第12章 さあ、「覗き」をしましょう
空が白み始めた早朝、窓を叩く音がする…ハッと起き上がると、窓の外から手を振る人影…
「ツムギ様!クロエ様!」
慌てて窓を開ける。
なんと、浮いている!!!
「ほらほら、窓から出て、私に掴まって。」
「いいものを見せてあげる!」
シーッシーッとお二人が口元に指をあてる姿が楽しそうで、
ネグリジェのままツムギ様に掴まると、私も一緒にゆっくり浮揚した。
クロエ様が詠唱する。
「神路開門 神通力 【隠家】」
一瞬ヴェールがかかったように見えたが、すぐに戻った。
クロエ様がいたずらっぽく笑う。
「今、私たちの姿は誰からも見えないのよ。ほら、お次はツムギ様」
「神路開門 神通力 【東風】
…はい、これでどんなに騒いでも周りには聞こえないわ!」
「あ、あの、一体これから何を…」
『【覗き】!』
「の…のぞき!?」
浮かんだままゆっくり進んでいく…見えてきたのは、親衛隊の訓練場。
「ほら、あそこ!」
そこでは、ファリス様、アダム様、オスカー様、そしてシリウスの4名の王たちが、剣を交えていた。
いや、シリウスがアダム様とオスカー様二人を相手に戦っていて、
ファリス様がそれを監督しているのか。
冷たい空気の中で、男性たちの鍛えられた体から湯気が立ち上っている。
「ファリス様!なんて逞しいの!!!」
「アダム様の背中を見て!!!」
「オスカー様のあの腕といったら…!!!」
ツムギ様もクロエ様も、肩を叩き合って大はしゃぎ。仲良しか。
確かに…ファリス様の隆々と盛り上がった体躯、
アダム様の服に浮かび上がる分厚い背中、
オスカー様の剣のような腕の筋肉…
男性の体つきに興味がない私でも、目を奪われてしまう。
「ほら、リヒトさん…どうしたの?シリウス様を見ないの?」
私はギクリとした。
シリウスを見るのが、恥ずかしいどころか、罪深い気さえして、
まともに見られないのだ。
「シリウス様…あまりにも美しい…全てが神から愛されているのね。」
「肩幅も広くなって…背も伸びて…すぐに大人に追いつきそう!」
お二人の感想を聞くと、我慢できずにシリウスを見てしまった。
そこには、たくましい二人の大人を相手に、一歩も引かず、激しく躍動する13歳の少年がいた。
薄い服は汗で体に張り付き、動くたびに、銀髪とアクアマリンの瞳が煌めいている。
「名誉の傷跡」をさらけ出して、次々と技を繰り出し攻めていく姿には、
勝利を信じる純粋な心が溢れていた。
息の乱れを抑えようと、私は手で胸を押さえた。
が、アダム様が、カンッと高い音を立ててシリウスの手から剣を弾き飛ばし、
オスカー様がシリウスの首元に剣を突き付けた。
私は、浮遊していることも忘れ、思わずシリウスの方に体が動いた。
その時、
「見つかる前に、戻りましょう」
…ツムギ様とクロエ様が部屋に向かって飛び始めた。
「ああ、素晴らしかったわ。」
「私たちね、十二支会議のたびに、早朝練習を覗き見してるの。」
お二人はいたずらっぽく笑う。
「シリウス様、アダム様とオスカー様を相手にしてもこれだけ戦えるなんて…前よりも格段に上達されているわ。
再生計画も関係しているのかしら?」
「アダムが手加減…してたのかも…」
このクロエ様の発言を聞いたとき、やはり、と思って私は切り込んだ。
「クロエ様は、アダム様がお好きなのですね?」
「え!?そんなわけ…」
「アダム様のことになると、否定したり、かばったり、落ち着きがないです。」
「ほらね、クロエ、丸わかりなんだから観念しなさいね?」
「も、もう、やめてください!!アダムとは『犬猿』ですよ!?」
すぐに部屋に着いてしまった。
私はツムギ様とクロエ様に言った。
「あの…また、いらしてください…お二人がよろしければ…。」
お二人はパッと顔を見合わせて微笑み、手を握り合わせて叫んでくれた。
『絶対また来るわ!!!』
「エクウスの俊才」と呼ばれ、勉学に明け暮れ、ろくに人付き合いもなかった私に、
天から素敵な女友達が舞い降りてくれたのである。
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「いやはや、驚くべき進歩。やっぱりシリウス様は最高だな!」
「そろそろロベルト様にお出まし願うか?」
ファリスとアダムは、笑いながら豪快に汗を拭く。
「どうしましたか?シリウス様」
上空を見上げるシリウスに、オスカーが声を掛ける。
シリウスはポツリと呟いた。
「…ネグリジェの天使がいた。」
瞬間、男たちの爆笑が、朝の空気を突き破った。
「わっはっはっは!!!」
「はっはっはっ!!!」
ファリスが、シリウスの肩をグイと抱き、
アダムは、大きなタオルをバサリと乱暴にシリウスの頭にかける。
「大いなる戦いの後は、なぁ!アダム?」
「しかし、若君に水遊びはまだ早いだろ?」
「アダム様がきれいな遊び方を教えて差し上げれば済むことですよ。」
「それなら剣より得意だ。年中無休でレクチャーできる。」
アダムが近くを歩く侍女に手を振る。
シリウスはタオルに頭にかけたまま、うつむいて黙り込んでいる。
「シリウス様、大丈夫ですか?」
オスカーが覗き込もうとすると、シリウスはグッとタオルを頭から下ろし、顔を上げた。
銀髪は乱れ、汗で湿り、顔が真っ赤に上気している。
「何でもない。」
そのまま、マントを羽織ると急ぐように立ち去った。
大の大人3人は顔を見合わせた。
「かわいくなっちゃって、まあ…」
「再生というより思春期では?」
「もしそうなら…」
ファリスは、ゆっくりとシリウスが見ていた空を見上げた。
「最高なんだがな。」




