいな!口を開けばシリウスシリウス…」


「『様』を付けなさい。」


というなりオスカー様がユーリ様の頬をひねり上げる。


「『様』をつけなくて許されるのは、リヒト嬢だけです。」


「痛い痛い痛い!ほっぺたのびる…!」


「これだから赤ん坊は嫌いです。理由もなくぐずって。…ああ」


オスカー様は、妖艶に微笑んで、私を振り返った。


「理由はありました。シリウス様への(ひが)みです。」


「う、うるさい!」


それに構わず、オスカー様はひょいとユーリ様の襟元を片手でつまみ上げた。


「戻りますよ、坊や。ねんねの時間にはまだ早い。」


そのまま片手でユーリ様をぶら下げて、晩餐会のホールへ去っていく。


私は、オスカー様とユーリ様の可笑しさと、不可思議な関係に面食らって、

口を開けたまま、二人をただ見送るばかりだった。


************************


が、ふと、視線の先に、ホールに隣接した大木があることに気付いた。

あの大木に登れば晩餐会が見られるのでは?


私は、何かに背中を押されるように、ゆっくりと木の方へ向かった。



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